ep123 腹の探り合い
先程何度か見た、少し見慣れた会議室の映像がまたモニターに映し出される。室内は変わらず机が長方形になるように設置されていた。
室内にいる男二人は最も離れた位置に座っていた。
「それで、話とはなんだ?」
入口側に座っていた男――須藤慎吾は向かって反対側に座る珠来に不機嫌そうに話しかける。
「おや? いつもの胡散臭い敬語はやめたんですか?」
「それは、お前にだけは言われたくないな。で、本当に何の用だ」
「そうですか、あなたも似た理由で敬語を使っていたと思っていましたが。......リーダーの真似をして人望を掻っ攫おうとしたのでは?」
「お前じゃないし、んなわけないだろ。何事も敬語の方が円滑に回るんだよ。指示するならそっちの方が楽だ」
「そうですか」
慎吾の回答を珠来は鼻で笑う。
「そっちこそ、相変わらずの腹黒さだな。昴をハメたの、お前だろ?」
確信を持って言う慎吾に表情を読ませない笑顔を浮かべながら珠来は無言を貫く。
慎吾は追求するのを諦めたように息を吐いた。
「それより、お前と2人きりで同じ空間にいるとか嫌すぎる。早く用件を済ませたい。......それに、わざと藤澤弟以外をこの建物から出したよな? 何が目的だ」
「それを分かった上で、来てくださったんですね」
珠来は煙に巻くように笑い、説明をする気がない様子が伝わる。呼ばれたのにその態度をとられ、明らかに苛立った様子で慎吾は舌打ちをする。
「おい、話す気ないなら俺は帰るぞ」
慎吾は椅子を引き立ち上がる。ガタンと室内に大きな音が響く。その様子を変わらない笑みで珠来は見ている。
「そう言いながらも結局は残るんですから、悪態をつくだけ時間の無駄ですよ?」
「それなら、とっとと本題に入れ。俺も暇ではない」
「そうなんですか?」
すっとぼけたような珠来の返答に明らかに慎吾の機嫌が悪くなる。珠来は愉快そうに机に頬杖をついた。
慎吾は入口の前まで移動すると、いつでも出てやるという空気を身にまといながら扉に背を預ける。
「今、特対に2人仲間が捕まっているのは知ってますよね?」
「ああ、商店街で暴れたんだろ? 自業自得だ」
「......確かにそうです。ですが」
「おい、珠来。もし警察署に――って話だったら断るぞ。流石に危険な橋は渡りたくない」
珠来が言おうとしていることを悟ったのか、慎吾は嫌そうだ。珠来は微笑みを崩さない。
「やはり、だめですか」
「いくらなんでも、俺の洗脳だって万能じゃない。それに近くにいないと効果は薄くなる。まず無理だ」
「そうですか、では仕方ないです。見捨てましょう」
「誰も取りこぼさないといったわりには、見捨てるんだな」
「2人のために、残りの方達にまで迷惑はかけれません」
珠来の返答を慎吾は鼻で笑う。扉には変わらずに背中を預けたまま、腕を組むと値踏みするように珠来を見る。
「他の人じゃなく、お前に、だろ。お前の能力ならそれこそ俺よりも可能性がある。なのに俺に頼む時点で、お前は自分が危ない橋を渡りたくない。結局、きれい事を言うだけで自分が可愛いだけだ」
「面白いことを言いますね。失敗したあなたをまだ仲間に入れてあげている時点で、自分可愛いだけの行動ではないと自負していますが?」
慎吾に少し不服そうに反論しながら、珠来は頬杖をやめて、肘を机についた状態で手を組み顎を乗せた。
「それは俺の能力が利用できると思ったからだろ。実際いいように利用されたしな。話はそれだけなら、もう行くぞ?」
興味をなくしたように扉から背中を離す。
「いえ、本題はここからなのですが、念のため......」
珠来は静かに立ち上がると入口付近に近付くとカメラを見上げるように見据えていた。そして、口元に人差し指を当てる。
「さて、確認しているかまでは、分かりませんが一応、念のために。ここからは本当の秘密話なので、盗み聞きはなしですよ、蓮君?」
その言葉とともにモニターに映し出されていた映像がぷつりと切れて、画面は黒くなった。
室内を沈黙だけが支配する。
「......なぁ、リーダー」
沈黙を破ったのは、蓮だった。モニターから視線を外した蓮は不快そうに昴を見る。昴は硬い表情のまま視線で先を促す。
「春宮さんの能力知っとる?」
「......いえ、能力者であることというだけで、厳密に能力を見せてもらったことはないのでわかりません。"サーカス"への入団に能力を見せてもらうというものはなく、自己申告でした。......非能力者が偽る可能性はないと思っていますので」
昴の返答を聞きながら、蒼は思った以上に"サーカス"は間口が広い上に自由度の高い、悪く言えば無法地帯の集まりだったのだなと推測できる。
よくまとめてこれたなと感心すら覚えてしまう。
「カメラに干渉する系の能力であることは間違いないよな」
「そうやな。それに、巧妙に隠していたカメラがやられたから把握もできるのかもしんない。春宮さん、カメラに映るのは比較的少なくて不思議だったんよね」
蓮は少し納得したようにつぶやきながら、キーボードを叩いた。
「だめや、普通のカメラは他の角度も全滅......」
「マジか、でもここからが一番重要な感じだよな」
室内にいる全員分かっていた。きっと、腹の探り合いは挨拶程度でここからが本題というところで、隠されたのだと。
「......蓮さん、他の方がいる手前で申し訳ないのですが」
「まっ、そうなるよな。いいよ。アビスは口の硬い奴だって知ってるし。流石にこれは知っとかないと俺も危険な気がするから、能力使うよ」
キーボードから手を離して蓮は机に置いてあったエナジードリンクを一気に飲み干した。