ホーム›絆光のステラ――抱きしめた温もりは、私たちがここにいた証だから。›第2話 空を舞うバトン――忍び寄る屍
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第2話 空を舞うバトン――忍び寄る屍

 なおもサイレンの鳴り響く校内。
 周りの新入生はパニック状態で必死にシェルターへ向かう。
「あれが、スクラップ......!?」
 気づけば周囲の生徒は一人もおらず、さくらは底知れぬ恐怖で足がすくみ、地べたにへたり込んだまま動けなくなっていた。
 視界の隅で、巨大な虫のように黒く、不気味な金属音を立てて滑空する影が旋回する。
――廃翼型はいよくがたスクラップ、通称『ジャンクウィング』観測用ドローンタイプ。
 かつて戦場を静かに見下ろしていたであろうその機体は、今や人間の頭部ほどもある歪な鉄塊へと成り果てていた。
 左右に突き出た四つの極小チタンスラスターが、狂ったように青白い高圧ガスを吹き出し、大気をキリキリと焦がす。
 その中心には、かつて軍用規格の高性能カメラだった三連の光学レンズが、さくらの動きに合わせてジジジと機械的に焦点を絞り、獲物を定め、禍々しい赤色にギラリと発光した。

「――キ、ギ、ギギギッ......!」

 人間の勝手な都合で捨て置かれた兵器の、怨嗟に満ちた駆動音。
 千切れた油圧ホースから滴るドス黒い廃油が、足元の美しい桜の花びらを汚していく。
 鼻をつく廃油の臭いと、スラスターが放つ青白い熱風が、さくらの前髪を激しく揺らした。
 さくらの華奢な胸元を、一撃で容易く削り取るに十分な『牙を持った質量』が、目の前で静かに起動していた。
 入学したばかりで『カタリスト』を支給されていない、無力な少女。
 ルミナスを宿してはいても、対抗する武器を持たないさくらには、迫る異形から抗う術など何もなかった。
(わたし......え、やだ――)
 死を覚悟し、必死に目を瞑った――その時だった。

「――させないっ!!」

 どこからか凛とした叫びが聞こえ、桜色の視界を割って、鮮やかな水色の光が飛び込んできた。
 驚いて目を開けたさくらの目の前に立ちはだかったのは――さっき校門前で怯えていた、水色の髪と瞳の少女。
 彼女こそが、のちにさくらの運命の相棒となる澄水川すみかわそらだった。
 そらはブラウンのサッチェルバッグから、まるでチタン製シリンダータクティカル・バトンを思わせる、鋭い銀色の円筒形ワンドを抜き放つ。
「あ、あなたは、さっきの......っ!」
 さくらの声に応じる余裕はない。
 そらの細い指先から鮮やかな光とふわりと吹き抜ける突風――ルミナスが奔流となってバトンに流れ込む。
 直後、主の意思に呼応して、バトンの柄がシャキンッと二メートルを超える長さにスライド伸長した。
 足元には、ギュイーンという音と共に回転するエメラルドグリーンの魔法陣が現れ、水色の髪と黒いプリーツスカートが重力を無視してふわふわとたなびく。
 そらの左目の奥から、固有のルーン文字『ᛁイサ』が鮮やかにはっきりと浮かび上がった。
 そしてエメラルドグリーンに輝くそらの左目には、さっきまでの気弱さなどは微塵もない。
 カシャッという音を立ててワンド先端が分離し、宙に浮くパーツがガシャンガシャンと、素早く自律ドローンへと変形した。
 電子音のような起動音と共に、四つの小さなスラスターを露出して、そらの周囲を回り始めた。
 ドローンの抜けたワンドの先端から、光り輝く刀身が伸長し、優美なナギナタ形態へと変貌を遂げた。
 圧倒的な『ステラ』としての輝きを前に、さくらは恐怖も忘れ、その背中に目を奪われていた。
 そらの周囲を回っていた自律ドローンが天に向かって舞い、まるで空高く自由に風に乗る鷹のように回り始めた。
 そして、そらの足元で魔法陣が爆発的な輝きを放つ。
 まるで重力をあざ笑うかのように、そらの身体がふわっと宙へ舞い上がった。
「――え!? 空を、飛んでる......」
 感嘆の声を上げ、地上からその軌跡を見上げるさくら。
 だが、上空で軽やかに躍動するそらの姿を追いかけた瞬間――さくらの思考が、戦闘とは全く別のベクトルでフリーズした。
 そらの黒いプリーツスカートが、風をはらんでひらりと大きく翻る。
 地上から見上げるそのアングルは、女の子として、色々な意味で絶体絶命を意味していた。

「えっ、ちょっ、ひゃああっ! み、見え――っ!?」

 さくらはカッと顔を真っ赤にし、慌てて両手で目を覆おうとした。
 しかし、指の隙間から見えたのは、そらの白いサイハイソックスに包まれた白い太もも、もとい『絶対領域』をきゅっと引き締める、漆黒のインナースパッツだった。
「あ、あれは......技術科開発の戦闘用インナー!」
 空中を跳ぶステラに着用が義務づけられている透け防止のアンダーウェア。
 知識としては知っていたものの、あまりにも健康的で機能美あふれる光景を間近で目撃してしまい、さくらの心臓はバクバクと激しく暴れ出す。
「うぅ、よかった......って、私何を考えてるのっ! 今はそれどころじゃないでしょっ!」
 ひとりで赤面しながらブンブンと首を振るさくら。
 そんな地上の新入生の葛藤など露知らず、そらは冷徹なまでに冷静な瞳でスクラップと向き合っていた。

 校舎の三階ほどの高さまで浮遊し、ナギナタを脇構えにセットするそら。
 自律ドローンが巧みに獲物をおびき寄せ、誘導していく。
(あの子......なんで、そんなに迷いのない目で戦えるの......!?)
 真剣な表情で空を舞うそら。
 けれどさくらは、彼女のこころの中にある『小さな声』を敏感に察知していた。
(......あの子、怖がってる......? すごく怖いのに、私を守るために戦ってくれている......!)
 さくらを助けたい一心で恐怖を抑え込んでいるそらの気持ちが、なぜか胸に直接伝わってくる。
 そらが一機を追い詰め、下段脇構えの体制をとった、その時。
 完全にそらの死角となる上空から、もう一機のスクラップが音もなく肉薄してきた。
「......後ろっ! 危ない!!」
 さくらが大声で叫ぶも、絶望的に間に合わない。
 鋭い鋼鉄の爪が、そらの華奢な背中に届く寸前――

――ドドドドドドッ!!

 鼓膜をブチ破るほどの爆音が大気を震わせ、急降下していたスクラップが炸裂し、消し飛んだ。
 その爆音は、絶望を力ずくで打ち砕く『銃声』だった――
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第1話 桜舞う翠嶺漣女学院――日常は、サイレンと共に崩壊する
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絆光のステラ――抱きしめた温もりは、私たちがここにいた証だから。作者:中原はじめ
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第2話 空を舞うバトン――忍び寄る屍

 なおもサイレンの鳴り響く校内。
 周りの新入生はパニック状態で必死にシェルターへ向かう。
「あれが、スクラップ......!?」
 気づけば周囲の生徒は一人もおらず、さくらは底知れぬ恐怖で足がすくみ、地べたにへたり込んだまま動けなくなっていた。
 視界の隅で、巨大な虫のように黒く、不気味な金属音を立てて滑空する影が旋回する。
――廃翼型はいよくがたスクラップ、通称『ジャンクウィング』観測用ドローンタイプ。
 かつて戦場を静かに見下ろしていたであろうその機体は、今や人間の頭部ほどもある歪な鉄塊へと成り果てていた。
 左右に突き出た四つの極小チタンスラスターが、狂ったように青白い高圧ガスを吹き出し、大気をキリキリと焦がす。
 その中心には、かつて軍用規格の高性能カメラだった三連の光学レンズが、さくらの動きに合わせてジジジと機械的に焦点を絞り、獲物を定め、禍々しい赤色にギラリと発光した。

「――キ、ギ、ギギギッ......!」

 人間の勝手な都合で捨て置かれた兵器の、怨嗟に満ちた駆動音。
 千切れた油圧ホースから滴るドス黒い廃油が、足元の美しい桜の花びらを汚していく。
 鼻をつく廃油の臭いと、スラスターが放つ青白い熱風が、さくらの前髪を激しく揺らした。
 さくらの華奢な胸元を、一撃で容易く削り取るに十分な『牙を持った質量』が、目の前で静かに起動していた。
 入学したばかりで『カタリスト』を支給されていない、無力な少女。
 ルミナスを宿してはいても、対抗する武器を持たないさくらには、迫る異形から抗う術など何もなかった。
(わたし......え、やだ――)
 死を覚悟し、必死に目を瞑った――その時だった。

「――させないっ!!」

 どこからか凛とした叫びが聞こえ、桜色の視界を割って、鮮やかな水色の光が飛び込んできた。
 驚いて目を開けたさくらの目の前に立ちはだかったのは――さっき校門前で怯えていた、水色の髪と瞳の少女。
 彼女こそが、のちにさくらの運命の相棒となる澄水川すみかわそらだった。
 そらはブラウンのサッチェルバッグから、まるでチタン製シリンダータクティカル・バトンを思わせる、鋭い銀色の円筒形ワンドを抜き放つ。
「あ、あなたは、さっきの......っ!」
 さくらの声に応じる余裕はない。
 そらの細い指先から鮮やかな光とふわりと吹き抜ける突風――ルミナスが奔流となってバトンに流れ込む。
 直後、主の意思に呼応して、バトンの柄がシャキンッと二メートルを超える長さにスライド伸長した。
 足元には、ギュイーンという音と共に回転するエメラルドグリーンの魔法陣が現れ、水色の髪と黒いプリーツスカートが重力を無視してふわふわとたなびく。
 そらの左目の奥から、固有のルーン文字『ᛁイサ』が鮮やかにはっきりと浮かび上がった。
 そしてエメラルドグリーンに輝くそらの左目には、さっきまでの気弱さなどは微塵もない。
 カシャッという音を立ててワンド先端が分離し、宙に浮くパーツがガシャンガシャンと、素早く自律ドローンへと変形した。
 電子音のような起動音と共に、四つの小さなスラスターを露出して、そらの周囲を回り始めた。
 ドローンの抜けたワンドの先端から、光り輝く刀身が伸長し、優美なナギナタ形態へと変貌を遂げた。
 圧倒的な『ステラ』としての輝きを前に、さくらは恐怖も忘れ、その背中に目を奪われていた。
 そらの周囲を回っていた自律ドローンが天に向かって舞い、まるで空高く自由に風に乗る鷹のように回り始めた。
 そして、そらの足元で魔法陣が爆発的な輝きを放つ。
 まるで重力をあざ笑うかのように、そらの身体がふわっと宙へ舞い上がった。
「――え!? 空を、飛んでる......」
 感嘆の声を上げ、地上からその軌跡を見上げるさくら。
 だが、上空で軽やかに躍動するそらの姿を追いかけた瞬間――さくらの思考が、戦闘とは全く別のベクトルでフリーズした。
 そらの黒いプリーツスカートが、風をはらんでひらりと大きく翻る。
 地上から見上げるそのアングルは、女の子として、色々な意味で絶体絶命を意味していた。

「えっ、ちょっ、ひゃああっ! み、見え――っ!?」

 さくらはカッと顔を真っ赤にし、慌てて両手で目を覆おうとした。
 しかし、指の隙間から見えたのは、そらの白いサイハイソックスに包まれた白い太もも、もとい『絶対領域』をきゅっと引き締める、漆黒のインナースパッツだった。
「あ、あれは......技術科開発の戦闘用インナー!」
 空中を跳ぶステラに着用が義務づけられている透け防止のアンダーウェア。
 知識としては知っていたものの、あまりにも健康的で機能美あふれる光景を間近で目撃してしまい、さくらの心臓はバクバクと激しく暴れ出す。
「うぅ、よかった......って、私何を考えてるのっ! 今はそれどころじゃないでしょっ!」
 ひとりで赤面しながらブンブンと首を振るさくら。
 そんな地上の新入生の葛藤など露知らず、そらは冷徹なまでに冷静な瞳でスクラップと向き合っていた。

 校舎の三階ほどの高さまで浮遊し、ナギナタを脇構えにセットするそら。
 自律ドローンが巧みに獲物をおびき寄せ、誘導していく。
(あの子......なんで、そんなに迷いのない目で戦えるの......!?)
 真剣な表情で空を舞うそら。
 けれどさくらは、彼女のこころの中にある『小さな声』を敏感に察知していた。
(......あの子、怖がってる......? すごく怖いのに、私を守るために戦ってくれている......!)
 さくらを助けたい一心で恐怖を抑え込んでいるそらの気持ちが、なぜか胸に直接伝わってくる。
 そらが一機を追い詰め、下段脇構えの体制をとった、その時。
 完全にそらの死角となる上空から、もう一機のスクラップが音もなく肉薄してきた。
「......後ろっ! 危ない!!」
 さくらが大声で叫ぶも、絶望的に間に合わない。
 鋭い鋼鉄の爪が、そらの華奢な背中に届く寸前――

――ドドドドドドッ!!

 鼓膜をブチ破るほどの爆音が大気を震わせ、急降下していたスクラップが炸裂し、消し飛んだ。
 その爆音は、絶望を力ずくで打ち砕く『銃声』だった――
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