ep131 結論は保留
蒼は少しだけ様子を伺う。室内の喧噪さと焦りを肌で感じた。
口を挟むべきか少し考えるも、すぐに面倒になり口を開くことにした。
「今回の件に関してだけなら、関わってくる可能性は低いと思うぜ?」
怪訝な視線が蒼に注がれる。チラリと道徳を確認すると、視線だけで先を促される。
これで遠慮する必要もなくなったと蒼は心の中でガッツポーズをした。
「あっ、ちょっと待って! 思いついたから」
理由を説明しようとした瞬間、蒼は天啓を受けた。蓮からカメラの映像をもらって見せた方が手っ取り早いのではないかと。
蒼は返事も待たずにポケットから携帯を取り出すとよくやっているオンラインゲームへと繋げた。
すぐにフレンドを確認し、蓮が現在ログインしていることを確認すると、メッセージを開く。
『さっきの映像、このメアドに送って』
と捨てアドと一緒に送る。返事はすぐに来た。
『なんで? 別に良いけど。準備するから、少し待ってて』
流石、ネット廃人と思いながら、蒼は携帯片手に道徳を見る。
「今、カメラ映像送ってもらえるから、後で確認して! 俺が根拠言っても、俺を知らない人たちは納得しないだろうしさ」
室内に入ったときから2人ほどが明らかに殺気の籠もった目で見られている。そして、今の行動でその殺気の濃度が上がった気がする。道徳に気安く話しかけているからか、それとも天音に対してか、どっちもの可能性もあるなと、蒼は殺気の理由だけが少し気になった。
しかし、今はそれよりも理由の説明だと皮膚がピリつく感覚を無視した。
「わかった。それで、根拠は何だ、蒼」
道徳が上座から顎に手を当てながら天音の後ろで立ち上がっている蒼に続きを促す。
「船の準備を他の能力者がやっている。俺も詳しくは知らないけど、禍月組は隠れ港持っていて、専用の船もあるんだろ?」
「......」
道徳の瞳が一瞬、動揺で揺れる。それですぐに、蒼は自分の失言に気付いた。
神庭会の組長は代々神庭の血筋が担っている。そこには能力者という縛りはない。神庭家は能力者達を守る砦の名前だ。
そのため、能力者じゃなくても神庭会の組長は血縁者だと決まっている。
その代わり、若頭をはじめとした残りの幹部クラスは全員能力者だ。
そして、現神庭会組長は無能力者だ。この室内にいるうちの蒼と道徳だけがこの島から出ることができる。
神庭会の幹部の中にも島から出られないため、仕方なく留まっているもの達はいた。
正規ルート以外に島から出る方法がある。その情報を持った幹部の天秤は神庭会に傾いたままでいるのか、ある時、仮定の話だと念押しをされながら道徳が気にしていたことを思い出したからだ。
「まぁ、これは噂の域をでないけどな!」
蒼はとりあえず誤魔化すことにした。港の場所は見当もついているが、わざわざ火のない所に煙を立てる必要はないだろう。
「それに、仲間を集めているというところも気になる。春宮......だったっけ? は島から脱出したい。でも、禍月組の協力が得られない。それでこの作戦は始まった気がする。それに多分だけど、春宮が禍月雲と繋がっているから本島での能力者誘拐事件についても知ってたんじゃないか?」
「......確かに、それは一理あるな」
道徳は顎に手を当てたまま、唸る。蒼は視線を感じ、道徳から隼斗へと視線を移す。
サングラス越しに見開かれた瞳と目が合った。
「あんた、何者だ? ガキだと思っていたが能力で姿を偽っているのか?」
疑うような視線に、蒼は失礼だなと座っている隼斗を、見下すように目を合わせた。
「俺は無能力者だ」
「はぁ!? 小学生が何を言ってやがる!」
「誰が、小学生だ! 卒業してるわ!」
「ふざけんな」
「......いや、隼斗、こいつはマジで無能力者。そして中学生だ」
「......嘘だろ」
低レベルの言い争いになりそうなタイミングで天音が間に割って入った。隼斗は天音の言葉を反芻しているのか、信じられない顔で蒼を見ていた。
「......中学生? これで? いや、さっきの発言......? は?」
隼斗は壊れた機械のように単語を途切れ途切れに繰り返す。蒼の後ろからも他の幹部のざわめきが聞こえる。
「俺のことはどうでも良いだろ? それより問題は、この件は禍月組は関わっていない可能性は高い。ただ仮に、春宮の能力が禍月組にとって便利だと思われていた場合、逃がすとは思えない。最悪、三つ巴になる可能性は視野に入れた方が良いんじゃないか」
一息で考えを言葉にすると、蒼は道徳を見る。
「俺は正直そこまで禍月組についてはわからないけど、敵に回したらやばい感じか?」
「......正直、あまり敵には回したくないな。あいつらは能力者の存在を知っているかというと微妙だが、暴力に関してはエキスパートだ。俺達と組の成立ちも違う、相容れない存在だしな」
道徳は、各々考え込むようにしながらも話を聞いている組員達を見回す。
「少し考える時間をくれないか、それにこの件は関わるにしても、お前達の意思を尊重する。強制はしない。それだけは覚えていてくれ、解散だ。......天音、隼斗は残れ」
「俺は?」
蓮からのメールを確認しながら蒼が確認すると道徳は頷いた。
「お前もだ。どうせ、お前は関わるんだろ?」
「まぁ、否定はしないな!」
幹部達の一部は蒼が残るのを不満そうに睨み付けながらも、道徳の命に従い、座敷を後にした。
そして、その場には蒼達4人しかいなくなった。