第二話 着痩せ
オムライスを食べた日。あのあとしばらく残っていたけどいつものメンツが集まらなかった。たくさんいたお客さんも次々と帰っていき、今はもう店内にあやのさんと俺しかいない。
仕方ないから連絡先を知っている犬飼真希に連絡すると『すぐ行く』とのことだった。
「犬飼さんすぐ来るって」
「そう、良かったわね。私は2人きりの時間がもう少しあっても良かったケド〜」
「えっ?」
「なーんてね♡ 冗談よ、冗談」
「あ、そう......」
あまり心臓に悪い冗談は言わないで欲しい。ただでさえ非モテな俺だ。そういうノリには慣れてない。
しかし、すぐと言っても女性は家を出るのに支度する時間が必要なはずだ。けっこう待つかなと思って構えていたのだが......
ガラガラガラ
本当にすぐ来た。
「お待たせぃ。私に会いたかったんでしょ。イヌイ君」
「うん。ていうか全く待たされてないけど。電話切って5分経ってないっすよ?」
「あはははは! 元々ここに晩酌しに来るつもりで支度してたら電話鳴ったのよ。びっくりしちゃった。店内あやのと2人だけだって言うしー。こりゃいかん、と思って急いだよね」
「何がこりゃいかんなのよ。私とイヌイさん2人でもいーじゃない!」
「ダメダメダメ。絶対だめ。とくにこの季節の閉店時間近いラストオーダー後はだめ。あんた暑いからってエプロンとって1枚になるでしょ」
「......なるけど」
「それがだめなの。エロいのよ! あんたの身体は。若い男には刺激が強いわ。自覚しなさいー。そのどデカい胸や美しすぎるくびれ。凶悪だから」
「はぁ〜〜い」
あやのさんはシュンとしつつもちょっと嬉しそうだった。そりゃそうか。美しいと言われて嫌なわけはない。にしても、残念だ。そこまで言わせる刺激的な身体、エプロンなしの姿をちょっと見てみたかった。
「ハイボールちょうだい」
「ハイボールね。毎度!」
「イヌイ君は何時までいられるの。私はすぐ近くだから何時まででも大丈夫なんだけど」
「俺は12時20分の電車が最後ですね。まあ、まだまだ余裕っす」
「ま、終電逃したらそん時は始発までここにいてもいいし〜」とあやのさんがニヤニヤしてる。またひとをからかって。
「あやのの好きにはさせませんー。電車なくなったら私の部屋に来てもいいし?」
「ちょっとそれこそエロいじゃん! だめだよそれは」
「えへへっ。そうだよね」
「ちゃんと正式に入籍して、式をあげてからにしないと」
「ちょ、もー。2人してからかわないで下さい! お喋りはこれくらいにして麻雀やりたいんですけど!」
「えへへ、ゴメンゴメン」と言うと犬飼さんとあやのさんは卓の方に移動した。あやのさんも今日はもう仕事は終わりにしたみたいだ。
「あやの。くれぐれも言っとくけど、エプロン脱ぐなよ?」
「エッ、やっぱり?」
犬飼さんが釘を刺す。でも、もうね。さっきの会話聞いた時から気になっちゃってつい横から見ちゃったよね。
うん。胸デッカいわ。エプロンでも着痩せってするんだなと初めて知った。
「よし、じゃ3人麻雀やろ! 毎局終わり次第手牌を開いて解説したりしてさ。そうすればイヌイさんのための勉強会になるでしょ」
「いーね。賛成! ルールは4人麻雀のルールでいいよね。勉強会だから」
「そうね。そうしましょ」
「ありがとうございます!」
こうして美女2人による俺のための夜の麻雀勉強会が始まった。