ep96 哀れな追尾者
蒼は制圧した男がつけていたミサンガの入ったポケットを押さえながら、駿河家に向かう。通い慣れた道を歩きながら、背後の気配を探る。
圭哉達と別れから、誰かにつけられている。蒼は姿の確認できない、追跡者をどう対応すべきか考える。ミサンガを狙っているのか? と背後を気にしながら蒼は撒くべきか、迎撃するべきか。駿河家には次の道を曲がればすぐに着くが、流石に双子や大地のような子供がいるから、避けるべきか。
蒼は、よしっと決めると駿河家と反対方向の道に向かうことにした。曲がり道まで少しある。後ろの気配を探りながら、蒼は走って、路地を曲がる。そして、壁に背中を預ける。
とりあえず情報を聞き出した方がいいと蒼は迎撃することを決めた。相手はきっと能力者だ。蒼は普段の喧嘩よりも集中が必要だと小さく深呼吸をする。しかし、どんな相手だろうと後をつけるような卑怯者には負ける気はしなかった。
息を殺していると慌てたように男が路地に走ってきた。そして蒼がいない事に気付いたのだろう、前方から視線を動かそうとした。その瞬間、蒼は壁から背中を離す。
「誰探してるんだ、お兄さん?」
そういいながら、手を地面につき、姿勢を低くする。そして男の足に向かって回し蹴りをお見舞いする。そして、そのまま足を上にあげる。逆立ちをして、バランスを崩した男の顎にさらに蹴りをいれながら、バク転をして男と距離を取る。
チラリと男の腕を見る。そこには先程商店街で制圧した男と同じミサンガがついていた。
蒼は倒れた男に近づく。
「ねぇ、お兄さん。何が目的?」
「ーーぐわっ」
仰向けに倒れた男の肩の上に足を置き、蒼は男の顔に自分の顔を近づける。
「なんで俺の後をつけてた? さっきの男の仲間?」
蒼はそこで視線を男の右腕に巻かれているミサンガに移す。そして、気付いた。微かにのぞく男の首筋にもタトゥーがあることを。男は蒼を睨みながらも吠える。
「言うわけないだろ!」
「能力者集団"サーカス"そのメンバーだ」
しかし、蒼の問いに答える声が上から聞こえた。聞き覚えのある声に、蒼は振り向く。さっきまで蒼が背中を預けていたブロック塀に座って頬杖をつき、蒼達の様子を無表情で見下ろしている唯華がいた。いつも通りの上下黒の服装に長い髪を後ろで適当にハーフアップにしている。
今日は吹雪として人に会う予定はないんだなとその格好で蒼は悟った。
唯華は蒼を見ると悪い笑みを浮かべた。
「お手柄だ、蒼」
唯華はそういうと、ブロック塀から飛び降りて男に近づく。そして、男の顔側に座り込むと、男の腕にゴールドの腕輪をつけた。
「盾中博史だな。"サーカス"過激派のメインメンバーの一人だ」
「ーーっ、テメェ誰だ!?」
「そう言って、名乗るわけがないだろ? 一応言っとくが今着けたのは能力無効の腕輪だ」
そう言いながら、唯華は男を冷めた目で見下す。相変わらずだなぁと蒼は男の方から足を退けて、様子を見守る事にした。このまま戦闘に入るなら楽しんで首を突っ込むが、唯華は精神攻撃を仕掛けている。その場合は蒼の出る幕はないし、今回は下手につついたら怒られるだろうなとのんびりと考えながら、哀れな男を見る。
「君の能力は、火炎系だからね。こんな街中で使われると厄介なんだ。本当に能力使う暇もなく制圧してくれて助かったよ」
「別にゆいも俺と同等かそれ以上に強いくせに何言ってんだよ」
「相手するのがめんどくさい」
唯華の言葉に蒼はこてんと首を傾げる。唯華も喧嘩は強い。だから蒼はいつか本気の唯華と手合わせをしたいとずっと思っている。しかし、いつもめんどくさいと流されてしまい蒼は不服だった。
ここで戦闘になったらどさくさに紛れて攻撃できるのに自分本位なことを思いながらも、今回は無理かと諦める。
「で、君達が今精一杯立てている計画は、悪いけど潰させてもらうよ。実行されるとかなり面倒なんだ」
「何を......」
「ノアズ計画」
「ーーっ」
唯華の言葉に男の顔色が変わった。しかし、唯華は気にした様子もなく続ける。男に絶望を与えるようにゆっくりと。
「乗船者は"サーカス"でも過激派の一部。体にテントとライオンをモチーフにしたタトゥーをいれている」
「なんで、そんなことまで知ってる」
男は警戒するように唯華を見た。蒼はそれを聞き、そういえばタトゥーはそんな感じだったなとのんびりと考える。唯華はそこまで情報を話したということはこの男を逃す気がないんだとも悟る。知り合いの特待の刑事である中原にはすでに連絡済みなのだろう。
「逆になんでバレないと思ってる。認識阻害のミサンガなんて物まで作って、目をつけられないと思っていたのか? 野良で物に能力を付与できる奴と認識阻害の能力者がたまたま入ったからとかなり強引に脅したみたいじゃないか」
男は言葉を失った。それはそうだろう。蒼は男に憐れみの視線を送る。
「お兄さん、もう全部バレてるし、諦める事をお勧めするぜ? 多分、もう少ししたら特待来るだろうし」
「ーーっ!? テメェらも能力者か! なら分かるだろう! このイイかれた島から脱出したい気持ちも!」
「んー、俺能力者じゃないし、ゆいは自分からこの島に来てるから、わかんないかなー」
唾を飛ばしながら血走った目で男は叫ぶ。唯華は相手をするのも馬鹿らしいというように、男を取り押さえながらも視線は空に向けていた。
流石に可哀想に思った蒼は男の質問に応えた。しかし、蒼の言葉に男は目を見開いた。
「非能力者だと!? 明らかに能力者の相手に慣れていただろ!?」
「いや、そこはほら武者修行で!」
「あの、哀れなやつね」
「ゆいが相手してくれなかったから!」
男は絶望した瞳で蒼を見て力を抜いた。逃げ出すのを諦めたようだ。それから、蒼と唯華は男を一応見張りながら中原の到着を待った。