ホーム恋を知らない僕らは、今日も隣にいる一話 健人と京
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挿絵AIで作った挿絵

一話 健人と京

 それは当たり前の存在。
 いつもいる存在。
 そこに恋という自覚は存在しない。

  ・

 朝を迎える。
 目覚ましのバイブレーションが鳴る。
 坂口健人さかぐちけんとは時間を確認する。
「あれ?」
 いつもより三十分遅れている。
「なぜ?」
 スヌーズ機能ではない。
 設定をチェックする。
 三十分遅れて設定されている。
「あいつ。やりやがったな」
 朝飯は抜き。
 すぐに着替える。
 寝汗がひどい。
 着替えるだけじゃだめだ。
 軽くシャワーを浴びる。
 ついでに、髭を剃り一気にさっぱりしていく。
 出ると同時に、おざなりにタオルで拭き服を着ていく。
「くそくそ! 時間ねぇ」
 悪態だけが響いていく。
「あいつのデカ尻ひっぱたく!」
 ジーンズを履き、Tシャツに袖を通す。
 使い込んだリュックをひったくると、玄関へ急ぐ。
 靴を見る。
 靴紐にも悪戯されている。
「あんの馬鹿」
 別の靴を取り出す。
「ちっ、これしかねぇのか」
 緑の靴を履く。
 そして、玄関を開け放った。
 同時に隣からもガチャっという音が聞こえる。
「おはよ」
 ニマッという笑う顔がそこにある。
 短く切りそろえられたボーイッシュな顔立ち。
 安藤京あんどうきょうが笑っていた。
「てめ」
「その靴履いてくれたんだ」
「ちっ」
 健人は露骨に舌打ちすると、走る。
「いってらっしゃ~い」
 京の声が後ろから投げられる。
 健人はそれを無視する。
 階段を駆け下り、アパートを後にした。
 
  ・

 バイト先のスーパーには始業五分前についた。
 ギリギリだ。
 品だしをして、開店準備。
 今日も忙しくなりそうだった。

 夕方。
 担当エリアのシールを貼りに行くと、見覚えのある人影があった。
「おっす~」
「......」
 無視する。
「はやく値下げシール貼ってほしいなぁ」
「お客様、それはまだ値下げしません」
「えぇ~じゃ、こっちかな?」
「......」
 京はニヤニヤしながら、お惣菜を手に取る。
「あ、あまり......ベタベタ商品に......さわるのは......いかが......なものかと......」
 我慢。
 我慢だ。
 ここは職場。
 こいつのペースに乗せられたらクビになる。
「じゃ、これもぉらぉ」
 唐揚げ特大を手に取り、京はレジへと向かおうとする。
「また夜ねぇ」
 ぽんっと、肩を気安く叩き、彼女は行ってしまった。
「毎日大変だねぇ」
「店長!」
「ま、ほどほどにね」
 店長も肩を叩き、事務所へ戻って行ってしまった。
 健人の盛大なため息が売り場にこだました。

  ・

 くたくただ。
 今日は早番だったので、夕方に上がれた。
 朝飯抜きが響いた。
 昼は節約しているからおにぎり二個だけだった。
 健人は安くなったお惣菜を手に家路につく。
 慎重に古い鉄階段を上がる。
 音はなるべく出さない。
 そして、一番端の部屋まで向かう。
 抜き足差し足。

 が、

 ガチャ
 あと一歩。
 手前の部屋が空く。
「おかえり、健人」
「はぁぁぁ......ただいま」
 京が満面の笑みでそこにいた。
 その手にはスーパーで買った唐揚げ特大がある。
「じゃ、食べよ」
 自然と京は健人の部屋の前までやってくる。
 部屋に入る。
 当然、京も入ってくる。
 彼女はそのまま電子レンジに唐揚げを投入する。
「ねぇ、麦酒まだあった?」
「おまえが飲み過ぎてなきゃあるよ」
「あい」
 冷蔵庫を勝手に開ける。
「お、あったあった。健人はハイボール?」
「あぁ、それでいい」
 彼女は座卓に缶を二本置く。
 ちょうどそのとき、電子レンジが鳴る。
 健人は唐揚げを取り出し、爪楊枝を出す。
 ついでに買ってきたお惣菜も座卓へ広げた。
「お、かに玉! 良いチョイスしてるじゃん」
「安くなったからな」
 取り皿を二枚、京が取ってくる。
 さらに箸も二膳持ってくる。
 京は上機嫌だ。
 健人は疲れ気味だ。
 二人は同時に座卓へ座る。
「いただきま~す」
「いただきます」
 二人は同時に唐揚げに手を伸ばす。
 そして、一番大きいものに爪楊枝を刺す。
「これ、あたしの」
「いや俺のだ。俺は疲れてる」
「これ買ったの、あたし」
「てめぇ、朝何したか分かって言ってるのか?」
「さぁ? なんのことぉ?」
「この悪魔女!」
「なにをぉ、万年不幸人間!」
「そうだ。おまえのデカ尻叩くんだった。そこなおれ!」
 思い出したとばかりに健人は立ち上がる。
「あ、隙あり!」
 その瞬間、京は唐揚げを強奪。
 一気に頬張る。
「あ!」
「......んんんんん!!!! あっつうぅぅぅ!」
 チンしすぎたのだろう。
 熱々だったようだ。
「くっはっはっはっ。ざまぁみろ!」
「び、びいいいるううう!」
 もがく彼女に健人は麦酒を開けてやる。
 それを一気に流し込む。
「あ~、死ぬかと思った」
「大げさだ」
「大げさちゃうわ! 舌やけどした!」
 そういい、京は舌を見せる。
「ほれ」
 その舌に次に唐揚げをつける。
「うんぎゃあああぁぁぁ!」
 京の悲鳴を聞き、健人は腹の底から笑った。
「ばか、それは冷めてる奴だ」
「この性格陰湿野郎めぇぇぇ!」
 こうして、また一日同じような夜が過ぎていった。


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恋を知らない僕らは、今日も隣にいる作者:源蔵@ にー7 文フリ大阪 頑固一徹堂
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 それは当たり前の存在。
 いつもいる存在。
 そこに恋という自覚は存在しない。

  ・

 朝を迎える。
 目覚ましのバイブレーションが鳴る。
 坂口健人さかぐちけんとは時間を確認する。
「あれ?」
 いつもより三十分遅れている。
「なぜ?」
 スヌーズ機能ではない。
 設定をチェックする。
 三十分遅れて設定されている。
「あいつ。やりやがったな」
 朝飯は抜き。
 すぐに着替える。
 寝汗がひどい。
 着替えるだけじゃだめだ。
 軽くシャワーを浴びる。
 ついでに、髭を剃り一気にさっぱりしていく。
 出ると同時に、おざなりにタオルで拭き服を着ていく。
「くそくそ! 時間ねぇ」
 悪態だけが響いていく。
「あいつのデカ尻ひっぱたく!」
 ジーンズを履き、Tシャツに袖を通す。
 使い込んだリュックをひったくると、玄関へ急ぐ。
 靴を見る。
 靴紐にも悪戯されている。
「あんの馬鹿」
 別の靴を取り出す。
「ちっ、これしかねぇのか」
 緑の靴を履く。
 そして、玄関を開け放った。
 同時に隣からもガチャっという音が聞こえる。
「おはよ」
 ニマッという笑う顔がそこにある。
 短く切りそろえられたボーイッシュな顔立ち。
 安藤京あんどうきょうが笑っていた。
「てめ」
「その靴履いてくれたんだ」
「ちっ」
 健人は露骨に舌打ちすると、走る。
「いってらっしゃ~い」
 京の声が後ろから投げられる。
 健人はそれを無視する。
 階段を駆け下り、アパートを後にした。
 
  ・

 バイト先のスーパーには始業五分前についた。
 ギリギリだ。
 品だしをして、開店準備。
 今日も忙しくなりそうだった。

 夕方。
 担当エリアのシールを貼りに行くと、見覚えのある人影があった。
「おっす~」
「......」
 無視する。
「はやく値下げシール貼ってほしいなぁ」
「お客様、それはまだ値下げしません」
「えぇ~じゃ、こっちかな?」
「......」
 京はニヤニヤしながら、お惣菜を手に取る。
「あ、あまり......ベタベタ商品に......さわるのは......いかが......なものかと......」
 我慢。
 我慢だ。
 ここは職場。
 こいつのペースに乗せられたらクビになる。
「じゃ、これもぉらぉ」
 唐揚げ特大を手に取り、京はレジへと向かおうとする。
「また夜ねぇ」
 ぽんっと、肩を気安く叩き、彼女は行ってしまった。
「毎日大変だねぇ」
「店長!」
「ま、ほどほどにね」
 店長も肩を叩き、事務所へ戻って行ってしまった。
 健人の盛大なため息が売り場にこだました。

  ・

 くたくただ。
 今日は早番だったので、夕方に上がれた。
 朝飯抜きが響いた。
 昼は節約しているからおにぎり二個だけだった。
 健人は安くなったお惣菜を手に家路につく。
 慎重に古い鉄階段を上がる。
 音はなるべく出さない。
 そして、一番端の部屋まで向かう。
 抜き足差し足。

 が、

 ガチャ
 あと一歩。
 手前の部屋が空く。
「おかえり、健人」
「はぁぁぁ......ただいま」
 京が満面の笑みでそこにいた。
 その手にはスーパーで買った唐揚げ特大がある。
「じゃ、食べよ」
 自然と京は健人の部屋の前までやってくる。
 部屋に入る。
 当然、京も入ってくる。
 彼女はそのまま電子レンジに唐揚げを投入する。
「ねぇ、麦酒まだあった?」
「おまえが飲み過ぎてなきゃあるよ」
「あい」
 冷蔵庫を勝手に開ける。
「お、あったあった。健人はハイボール?」
「あぁ、それでいい」
 彼女は座卓に缶を二本置く。
 ちょうどそのとき、電子レンジが鳴る。
 健人は唐揚げを取り出し、爪楊枝を出す。
 ついでに買ってきたお惣菜も座卓へ広げた。
「お、かに玉! 良いチョイスしてるじゃん」
「安くなったからな」
 取り皿を二枚、京が取ってくる。
 さらに箸も二膳持ってくる。
 京は上機嫌だ。
 健人は疲れ気味だ。
 二人は同時に座卓へ座る。
「いただきま~す」
「いただきます」
 二人は同時に唐揚げに手を伸ばす。
 そして、一番大きいものに爪楊枝を刺す。
「これ、あたしの」
「いや俺のだ。俺は疲れてる」
「これ買ったの、あたし」
「てめぇ、朝何したか分かって言ってるのか?」
「さぁ? なんのことぉ?」
「この悪魔女!」
「なにをぉ、万年不幸人間!」
「そうだ。おまえのデカ尻叩くんだった。そこなおれ!」
 思い出したとばかりに健人は立ち上がる。
「あ、隙あり!」
 その瞬間、京は唐揚げを強奪。
 一気に頬張る。
「あ!」
「......んんんんん!!!! あっつうぅぅぅ!」
 チンしすぎたのだろう。
 熱々だったようだ。
「くっはっはっはっ。ざまぁみろ!」
「び、びいいいるううう!」
 もがく彼女に健人は麦酒を開けてやる。
 それを一気に流し込む。
「あ~、死ぬかと思った」
「大げさだ」
「大げさちゃうわ! 舌やけどした!」
 そういい、京は舌を見せる。
「ほれ」
 その舌に次に唐揚げをつける。
「うんぎゃあああぁぁぁ!」
 京の悲鳴を聞き、健人は腹の底から笑った。
「ばか、それは冷めてる奴だ」
「この性格陰湿野郎めぇぇぇ!」
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