

第十一章 ラーメン代、そしてループへ
くないきゃうが、悔しそうに膝をつく。
戦闘は強制スキップされたことに悔しがっているのか、それとも、倒された体になっていることを悔しがっているのか、そのあたりは定かではない。
「ち、ちくしょー!! ワシの復讐劇が......」
その姿を見て、おじいさんが目を丸くした。
「くないきゃうじゃないか?」
......知り合いだった。
散々「覚悟せよ」と叫んでいた宿敵が、まさかの顔見知りである。世界を揺るがす復讐劇の正体が、急に日常サイズに縮んでいく。
くないきゃうは、積年の恨みをぶちまける。
「わしは、あの屈辱を忘れてはいないぞ!!」
―
シーンは変わり、若かりし頃のおじいさんとくないきゃうがラーメン屋でラーメンを食べている。
「ちょっとトイレ行ってくる」
くないきゃうがトイレに向かう。どうやら、最近大きい方が出ていなかったらしい。
踏ん張るくないきゃう。
すると、BGMがふっと止まり、食事の場面ではとても流せないような効果音が響いたあと、鳩が飛ぶエフェクトとともに、オープニングのようなBGMが流れ出す。
スッキリしたくないきゃうがトイレから戻ると、そこに若かりしおじいさんの姿はなく、あったのは空っぽのラーメンどんぶりと、無慈悲に置かれた請求書だけだった。
―
「......なぜあの時、わしがトイレ行っている間、ラーメンのお金を払わず帰った!?」
......地獄を経験し、過去に来て、夫婦喧嘩を止め、四天王を退け、製作者本人にまで戦闘スキップされたこの物語は、ラーメン代の踏み倒しの恨みから世界を救う話であった。
おじいさんは、あっさりと非を認める。
「わしが悪かった、申し訳ない。つい出来心じゃったんじゃ......許してくれ、今度はわしが奢るから......」
......あんなに何段階も変身して夫婦喧嘩を繰り広げていた男が、ラーメン代の一件では即座に頭を下げる。あれだけの試練を乗り越えてきたはずのパーティーが、ここに来て何を見せられているのか分からなくなる。
くないきゃうも、驚くほどあっさり矛を収めた。
「わかってくれたならいい。また一緒にラーメン食べに行こう」
......あれだけの旅と犠牲の果てに、着地点が「また今度ラーメンに行こう」である。
「また、トイレに行ってくれよ! 冗談じゃ!! わははは!」
おじいさんの軽口とともに、くないきゃうは笑いながら去っていく。世界を巻き込んだ因縁は、こうして友好的に解決した。
平和が戻ったかに見えたその時、シャフトが妙な光に気づく。
「なんだ? この光は!?」
......謎の光る玉。
家具か何かだと思われていたそれは、実は特別な意味を持つオブジェクトだった。このシーンの画像を作った際、くないきゃうの素材に未来人のヘルメットのグラフィックがそのまま光の玉として残ってしまい、修正するのが面倒だったので、そのまま採用したものらしい。ちょうど「赤ちゃん梅太郎をどう復活させるか」で悩んでいたところに、この余り物がちょうどよく転用された。
なお、セーブポイントではない。こんなクライマックスでセーブしたところで、その後に特別な演出があるわけでもない。これ以降の話が、ただ無限にループするだけである。
その光の中から、赤ん坊が姿を現す。
「う、梅太郎!? さっき飛ばしたはずじゃ......」
おばあさんが困惑する。
......赤ちゃん梅太郎、再登場。
かつて夫婦喧嘩の巻き添えで空高く放り投げられた、あの赤ん坊時代の梅太郎である。時系列としては、もはや誰にも説明できない状態になっている。
ちなみに本当は、梅太郎が吹っ飛ばされる前に一行が戻ってくるはずだったのだが、吹っ飛ばされたあとに戻す順番で作ってしまった。画像で復元している最中に気づいたミスなのだが、その後の話まで作り終えてから気づいたため、もういいやこのままで、となった。時空の歪みとでも言っておこう。
すると兵士が、未来人の防具をどこからともなく取り出し、英雄ナカシマに無理やり着せる。
「大人しくするっぺ!!」
そしてシャフトが叫ぶ。
「転送装置オン!!」
転送装置が起動し、未来人と化した英雄ナカシマがどこかに飛ばされてしまった。
なお、この演出はオリジナルで、大人になった自分がなんとなく整合性を合わせたくなってしまい、衝動でこう言うシーンを作ってしまった。
さらに梅太郎が叫ぶ。
「転送装置オン!!」
赤ちゃん梅太郎が、遥か彼方の海の方へと吹っ飛ばされていく。
これも実は梅太郎が赤ちゃん梅太郎を吹っ飛ばす演出であったが、コンプライアンスを遵守した結果である。
そして、物語は最後の一言へとたどり着く。
「歴史は繰り返す!!」
成長した梅太郎の高らかな宣言とともに、梅太郎伝説の幕が下りていく。
こうして、新たに飛ばされた梅太郎は、未来の梅太郎に吹っ飛ばされることを止めるための旅に出たとさ。
......夫婦喧嘩を止める旅が、気づけば自分自身を吹っ飛ばす旅に変わり、そしてその旅は、また新しい旅の始まりへと繋がっていく。当時すでに、いわゆる「時をかける」タイプの物語を、無自覚のうちに作っていたことになる。
終わらない。誰も、終わらせるつもりがなかったのかもしれない。
めでたし、めでたし。