第6話 何のための力
「さて......私はこれから魔法学校に帰らなければならないが。ジークハルト君、君は文句無しの合格だ。これからはこの二人と一緒に勉強しにくると良い」
テストが終わって、ポピンズ先生が帰り支度を始めた。同じタイミングで修練場にドロシーとこの家の執事さんがこちらに顔を出した。
「皆さま。昼食のご用意ができましたので、試験が終わり次第、食堂へお越しください」
「ウェールズ殿。今ちょうど終わった所だ。ジークハルト君はとてつもない才能を持っている。文句なしの合格だよ」
「さようですか。先生のお眼鏡にかなうとは、優秀という言葉で言い表しきれませんな」
どうやら、ポピンズ先生に認められるというのはよっぽど栄誉なことらしい。
「先生もお食事して帰りませんか?」
「いや、これからすぐに帰らなければならないのでね。ご遠慮させてもらおう」
「そうですか。ではこちらにサンドイッチをご用意いたしましたので。帰りの間にお召し上がりください」
そう言ってウェールズさんはバスケットを渡す。何と答えるか分かっていて、事前に準備していたのか? 抜け目がない。
「ありがたくいただきます。......ジークハルト君、少しこちらへ」
「......? はい」
なんか呼ばれたみたいなのでポピンズ先生へと駆け寄る。
「君、魔法がコントロールできないというのは嘘だろう?」
「......」
図星を刺され閉口する。
「あの術式は不可解であったが、それでも魔法そのものはとても素直であった。さしずめ、ライル君を脅かす為にわざとあんなものを撃ったのだろう」
俺は何も言えず、固まってしまう。バレバレやんけ。
「君はアリシア様を助けようとしたのだろう? いやね、私もライル君のアリシア様に対する悪戯には手を焼いていたのだよ。やり方は乱暴で危険ではあったが、彼には良い薬になったと思う」
「えと......あの」
「当然、やったことはきちんと反省しないといけない。やり過ぎではあるからね。だが、君の優しさはとても理解できる。君がうちの魔法学校に来る時が今から楽しみだ」
魔法学校......そうか、俺はいずれそこに行くことが決まっているらしい。家でも話題に上がっていたな。
「君は、何のために魔法を使うんだい?」
「......何のために」
ポピンズ先生の問いに、俺はさらに絶句してしまう。
何のため?
――異世界で無双したい。
それは、何のためだ?
「すぐには答えられなくても良い。でも、その答えについては常に考え続けるように。それではね、また明日」
「......あ、はい。ありがとうございました」
「うむ、君はとても礼儀正しい。私の前で取り繕う必要はないよ。君はとても聡明なのは分かっているからね」
なんてことだ。5歳児を演じていることまでバレていたのか。
ポピンズ先生......底知れない人だな。
「おぼっちゃまー、早くおいでくださーい! お屋敷は広いので迷子になってしまいますよー!」
とと。ドロシーに呼ばれてしまった。確かに迷子になりそうな大きさの屋敷だ。
「......いこ、ハルト」
「わわっと」
アリシアがわざわざ走って戻ってきて、手を繋いできた。引っ張られてつんのめりそうになる。
心なしか......いや、間違いなくさっきより元気そうなアリシア。うん、その方が可愛いと思うぞ。
「......」
ふと視線を感じた方を見ると、ライルがじっとこちら......というかアリシアを見ていた。
よくわからない顔で。いじめたいわけではなさそうなんだが......。
......まいっか。
今は異世界で食べるはじめてのご飯を堪能しよう。
朝飯を食べてないせいで腹が減ったからな。
✳︎
結論から言って、現実世界の洋食とほとんど変わらなかった。
サンドイッチは出たし、野菜も現実世界のものと微妙に違うだけで味はほとんど同じと考えて良い。
肉は何の肉かわからないが、味は普通に美味しかった。これならすぐに順応するというか......なんか妙に舌に馴染んでいる。
「今日のご飯は私、ドロシーが承りました。ここに置いてもらうための試験のようなものでしたので、腕によりをかけて作りましたわ」
と言っていたので、おそらくこの身体が味を覚えていたということなのかもしれない。
「......うまい」
ライルは一言それだけ呟いて、がつがつと料理を食べていた。食べ盛りなんだろうが、行儀は良くねえなあ。
「ハルトのメイドさんのご飯、おいしい。私、好きかも」
一方でアリシアは一口一口ゆっくりを味わいながら食べていた。彼らは家柄にも差があるのだろうか?
「どうやらお気に召してくださったようで何よりです。持ち回りですが、これからもお料理をさせていただきますので、これからもよろしくお願いします」
そう言ってドロシーはお辞儀をして、食堂を出て行った。
「お食事が終わり次第、私めがジークハルト様に屋敷の中をご案内いたします」
執事のウェールズさんがそう言った時、アリシアがウェールズさんの袖を引っ張った。
「......ハルトは私が案内する」
お嬢様の主張が予想外だったのか、ウェールズさんは目を丸くした。
「これはこれは。失礼いたしました。ではお嬢様にお任せいたしましょう。お嬢様はジークハルト様をお気に召したようですね」
「ん......。私の方が少しお姉ちゃんだから」
そう言ってはにかむアリシア。修練場に行く時の会話を覚えていたらしい。
「......」
そんなアリシアを複雑そうに見つめるライル。
......ああはいはい。そういうことねー。
つまり、ライルはアリシアの気をひこうとしてたわけだ。
でもなー。その方法がいじめじゃ嫌われるだけなんだよなー。
先生も悪戯に手を焼いていたと言っていたが、かなり常習化していたらしい。男ってのはバカだよな。
「ライル」
しょうがない。水を向けてやるか。
「な、なんだよ」
「アリシアに言うことがあるんじゃないの」
アリシアが会った時みたいにビクッとする。相当苦手意識があるらしい。
「な、なんもねえよ......」
「あ、ミスりそう......」
「わ、わかった! やめろ! 言う! 言うから!」
魔法を使うふりをしてやった途端に慌てるライル。怖がるアリシアを見てたじろいでる場合じゃねえんだよ。
「ア、アリシア......その。今まで、いじめたり脅かしたりして、ごめん。これからはもう、そんなことしない。約束する」
「......(コクッ)」
ライルの半ば告白みたいな謝罪に、頷くだけで返すアリシア。
すぐには無理だろうけど、これで少しは改善するだろう。
「......ほう。ジークハルト殿が当家の問題を解決してくださったのですね」
おっと。そういえば執事さんがいたのを忘れていた。
「私からお礼を申し上げます。ライル殿はお客人であり、子どものやる事なのでなかなか対応できなかったのです。ありがとうございました」
「いえいえ......アリシアに元気になって欲しかったから」
「......ありがとう、ハルト」
アリシアからは二度目のお礼である。お礼を言われるのは悪い気分じゃない。
人助けをするのは、気持ちが良いことだ。
少なくとも、見て見ぬふりをするよりは。
――君は、何のために魔法を使うんだい?
ポピンズ先生の問いかけが頭を過ぎる。
何のために力を使うのか。
無双したい、だけではなくて。
誰かにとってのヒーローになりたかった、人のことを助けられる人間になりたかった。
そういうことなのかもしれない。
「ハルト、ご飯食べ終わった? じゃあ、いこ!」
「わわ、ちょっと待ってよ」
最後のサンドイッチを食べ終わった瞬間、俺の手を引っ張るアリシア。
少なくとも、この可愛い幼なじみの笑顔を取り戻せたのは、悪いことではないだろうさ。