第10話 15年前の矛盾の指切
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15年前。
この頃は二つの宗派の溝と言うものは存在しなかった。
閉じ込めるのではなく、外に出して、然るべき形で消化しようとする。解放派。
異形も扉も、すべて閉じ込めることを正義とした。封印派。
まだ解放派と封印派が対立していなかった時の頃。
解放派の1人、来縁がジョウを見つけたのは、
同じ解放派の莢が世界の扉の鍵になってから間もなくのこと。
小さな子供......幼い頃のジョウがそこに居た。
まだ何が起きたのか理解できていない顔で、
ただぽつんとそこに立っていた。
莢の面影が、その顔のあちこちに宿っていた。
来縁は、その場で長い時間動けなかった。
「......莢」
思わず、その名前が口をついて出た。
ジョウが顔を上げた。
くりくりとした目が、来縁を真っ直ぐに見上げた。
「おにいちゃん、だあれ?」
来縁は、思わず笑ってしまった。こんな時に笑える自分を、どこか他人事のように眺めていた。
「来縁。ただの、お前の母さんの知り合いだよ」
「おかあさん、しってるの?」
「うん。よく知ってる」
ジョウは少しの間、来縁を観察するように見つめてから、
不意に手を伸ばしてきた。来縁の人差し指を、小さな手でぎゅっと掴む。
「じゃあ、いっしょにいて」
来縁は、その小さな手の温度を感じながら、深く息を吐き出した。
守ろうと思った。それは、紛れもない本物だった。
この子を、莢の子を、世界の理不尽から守り抜く――。
それだけを、来縁は望んでいた。
しかし同時に、来縁の頭の中では、もう一つの思考が静かに動き始めていた。
扉は、完全には封じられていない。封印派の術をもってしても、足りなかったのだ。
いつか、世界の均衡は再び崩れる。その時に何が必要になるか――来縁は、もう知っていた。
「......ごめんな、莢」
来縁は、誰にも聞こえない声で呟いた。
ジョウは来縁の指を握ったまま、不思議そうに顔を上げた。
「なんていったの?」
「なんでもないよ」
来縁はジョウの手を握り返し、歩き出した。
この小さな命を守ることと、いつかこの小さな命に選択を迫ることが、
同時に自分の中に存在している。
来縁は飄々とした笑顔の下に、静かに仕舞い込んだ。
その矛盾は封印派の......1人。宝璽と同じだと来縁は気づいていた。
抱え込む理由は違えど、誰かに重さを分けることができないという点において
来縁も宝璽も、結局は同じ人間だった。