第四話 覚悟の上なら痛くない
「例えばさっきのはスジだったけど、こういうパターンもあるよ」
そう言ってマキさんはタコワサを咀嚼しながら牌を並べ始めた。俺もタコワサをつまんだ。大きめにカットしてあるタコが美味い。
例
三四②③④⑨⑨⑨23488
「当たり牌だ......」
「形の上ではね。でもリーチしとかないと伍萬では役がない」
「そうか、それでツモ切りリーチしとくと伍萬もアガリになるし高目の二萬も出やすいかも、ということか」
「解説不要の理解力。気持ちいいくらい頭良いねキミ。お姉さん好きになっちゃいそ」
「あ、私も!」
「ちょっと......からかわれるのは慣れてないんで。それはやめてください、それよりもっと麻雀の勉強したいです」
「ちえーー。ちょっと本気なのになー」
そう言う言葉と裏腹に顔は二人共いたずらっ子のそれだった。どう見てもからかってる。
まあ、いいか。嫌な気分にはならないし。それどころか、俺はこの時ちょっと幸せを感じていた。これは多分、人生で初めての『モテてる』という気分だ。からかわれてるとしても、全然いい。
「あとはね、役があるけど見逃してるというパターンもあるのよ」
「そうそう、安目だったりターゲットからじゃなかったりね」
「他には、巡目的にそろそろリーチしとくかなってのもあるわね」
「もう待ってても仕方がないかって思える巡目になった、とかね」
「具体的には?」と質問した。これだけでは少し分かりにくかったので。
「具体的......そーね、あやの任せた」
「うん、例えばね字牌のドラ単騎の七対子とかよ。7.8巡目を通過しても切ってこないようならそれはもう一生切る予定がないか持ってないかのどちらかだから持ってないに賭けてリーチでツモりに行くの。どうせダマ続行しても容易に切られる巡目ではなくなったわけだから」
「なるほど、ドラを捨てることの危険性の高い巡目に突入したらダマの意味が激減してしまうので、それならもうそこでリーチってことですね」
「ザッツライト!」
「あとは、字牌ドラ単騎で思い出したのは字牌ドラが2枚出ちゃったタイミングでツモ切りリーチするのもありだな」
「それ、ロンできるけどしてないってことですか」
「いや、これは役無しでダマにしてる変化待ちパターン。まぐれでツモったならアガろっかなーっていうね。そんな時に2枚目のドラが出たなら、それはチャンスかもしんない」
「ああ、なるほど。そこでツモ切りリーチしてさっき2枚目の出た字牌が当たるとは思わないってことですね」
「そ、例えドラと言えどもね。これに放銃すんのは仕方がない。もはやこれは放銃したっていいやつに含まれるわ。問題は危険と知って放銃するか知らずに放銃するかだから」
「つまり、覚悟があれば放銃しても痛みはそれ程ではないから気持ちが落ちないっていうことですか?」
「ま、簡単に言うとそうね。覚悟決めてない失点だとクラッとくるから。こんなパターンもあり得ると知ってる必要があるってこと」
なんだか精神論的な話になってきた。そういうのは苦手というか、まだ俺には早いような気がしてるのだが。
「あとはー。リーチ棒が出て条件が満たされたとか」
「あるある」
「それとは逆に、鳴かれた事でターゲットはリーチしないことが判明して直撃狙いが難しいことが分かったとか」
「なるほど」
「あと、ポンが入ることでその跨ぎが出やすくなってリーチ敢行ってのもあるよね」
段々と俺にはわからなくなってきた。ちょっと難しい話が始まったが、面白いからそのまま聞いてようと思った。
「ん? 難しいって顔してる? さすがに一気に話しすぎたか。私達酔っ払うといつもこうなの。麻雀談義が止まらなくて。甘いものでも出そうか?」
「あ、じゃあメロンソーダで」
「はぁい」
そう言うとあやのさんはメロンクリームソーダを出してきた。
「これ、注文と少し違うけど」
「あっはっは、サービスサービス。さくらんぼは切らしてるから無いけど、いいよね」
(......どうせならさくらんぼもほしかった。と言うことは言わないでおこう)
「あ、ほしかった? 今度は買っておくから。ゴメンねー」
(?! そんなに表情に出てたかな? なんでもお見通しか......)
「......で、他には、この前メタがやってたやつとか面白いなと思った」
「あー、あったわね。見てた見てた。あれでしょ、無関係な待ちのやつ」
「そ! あれは高度な戦術よー。あいつはこういう所はさすがだよね」
メタのやったという高度な戦術とは? ツモ切りリーチの話題はまだ続く......