ep.209 響きの産声
石の門をくぐり、咲姫は一度だけ大きく伸びをして、青空に向かって宣言したのです。
「新しい場所の名前、決めたのです! 『エトスフェリア』にするのです!」
ミナが少し驚いたように、編纂帳を抱えたまま足を止めた。 「エトスフェリア? ......エルシンフォリアと、少し似ているわね」
「そうなのです! みんなが一緒に笑って、みんなが『ここが私のお家なのです!』って言える、とびきり愛おしい場所にするのです。風がそう教えてくれたのです!」
咲姫は天然な自信をにじませて、えっへん、と胸を張った。 リオは呆れたように笑いながらも、その名前の響きを口の中で転がしてみる。 「エトスフェリア......。居場所と、愛、か。咲姫にしては、上出来な直感なんじゃないかな」
リオは記録帳の真っ白なページに、力強くその名を書き込んだ。 これまでの旅は、誰かに用意された場所を巡るものだった。けれど、これからの旅は違う。自分たちの足で歩き、自分たちの手で土を耕し、自分たちの響きで街を築いていくのだ。
「まずは、南に向かうのです! あっちの方から、とってもキラキラした『街の素(もと)』が呼んでいる気がするのです!」
咲姫が指差す先には、見渡す限りの草原が広がっている。 三人の足取りは、かつてないほど軽やかだった。 その背中を追いかけるように、エルシンフォリアの町から、小さな、けれど確かな「響き」が風に乗って流れ出していく。
これから出会う誰かが、その響きを聴きつけて、いつかこの一行に加わることになるのを、咲姫はまだ知らない。