第21話 両親
碁羅さんからの説明を聞き終わり、家路につく頃には雲に隠れた日も傾き始めていた。それでも辺りに人々の気配はなく、まだまだ暖かい風だけが我が物顔で町を席巻している。
「なかなか興味深い話だったわね。特に伝説では被害者が10人以上いるって言うのは面白かったわ。もし犯人が正確に伝説を再現しようとしているならまだまだ事件は続くってことだものね」
「物騒なことを面白いとか言うなよ」
「ごめんなさい。でも、警察もそう思っているんでしょうね」
紅魅はチラリと横に目だけを向けた。そこにはパリッとしたスーツに身を包んだ男性が2人おり、近所に住んでいる後藤さんに何かを聞いているようであった。
「警戒度が上がってるってヒシヒシ感じるわ。これ以上の事件はメンツが許さないってところかしらね」
「メンツなんかじゃなくもっと儒教的思いやりから動いていると信じてやれよ」
「それもそうね」
その言葉には特に感情も載せていない。
「けど、結局のところ犯人に繋がる情報は皆無と言っていいわね。強いていうなら斗鬼和花から産まれた人間が犯人だとすればって下りのところかしら」
「確かにそうだがいくら何でも現実的じゃないだろ」
軽く言えたように聞こえただろうか?そうであって欲しいものだ。
「まぁね。死人が生き返るってのはいくら何でも非現実的だわ。でもそれにロマンがあるって言うのも真理よね。不老不死と死者の蘇りは人類が太古の昔から願ってきた悲願、斗鬼和花が本当にあるとすればその両方が実質叶うんだもの」
「バカバカしい。碁羅さんの情熱には敬意を表したいけれどいくら何でもな」
「普通を覆すのが楽しいってのもとっても共感できるわ。それに、江川さんも斗鬼和花を本気で信じているからこそ碁羅さんを全面的にバックアップしているんでしょう」
肺に溜まっていた空気を吐き出して軽く伸びをする。筋肉が多少緩んで脳に送られる血液が増えたようだ。
「江川さんは信じているってより、信じたいって立場だろ」
「公子さんの為に?」
「そうだ」
「......」
紅魅は小悪魔のように嗤った。
「なんだよ」
「いえ、男子高校生のくせに随分とお利口さんなことを言うんだなって思っただけよ」
「中二心を捨てられないガキと一緒にしないでくれるか?」
「そうね、貴方はあたし達よりずっと大人な暁人だものね。
でも、そんな何でもかんでも分かっているって言い方はあまり良くないわよ」
「はぁ?」
雲間から覗いた紅い陽光が紅魅を刺した。
「さて、失踪者の件に話を戻しましょうか。碁羅さんが今のところ調べた失踪者は6人、うち2人は約40年前の失踪者で恋人同士だったらしいわね。予断は禁物だけど、碁羅さんいわくお堅い家の娘さんと貧しい家の男だったらしいから、大方駆け落ちかなんかでしょう。そんなロマンチックな話がこんなド田舎でも起こっていたなんて驚きね。感極まるわ」
何も響いていないようにしか見えないが。
「それより注目すべきは残りの4人でしょうね。ちなみにそのうち2人についてあたしは詳しいから何でも聞いてちょうだい」
「何で詳しいんだ。個人情報だからって名前も教えてもらってないのに」
「ちょっと、そういうボケはいらないわよ。あんたも知っているでしょう」
紅魅は少しバカにしたように口元に指を当てた。
「あたしの両親は絶賛蒸発中、どこにいるのか、生きているのか死んでいるのかさえも分からないんだってことを」