プロローグ 覚醒――選ばれし者への招待状
ある日の夜。
学習机に両手で頬杖をついて、透明感のあるピンク色のエアリーボブを揺らす少女、桃葉さくら。
さくらは、スタンドに立てかけたスマホの画面をじっと見つめていた。
画面の中で舞うのは、魔力『ルミナス』を宿し、絢爛な光を纏って戦う少女たち『ステラ』。
画面越しでも伝わる可憐さと圧倒的な強さに、小さくため息を漏らす。
「......かっこいいなぁ......でも私には何も取り柄なんてないし、遠い世界の話だよね......」
時間を忘れて動画に見入っていたさくら。
「ふわぁ......いっけない、もうこんな時間! 明日も学校だし、もう寝ないとね。おやすみなさい」
すっかり夜更かしをして、目がかすむさくら。
目をこすりながら、電気を消してベッドに入り、静かに目を閉じる。
しばらくすると、右目にかつて味わったことのない異変が襲いかかる。
スマホの見過ぎだろうか、そう思ったのも束の間。
まるで、灼熱の刃でまぶたの裏を彫り刻まれているような、凄絶な激痛。
「っっ......!!」
両手で右目を抑え込むが、焼かれるような激痛は次第に増していくばかり。
悲鳴すら喉に詰まり、ただひたすらに痛みに耐えてのたうち回ることしかできなかった。
っ......!! 痛い。痛い痛いいたい!! たすけて!!
自分の身体に何が起こったのか理解する術もなく、やがて狂おしい痛みの果てに気を失うように、深い闇へと落ちていった。
――翌朝、カーテンの隙間から柔らかい朝日が差し込んでいた。
今日も良い天気だろう。
「あれは、夢......だったのかな......?」
目を覚ましたさくらは、ベッドの中で仰向けになったまま、恐る恐る右手で右目の周りを軽くそっと撫でてみた。
「......うん、何にもなってないみたいだし、ちゃんと見える......」
身体を起こし、ベッドから降りてカーテンをサーッと開ける。
「何だったんだろうなぁ......あんな夢、今まで全然経験したことないよ......」
重い足取りで、鏡の前に立ったさくらは、息を呑んだ。
「......っ!!」
鏡の中の自分が、まるで自分ではないように見えた。
透明感のあるピンク色の左目に対して、右の瞳だけが、深く妖艶なワインレッドに変色していたのだ。
それだけではない。その瞳の奥には、幾何学的な『X』の形をした――古代のルーン文字のような紋様がうっすらと浮かびあがっていた。
「......いやいや待って待って!! まだ夢だよね、寝ぼけてるだけだよね......」
鏡から目を逸らし、バクバクとビートを打つ胸を抑えて目を閉じる。
大きく「はぁー」と深呼吸し、もう一度、鏡と向かい合うさくら。
「......うそ......だよね......」
何度鏡を覗いても、何度瞬きをしても、ワインレッドに染まった右目とルーン文字の事実は変わらなかった。
「............っ」
混乱と恐怖で、涙を浮かべるさくら。
ふと、机の引き出しにしまっていた、ステラ養成校入学案内パンフレットのことを思い出した。
慌てて引き出しをあさり、演習風景が載ったページを開いた。
そこに写る可憐なステラたちは皆オッドアイで、よく見るとその瞳の奥には古代文字のようなものが浮かんでいた。
『ステラは生まれた時からステラであるが、実際に身体の変化がみられるのは、およそ十歳から十四歳頃。片目が変色してルーン文字が浮かび、自覚した瞬間にその瞳は証となる』
パンフレットの解説文と、鏡に映る自分の顔を何度も見比べるさくら。
「......これってもしかして、私......ステラだったの......?」
鏡の中でワインレッドに輝く右目と、その奥で静かに明滅する『X』のルーン。
半信半疑だった気持ちは、次第に確信へと変わっていた。
――そう、さくらは生まれた時からステラであり、選ばれたという証。
ステラとしての運命を自覚したこの瞬間こそが、さくらが世界の運命を背負う、最初の一歩だった。