ホーム死にたがり社不の不死転生 ―死にたい私の、死ねない絶望―第十四話 四つの死に様
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第十四話 四つの死に様

 湧出型実戦訓練場の冷たい魔導鋼の床に、私の全裸の足裏がペタリと張り付く。

 あれから――結晶大蠍による強化を終えて、私の「第一段階調整」という名の地獄めぐりは、いつしか習慣化していった。

 上層部が用意した予定によれば、大戦を見据えた私のスペック底上げのため、一か月毎に次々と異なる特性を持つ凶悪な魔物が投入されることになっていた。


「...はぁ。またこれか」


 私はため息をつきながら、着ていたボロ布を無造作に放り投げた。

 どうせ次の瞬間には無残に殺されるのだ。その度に服がボロボロに裂け、血糊や体液にまみれ、洗濯すらままならない惨めな姿になる。それがあまりにも面倒だった。


「おい、ウェタルカ。毎度毎度、なぜ戦闘の前にわざわざ脱ぐ必要があるんだ...せめて最低限の端切れくらい身につけておけ」


 訓練場の端で、こめかみを押さえながらレイヴンが呆れたような、あるいは頭痛をこらえているような声を飛ばしてきた。その隣では、ガザルは少し慣れたのか、薄目で耐えている。ローザは両手で顔を覆いながらも、指の隙間からじっとこちらを覗き見して顔を真っ赤にしている。


「何を言ってるの、レイヴン隊長。どうせ一瞬で細切れになるんだよ。そうじゃなくても死体から剥ぎ取る私の手間が増えるでしょ。最初から脱いでおいた方が、効率的じゃない」

「効率の問題か...! お前の羞恥心はどこに行ったんだ!」

「さあね。...元いた世界でどっかになくしちゃったみたい」


 私は冷めた目を向けつつ、その場で伸びをした。

 私の関心は、いかに手際よく死に、いかに効率的にスキルを回収するか、それだけだった。そうでもしなければ、度重なる死に戻りの痛みと魔物との意識の混濁に、精神が耐えられそうになかった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 二体目は、天井付近の暗がりに潜む『大風梟』だった。

 音もなく飛来し、高圧の風の刃で獲物を細切れにする猛禽型の魔物である。


「ほら、早く来なよ。めんどくさい」


 私がすっぱだかの仁王立ちでそう呟いた瞬間、頭上の闇が裂けた。

 人間の耳には捉えられないほどの超音速の羽音が響き、目に見えない真空の刃が数筋、私の肉体を的確に捉える。

 瞬間、私の体は何十ものパーツへと切断され、鮮血の霧が処刑房の天井まで舞い上がった。痛みを感じる間すらなかった。視界が急速に真紅から真っ黒へと染まっていく。

「何度も死にざまを見せられるこちらが辛いぞ...」というガザルの乾いた声を聞きながら、私の意識はプツリと途切れた。

――視界がパチンと切り替わる。

 冷たい天井の空気と、風を切る翼の感覚。

 私の背中には一対の巨大な黒い翼が生えており、四肢の先には鋼鉄をも切り裂く鋭利な鉤爪が備わっていた。私は大風梟の肉体に乗り移っていた。


「...せいぜい、綺麗に飛んでおきなよ」


 私はフクロウの脳裏に残る、夜空を狩り場とした誇り高い記憶にほんのわずかな敬意を払いつつ、その翼を大きく翻した。そして、そのまま急降下し、硬質な魔道鉱の床に向けて全速力で激突しながら、自らの首元を自身の鉤爪で掻き切った。

 グシャリ、と肉が砕ける音と共に視界が崩壊し、再び元の人間としての肉体が足元の血溜まりの中からグジュグジュと音を立てて再生する。

 足元には、先ほどブツ切りにされた無数の生々しい肉片と、飛び散った血の海がそのまま残されている。


「ひっ...! 死ぬならもっと綺麗に死んでよ...!」


 入口の隅で、ローザがまた青い顔をして両膝を抱えて震えていた。

 その傍らでは、フィグが目を血走らせて飛び散った肉片を拾い集めながら、「前回より肉塊が多いぞぉ...!」と狂喜乱舞している。

 私は、放り投げた衣服を怠慢な手つきで纏い、レイヴンから手渡された「解析魔盤」で自身の情報を文字に映す。


【名前】 ウェタルカ
【種族】 ???
【称号】 異世界からの転生者、死にたがり、生にしがみつく者

【能力値】
・魔力量: 測定不能(不定形数)
・筋力 : 測定不能(不定形数)
・耐久 : 測定不能(不定形数)
・敏捷 : 測定不能(不定形数)

【固有スキル】
・『不死転生』:対象(物質体、精神体を含むすべての生命)に殺害された際、その体を次代の器として転生する。

【既存スキル】
『不定形化』『溶解液分泌』『魔核捕食・魔力値上昇』『超跳躍(脚部強化)』『角貫通突撃』『魔核捕食効率化』『高速移動(韋駄天)』『動体視力強化』『気配遮断』『水流制御(初級)』『水中機動最適化』『異種肉体統合』『剣術・短剣戦闘(近接技巧)』『罠解除』『人間言語』『魔力感知』『丸飲み』『脱皮(代謝上昇)』『滑空飛行(空中機動制御)』『竜鱗硬化(高位物理・魔法耐性)』『飛竜の炎息』『竜の威圧』『重装分散被甲』『禍毒侵蝕牙針』


【新規獲得スキル】
・『風刃』 (特性:風魔法の使用により、刃を生成する)
・『無音飛行』 (特性:飛行中の羽ばたきによる音波の発生を無効化する)

【統合スキル】
・『流嵐水刃』 (特性・統合:『水流制御(初級)』と『風刃』を統合。水・風魔法の同時発動により、遠距離まで届く竜巻のような水刃を発生させる)
・『無音幻翼』 (特性・統合:『滑空飛行(空中機動制御)』と『無音飛行』を統合。一切の気配を悟らせず空を滑る隠密飛行)

――――――――――――――――――――――――――――――


 紫煙をくゆらせ、酩酊に浸ること一か月、三体目による強化が始まる。

 湧出型実戦訓練場の床がゴゴゴッと重苦しい地鳴りを立てて割れ、その奥から現れたのは『岩石巨熊』だった。

 全身が荒々しい岩石のような外殻に覆われ、数トンはある巨体の一歩一歩が床の魔導鋼をひしゃげさせる、圧殺特化の怪物だ。


「こりゃ圧死かな、絶対血まみれになるね」


私は今回もためらうことなく、その場でスルスルと服を脱ぎ捨て、全裸で巨熊の前に歩み出た。


「――っ!? な、なんでまた脱ぐのよこの変態...! いい加減にしなさいよ!」


 見学席でローザが顔を真っ赤に染め上げ、羞恥心の限界を超えて噴きだす鼻血を手で抑えていた。


「いや、こいつに潰されたら、服の繊維が血と肉汁でヘドロになるでしょ。私の労力を奪わないでほしいね」

「誰があなたの洗濯の心配をしてるのよ! 死ぬことにもっと恐怖を感じなさいよ!」

(恐怖なんか感じてられないんだよこっちは――何言ってんだこのクソ魅魔族)


 ローザの絶叫を背に聞きながら、私は巨熊の懐へと飛び込んだ。

 巨熊が咆哮を上げ、丸太のような前脚を振り下ろす。逃げる気など微塵もない私を、その数トンの質量が容赦なく押しつぶした。


――ドゴォオオオン


 メキメキと肋骨が折れ、内臓が破裂し、全身の骨格がペシャンコに潰れていく。激痛が脳を焼き尽くす。


「ぐっ...!があああぁぁあああっ...!」


 絶叫の中、私はその重厚な肉体へと意識を滑り込ませた。


――視界がパチンと切り替わる。


 地歩の安定感と、全身を包む岩石の重み。
 私の体は数トンの巨体となり、地面を踏みしめるだけで大地が揺れる感覚があった。巨熊の脳裏に広がるのは、ひたすら縄張りを荒らす者を叩き潰してきただけの単調だが強力な本能だ。


「お疲れ様。お前のその重さは、私のものにさせてもらうよ」


 私は巨熊の太い腕を持ち上げ、自らの手でその頑丈な頭蓋骨を強烈に殴り抜いた。自壊の衝撃で頭部が砕け散り、私の意識は再び人間の肉体へと引き戻される。

 グジュリ、と肉が盛り上がり、私の体は元の姿へと再構成される。しかし足元には、先ほどまでのすり潰された人間としての惨めな肉の塊と、大量の血糊が泥のようにこびりついていた。


「うわあ...見事なまでの潰れ具合...。これじゃあ血ぐらいしか採取できないよ...」


 フィグが床に這いつくばり、すり潰された肉片と岩石の微粒子をスパチュラで集めながら、不満そうに口を尖らせている。


「もう嫌...。もうこんなの見ていられないわよ...!」

「いい加減慣れろ、ローザ。うぅむしかし、俺の剣であればあの巨体、何撃で切れたであろうか...。今度の魔物訓練には岩石巨熊を加えてもらおう」


 気持ちの悪いフィグに、相変わらず喚くローザと、鍛錬のことにしか興味のないガザル。私は三人の様子に溜息をつきながら、「解析魔盤」に両手を添える。


【名前】 ウェタルカ
【種族】 ???
【称号】 異世界からの転生者、死にたがり、生にしがみつく者

【能力値】
・魔力量: 測定不能(不定形数)
・筋力 : 測定不能(不定形数)
・耐久 : 測定不能(不定形数)
・敏捷 : 測定不能(不定形数)

【固有スキル】
・『不死転生』:対象(物質体、精神体を含むすべての生命)に殺害された際、その体を次代の器として転生する。

【既存スキル】
『不定形化』『溶解液分泌』『魔核捕食・魔力値上昇』『超跳躍(脚部強化)』『角貫通突撃』『魔核捕食効率化』『高速移動(韋駄天)』『動体視力強化』『気配遮断』『水中機動最適化』『異種肉体統合』『剣術・短剣戦闘(近接技巧)』『罠解除』『人間言語』『魔力感知』『丸飲み』『脱皮(代謝上昇)』『竜鱗硬化(高位物理・魔法耐性)』『飛竜の炎息』『竜の威圧』『重装分散被甲』『禍毒侵蝕牙針』『流嵐水刃』『無音幻翼』


【新規獲得スキル】
・『剛力』 (特性:筋力補正・特大)
・『地響き』 (特性:大地を踏みつけて極大の衝撃波を放つ)


「あれ、【統合スキル】ってやつがなかった」


 私の呟きに、横からレイヴンが割り込んできた。


「ふむ、新たな特性の追加ということだろう。上もあらゆる耐性や攻撃手段を揃えたいということだろう...まぁ、最終的にはお前の体の反応次第だがな。」

「なんか、つまんないね」


 私はそれきり興味をなくすと、ボロ布を回収し、もはや着るのも面倒だとばかりに裸のまま自室に戻っていった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 さらに一か月後、訓練場の床が中央からガタガタと沈み込み、代わりに巨大な特設水槽がセッティングされた。

 水槽の中でうねるように泳いでいるのは、数万ボルトの高電圧を全身から放ちながら獲物を丸呑みする湿地帯の危険な水生魔物『雷電鰻』だ。


「水か...。服の回収絶対面倒だよね、これ」


 私は水槽のふちに腰掛け、足をするりと抜いて、完全に裸の状態で水槽の縁に立った。

 レイヴンはもう顔を覆い、ローザは気絶したような目で天井を仰いでいた。


「感電でショック死ってとこかな。入るよ」


 私が迷いなく水槽の中にドプンと飛び込んだ瞬間、水中に満ちていた数万ボルトの電流が凄まじい閃光とともに一斉に解放された。


「――っあ」


 声を上げる暇すらない。高電圧の電流が私の神経の隅々まで駆け抜け、水分を一瞬で沸騰させ、肉体を黒焦げの炭へと変えていく。

 強烈な痺れと焼き付くような苦痛ののち、私の意識は暗転した。

――視界がパチンと切り替わる。

 ぬるりとした湿度の高い水槽の感触と、全身を這い回る青白い電撃の疼き。

 私は雷電鰻の滑らかな体へと乗り移っていた。水中の微弱な磁場を感じ取り、獲物を探る電気的な感覚が脳に直接流れ込んでくる。


(...感電の痛みって、想像より嫌なものだね)


 私は自らの体をくねらせ、水槽の壁面に強烈な放電を撃ち込みながら、愚鈍に動く口をパカリと開けた。そして、炎のブレスを出力一杯に貯めると、自身の内臓に送り込むようにゴクリと飲み込んだ。炎はウナギの肉体を瞬時に焼き尽くし、魔石を破壊、水槽の水まで蒸発させた。

 私の意識は再び外界へとはじき出される。

グシャリ、焦げ付いた床に崩れ落ちた人間の肉体が再生する。周囲には焦げ臭い匂いと、炭化した細胞の残骸が散らばっていた。


「ひっ...! 焦げ臭い...においがここまで...!」


 ローザが口元を押さえながら壁際にへたり込み、青い顔をしている。

 一方のフィグは、黒焦げになったサンプルをピンセットで大切そうにつまみ上げ、「炎熱抵抗値のサンプルだぁ!」と目を輝かせていた。

 私はすべてを諦めたような顔のガザルから「解析魔盤」を受け取り、スキルの追加を確認する。


【名前】 ウェタルカ
【種族】 ???
【称号】 異世界からの転生者、死にたがり、生にしがみつく者

【能力値】
・魔力量: 測定不能(不定形数)
・筋力 : 測定不能(不定形数)
・耐久 : 測定不能(不定形数)
・敏捷 : 測定不能(不定形数)

【固有スキル】
・『不死転生』:対象(物質体、精神体を含むすべての生命)に殺害された際、その体を次代の器として転生する。

【既存スキル】
『不定形化』『溶解液分泌』『魔核捕食・魔力値上昇』『超跳躍(脚部強化)』『角貫通突撃』『魔核捕食効率化』『高速移動(韋駄天)』『動体視力強化』『気配遮断』『水中機動最適化』『異種肉体統合』『剣術・短剣戦闘(近接技巧)』『罠解除』『人間言語』『魔力感知』『丸飲み』『脱皮(代謝上昇)』『竜鱗硬化(高位物理・魔法耐性)』『飛竜の炎息』『竜の威圧』『重装分散被甲』『禍毒侵蝕牙針』『流嵐水刃』『無音幻翼』『剛力』『地響き』


【新規獲得スキル】
・『放電』 (特性:雷魔法の使用により雷撃を発生させる)
・『電撃耐性』 (特性:雷属性の魔法・物理攻撃を八割無効化)

【統合スキル】
・『雷嵐水刃』 (特性・統合:『流嵐水刃』と『放電』を統合。水・風・雷魔法の同時発動により、対象の肉体を両断すると同時に、内部から焼き焦がす電導の遠隔切断波を放つ)

――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、また一ヶ月後。私たちはまた、湧出型実践訓練場へ集まっていた。立ちながらも書類になにかしらの記入を続けるレイヴンに、構わず声をかける。


「これで五体目だっけ?」

「あぁ、この魔物で『第一段階調整』は完了予定だ。今回は『隠密棘蜥蜴』周囲の光を屈折させて姿を隠し、体表に生えた無数の猛毒の棘を銃弾のように撃ち込んでくる、爬虫類型の魔物だ」

「ふーん。...どうせ全身が棘だらけになって、服のあちこちに穴が開きまくるね。やっぱ最初から脱いでおくわ」


 私は、何の躊躇いもなく全裸のまま、トカゲの気配が潜む暗がりのエリアへと歩を進めた。

 隊員の面々は、もはや反応する気力を失い、ただただ遠い目で私の背中を見送っている。


「...アイツ、もう完全に頭のネジが外れてるわね」

「いや、いっそ尊敬できるぞアレは...」


 ローザとガザルのそんな小言が微かに聞こえたが、私の視界からその姿は消えていた。

――次の瞬間。

 気配のない空間から、無数の紫色の猛毒の棘が雨あられと飛来した。

 避ける必要などない。私の肉体は全ての棘を正面から受け止め、その瞬時に全身が麻痺毒に侵され、黒紫色の腫れ物に覆われていく。内部から血管が破裂し、猛毒が脳髄まで溶かしていく激痛。


「ぐっ...相変わらず、毒は苦しいね」


その呟きを最後に、私の意識は再び暗闇へと沈んだ。

――視界がパチンと切り替わる。

 光学擬態によって周囲の景色に溶け込み、冷たい石畳を這う四肢の感覚。

 私の肉体は隠密棘蜥蜴のものとなっていた。背中に生い茂る毒の棘がピクリと波打ち、獲物を狙うための殺意が研ぎ澄まされていく。


「これで死ぬのも、一回おしまいだねっ...と」


 私は「雷嵐水刃」を発動させ、荒れ狂う水雷の刃を無数に生成し、一斉に自らを切り刻ませる。

 トカゲの肉体は無惨に分断され、切り口から焼け焦げていく。刃は魔核にまで到達し、トカゲの巨体がぐにゃりと地に伏した。

 最後の再生のプロセスが始まる。

 グジュリ、バキバキと肉と骨が組み合わさり、私は人間としての肉体を取り戻して立ち上がった。

 足元には、先ほどまでの毒まみれの死体と、無数の紫色の棘が散らばっている。


「...ご苦労。これで、上層部が指定した第一段階の工程はすべて終了だ」


 レイヴンが、どっと疲れ果てた足取りでこちらに歩み寄ってきた。彼の顔色の悪さは、毎月私の泥惨な死様を見せつけられたせいで、死病の患者よりも深刻なものになっていた。

 私は「解析魔盤」を手に取り、慣れた様子で発動させる。

 朱色の光が明滅し、私の肉体に刻み込まれた情報が浮き上がってきた。


【名前】 ウェタルカ
【種族】 ???
【称号】 異世界からの転生者、死にたがり、生にしがみつく者

【能力値】
・魔力量: 測定不能(不定形数)
・筋力 : 測定不能(不定形数)
・耐久 : 測定不能(不定形数)
・敏捷 : 測定不能(不定形数)

【固有スキル】
・『不死転生』:対象(物質体、精神体を含むすべての生命)に殺害された際、その体を次代の器として転生する。

【既存スキル】
『不定形化』『溶解液分泌』『魔核捕食・魔力値上昇』『超跳躍(脚部強化)』『角貫通突撃』『魔核捕食効率化』『高速移動(韋駄天)』『動体視力強化』『気配遮断』『水中機動最適化』『異種肉体統合』『剣術・短剣戦闘(近接技巧)』『罠解除』『人間言語』『魔力感知』『丸飲み』『脱皮(代謝上昇)』『竜鱗硬化(高位物理・魔法耐性)』『飛竜の炎息』『竜の威圧』『重装分散被甲』『禍毒侵蝕牙針』『流嵐水刃』『無音幻翼』『剛力』『地響き』

【新規獲得スキル】
・『光学的擬態』 (特性:周囲の光の反射や屈折を自在に制御し、自身の姿や視覚的な輪郭を隠蔽する。)
・『麻痺毒牙』 (特性:牙や攻撃部位から特殊な神経毒を分泌し、行動不能に陥れる。)

【統合スキル】
・『痺毒壊蝕牙針』 (特性・統合:『禍毒侵蝕牙針』と『麻痺毒牙』を統合。極上の神経毒が瞬時に全身の運動神経と反射を完全に麻痺させて身体の自由を奪い、同時に凶悪な壊蝕毒が肉体の内部組織と細胞を内側から致命的に侵蝕・崩壊させ、行動不能と死を同時にもたらす※聖女・勇者以外には解毒不可能)



「ふーん...。だいぶ、ごちゃごちゃしてきたね」


 画面に並ぶ禍々しいスキルの数々を眺めながら、私は小さく鼻を鳴らした。

 ゲームのシステム画面のように綺麗に整理されているが、その中身はどれもこれも、私が血を流し、肉を溶かされ、自ら命を絶って掠め取ってきた死骸の積み重ねだ。


「しかし、最後のスキルはやばいね。聖女と勇者って、人間のおとぎ話にしか出てこないじゃん。ほんとにいるの?」


 隊長のレイヴンに向けて質問したが、その回答はローザから返ってきた。


「今まで何回か教会上層部の精神に干渉してきたけれど、現状いないわ。ただし、主神が信託を降ろし、力を授けた人間が至れる称号らしいわね。」

「えっ、じゃあ無敵じゃないんだ...」


 レイヴンは深くため息をつき、頭を抱えた。


「お前の『不死転生』はそれだけで十分敵なしだろう...次回の訓練、つまり『第二段階調整』は未定だが、時期が判明次第命令が下る。それまで...いいか、お前らは勝手に暴れず、この施設の中でじっとしていろ」

「...まだ続くの、これ?」

「あぁ...お互い残念なことにな」


 私は「あっそ」と言い、ため息をつきながら雑居サロンに戻った。

 ソファに深く身体を沈めると、テーブルに起きっぱなしだったタバコに火をつけ、紫煙を天井へとくゆらせた。

 酒瓶を鷲掴み、喉を灼くようにして飲み干す。


(もうほんとに、死にたいなぁ...)


 過酷な死のループの余韻が冷めない脳内で、私は再び訪れた静かな日常の気だるさに身を委ね、泥のように眠りこけていった。
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死にたがり社不の不死転生 ―死にたい私の、死ねない絶望―作者:あづみ
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第十四話 四つの死に様

 湧出型実戦訓練場の冷たい魔導鋼の床に、私の全裸の足裏がペタリと張り付く。

 あれから――結晶大蠍による強化を終えて、私の「第一段階調整」という名の地獄めぐりは、いつしか習慣化していった。

 上層部が用意した予定によれば、大戦を見据えた私のスペック底上げのため、一か月毎に次々と異なる特性を持つ凶悪な魔物が投入されることになっていた。


「...はぁ。またこれか」


 私はため息をつきながら、着ていたボロ布を無造作に放り投げた。

 どうせ次の瞬間には無残に殺されるのだ。その度に服がボロボロに裂け、血糊や体液にまみれ、洗濯すらままならない惨めな姿になる。それがあまりにも面倒だった。


「おい、ウェタルカ。毎度毎度、なぜ戦闘の前にわざわざ脱ぐ必要があるんだ...せめて最低限の端切れくらい身につけておけ」


 訓練場の端で、こめかみを押さえながらレイヴンが呆れたような、あるいは頭痛をこらえているような声を飛ばしてきた。その隣では、ガザルは少し慣れたのか、薄目で耐えている。ローザは両手で顔を覆いながらも、指の隙間からじっとこちらを覗き見して顔を真っ赤にしている。


「何を言ってるの、レイヴン隊長。どうせ一瞬で細切れになるんだよ。そうじゃなくても死体から剥ぎ取る私の手間が増えるでしょ。最初から脱いでおいた方が、効率的じゃない」

「効率の問題か...! お前の羞恥心はどこに行ったんだ!」

「さあね。...元いた世界でどっかになくしちゃったみたい」


 私は冷めた目を向けつつ、その場で伸びをした。

 私の関心は、いかに手際よく死に、いかに効率的にスキルを回収するか、それだけだった。そうでもしなければ、度重なる死に戻りの痛みと魔物との意識の混濁に、精神が耐えられそうになかった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 二体目は、天井付近の暗がりに潜む『大風梟』だった。

 音もなく飛来し、高圧の風の刃で獲物を細切れにする猛禽型の魔物である。


「ほら、早く来なよ。めんどくさい」


 私がすっぱだかの仁王立ちでそう呟いた瞬間、頭上の闇が裂けた。

 人間の耳には捉えられないほどの超音速の羽音が響き、目に見えない真空の刃が数筋、私の肉体を的確に捉える。

 瞬間、私の体は何十ものパーツへと切断され、鮮血の霧が処刑房の天井まで舞い上がった。痛みを感じる間すらなかった。視界が急速に真紅から真っ黒へと染まっていく。

「何度も死にざまを見せられるこちらが辛いぞ...」というガザルの乾いた声を聞きながら、私の意識はプツリと途切れた。

――視界がパチンと切り替わる。

 冷たい天井の空気と、風を切る翼の感覚。

 私の背中には一対の巨大な黒い翼が生えており、四肢の先には鋼鉄をも切り裂く鋭利な鉤爪が備わっていた。私は大風梟の肉体に乗り移っていた。


「...せいぜい、綺麗に飛んでおきなよ」


 私はフクロウの脳裏に残る、夜空を狩り場とした誇り高い記憶にほんのわずかな敬意を払いつつ、その翼を大きく翻した。そして、そのまま急降下し、硬質な魔道鉱の床に向けて全速力で激突しながら、自らの首元を自身の鉤爪で掻き切った。

 グシャリ、と肉が砕ける音と共に視界が崩壊し、再び元の人間としての肉体が足元の血溜まりの中からグジュグジュと音を立てて再生する。

 足元には、先ほどブツ切りにされた無数の生々しい肉片と、飛び散った血の海がそのまま残されている。


「ひっ...! 死ぬならもっと綺麗に死んでよ...!」


 入口の隅で、ローザがまた青い顔をして両膝を抱えて震えていた。

 その傍らでは、フィグが目を血走らせて飛び散った肉片を拾い集めながら、「前回より肉塊が多いぞぉ...!」と狂喜乱舞している。

 私は、放り投げた衣服を怠慢な手つきで纏い、レイヴンから手渡された「解析魔盤」で自身の情報を文字に映す。


【名前】 ウェタルカ
【種族】 ???
【称号】 異世界からの転生者、死にたがり、生にしがみつく者

【能力値】
・魔力量: 測定不能(不定形数)
・筋力 : 測定不能(不定形数)
・耐久 : 測定不能(不定形数)
・敏捷 : 測定不能(不定形数)

【固有スキル】
・『不死転生』:対象(物質体、精神体を含むすべての生命)に殺害された際、その体を次代の器として転生する。

【既存スキル】
『不定形化』『溶解液分泌』『魔核捕食・魔力値上昇』『超跳躍(脚部強化)』『角貫通突撃』『魔核捕食効率化』『高速移動(韋駄天)』『動体視力強化』『気配遮断』『水流制御(初級)』『水中機動最適化』『異種肉体統合』『剣術・短剣戦闘(近接技巧)』『罠解除』『人間言語』『魔力感知』『丸飲み』『脱皮(代謝上昇)』『滑空飛行(空中機動制御)』『竜鱗硬化(高位物理・魔法耐性)』『飛竜の炎息』『竜の威圧』『重装分散被甲』『禍毒侵蝕牙針』


【新規獲得スキル】
・『風刃』 (特性:風魔法の使用により、刃を生成する)
・『無音飛行』 (特性:飛行中の羽ばたきによる音波の発生を無効化する)

【統合スキル】
・『流嵐水刃』 (特性・統合:『水流制御(初級)』と『風刃』を統合。水・風魔法の同時発動により、遠距離まで届く竜巻のような水刃を発生させる)
・『無音幻翼』 (特性・統合:『滑空飛行(空中機動制御)』と『無音飛行』を統合。一切の気配を悟らせず空を滑る隠密飛行)

――――――――――――――――――――――――――――――


 紫煙をくゆらせ、酩酊に浸ること一か月、三体目による強化が始まる。

 湧出型実戦訓練場の床がゴゴゴッと重苦しい地鳴りを立てて割れ、その奥から現れたのは『岩石巨熊』だった。

 全身が荒々しい岩石のような外殻に覆われ、数トンはある巨体の一歩一歩が床の魔導鋼をひしゃげさせる、圧殺特化の怪物だ。


「こりゃ圧死かな、絶対血まみれになるね」


私は今回もためらうことなく、その場でスルスルと服を脱ぎ捨て、全裸で巨熊の前に歩み出た。


「――っ!? な、なんでまた脱ぐのよこの変態...! いい加減にしなさいよ!」


 見学席でローザが顔を真っ赤に染め上げ、羞恥心の限界を超えて噴きだす鼻血を手で抑えていた。


「いや、こいつに潰されたら、服の繊維が血と肉汁でヘドロになるでしょ。私の労力を奪わないでほしいね」

「誰があなたの洗濯の心配をしてるのよ! 死ぬことにもっと恐怖を感じなさいよ!」

(恐怖なんか感じてられないんだよこっちは――何言ってんだこのクソ魅魔族)


 ローザの絶叫を背に聞きながら、私は巨熊の懐へと飛び込んだ。

 巨熊が咆哮を上げ、丸太のような前脚を振り下ろす。逃げる気など微塵もない私を、その数トンの質量が容赦なく押しつぶした。


――ドゴォオオオン


 メキメキと肋骨が折れ、内臓が破裂し、全身の骨格がペシャンコに潰れていく。激痛が脳を焼き尽くす。


「ぐっ...!があああぁぁあああっ...!」


 絶叫の中、私はその重厚な肉体へと意識を滑り込ませた。


――視界がパチンと切り替わる。


 地歩の安定感と、全身を包む岩石の重み。
 私の体は数トンの巨体となり、地面を踏みしめるだけで大地が揺れる感覚があった。巨熊の脳裏に広がるのは、ひたすら縄張りを荒らす者を叩き潰してきただけの単調だが強力な本能だ。


「お疲れ様。お前のその重さは、私のものにさせてもらうよ」


 私は巨熊の太い腕を持ち上げ、自らの手でその頑丈な頭蓋骨を強烈に殴り抜いた。自壊の衝撃で頭部が砕け散り、私の意識は再び人間の肉体へと引き戻される。

 グジュリ、と肉が盛り上がり、私の体は元の姿へと再構成される。しかし足元には、先ほどまでのすり潰された人間としての惨めな肉の塊と、大量の血糊が泥のようにこびりついていた。


「うわあ...見事なまでの潰れ具合...。これじゃあ血ぐらいしか採取できないよ...」


 フィグが床に這いつくばり、すり潰された肉片と岩石の微粒子をスパチュラで集めながら、不満そうに口を尖らせている。


「もう嫌...。もうこんなの見ていられないわよ...!」

「いい加減慣れろ、ローザ。うぅむしかし、俺の剣であればあの巨体、何撃で切れたであろうか...。今度の魔物訓練には岩石巨熊を加えてもらおう」


 気持ちの悪いフィグに、相変わらず喚くローザと、鍛錬のことにしか興味のないガザル。私は三人の様子に溜息をつきながら、「解析魔盤」に両手を添える。


【名前】 ウェタルカ
【種族】 ???
【称号】 異世界からの転生者、死にたがり、生にしがみつく者

【能力値】
・魔力量: 測定不能(不定形数)
・筋力 : 測定不能(不定形数)
・耐久 : 測定不能(不定形数)
・敏捷 : 測定不能(不定形数)

【固有スキル】
・『不死転生』:対象(物質体、精神体を含むすべての生命)に殺害された際、その体を次代の器として転生する。

【既存スキル】
『不定形化』『溶解液分泌』『魔核捕食・魔力値上昇』『超跳躍(脚部強化)』『角貫通突撃』『魔核捕食効率化』『高速移動(韋駄天)』『動体視力強化』『気配遮断』『水中機動最適化』『異種肉体統合』『剣術・短剣戦闘(近接技巧)』『罠解除』『人間言語』『魔力感知』『丸飲み』『脱皮(代謝上昇)』『竜鱗硬化(高位物理・魔法耐性)』『飛竜の炎息』『竜の威圧』『重装分散被甲』『禍毒侵蝕牙針』『流嵐水刃』『無音幻翼』


【新規獲得スキル】
・『剛力』 (特性:筋力補正・特大)
・『地響き』 (特性:大地を踏みつけて極大の衝撃波を放つ)


「あれ、【統合スキル】ってやつがなかった」


 私の呟きに、横からレイヴンが割り込んできた。


「ふむ、新たな特性の追加ということだろう。上もあらゆる耐性や攻撃手段を揃えたいということだろう...まぁ、最終的にはお前の体の反応次第だがな。」

「なんか、つまんないね」


 私はそれきり興味をなくすと、ボロ布を回収し、もはや着るのも面倒だとばかりに裸のまま自室に戻っていった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 さらに一か月後、訓練場の床が中央からガタガタと沈み込み、代わりに巨大な特設水槽がセッティングされた。

 水槽の中でうねるように泳いでいるのは、数万ボルトの高電圧を全身から放ちながら獲物を丸呑みする湿地帯の危険な水生魔物『雷電鰻』だ。


「水か...。服の回収絶対面倒だよね、これ」


 私は水槽のふちに腰掛け、足をするりと抜いて、完全に裸の状態で水槽の縁に立った。

 レイヴンはもう顔を覆い、ローザは気絶したような目で天井を仰いでいた。


「感電でショック死ってとこかな。入るよ」


 私が迷いなく水槽の中にドプンと飛び込んだ瞬間、水中に満ちていた数万ボルトの電流が凄まじい閃光とともに一斉に解放された。


「――っあ」


 声を上げる暇すらない。高電圧の電流が私の神経の隅々まで駆け抜け、水分を一瞬で沸騰させ、肉体を黒焦げの炭へと変えていく。

 強烈な痺れと焼き付くような苦痛ののち、私の意識は暗転した。

――視界がパチンと切り替わる。

 ぬるりとした湿度の高い水槽の感触と、全身を這い回る青白い電撃の疼き。

 私は雷電鰻の滑らかな体へと乗り移っていた。水中の微弱な磁場を感じ取り、獲物を探る電気的な感覚が脳に直接流れ込んでくる。


(...感電の痛みって、想像より嫌なものだね)


 私は自らの体をくねらせ、水槽の壁面に強烈な放電を撃ち込みながら、愚鈍に動く口をパカリと開けた。そして、炎のブレスを出力一杯に貯めると、自身の内臓に送り込むようにゴクリと飲み込んだ。炎はウナギの肉体を瞬時に焼き尽くし、魔石を破壊、水槽の水まで蒸発させた。

 私の意識は再び外界へとはじき出される。

グシャリ、焦げ付いた床に崩れ落ちた人間の肉体が再生する。周囲には焦げ臭い匂いと、炭化した細胞の残骸が散らばっていた。


「ひっ...! 焦げ臭い...においがここまで...!」


 ローザが口元を押さえながら壁際にへたり込み、青い顔をしている。

 一方のフィグは、黒焦げになったサンプルをピンセットで大切そうにつまみ上げ、「炎熱抵抗値のサンプルだぁ!」と目を輝かせていた。

 私はすべてを諦めたような顔のガザルから「解析魔盤」を受け取り、スキルの追加を確認する。


【名前】 ウェタルカ
【種族】 ???
【称号】 異世界からの転生者、死にたがり、生にしがみつく者

【能力値】
・魔力量: 測定不能(不定形数)
・筋力 : 測定不能(不定形数)
・耐久 : 測定不能(不定形数)
・敏捷 : 測定不能(不定形数)

【固有スキル】
・『不死転生』:対象(物質体、精神体を含むすべての生命)に殺害された際、その体を次代の器として転生する。

【既存スキル】
『不定形化』『溶解液分泌』『魔核捕食・魔力値上昇』『超跳躍(脚部強化)』『角貫通突撃』『魔核捕食効率化』『高速移動(韋駄天)』『動体視力強化』『気配遮断』『水中機動最適化』『異種肉体統合』『剣術・短剣戦闘(近接技巧)』『罠解除』『人間言語』『魔力感知』『丸飲み』『脱皮(代謝上昇)』『竜鱗硬化(高位物理・魔法耐性)』『飛竜の炎息』『竜の威圧』『重装分散被甲』『禍毒侵蝕牙針』『流嵐水刃』『無音幻翼』『剛力』『地響き』


【新規獲得スキル】
・『放電』 (特性:雷魔法の使用により雷撃を発生させる)
・『電撃耐性』 (特性:雷属性の魔法・物理攻撃を八割無効化)

【統合スキル】
・『雷嵐水刃』 (特性・統合:『流嵐水刃』と『放電』を統合。水・風・雷魔法の同時発動により、対象の肉体を両断すると同時に、内部から焼き焦がす電導の遠隔切断波を放つ)

――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、また一ヶ月後。私たちはまた、湧出型実践訓練場へ集まっていた。立ちながらも書類になにかしらの記入を続けるレイヴンに、構わず声をかける。


「これで五体目だっけ?」

「あぁ、この魔物で『第一段階調整』は完了予定だ。今回は『隠密棘蜥蜴』周囲の光を屈折させて姿を隠し、体表に生えた無数の猛毒の棘を銃弾のように撃ち込んでくる、爬虫類型の魔物だ」

「ふーん。...どうせ全身が棘だらけになって、服のあちこちに穴が開きまくるね。やっぱ最初から脱いでおくわ」


 私は、何の躊躇いもなく全裸のまま、トカゲの気配が潜む暗がりのエリアへと歩を進めた。

 隊員の面々は、もはや反応する気力を失い、ただただ遠い目で私の背中を見送っている。


「...アイツ、もう完全に頭のネジが外れてるわね」

「いや、いっそ尊敬できるぞアレは...」


 ローザとガザルのそんな小言が微かに聞こえたが、私の視界からその姿は消えていた。

――次の瞬間。

 気配のない空間から、無数の紫色の猛毒の棘が雨あられと飛来した。

 避ける必要などない。私の肉体は全ての棘を正面から受け止め、その瞬時に全身が麻痺毒に侵され、黒紫色の腫れ物に覆われていく。内部から血管が破裂し、猛毒が脳髄まで溶かしていく激痛。


「ぐっ...相変わらず、毒は苦しいね」


その呟きを最後に、私の意識は再び暗闇へと沈んだ。

――視界がパチンと切り替わる。

 光学擬態によって周囲の景色に溶け込み、冷たい石畳を這う四肢の感覚。

 私の肉体は隠密棘蜥蜴のものとなっていた。背中に生い茂る毒の棘がピクリと波打ち、獲物を狙うための殺意が研ぎ澄まされていく。


「これで死ぬのも、一回おしまいだねっ...と」


 私は「雷嵐水刃」を発動させ、荒れ狂う水雷の刃を無数に生成し、一斉に自らを切り刻ませる。

 トカゲの肉体は無惨に分断され、切り口から焼け焦げていく。刃は魔核にまで到達し、トカゲの巨体がぐにゃりと地に伏した。

 最後の再生のプロセスが始まる。

 グジュリ、バキバキと肉と骨が組み合わさり、私は人間としての肉体を取り戻して立ち上がった。

 足元には、先ほどまでの毒まみれの死体と、無数の紫色の棘が散らばっている。


「...ご苦労。これで、上層部が指定した第一段階の工程はすべて終了だ」


 レイヴンが、どっと疲れ果てた足取りでこちらに歩み寄ってきた。彼の顔色の悪さは、毎月私の泥惨な死様を見せつけられたせいで、死病の患者よりも深刻なものになっていた。

 私は「解析魔盤」を手に取り、慣れた様子で発動させる。

 朱色の光が明滅し、私の肉体に刻み込まれた情報が浮き上がってきた。


【名前】 ウェタルカ
【種族】 ???
【称号】 異世界からの転生者、死にたがり、生にしがみつく者

【能力値】
・魔力量: 測定不能(不定形数)
・筋力 : 測定不能(不定形数)
・耐久 : 測定不能(不定形数)
・敏捷 : 測定不能(不定形数)

【固有スキル】
・『不死転生』:対象(物質体、精神体を含むすべての生命)に殺害された際、その体を次代の器として転生する。

【既存スキル】
『不定形化』『溶解液分泌』『魔核捕食・魔力値上昇』『超跳躍(脚部強化)』『角貫通突撃』『魔核捕食効率化』『高速移動(韋駄天)』『動体視力強化』『気配遮断』『水中機動最適化』『異種肉体統合』『剣術・短剣戦闘(近接技巧)』『罠解除』『人間言語』『魔力感知』『丸飲み』『脱皮(代謝上昇)』『竜鱗硬化(高位物理・魔法耐性)』『飛竜の炎息』『竜の威圧』『重装分散被甲』『禍毒侵蝕牙針』『流嵐水刃』『無音幻翼』『剛力』『地響き』

【新規獲得スキル】
・『光学的擬態』 (特性:周囲の光の反射や屈折を自在に制御し、自身の姿や視覚的な輪郭を隠蔽する。)
・『麻痺毒牙』 (特性:牙や攻撃部位から特殊な神経毒を分泌し、行動不能に陥れる。)

【統合スキル】
・『痺毒壊蝕牙針』 (特性・統合:『禍毒侵蝕牙針』と『麻痺毒牙』を統合。極上の神経毒が瞬時に全身の運動神経と反射を完全に麻痺させて身体の自由を奪い、同時に凶悪な壊蝕毒が肉体の内部組織と細胞を内側から致命的に侵蝕・崩壊させ、行動不能と死を同時にもたらす※聖女・勇者以外には解毒不可能)



「ふーん...。だいぶ、ごちゃごちゃしてきたね」


 画面に並ぶ禍々しいスキルの数々を眺めながら、私は小さく鼻を鳴らした。

 ゲームのシステム画面のように綺麗に整理されているが、その中身はどれもこれも、私が血を流し、肉を溶かされ、自ら命を絶って掠め取ってきた死骸の積み重ねだ。


「しかし、最後のスキルはやばいね。聖女と勇者って、人間のおとぎ話にしか出てこないじゃん。ほんとにいるの?」


 隊長のレイヴンに向けて質問したが、その回答はローザから返ってきた。


「今まで何回か教会上層部の精神に干渉してきたけれど、現状いないわ。ただし、主神が信託を降ろし、力を授けた人間が至れる称号らしいわね。」

「えっ、じゃあ無敵じゃないんだ...」


 レイヴンは深くため息をつき、頭を抱えた。


「お前の『不死転生』はそれだけで十分敵なしだろう...次回の訓練、つまり『第二段階調整』は未定だが、時期が判明次第命令が下る。それまで...いいか、お前らは勝手に暴れず、この施設の中でじっとしていろ」

「...まだ続くの、これ?」

「あぁ...お互い残念なことにな」


 私は「あっそ」と言い、ため息をつきながら雑居サロンに戻った。

 ソファに深く身体を沈めると、テーブルに起きっぱなしだったタバコに火をつけ、紫煙を天井へとくゆらせた。

 酒瓶を鷲掴み、喉を灼くようにして飲み干す。


(もうほんとに、死にたいなぁ...)


 過酷な死のループの余韻が冷めない脳内で、私は再び訪れた静かな日常の気だるさに身を委ね、泥のように眠りこけていった。
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死にたがり社不の不死転生 ―死にたい私の、死ねない絶望―作者:あづみ
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