第三話 ツモ切りリーチ
「リーチ」
犬飼真希がリーチをかけてきた。今持ってきた牌をそのまま切っての急な方針変更。いわゆる『ツモ切りリーチ』だった。どんな意図があったのだろうか。
流局したので聞いてみると「一手替わり三色になる手替わり枚数が多い手だったからね。でも、待ってる間に手替わりの牌が減ってきたからリーチにしたの」
なるほど。
次局
「おっ、これもアレだわ」
「なに?」
「ツモ切りリーチ」
そう言って今度はあやのさんがツモ切りリーチをしてきた。
「ツモ!」
和了形を見ると二萬と⑥筒のシャンポン待ちなタンヤオだった。
「これはなんでツモ切りリーチなんですか?」
「うん、まずは私がリーチする直前の河(ホー)を見てごらん。」
「河?」
「あ、『河』っていうのは捨て牌のことよ。麻雀は山から持ってきて河に置くの」
「へぇ。そういうのは動画じゃ説明してくれなかったなー」
勉強会なだけあり勉強になる。
「直前の河......ね」
あやのさんのリーチ直前の全体図はとくに俺には特別なものを見つけられなかった。
「これが?」
「マキの捨て牌に伍萬が出てきたでしょう。これがツモ切りリーチの理由よ」
なるほど。ツモ切りリーチということは前巡と手牌は変わっていないわけで。伍萬がロンできない手組みであることが読み取れる。
麻雀にはスジという読み方がある。二萬のスジは伍萬だ。
(麻雀はメンツを作るゲーム。メンツ構成は枚数の関係上シュンツメンツ構成が主となる。シュンツメンツを作るにはシュンツメンツの種が必要。シュンツメンツの種は12や57というものより23や45などの2種待ちが効率的である。この2種のセットを『スジ』と言う)
つまりこの伍萬をロンしなかった手組みのままのリーチに二萬は切りやすいと分かる。そのヒントを逆手に取っているのだ。
「面白い」
「せっかくだから今日は様々なツモ切りリーチのパターンを説明していきましょうか?」
「そうね、そのあたりの基本をできないと麻雀の駆け引きが楽しめないしね。私は説明は苦手だから説明するのはあやのに任せるね」
「じゃ、マキはパターンを何種か出してみて。解説は任せてくれていいから」
「了っ解!」
そう言いながら犬飼さんはハイボールをゴクゴクッと飲み干した。
「おかわりぃ〜」
「ハイハイ」
あやのさんはハイボールをまた作ってきた。どうせ飲むだろうということか、犬飼さんのおかわりはメガサイズになっていた。そしてちゃっかり自分の分とオツマミも作ってる。
「へへ、今日はもう閉店だから。これ、今日作ったタコワサ。みんなで食べようよ」
「おっ、いいねぇ」
こうして今日は少し酔っぱらってる犬飼さんとあやのさんにツモ切りリーチについて教わることになったが、それがまさかこんなにも深いものだなんてまだその時は思いもしなかったのである――