第7話 忘れてたけどこれ、転生チートなのよね
「ここがハルトのお部屋だよ」
そう言って鍵を開けるアリシア。ウェールズさんから預かっていたらしい。というか、噂に聞いていたけど、外国では部屋に鍵がついてるもんなんだなあ。
って外国じゃねえ。国どころか世界が違うんだったわ。
「はい。メイドさんも持ってるけど、ハルトもこの鍵無くしちゃダメだからね」
そう言って俺の手のひらに鍵を載せてギュッと握らせてくるアリシア。いちいちお姉さんぶってて大変可愛らしい。
アリシアは案内役として張り切っているからか、先程までよりも言葉がはきはきしている。あるいは、こちらの方が彼女の素なのかも。
なお、ライルは食べ終わるなり自分の部屋に戻ってしまった。何か思うことでもあるのか、脅しすぎて苦手意識を持たれたか。
部屋の中はかなり住みやすそうだった。
天蓋のあるベッドと、勉強用の机と椅子だけのシンプルな部屋。クローゼットは引き戸になっているらしい。
そういえば最初は気づかなかったけど、この世界は研磨や製鉄もあるのか、普通にガラス製のものや金属製のものがある。
人間が行き着く技術というのは、異世界でも同じようなものということだろうか? この辺の歴史の変遷にも興味があるな。
「......あんまり物がないね! ハルトは何も持ってこなかったの?」
「あー......部屋がばくはつしちゃったから」
「ばくはつ!?」
そういえば話していなかったんだっけ。俺はアリシアに(おねしょのことは当然伏せて)ここに来た経緯を説明した。
「だからいきなりあんな魔法使えたんだ......」
アリシアは関心というか、驚きすぎて何も言えないみたいな感じになっていた。
「そんなにびっくりすることなの?」
「そりゃするもん! あんなの魔法学校の先生が使うくらいの上級魔法だし、うちは魔術師の家系だけど、それでも上級魔法を覚えるのは一人前になるくらいの頃だってポピンズ先生が言ってた!」
あの先生はもしかすると長年この家の家庭教師をしているのかもしれない。親世代も見てきたのかも。
「私はまだぜんぜん......魔法とか使えないから、ハルトが羨ましい......」
「だいじょうぶだよアリシア。きっと魔法をつかえるようになるから」
先生に見てもらっているのなら、才能がないわけではないと思うのだけど......ライルにあんな風に魔法使っていじめられていたんじゃ、勉強どころじゃなかったのではないかな。
その後もトイレの場所や冷蔵室、応接間などの場所を教えてもらい......最後に辿り着いたのが。
「......ここは、図書室?」
「うちで管理してる魔法図書庫なのよ」
そこは大きくて薄暗い本棚ばかりの部屋だった。膨大な量の本があって、少しカビ臭い。
日の光が入るように窓もあるが、本が日焼けしないように配慮するためか、あまり多くない。だからなのか、他の場所よりも肌寒い気がする。
「すごい......何冊あるんだろう?」
「ここの地下も含めて、10万冊くらいってお父様が言ってた」
地下もあんのかよ。すげー。
気になるけど......そもそも読めるのか? 俺。
「ここの本を読めたら、魔法の勉強ができるんだけど......私はまだ読めないの。魔法言語で書かれてるから」
この世界の識字率も気になるが、魔法言語なるものもあるらしい。文字の勉強をし直さないといけないのは流石に面倒くさいな......。
ふと、入り口近くに置いてある薄めの本を取ってみる。薄めと言っても中学で使うような辞書くらいの太さがあるけど。
ページをめくってみる。
「この世界の魔法は、火、水、風、地、天の五大属性で構成されており、世界の物質が構成されている元素と同じ構成要素となっている。すなわち魔法とは世界の構成要素を術式を組み上げることで部分的に引き出し再構成する技術である......」
読 め る ん だ が ?
もう一度、文章を目に通してみる。
別に日本語で書かれているわけではない。なんかよくわからない象形文字のように見える。
だが読める。どういうことだ?
......あ。
俺はこの世界に転生する直前のことを思い出した。
「異世界に行って文字を学び直すのってかったるいよな。なんか良さげなスキルないかね」
そう呟きながら探して見つけたものが。
全ての言語・文字を理解可能になる......2000pt
「お、チートらしいチートじゃん。高いけど絶対必要になるから取っておくか」
......そうだ。この世界に来るまでに手にしたあらゆるスキルの中で便利そうなものを粗方取ったのだ。何せ転生ボーナスがカンストしてたんだ、手当たり次第取っていっても余りそうなくらいだった。
そのおかげで勉強しなくても文字が読める「才能」を持っているのか。
「ハルト......まさか、読めるの!?」
「......みたい」
「すごい! すごいすごいすごい! じゃあ、魔法が使えるようになる本とかも読めるの!?」
「たぶん、よめるかも......」
そう言って近くの本棚を探してみる。
恐らく入り口の近くにあるのはこの世界の魔法の基礎っぽい。だからアリシアが求めそうなものもありそうだが......あった。
「えっと、術式の組み上げ方は......まず元素の基礎となるルーンと魔法の指向性を指定し、魔法の結果から逆算した構成を過不足なく構築したものを出現場所に思い描きそこに魔力を注ぎ......」
むずいわボケ。
何となくでやったけど、こんなフィーリングじゃなくて理論的だったの?
こんなのを5歳がやったらそりゃ驚くわ。ライルもかなりの努力をしてできるようになったんだろうな。
アリシアは案の定首を傾げてきょとんとしている。わからんよね、6歳じゃね。
......しかし、勉強のしがいがあるな。
俺の知能はカンスト級だから、たとえ読んだことは頭の中にすぐに定着している。一瞬難しいと思ったのに、今はかなり「理解」している。
なるほど、ここまで実感はなかったけど、これが「頭の良い人間」の景色か。
「アリシア、つまりね......」
俺は俺なりの言葉で、アリシアに魔法を教えてみた。
すると......。
「できた!!」
アリシアの手のひらの上に火が出てきた。ライルがアリシアを脅かした時と同じものである。
「すごい! 魔法使えた! 私が魔法使えたんだ!」
すっかりはしゃいだ様子のアリシア。
ライルにいじめられながら、劣等感もあったのだろうな。自分の方が劣っていると感じていたから、萎縮しがちだったのもあるんだろう。
「よかったね、アリシア」
「うん! ありがとうハルト! あのさ、ハルトにおねがいごとしてもいい?」
「ん?」
「あのね、これからも私とここで魔法を一緒に勉強して欲しいの。お父様とお母様みたいな立派な魔術師になれるように!」
なるほど。
劣等感じゃなくて、憧れだったんだな。
代々魔術師の家系って言ってたし、アリシアの将来も魔法に関連するものなんだろう。
「わかった、いっしょにお勉強しよう」
「やったあ! よろしくね、ハルト!」
そうして俺たちは、時間の合間に楽しく二人で、この魔法図書庫でこっそり勉強するようになった。
この調子なら、ライルもすぐに追い抜けるだろう。
そしたら、アリシアはずっとこの明るさで居られるかもな。と心の中で呟いた。