ep126 帰路
蓮と別れてからも蒼達は無言で駐車場まで歩いていた。駐車場に着くと、天音が能力を解除する。
そしてお互いに手を離した。
「とりあえず、車で送ってくから、乗れ」
天音は車を解錠しながら蒼達に車へ乗るように指示を出した。
蒼と昴はそれぞれ別のドアから車に乗り込む。
「とりあえず、出発するぞ」
「よろしくー」
天音に蒼は答える。昴はずっとあまりよくない顔色で何かを考えていた。蒼はその様子を盗み見しながらこれからのことを考える。
天音もきっとどうやって報告しようか悩んでいるのか、車内は静寂が支配していた。
どうしたものかなと蒼は思考を巡らす。
ノアズ計画に関しては、現状なにも動けない。きっと、神庭会と協力して動くなら、今計画を立てても時間の無駄だ。
となると、一番最初にやるべきことは、あの三毛猫のカメラのハッキングかとすぐにやれそうなことに当たりをつける。
それと昴に関しては、唯華に直接交渉するかと考えを改めた。ノアズ計画を蒼に仮に投げたのが正解なら、それくらいは融通を利かせてもらってもいいはずだ。きっと、舌戦にはなるだろうなと少しだけわくわくが止まらない。
「天音さん! 俺も屋敷行きたい!」
「はぁー?」
蒼は好奇心からさらなる混沌を生み出すことにした。天音が素っ頓狂な声を上げるが気にしない。
「どうせ、作戦会議するんだろ! 俺も混ぜて」
「いや、部外者は......」
「俺なら、顔パスだって!」
「......」
渋る天音の背中に蒼は笑顔で続ける。
「そもそも、親父さんにはいつでも来ていいって言われてるぞ?」
「......そうだったな。でも、昴クンは?」
「そりゃ、家に届けてからだって! さすがにすーさんを魔窟には放り込めないって」
「おい、ゴラァ。人の居場所を魔窟とはどういうことだ」
ちょうど車が信号で止まったタイミングで、天音が後部座席を見ながら怒鳴り込む。
強面の顔がさらに凄むが蒼は笑顔で返す。
「いやいや、あそこは魔窟だって! 前、普通に廊下歩いてたら刀で斬りかかられたぜ?」
隣でヒッと息を飲む音がした。蒼は横目で昴を見る。明らかに先程とは違う理由で顔が青白くなっている。
やっぱり連れて行けないなと笑う。昴が自由を許されているのなら月陽に頼んでテレポートで駿河家まで運んでもらう。
でも、訳ありの昴にそれをやるのは、美月に自分が責任を持つと言った手前、さすがによくない。
最悪、神庭会組長の家に泊めてもらえばいいかと蒼はチラリと外を見て時間を確認する。
時刻まではわからないが、外は茜色に染まっており、夜になるのも近い。
「はぁ、まあいいわ。とりあえず、拾ったところに行けばいいか?」
「おう! すーさんもそれでいいよな?」
「......構いませんが、私は道を覚えてませんよ?」
「うん、だからちゃんと家まで届けるって! あの道は基本は俺以外は野良猫とゆいしか使ってないから、迷子になったら大変だしな!」
昴はなんとも言えない表情をした。顔色はまだ悪いが、倒れるほどではなさそうなので蒼は気にしないことにした。もう少し昴の状態が悪ければ会話をやめる選択肢も一応蒼は持っていた。
「とりあえず、すーさんは今日は帰ったら早く休みなよ? 明日かそれ以降になるかはわかんないけど、神庭会で決まったのはちゃんと共有するからさ! 場合によってはりっひーとつっきーなら最悪、巻き込んでも大丈夫だから!」
「......はい?」
満面の笑みで語る蒼に昴は固まった。運転席から天音のため息が聞こえる。
「おい、蒼。当たり前のように一般人を巻き込むんじゃねぇ」
「うーん、この二人はゆ......吹雪の仕事を手伝わさせられていることがあるから、完全な一般人じゃないよ。それに、テレポーターとサイコキネシスだよ? 欲しくない?」
「......」
天音は黙る。きっと、脳内で利用するか否かの天秤が揺れているんだろうなと蒼は推測する。
しかし、天音の心配は分かるが理人達もそれなりの修羅場をくぐっている。駿河家の古参はそもそも今の生活を構成するために多少の無茶はしたと以前、理人から聞いたことがある。
駿河家の成立ちはきっと、"サーカス"以上に歪な形だ。唯華が双子のためだけに能力者の居場所を作ったのが始まりで、他の能力者――駿河姉妹、姫、理人、月陽の5人はそれに巻き込まれたと言っても過言ではない。
詳しい経緯までは知らないが大まかな流れは把握している蒼にとって、今回の件に巻き込んでも問題はないと判断していた。
しかし説明するのは面倒だなと蒼は言い出しておきながら思う。
「そいつらが、自分から関わるって言った場合は考えるが、巻き込むのはなしだ。それはうちの流儀に反する」
思考に耽っていた蒼は、天音の声で現実に戻ってくる。そして言われたことを反芻すると頷く。
「だよな! まぁ、能力者の非常事態だと伝えたら手伝ってくれると思う!」
「そりゃそうだろ。選択肢のないお前の得意な話術は使うなよ? あれは断る選択肢を全てたたれるから、本人が選択したことにはならねぇ」
「それも、一つの戦略だと思うんだけどな。まっ、分かったよ」
蒼が渋々、了承したタイミングで車が停まった。
「とりあえず、着いたから昴クンを送ってこい」
「おう! 天音さん、待っててよ!」
「置いていっても、確実に来るの分かってるからな、逃げねぇよ」
「あの、本日はありがとうございました」
車を降りながら昴が天音に頭を下げる。
「別に、蒼にいいように使われただけだからな。それに色々と情報も仕入れることが出来たし、逆に収穫のがでけぇ」
「それならば、よかったです。今回は、私の作った組織がご迷惑をおかけして......」
「それは、昴クンのせいじゃないぜ?」
天音が昴の言葉を遮った。蒼も大きく頷く。昴はただ、組織を作っただけで、ここまで大きくなる可能性も、主張の違いも想像以上だっただけだろう。全てを昴の責任にするのは違う、天音もそう判断したのだろう。
「......そう、ですかね」
昴はやや不服そうに、無理矢理納得させたようだ。全てを自己責任として、今後昴が潰れないかと少しだけ蒼は心配になった。
しかし、蒼がそこまで気にかける必要も感じず、今まで通りの着かず離れずの関係を継続することにした。
天音にお礼をもう一度言う昴を急かして、蒼は裏道を駆使して昴を駿河家まで送り届けた。