

二話 合宿
小さいころから一緒だった。
背を見ていた。
頑張る背。
笑う背。
悲しむ背。
いろんな背を見た。
でも、悲しい背が多かったかも。
だから今日も、背中を追いかけてしまう。
・
講義が終わった。
まだ二限。
京はノートを片付け。
講堂を出る。
「安藤さん」
「なに?」
振り返れば、サークルの友達達がいた。
「今日、寄っていく?」
「サークル棟? 別に用ないしね」
静かに言うと、残念そうな顔をされた。
「今度の合宿の打ち合わせするみたいなんだ」
「合宿? そうなんだ」
「合同合宿なんだって!」
興奮気味で言われる。
しかし、あまり興味が沸かない。
「へぇ、どことするの?」
「西境大だって」
「あ~」
チャラ男が多いという評判の大学。
あまり良い印象を持たない。
こちらは女子大。
向こうはみんなオオカミのつもりでくるだろう。
憂鬱だ。
しかし、みんな楽しみだと言う顔をしていた。
「ま、ある程度固まったら教えて、三限のあるから行くね」
背を向け、颯爽と歩き出す。
内心ため息をつく。
付き合いでサークルに入ったが、正直面倒くさくなっていた。
とはいえ、付き合いもある。
どうしたものかと、京は思案していった。
・
帰り、スーパーに寄る。
しかし、売り場に健人の姿はなかった。
少しぶらぶらと店内を回る。
だが彼の姿は一向に現れなかった。
京は眉を寄せる。
「健人の奴、何してんだ」
思わず声が出る。
そこへ一人の男性が近寄る。
「あの......」
「はい?」
「健人君は、ヘルプで別の店舗に行ったよ」
「え!」
聞いていない。
内心ショックを受ける。
「今日は来ないと思ってたよ。あ、値引きはもうじき始まるから」
店長はそう言うと、事務所に行ってしまった。
仕方なく、京は惣菜を少し買い帰路へ着いた。
あの系列店は、何店舗か知っている。
さすがに特定して行く気は起きなかった。
部屋に戻り、ベッドへダイブする。
「ばか」
誰にも聞かれない声が消えていく。
「......ばか」
枕を抱く。
暇だった。
仰向けになり、天井を見る。
ヘルプなら、いつ帰ってくるかも分からない。
やることがなかった。
・
いつの間にか寝てしまったようだ。
外が暗い。
「お腹減ったな」
起き上がり、冷蔵庫を開ける。
麦酒が一本転がっている。
だが、呑む気になれない。
コンコン
ノック音がした。
隣の部屋からだった。
「あっ......」
パッと京の顔が輝く。
急いで玄関へ向かおうとした。
が、思い出し洗面所へ行く。
ライトをつけ、顔をチェック。
ニコっとする。
今日も元気。
変なところはない。
弱気は禁物。
元気が一番。
ニヤッとする。
彼女は一気に部屋を飛び出した。
・
座卓につき、二人は缶麦酒を開ける。
「今日、大変だったね?」
「ん? あぁヘルプか。まぁ、欠員が出るのは仕方がないからな」
乾杯しながら、健人は淡々と言う。
いつも割を食っている気がする。
それが京は気に食わない。
「今日さ」
「なに」
「サークルメンバーから声かけられた」
「......普通じゃね?」
「そうなんだけど、なんか合同合宿をするとか。あたし名前貸しの幽霊だし」
「いいじゃん。いつも通りで」
「いけってこと?」
京の顔が陰る。
「合同相手が、西境大でも?」
「どこそれ......」
「はぁ」
そうだった。
両親が他界した健人は元から大学など行く気がなかった。
「チャラ男が多いって噂のF欄」
「へぇ......おまえ、何サークルだっけ」
「テニサー」
「うわ......狼に餌やるようなもんじゃん」
「でしょ~。あたしなんか、格好の獲物じゃん」
京は胸を張る。
「そのスイカにもお灸いるか?」
「ちょっと! 乙女の危機なんだけど!」
「危機感あんなら、やめとけ」
「え?」
「まぁそのデカ尻じゃ、狙われるわな」
ハイボールを飲み、興味なさそうに彼は言った。
さすがの京もむくれる。
「ふんだ」
容赦なく、最後の肉をかっさらう。
もちろん、健人が狙っていて取っといた物だ。
「......」
いつもなら悪態をついてくる。
しかし、彼はジロリとにらむだけで何も言わなかった。
面白くない。
面白くない!
彼はハイボールを一口飲む。
「気をつけろよ」
「......え?」
ぼそっと言った言葉をきちんと聞けなかった。
「健人?」
「なんだ」
「もう一度言って?」
ニマッとして京は言う。
「地獄へ行ってらっしゃい」
「もう! 嫌い!」
健人の好物であるポテサラを強奪した。