第3話 風と銃声の三重奏(テツェット)――届かない背中
間一髪を逃れ、地上へと降り立ったそら。
そこへ、紺色のブレザーに灰色のスカートを纏った二人の少女が、さくらとそらの元へ駆け寄ってきた。
「相変わらず、技術科の特注ワンドを使いこなしているわね、そら」
「ふう、間一髪だったぜっ! そら一人で立ち向かうなんてどうしちゃったんだい?」
「る、瑠璃ちゃん......それに紅葉ちゃん......っ!」
助けに入ったのは、紺色のロングヘアが印象的なおっとりした少女、深美瑠璃。
そして、ワインレッドのショートヘアを躍動させ、豪快に笑う少女、天蓋紅葉。
二人とも銃器科指定の黒いスクールリュックを背負い、瑠璃は両手にハンドガンを構えつつアサルトライフルを肩に掛け、紅葉は自身の身長ほどもある無骨な軽機関銃をスリングで肩に掛けて腰の位置に構え、にかりと笑った。
「ケガは無いかい? あんた、もしかして新入生さん?」
怯えるさくらを一瞥する紅葉。突然のことで声も出せず、さくらはただコクリと頷くことしかできない。
紅葉はすぐに鋭い視線を上空に向けた。まだ敵の機影は残っている。
「ねえそら? 後ろ、ガラ空きだったよ。あのままじゃ死んでたかもよ?」
「えっと......ごめん......」
「ほらそら、しょげんじゃないよっ! ウチらが道を作るから、一発ぶちかましな!」
「ふえっ!? えっ、う、うん......っ!!」
そらはコクリと頷くと、再び足下に魔法陣を展開し、ふわっと宙へ舞い上がった。
「そら! 頭上から一機来るわよ!」
瑠璃の鋭い警告。
彼女がハンドガンを構えると、銃口にイエローの魔法陣がふわりと現れた。
瑠璃の右目が怪しくイエローに輝き、ルーン文字『ᚲ』が浮かび上がる。
引き金を引くのと合わせて魔法陣がギュインと回転し、放たれた精密射撃がスクラップの翼を撃ち抜き、その体勢を大きく崩させた。
すかさずそらが、ナギナタを天へと突き出す。
旋回する自律ドローンがホログラムサークルを展開し、瞬時にスクラップの弱点をスキャンした。
「ええぃっ!!」
内気な彼女からは想像もつかない鋭い踏み込み。
自律ドローンによって退路を断たれ、弱点を剥き出しにされたスクラップの装甲へ、そらのナギナタが容赦なく叩きつけられた。
――バキィィン!!
「......やった!!」
激しい衝撃音と共にスクラップの硬質な外殻が砕け散り、その奥のコアが露出する。
「ナイスそら!」
「紅葉、右からさらに二機来るわよ! 三機まとめてここで終わらせましょう!」
「りょーかいっ! 言われなくっても終わらせるよ!」
最高のパスを受け取った紅葉の左目が、鮮やかなオレンジ色に燃え上がり、ルーン文字『ᛋ』が鮮烈に浮かび上がった。
地上を爆発的なスピードで疾走する紅葉は、跳躍のたびに校舎の二階ほど、およそ五メートルもの大ジャンプを繰り返す。
軽機関銃の先端に現れたオレンジ色の魔法陣を高速回転させながら、圧倒的なフルオート連射をドドドドッと、剥き出しになったスクラップのコアへ、空中から至近距離で叩き込んだ。
「そら! そろそろ『魔力同調射撃』いくぜ! まだルミナスは平気かい?」
「う、うん! 紅葉ちゃん、まだいけるよ!」
――魔法科と銃器科の連携システム『魔力同調射撃』。
魔法科がワンドの先端に高密度の『輝晶』を形成して振り放ち、そこへ銃器科が寸分の狂いもなく射撃を重ねる合体技。
一ミリのズレも許されず、お互いを百パーセント信頼し合っていなければ成立しない、最強の連携攻撃だ。
そらはナギナタを構え直し、静かに目を閉じて精神を集中させる。
すると先端に、サッカーボールほどの大きさの、バチバチと放電する白く眩い光の球――『シード』が形成された。
「そら! 思いっきり放ってくれよ!!」
準備の整ったそらは目をバチッと開き、ナギナタを持つ手をさらにグッと強く握る。
「紅葉ちゃん、瑠璃ちゃん、お願い! いっけぇーー!!」
そらは大きな掛け声と共にナギナタを思いっきり振り抜くと、シードが弾丸のようにスクラップ群へ弾き飛んだ。
「瑠璃、いくぞ!」
「ええ紅葉、失敗したら許さないわよ!」
二つの銃口に現れたイエローとオレンジの魔法陣が、猛烈な速度で火花を散らして高速回転を始めた。
「よっしゃあーー! オラオラオラァーー!!」
紅葉は軽機関銃を腰溜めに構え、ドドドドドドッと暴力的なフルオート連射の嵐を叩き込む。
それと完全に呼吸を合わせ、瑠璃が背中から鋭く引き抜いたアサルトライフルで、タタタン、タタタン、と寸分の狂いもない精密な三点バーストを刻んだ。
荒れ狂う弾幕と、冷徹な魔弾。
異なる二つの銃声が美しい重奏となり、迫り来るシードへと吸い込まれていった。
――ズドォォォォンッ!!
二人のルミナス光弾とシードが完全に融合し、何倍にも巨大化した光の濁流となって、スクラップ群を一網打尽に呑み込んだ。
眩い真っ白な光が炸裂音と共に、残存するスクラップが一瞬にして、チリとなって消滅していった。
「ふぅ......いっちょあがりっと! ねぇそら? シンクロのタイミング、完璧だったよ!」
「あ......えっと、それは紅葉ちゃんがタイミングを合わせてくれたから......」
「ふふ、二人とも良かったわよ。制服を汚さなくて良かったわね、紅葉」
額の汗を拭いながら笑い合う三人。
さっきまで命がけの戦場にいたとは信じられないほど、彼女たちの空気は平穏だった。
その光景を特等席で見せられていたさくらは、地べたに座り込んだまま、ただ呆然と見上げるしかなかった。
(すごい......これが、スイレイのステラ......)
二十倍の倍率を勝ち抜いて、自分もステラの端くれになったつもりでいた。
けれど、目の前のステラたちは、自分とは生きている次元がまるで違った。
ただ恐怖で震えることしかできなかった自分。
(私、本当に......この学校でやっていけるのかな......)
救われた安堵よりも、胸を締め付けるような劣等感と不安。
鳴り止んだサイレンの静寂が、今のさくらには酷く冷たく感じられた。
こうして突如訪れた初陣は、鮮烈な幕切れを迎えた。
しかし、さくらの高校生活はまだ始まったばかりで――