

第零幕 イベントを描いた小テストの裏、紙飛行機にならずRPGへ
「...であるからして...」
先生は、何かを言っている。でもそんなのは関係ない。俺が取り出したのは、ノートではなく小テストの裏だった。授業中に思いついたRPGのイベントを、片っ端からその裏に書き殴っていく。
......勉強よりも、世界を作るイベントの方がよっぽど大事だった。ノートを使わなかった理由は、今となっては分からない。とにかく手元にあったのが小テストの裏だった、それだけである。
いきなりなんの話だって?
この話は約25年前、中2の頃、プレイステーションのRPGツクール3でRPGを作ろうと情熱を捧げた当時の俺(シャフト)と友人Sの話である。
どうやって始まったのかは覚えていない。ただ、お互いRPGツクールをやったことがあるという一点だけで意気投合した。
これから、冒険を作ることのワクワクが止まらない。
放課後になると、俺はSの家まで自転車を20分漕いだ。
「今日はどこまで進める?」
Sが玄関先で聞いてくる。
「決まってるだろ、開発会議だ」
......今ならオンラインで済む距離を、当時は本気で脚力だけで埋めていた。学校が終わると毎日のように通っていたのだから、あの頃は間違いなく、本気でゲームクリエイターになるつもりだったのだと思う。
順調に見えた制作は、しかしすぐに壁にぶつかる。
「扉が開かない」
「イベントも始まらないな......」
「なんか、仲間も勝手に消えてる」
原因不明のまま、二人で数時間頭を抱えた末にたどり着いた答えは、あまりにも単純だった。スイッチの入れ忘れである。
......今思えば、中2の俺たちはあのとき、プログラマーの苦労というものを、ほんの少しだけ味わっていたのかもしれない。
「なぁ、敵の強さってどうやって決めてる?」
「適当だよ、適当」
その「適当」のツケは、すぐに回ってくる。
「あれ......全滅した」
作者自身が、自分の作ったダンジョンで普通に全滅した。レベル上げ前提の難易度だったのか、ただの設定ミスだったのか、それすらもう覚えていない。多分、手抜きである。ただ一つ確かなのは、バランス調整というものが、想像以上に大事だったということだけだ。
シナリオの方も、負けず劣らず自由だった。
「なんで梅から生まれるんだっけ」
「知らん。生まれたかったんだろ」
「なんで急に戦い始めるんだ、あの老夫婦」
「知らん。戦いたかったんだろ」
......なぜなら、そうしたかったから。それ以上の理由はどこにもなかった。中2の発想力とは、恐ろしいほど自由なものである。出来上がったものを見て、二人で爆笑していた記憶だけは、やけに鮮明だ。
「切り貼りだから、話がまったく繋がらないな」
「矛盾もひどいし、説明も足りてない」
「まあ、後付けでいいだろ」
......解決方法は、いつだってひとつしかなかった。後付け設定。こうして無理やり、イベントが積み上げられていった。制作中に思いついたアイデアも、思いついた側から片っ端に採用されていく。
「そろそろオリジナルキャラと、オリジナルの曲も欲しいよな」
Sの提案で、俺はRPGツクール3のキャラ制作機能に手を出した。
......3日で挫折。
続けて、音楽ツクールにも挑戦してみる。
......当日で挫折。
そんなものがなくても、作品はちゃんとできる。そう自分に言い聞かせて、俺たちは次の作業に移った。
制作の後半、俺たちを待っていたのは、もっと物理的な壁だった。
「容量、足りなくない?」
「町も増やしたいし、イベントも増やしたいんだけどな......」
メモリーカード15ブロックとの、地味で長い戦い。
「社外品のカード、30ブロックくらいあるやつ買おうぜ」
「あと、なんかたまごっちみたいなメモリーカードも使えるらしいぞ」
結局どれもうまく使えず、最終的にはメモリーカード1つに集約することになった。泣く泣く削ったイベントも、たぶんあったと思う。
......ただ使えるものは何でも動員する。今思えば、あれが俺たちにとって最初の「仕様調整」というやつだったのかもしれない。
いくつもの寄り道と後付けを重ね、ついにRPGが完成した。
「これ、アスキーに送ろうぜ」
「よし、録画する」
Sの家でプレイ動画を録画し、俺の家では当時流行っていたアニメのBGMに乗せて、ラジカセを使ってテープに録音した。なぜわざわざラジオ収録という形にしたのかは、今でも謎である。RPGを作りながら、二人してカードゲームでも遊んでいたので、たぶん色々なことを同時に、マルチにやっていたのだと思う。出力し、エンディングまで作り上げた。
......今の技術なら、一瞬で終わる作業である。
祈るような気持ちで、テープをポストに投函した日のことは、よく覚えている。
「やりきったな」
「ああ、やりきった」
その後も、俺たちの情熱が途切れることはなかった。お互い、別のゲームを作り続けた。だが、作ったRPGを超える何かを作ることはついにできず、どれも中途半端なまま、学年が上がるとともに、そっと消えていった。
あれから、約25年。
RPGのことをふと思い出すことがある。
もう一度RPGツクールで作りたいと思ったこともあったけれど、結局のところ、あの時は友人と一緒だったから楽しかったのだと、今になって気づく。
そう、そのRPGの名前は、
『梅太郎伝説』
素敵な思い出とカオスな物語。
少し形は違うけれど、今はAIを使って、あの頃の物語を復元している。
どんな話だったって?
それでは、はじまり、はじまり。