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ep128 会議の始まり

 蒼は美苑に腕を取られて、整えられた日本庭園の横を通過して玄関へと向かい、天音もそれに続いた。

「なんとなく、蒼がいる気がしたの! 私の勘すごいでしょ」
「そうだな、歩きづらいから離れて欲しいんだけど」
「そうしたら、逃げるでしょ?」

 茶髪がかったツインテールが歩く動きに合わせて揺れる。それを見ながら、蒼はため息をつきたい気分だ。
 ただ、偶然誘拐現場に遭遇したから、寝覚めが悪くて助けた。その時の立ち回りで、美苑に惚れられたらしい。興味もなかったため、しばらくは無視していたのだが、何度も会いに来て求婚されたときは、流石に面倒になり自分が女だと話した。

 それで終わると思っていた。
 だが、そうは問屋が卸さないというように、以降も美苑は定期的に蒼に突撃してくる。
 それどころか、どうにかして蒼を男にできないかと無理難題を押しつけてきたのだ。数少ない蒼の苦手な人間に美苑は分類されている。

 それでも年下をそこまで邪険にする趣味もないため、基本はやりたいようにはやらせている。
 このお嬢様は、組長や組員にそれはそれは目に入れても痛くないレベルで甘やかされている。下手に厳しくすると、この人はみんなと違うとさらに面倒な方向に行きそうで、蒼もつい控えめな対応を取るしかない。

 玄関で靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替える。それが終わると一瞬離れてくれた美苑がまた腕に抱きついてきた。

「美苑、今日は俺、オヤジさんに用があってきてるからさ」
「おじいちゃんに? うーん、それなら仕方がない!」

 美苑は少し不服そうに蒼から離れると、後ろを少し離れて歩く天音を見る。

「天音ちゃん、さっきパパが探してたから、後で行ってあげてね!」
「マジですか、オヤジとの話が終わったらいくって、伝えてもらってもいいですか」
「いいよー」

 美苑は元気に蒼達に手を振ると、近くの階段を駆け上がっていった。
 蒼と天音は同時に息を吐く。

「オヤジにはすでに連絡入れて、幹部会議の準備をしてる。......ほんとに入るのか?」
「行くよ、そのために来たんだし」
「......だよ、な」

 天音は少し残念そうに息を吐く。そして、先程までは美苑がいたため、後ろに控えていたが、長い足で蒼を追い越して先導する。

「ったく、ガキを巻き込む案件じゃねぇと思うんだよ」

 頭をガシガシと掻きむしりながら天音は不服そうだ。蒼を一般枠に入れようとする天音の珍しさに、バレないように笑ってから蒼も天音を追いかけた。

 屋敷の奥まった場所にある、襖を天音は無造作に開けた。中には既に幹部クラスが10人程が1人の年配の男性の前に並んでいる。扉が開いた音で一斉に襖の方を向いた。
 訓練されているなと蒼は天音の後ろで笑いを噛み殺した。
 入口でスリッパを脱いで畳に上がる天音に倣って蒼もスリッパを脱ぐ。

「戻ったか、天音」
「すみません、オヤジ。遅くなりました」

 天音は襖を閉めながら年配の男性――神庭道徳を見た。
 白髪の道徳は天音の後ろを平然とついて歩く蒼を見ていた。
 目が合ったので蒼は、ニカッと道徳に笑いかける。

 天音が道徳と向かい合っている他の幹部との中間地点に横向きで座る。蒼はなんとなく、天音の少し後ろに座った。

「じゃぁ、詳しい説明をしてもらおうかな、天音」
「はい」

 道徳は胡座を組んだ姿勢で膝に肘を乗せて、頬杖をつくと、天音の方をチラリと横目で見た。白髪混じりで一見弱々しく見えるが、眼力は鋭く、神庭会をまとめ上げる組長としてまだまだ衰えを感じさせない。

 天音も胡座を組みながら、道徳、そして幹部の順番に1人1人の顔を見てから、先程判明した話を掻い摘まみながらも必要な場所は詳しく説明していく。
 要領を得た話し方に、蒼は自分が口を挟む必要はないなと、のんびりと周りを見回す。

 知っている内容をいちいち聞く必要はない。必要になったらちゃんと話を聞こうと天音の声をBGMとすることを早々に決めた。

 神庭会とはそこそこ付き合いがあるが、幹部会議に紛れ込んだのは初めてだ。何人か顔見知りの組員もいれば、初顔もいる。
 男女や年齢も関係ないここにいる10人は全員能力者なんだよなとしみじみ思う。

 能力者は少数派だ。そして、一般人に秘匿されている。それでも数々の独自コミュニティを形成している。島の人口から見れば少数派だ。それでも能力者の数は決して、少ないわけじゃない。
 今日だけで、駿河家、"サーカス"、そして神庭会と能力者の集団を見てきて改めて蒼は思う。
 これだけいるのに、存在が知られていない。そのアンバランスさが蒼には不思議で仕方がない。

「......わかった。確かにその計画が実行されたら厄介だな。隼斗はやとの奴はこの事実を知らなかったのか?」

 道徳が探るように天音を見た。天音が口を開こうとした瞬間にドタバタと騒がしい足音とともに襖が開く。

「それは少し、言い訳させて欲しいっすね」

 アロハシャツにサングラスをつけた"サーカス"の内通者――磯村隼斗いそむらはやとは少し息を切らしながら部屋の中に入ってきた。
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ぱんどら ―治外法権の島で巻き起こる異能サスペンスと秘された謎―作者:星川宙
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ep128 会議の始まり

 蒼は美苑に腕を取られて、整えられた日本庭園の横を通過して玄関へと向かい、天音もそれに続いた。

「なんとなく、蒼がいる気がしたの! 私の勘すごいでしょ」
「そうだな、歩きづらいから離れて欲しいんだけど」
「そうしたら、逃げるでしょ?」

 茶髪がかったツインテールが歩く動きに合わせて揺れる。それを見ながら、蒼はため息をつきたい気分だ。
 ただ、偶然誘拐現場に遭遇したから、寝覚めが悪くて助けた。その時の立ち回りで、美苑に惚れられたらしい。興味もなかったため、しばらくは無視していたのだが、何度も会いに来て求婚されたときは、流石に面倒になり自分が女だと話した。

 それで終わると思っていた。
 だが、そうは問屋が卸さないというように、以降も美苑は定期的に蒼に突撃してくる。
 それどころか、どうにかして蒼を男にできないかと無理難題を押しつけてきたのだ。数少ない蒼の苦手な人間に美苑は分類されている。

 それでも年下をそこまで邪険にする趣味もないため、基本はやりたいようにはやらせている。
 このお嬢様は、組長や組員にそれはそれは目に入れても痛くないレベルで甘やかされている。下手に厳しくすると、この人はみんなと違うとさらに面倒な方向に行きそうで、蒼もつい控えめな対応を取るしかない。

 玄関で靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替える。それが終わると一瞬離れてくれた美苑がまた腕に抱きついてきた。

「美苑、今日は俺、オヤジさんに用があってきてるからさ」
「おじいちゃんに? うーん、それなら仕方がない!」

 美苑は少し不服そうに蒼から離れると、後ろを少し離れて歩く天音を見る。

「天音ちゃん、さっきパパが探してたから、後で行ってあげてね!」
「マジですか、オヤジとの話が終わったらいくって、伝えてもらってもいいですか」
「いいよー」

 美苑は元気に蒼達に手を振ると、近くの階段を駆け上がっていった。
 蒼と天音は同時に息を吐く。

「オヤジにはすでに連絡入れて、幹部会議の準備をしてる。......ほんとに入るのか?」
「行くよ、そのために来たんだし」
「......だよ、な」

 天音は少し残念そうに息を吐く。そして、先程までは美苑がいたため、後ろに控えていたが、長い足で蒼を追い越して先導する。

「ったく、ガキを巻き込む案件じゃねぇと思うんだよ」

 頭をガシガシと掻きむしりながら天音は不服そうだ。蒼を一般枠に入れようとする天音の珍しさに、バレないように笑ってから蒼も天音を追いかけた。

 屋敷の奥まった場所にある、襖を天音は無造作に開けた。中には既に幹部クラスが10人程が1人の年配の男性の前に並んでいる。扉が開いた音で一斉に襖の方を向いた。
 訓練されているなと蒼は天音の後ろで笑いを噛み殺した。
 入口でスリッパを脱いで畳に上がる天音に倣って蒼もスリッパを脱ぐ。

「戻ったか、天音」
「すみません、オヤジ。遅くなりました」

 天音は襖を閉めながら年配の男性――神庭道徳を見た。
 白髪の道徳は天音の後ろを平然とついて歩く蒼を見ていた。
 目が合ったので蒼は、ニカッと道徳に笑いかける。

 天音が道徳と向かい合っている他の幹部との中間地点に横向きで座る。蒼はなんとなく、天音の少し後ろに座った。

「じゃぁ、詳しい説明をしてもらおうかな、天音」
「はい」

 道徳は胡座を組んだ姿勢で膝に肘を乗せて、頬杖をつくと、天音の方をチラリと横目で見た。白髪混じりで一見弱々しく見えるが、眼力は鋭く、神庭会をまとめ上げる組長としてまだまだ衰えを感じさせない。

 天音も胡座を組みながら、道徳、そして幹部の順番に1人1人の顔を見てから、先程判明した話を掻い摘まみながらも必要な場所は詳しく説明していく。
 要領を得た話し方に、蒼は自分が口を挟む必要はないなと、のんびりと周りを見回す。

 知っている内容をいちいち聞く必要はない。必要になったらちゃんと話を聞こうと天音の声をBGMとすることを早々に決めた。

 神庭会とはそこそこ付き合いがあるが、幹部会議に紛れ込んだのは初めてだ。何人か顔見知りの組員もいれば、初顔もいる。
 男女や年齢も関係ないここにいる10人は全員能力者なんだよなとしみじみ思う。

 能力者は少数派だ。そして、一般人に秘匿されている。それでも数々の独自コミュニティを形成している。島の人口から見れば少数派だ。それでも能力者の数は決して、少ないわけじゃない。
 今日だけで、駿河家、"サーカス"、そして神庭会と能力者の集団を見てきて改めて蒼は思う。
 これだけいるのに、存在が知られていない。そのアンバランスさが蒼には不思議で仕方がない。

「......わかった。確かにその計画が実行されたら厄介だな。隼斗はやとの奴はこの事実を知らなかったのか?」

 道徳が探るように天音を見た。天音が口を開こうとした瞬間にドタバタと騒がしい足音とともに襖が開く。

「それは少し、言い訳させて欲しいっすね」

 アロハシャツにサングラスをつけた"サーカス"の内通者――磯村隼斗いそむらはやとは少し息を切らしながら部屋の中に入ってきた。
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ぱんどら ―治外法権の島で巻き起こる異能サスペンスと秘された謎―作者:星川宙
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