ep1 御影島
御影島。
時の権力者が気まぐれで作ったという日本で唯一、国からの干渉を受けない治外法権の島。
すでにいつ頃からそのシステムが創られていたのかは、わからない。それぐらい昔から独立し、独自の文化や法が作られて、根付いていた。
ある時、1人の旅人が御影島を訪れた。旅人は何日もかけて島全体を探検した。
そして、島民でさえ知らなかった洞窟を発見する。
旅人は好奇心に後押しされて、最低限の食料や水をリュックに詰めて洞窟へと足を踏み入れた。
それから2日の間、旅人の姿を見た者は誰もいなかった。心配になった人々は旅人が発見したという洞窟を探し始めた。
しかし、人々は旅人どころか洞窟すら見つけることができなかった。
人々はなす術もなく途方に暮れていた。
そして、旅人が行方不明になってから3日が経った時だった。不意に旅人が人々の前に姿を現した。
そして旅人は人々に向かって叫んだ。
「あそこは――あの洞窟は!! 私のような者が入っていいような場所じゃなかった!! 神の領域、まさに『パンドラの箱』だ! この世の理を具現化したような場所だ! あそこにあるのは、この島への、人類への絶望だけだった!!」
そう狂ったように叫ぶと、旅人は力尽きたように意識を失った。
それに不気味な何かを感じた島民達は『洞窟を見つけても絶対に入ってはいけない』というルールを作った。
しかし、ここで1つ不思議な話がある。何人かの好奇心旺盛な若者たちは旅人が『洞窟があった』と言っていた場所に出向いたのだ。しかし、その場所には洞窟などありはしなかった。
それどころか、その辺り一帯は平野で何もなかったのだ。
次第にその事実が広がり、時の流れとともにそのルールは洞窟の存在と一緒に忘れられてしまった。
旅人は亡くなる間際、自身の子供に言ったという。
「あそこは......御影島は『パンドラの箱』だ。部外者は絶対にあれには......あの恐ろしい、――には触れてはいけないんだ」
狂ったように元旅人はそう呟いて亡くなったという。
旅人が言った『あれ』の正体は結局誰も知ることはなかった。
《御影島語りより一部抜粋》
♢♢♢♢
3月31日。港を見渡せる高台に1つの影があった。辺りは真っ暗で、月明かりが仄かに地面を照らしている。誰もいない高台にフードで顔を隠した人物は柵に顎を乗せ、寄りかかる様に海を眺めている。
人影の近くを風が吹き抜けていく。フードの下の顔がニヤリと弧を描いた。そこには影が1つしかいない。不意に影は目線を後ろに向ける。そこには高台には不釣り合いな人一人通れる程の小さな洞窟があった。再び視線を海に移し、影は背後からの気配を感じながら、まるで誰かに語る様に口を開いた。
「"サーカス"の新しいメンバーはテレパシー使いみたいだ。関わり方を考えないといけないな」
誰もいない空間に影の独白だけが響く。その独白は海の闇に飲み込まれていく。しかし、声音は誰かに言い聞かせている様にも聞こえる。影の背後から風が吹く。
「特対はまだ新人が入らないかだって? まぁこの秘匿されている能力者の存在を知っている警察官はなかなか現れないだろうな」
楽しそうに、影は続ける。まるで映画のパンフレットを開いているかの様に軽快に。
「そして、月詠の巫女はまだ能力に目覚めない......か」
影は柵から顎を上げて、くるりと回る。そして先程まで顎を乗せていた柵に今度は背中を預ける。そして洞窟をしっかりと見つめる。
「君らが何かやってるのか?」
洞窟の中に問いかける様にして、笑う。
「そういえば、明日はこの島に新入生が来る日か。治外法権の島、外国みたいだなんてそんな戯言に、心を踊らせてこの島の裏を知らない奴らがやってくる」
影は洞窟から視線を空に移しながら続ける。
「この島で希望を見つけるのか、はたまた絶望に堕ちるのか楽しみだ。この異常に外部との出入りを制限している島で彼らは何を見つけることができるんだろうな?」
歪んだ笑みを浮かべながら語る人影をどこからか吹いてきた風が通り抜ける。
「せいぜい、退屈させないでくれよ? 君らもそう思うだろう?」
そして、影は何処かに連絡をする。そして次の瞬間、人影も洞窟もその場から消えたのだった。