㉙ 転入生
3学期の始業式が終わったあと、1年A組の教室に戻ると、みんなが席に着くのを待っていた担任の細川先生がこう言った。
「え~突然ですが、今から転入生を紹介します」
そして前のドアを少し開けると、廊下で待機していた生徒に声をかけた。
「入りなさい」
セーラー服の生徒が、少し俯きかげんで入ってくると、先生は彼女に促した。
「では、自己紹介をどうぞ」
その生徒は、まず後ろ向きで氏名を黒板に書いた。そして振り返ってから、両手でスカートの左右のプリーツを少し摘み上げて、左足を後ろへ出し、右足の膝を少し曲げて、よく澄んだキレイな声でこう言った。
「みなさん、はじめまして。わたしの名前は加藤雪子といいます。父の仕事の都合で、先日アメリカから帰国したばかりです。日本は小学校以来なので、わからないことが多いです。色々教えて下さると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします」
ずいぶんと芝居がかった挨拶だった。
ボクは、ストローで飲みかけていたパックのイチゴ牛乳を、吹き出した。
猫撫で声で話すその少女は、"雪子さん"だったのだ。
「ああ、ちょうど真田の隣の席が空いてるな。加藤君は、そこに座りなさい」
と、何も知らない先生は、何でもないように言った。
雪子さんは、おもむろにボクの隣にやって来ると、席に着く前にこう言った。
「このクラスには、加藤さんが私の他にも二人いると、先ほど、先生から伺いました。ですから皆さん、私の事は、ファーストネームで雪子と呼んでください」
クラス一堂を見まわして、満足気にニッコリ微笑むと、そのまま雪子さんは、ボクの隣に座ったのだった。