㉞ 京子と雪村
「コレでめでたく、私も雪村君の守護役として、二代目を襲名できた訳だから......」
物陰からボクを引っ張り出しながら、村田さんは言った。
「......雪子さんと同じように、私の事をこれからは、"京子さん"って呼んでもらおうかな」
少しワルイ笑顔で、彼女はそう言った。
「京子......さん?」
「もう一度」
「京子さん」
「もっと」
「京子さん、ありがとう!」
「うん。よくできました」
彼女は、満足そうな笑顔を見せた。
「ところで、京子さん」
二人で門に向かって歩きながら、ボクは訊いた。
「なにかな、雪村クン」
ナニゲにボクの事を、真田君というのをやめたらしい。
「いったい、どうして、この場所、この時間が解ったのかな?」
ボクは、当然の疑問を投げかけてみた。
まあ、どうせ、チートな返答がかえってくるのだろうけど......。
「それは、まあ......一種のイヤな予感かなあ」
「そんな漠然としたものなの!?」
「ほら、私たち、中学校では一度も同じクラスにならなかったじゃない?」
「うん」
「それで毎日、今ごろ雪村君は、どうしてるのかなあって、考えるようになって......」
「うん、うん」
「......気がついたら、雪村君が、どこで何してるか解るようになっちゃった」
「え~。ちょっと怖いなあ」
「でね、ある日、いつものように感じた場所に行ってみたの」
「ほう、ほう」
「そしたらそこに、あの雪子って人が、一緒に居たって訳」
「それは、いつの話かな?」
「ついこの間よ。3学期の始業式の日の下校時間。我が愛知県立朝日ヶ丘高校の美術科とは、日程がずれていたから可能だったの」
「で、雪村君と途中で別れたところで、彼女に近づいて問い詰めたのよ」
「なんて?」
「アナタは、雪村の何なのって」
「そしたらね......すごく正直に答えてくれたの」
「何を?」
「何もかもよ!」
「彼女が、別の並行世界からやって来た、雪村君の姉にあたる人物で、この時間軸では、雪村君に降りかかる災いから、その身を守ってるんだって」
そんな荒唐無稽なヤヤコシイ話を、一発で理解できた京子さんは、やっぱりすごいや。
こりゃ、敵わないな。ボクはそう思った。
それ以外の事も、自転車を片手に駅に向かって歩きながら、二人で色々と話した。
いつの間にか、空が白み始めていた。
氷雪系のチカラは、ボクに出会う前からあったらしい。
ヤバ過ぎて、ボクには秘密にしていたんだそうな。当然だよね。
そのチカラを初めて自覚したのは、幼稚園の頃だったという。
悲しくて自分の部屋で泣いていたら、目の前のグラスのジュースが、凍りついたらしい。
成長するに従って、だんだんチカラも増大していき、細かいコントロールも可能になったんだそうだ。
それから、今日の深夜徘徊は、「友だちのウチにお泊り」ってことにしてあるとも言っていたな。
まだ春休み中で良かったよ。ホントに。
二人で歩くうちに、地下鉄荒羽田駅に到着した。
今日のところは、ひとまずここで、京子さんとはお別れだ。
朝日はすっかり明るくなり、間もなく地下鉄の始発もやって来るころだ。
ふと昔、酒井さんを、駅まで送ったことを思い出した。
さしずめ、今日のナイトは京子さんだったな。
ボクは、一人で笑ってしまった。
この日を境に、彼女とボクの絆が、さらに深まっていったのは、今さら言うまでもない事である。