ep.269 ペンギン管理官、初めての「有給休暇」
「テラちゃん、働きすぎなのです! 今日は管理職権限で、強制的に『有給休暇』を付与するのです!」 咲姫の宣言と共に、テラの生命線であるハイミスリル製事務ボードが取り上げられました。 「咲姫様、返してください。休暇などという不確定要素は、私の管理スケジュールにおいて最大のノイズです。今この瞬間も、月面第3区画のアンペリア配管の気圧が0.02パスカル変動している可能性があるのですよ!」 フリッパー(翼)をバタつかせて抵抗するテラでしたが、うさちぁんに「はいはい、難しいことはお酒...じゃなくて温泉に流そうねぇ~」と首根っこを掴まれ、月面に新設された超絶景・宇宙露天風呂へと引きずられていきました。
月面風呂の湯船にプカリと浮きながらも、テラの瞳は死んでいませんでした。 「...この温泉の含有ミネラル比率を考えるに、皮膚の角質除去効率は高いですが、うさちぁん様。なぜ湯船の隣にキンキンに冷えた一升瓶が置いてあるのですか? これは公衆衛生上の...」 「固いこと言いっこなしだよぉ、ペンギンちゃん。ほら、このお酒はね、咲姫ちゃんが『リラックス魔法』を込めて作った特製なんだからぁ♪」
無理やり盃を口に押し込まれた瞬間、テラの論理回路に激震が走りました。 「...っ!? アルコール分子が...私の冷徹な思考プロセスの隙間に...滑り込んで...。計算、不能...。思考の優先順位が...『管理』から...『極楽』へと...書き換えられて...」 テラの頬が、温泉の熱とアルコールで真っ赤に染まります。一方その頃、管理官が不在となった月面拠点では、リオが震えていました。 「テラさんがいない...。怒られない。数字を詰められない。...なんて静かなんだ。でも、テラさんが作った自動清掃精霊たちが、マニュアル通りに完璧に掃除してる。...彼女、僕たちのために、自分が休んでも街が回るように、完璧な仕組みを残してくれてたんだね...」 リオは久しぶりに、胃薬を置いて、月面から見える地球を眺めながらゆっくりと一杯のラーメンを啜りました。
【今回のポイント:管理官の休息】
テラのバグ:初めての「無駄な時間」に戸惑いながらも、本能(温泉と美味しいお酒)に抗えない。
リオの気づき:テラの厳しさは「自分がいなくても街が壊れないための愛」だったことを知る。
咲姫の狙い:テラに「完成されたシステム」を見せることで、彼女に心の余裕を持たせる。