第六話 おもてなしのかたち
「次は何がしたい?」
ワカの言葉に蓮太は足を止める。ひしめく妖怪たちの熱気に包まれる中、目線の端で小さな光が青白く揺れた。
「あれ何?」
「射的だね」
二人は人波をかきわけ、一目散に射的屋に向かって走り出した。
「おやや、こちらが噂のお客様で?」
蓮太が軽く頭を下げると、店主は「楽しんでますか?」と蓮太の頭をなでる。
「そういえば若様、青様と赤様が捜してましたよ」
「あー」
ワカは面倒くさそうに適当な返事をする。
「誰それ?」
「――お、め、つ、け、や、く」
無邪気に質問する蓮太の耳元で、ワカはゆっくり噛みしめるように答えた。
おめつけやくってどういう意味だっけ?
そんな蓮太の思考も、店主が差し出してきた銃を目の前にしてすぐに消えてなくなる。
「どうぞ。やり方は......若様がようくわかってますよね?」
「まかせて!」
ワカは威勢よく胸をたたいた。どうやら、今までに何度もこの店に足を運んでいるらしい。
大きな銃にコルクの玉を詰める。そこまでは人間の世界の射的と変わらなかった。けれど、的がおかしい。
それはガスコンロの火みたいに青白い色をした人魂だった。ぷかぷかたくさんの人魂が空気の流れに身を任せて店中を漂っている。
「制限時間内にどれだけたくさんの的に当てられるかの勝負だよ」
ワカは店の奥を指さす。
「二十回以上で一番いい景品をもらえるんだ」
どんな素敵な景品なんだろうと見てみれば――。
「み、蓑?」
人型のマネキンが羽織っているのは、どう見ても昔話に出てくるやつだ。
「そうだよ。ただし、着ると透明になる蓑なんだ」
なんだそれ、めちゃくちゃほしい! 蓮太はがぜんやる気になった。
「この砂時計の砂が全部落ちきるまでですよ」
店主はそう言うと、次に蓮太に銃とコルクの入った木箱を差し出した。
蓮太はそれらを受け取ると、いつでもスタートできるように銃を構える。砂時計がコトリと音を立てた。
これまでにも射的をやったことはあるが、動く的を狙うのは初めてだ。思った以上に狙いが定まらない。時間制限に気を取られ、蓮太は適当に引き金を引いてしまった。
何もない宙をコルクが通り抜けていくと思った時だった。ものすごい速さで人魂が自らコルクに突進したのだ。「あ~れ~」と言いながらゆらゆらと蓮太の元へ飛んでくる。
蓮太は目を丸くした。時間が惜しいのでとりあえず次の一撃を繰り出す。今度は二体の人魂がコルクに向かって飛び出してきた。
次も、そのまた次も、人魂たちは我先にと蓮太の発射したコルクへ体当たりしてくる。わけがわからないまま終了の時間を迎えることになった蓮太は、なんともいえない表情だ。
店主が店の奥のマネキンから蓑を脱がせ蓮太に渡した。
「三十二回。おめでとうございます」
差し出された景品を目の前に、蓮太は困惑の表情でそれを見つめた。
「さっきのが、あいつらなりのおもてなしなんでしょう。どうぞ貰ってやってください」
「もちろん、やり直してくれてもいいですよ」店主は一つ目を優しく細めて言ったのだった。
「一回だけ貸して!」
懇願するワカに蓮太は快く蓑を渡した。ワカは意気揚々とそれを羽織ったが......なんと、透明になったのは蓑で隠れた胴体だけで、生首がぽっかり宙に浮いているような有様になっていた。
「なんだよこれ!」
必死で笑いをこらえている蓮太と蓑を見くらべ、ワカは頬をふくらませた。