第5話 必殺魔法のお披露目です!
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――昔から平凡だった俺は、何をするにも「普通」だった。
周囲と同じことをして、周囲の中に溶け込んでいた。
だから学校の中でのポジションも......普通の一般人。
幸も不幸も他人事で。
だから。
いじめられている人間がいても、俺は普通に見て見ぬふりをしたんだ。
だってそれが「普通」のことだったのだから。
当人同士で解決してくれ。俺は関係ない。
本気でそう思っていた。
小学6年生の時だ。
「なんで僕がこんな目にあわなきゃいけないんだよ!!」
バンッ!!
ある日の教室、いつも通りいじめられていた男子は......突然、拳を思いっきり机に叩きつけた。
そしてそのまま、机に突っ伏して大声で泣き始めたのだ。
「なんで誰も助けてくれないんだよ。おかしいだろぉ......なんでこんな目にあってるのを平気な顔で見てんだよぉ......」
その怨嗟は......いじめっ子に向けてではなく。
傍観していた俺たち一般人に向けてのものだった。
いじめっ子は人気者だった。人気者で、運動神経もよくて、力があった。
だから誰も歯向かえない。
故に、関わらないのが「普通」の正解だった。
だけどそれは、あくまで傍観者の理論で。
彼はいじめっ子よりも、いじめられている自分を助けてくれない俺たちに憤りを感じたのだ。
自分達は平気だから。関係ないから。
そういう俺たちも『加害者の集団である』と、突きつけたのだ。
騒ぎを聞きつけた担任の先生は急遽、道徳の授業を始めた。
先生は涙ながらに、
「見て見ぬふりをするのもいじめです」
と言った。
そんなの理不尽だ。誰もいじめっ子に逆らえないのに。
俺はそう思っていたし、皆もそうだと思う。
だけど、次の日からいじめられていた彼は学校に来なくなった。
もう二度と。
中学にも来なかった。
「誰も助けてくれない」
それが怨嗟ではなく彼の絶望だと、大人になってから気づいた。
だから、もう見て見ぬふりはしない。
傍観者にはならない。
転生した俺には、都合よく力もある。
だから、アリシアを助ける。
あの時みたいに悔いを残したくないからな。
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「うわ......ひっろいなー」
修練場は屋敷の裏手にあった。
牧場かな? と思うくらいのだだっ広い草原があり、奥の方は林がそびえ立っている。
ここ一帯がウェインウッド家の敷地というなら、実はかなりのお金持ちなんじゃないか?
「......っ!」
横にいるアリシアがまたビクッとした。
その視線の先にはやはりライルがいて、その横には黒いローブを来た初老の男性がいるみたいだ。
「......大丈夫。行こう」
アリシアをもう一度元気づけてから、俺はライル達のところへ駆け出した。
「お待ちしておりましたよ、ジークハルト君」
初老の男性は、片眼鏡越しに俺を見つめた。あの眼鏡は、モノクルって言うんだっけ。ゲームで見た。
「私はここの家庭教師をしているポピンズと言います。ここではポピンズ先生と呼んでください」
「はい、せんせい」
よろしい。と一言。優しそうではあるけど、厳かというか堅苦しいというか、そういう印象もあるな。
「早速だが、ジークハルト君。君は魔法が使えると聞いていたが」
「......はい。でも、今日の朝はじめて使っただけで、うまくつかえません」
「ふむ......コントロールできないということか」
ポピンズ先生は切り株の上に何やら小さな的のような木の物体を置いた。
「どの程度コントロールできないのか、これでテストしよう。好きな魔法を使って、この的を倒してみなさい。そうだな......まずお手本としてライル君がやってみようか」
「はい、先生!」
元気よく返事をするライル。
さっきまではクソガキの顔をしていた癖に、先生の前ではずいぶん優等生の顔をしている。いじめっ子らしい二面性だな。
少し離れた......アリシアに近づいたと言うべきか、そのくらいの位置で、俺とアリシアにだけ見えるイヤらしい笑みを浮かべてこちらを見た。
「さっきは火の魔法を見せたからな。次は風の魔法を見せてやるよ」
風の魔法......なんか嫌な予感がするな。
俺はアリシアの方をチラリと見た。......女の子らしい可愛いスカートである。
「行きます!」
そう言ってライルは集中し、突風を巻き起こした。
地面から巻き上がる突風を。
「きゃあッ!」
突然スカートが捲れ上がり、地面にぺたんと座り込むアリシア。
その様子をライルは一部始終ニヤニヤと見つめていた。
このすけべ野郎。
「すみません、ちょっとコントロールミスりました! でも合格ですよね!」
的はさっきの風の影響で上手い具合に倒れていた。
こいつ、別にコントロールできてないわけじゃない。わざとスカートを捲りながら、的も倒したのだ。
「......うむ。術式も丁寧であり、威力のコントロールもできておる。範囲のコントロールはこれから覚えていくように」
ポピンズ先生は若干渋い顔をしながら、一応合格の念を押した。悪戯には気づいていなかったのか?
「術式ってなんですか?」
気になったので、先生に聞いてみることにする。
「いい質問だ、ジークハルト君。術式というのは魔法を組み上げる時に設定する設計図のようなものだ。魔法を使う時はこれを組み上げて、範囲や威力、属性を付加する。私は放たれた魔法を見て、その術式を解析......ごほん、どんな魔法なのかが見てわかるのだよ」
解析という言葉が難しいと思ったのか、咳払いして簡単に言い直す先生。でも5歳児には設定も設計図も範囲も威力もぜーんぶ難しい単語だと思います。
「なんとなくわかりました。ぼくもやってみます」
「うむ」
ポピンズ先生は的を立て直し、俺は座り込んでまた涙目になっているアリシアの側に行った。
「アリシア......あぶないからぼくの後ろにおいで」
「......?」
首を傾げるアリシアを他所に、俺はどんどん的から離れていく。
「おーい。そんな遠くに行ってどうするのかね!?」
「いいんです! ぼくはまともにコントロールできないかもしれないから、このくらいで! 先生も的からはなれた方がいいですよ! あぶないから!」
ポピンズ先生はキョトンとしたまま、少し的から離れる。......まあそのくらいなら大丈夫かな。
「おまえ無理すんなよ! できないならできないって言えよ!」
一方でライルはどうせ大したことはできないと思っているのか、ニヤニヤとこちらを見やるだけで動こうとしない。お前はそこでいいから見てな。
さっき......ライルは火の魔法と風の魔法を使っていたな。
その組み合わせなら一度使って感覚は掴めた。
それを利用してうまく炎の塊を発射できないか考える。
イメージは......バーナー。
......よし、できそうだ。
「じゃあ、行きます!」
後ろで不安そうに見るアリシア。大丈夫、君を巻き込んだりはしないよ。
俺は風と火の魔法の術式を組み上げて――的に向けて魔法を発動した!
ゴォオオオォ!!
――瞬間。
炎の塊が的に伸びていき、切り株ごと呑み込んだ。
綺麗な一直線に、横から見れば壁が現れたみたいに見える炎。
それが......ライルの眼前に突如現れるように。
「......!!」
ぺたんと尻餅をつくライル。
同時に炎は消え、的は切り株ごと消し飛んでいた。
「な......こ、これは」
少し離れていたポピンズ先生は驚愕していた。
「なんだ今のは......。火炎放射なのはわかる。しかし、術式が......全くわけがわからない。この私が、術式を読み解けないだと......?」
後ろでも、アリシアは腰を抜かしている。でもごめん、先にライルのところに行かなければならない。
「ごめん、けがはなかった?」
「あ......お、おま」
俺はライルの前にしゃがんで、ポピンズ先生やアリシアには聞こえない声量で言った。
「ごめんね、ぼくコントロールがへただから。だから魔法がうまくつかえなくて。あたらなくてよかった」
ライルは、わなわなと口を震わせる。声ももう出ないらしい。
「だからぼく、ここでべんきょうしてコントロールを身につけるつもりだけどさ」
俺はライルにさらにずいっと顔を近づけて、
「もし、アリシアをまたいじめたりしたら、またコントロールがへたになるかもしれない」
「っ......っ!」
「だから、アリシアをいじめないでね。やくそく」
不必要に何度も頷くライル。
少しおどかし過ぎかな。おしっこ漏らしてなければいいけど。
......さて。
「アリシア」
アリシアの側に行くとアリシアはまたビクッとして、恐怖心を露わにした目でこちらを見る。
「大丈夫だよ。俺はアリシアをいじめない。約束だから」
アリシアの前でしゃがんで、手を握る。
「ライルはもう懲らしめたから。もういじめられない。ぼくもいじめたりしないから。だから、お勉強がおわったらいっしょにあそぼう?」
アリシアは......目を丸くして、そして頷いた。
「あり......がどう、ジークハルト」
「ハルトって呼んでいいよ、アリシア」
「......うん、ありがとう。ハルト」
そうしてアリシアはようやく、俺に笑顔を見せてくれたのだった。