ep.391 搾取の星系、静まり返る「22時」の境界線
星系全体が、異様な静寂に包まれていた。20時の「日没」を告げる鐘が鳴り響いてから2時間。地上の砂浜では芋ネギ教の信者たちが泥のように眠り、湿地帯では超新人が「あと少しで屋根が...」とうわ言を漏らしながら泥の中に沈んでいる。
そして、22時。日付変更を知らせるサイレンが星系に響き渡ると同時に、全区画の作業用ライトが一斉に消灯した。
「...さらっと。22時を過ぎました。これ以降の屋外活動、および無許可の火気使用は禁止されます。皆様、速やかにそれぞれの『地獄(社宅)』へお戻りください」
アリシアの冷徹な声が、星系全域のスピーカーから流れる。雪の島、地下100mの監視室。咲姫はふかふかのソファに深々と腰掛け、壁一面のモニターを眺めていた。
「にゃうにゃあ!見るのです、アリシア!泥にまみれた超新人に、浸水した部屋でバケツを持つ猫二!これぞ私の描いた究極の箱庭(スタジオ)なのですー!!」
「咲姫様、少し悪趣味が過ぎます。...わんわん、教祖様に新しい紅茶を。地下150mから届いた『地熱熟成茶』です」アリシアの指示に、執事のわんわんが音もなく近づき、黄金色に輝くカップを差し出す。
「ワン!かしこまりましたワン。うさちぁん様と果林様から、初出荷の挨拶として届いた逸品だワン。一杯で銀貨1枚(1,000NkQ)の価値がある最高級品だワン」
「あはは、高い紅茶だねぇ。でも、私たちの給料を考えれば実質タダみたいなものよ」メイドのサヤが、窓越しに見える地上の吹雪を見つめる。地下のこの部屋は、まるで別世界の楽園だ。しかし、この楽園を維持しているのは、22時の消灯と共に寒さに震えながら眠りにつく、名もなき労働者(信者)たちと、泥を啜る超新人たちの絶望である。
モニターの中では、水中の「逆さま中華塔」で、騎士が自称嫁たちの「健全な未来予想図」に頭を抱えていた。
「パパぁ、将来の子供たちのために、この塔をあと3階分増築して、逆さまのベビーカーも特注しなきゃです」「そうよ騎士さん、これからの『家族計画』を考えたら、金貨100枚くらいの貯金は最低限必要だってアリシアさんも言ってたよ!だから明日も頑張って稼いできてねっ!」
アリスとサヨが、あまりに健全で明るい「家族の未来」を語れば語るほど、現実の月収500NkQとの乖離が騎士を襲う。二人の純粋な瞳と、それに見合わない「逆重力仕様の育児用品」の請求書(予定)を前に、騎士は暗闇の中で必死に家計簿を計算し続けている。
「...さらっと。星系内の総流通量NkQのうち、98%が上位1%の手に集まっています。予定通りですね」アリシアが手元の端末を操作すると、電子的な肉球のマークが残酷なまでに偏ったグラフを描き出した。
「いいのです!格差こそがドラマを生むのです! 明日の朝6時、日の出と共に、彼らはまた『パン1個(1NkQ)』のために泥を掘り、空を飛び、水に潜る!これが私の『極(Kiwami)』なのですー!!」
咲姫の高笑いが、地下100mの防音室に反響し、地上の雪をかすかに震わせた。 明日もまた、星系に過酷な「肉球の掟」が訪れる。
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咲姫(監視中):豪華な地下司令部で、スタッフの絶望を肴に紅茶を啜る。
アリシア(集計中):22時の消灯をもって、本日の「未払い残業代」をすべて帳消しにする。
わんわん&サヤ:安全圏から地獄を観察する、選ばれた使用人たち。
労働者たち:22時の闇の中、空腹と疲労で泥のように眠る。
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