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噺を終えたあと、栄助を迎えたのは沈黙だった。
重く苦しくなるくらいの、無音。
頭を下げた自分の額から、汗が床に落ちる音が大きく聞こえるくらいの、静かな間。
パチパチ。
遠慮がちに響いた拍手は、すぐに大きな嵐となって、場を埋め尽くした。
安堵した。
今更ながら、ガクガクと震え出した足を無理やり動かし、袖に戻ってきた栄助を出迎えたのは。
兄弟子二人の渋い顔と、師匠の不敵な笑みだった。
すぐ出番だった兄弟子の一人は、深いため息をついて首を振ると、興奮冷めやらぬ高座の方へ、出囃子と共に向かう。
「し、ししょ......」
「栄助よぅ、おめぇ」
師匠は呆れたように、笑うばかりだ。
「ワシに喧嘩売ったんだからな、おめぇから。しっかり目を開けて、見ておけよ」
クルリと踵を返すと、師匠はお囃子さんの後ろに作ってもらった席に、ドカッと座った。
「おい」
呆然と佇んでいる栄助を引っ張って、楽屋の方に連れてきたのは、もう一人の兄弟子、菊助だった。
「栄助、お前! 『牡丹灯籠』が、師匠の十八番と知ってて......」
「菊助兄さん。ちゃんと師匠には、許可を取りました」
「取ったからって。......今日の親子会で、やらなくてもよかったろうに」
「いえ、今日じゃねぇとダメだったんです」
長い長いため息をついた菊助は、ポンと栄助の肩を叩いた。
「ちゃんとこういう場では、師匠を立てろ。まぁ、出来は最近では、一番良かった」
早口でそれだけ言うと、菊助は足早に袖の方へ向かった。
「はぁ〜」
栄助は力が抜けたように、その場にしゃがみ込む。
高座に上がる前に見せていた凄みは、すでに消えていた。
「あ、あの」
「ん、なんだい」
話しかけてきた前座見習いの少年にも、普段通りに対応できるくらいには。
と、いっても、女以外には元々愛想がいい方ではない栄助の物言いに、結局怯えさせてしまうのだが。
少年が持ってきた水で喉を潤すと、栄助はよっこらしょ、と掛け声と共に、立ち上がる。
さて、これで終わりじゃない。
この会を仕切っていた栄助は、出入り口に向かう。
帰り際に、客に渡すまんじゅうの準備が待っている。
作業を早く終わらせて兄弟子の、そして師匠の落語を聞いて、勉強させてもらわねば。