ふたりの旅人
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現在地 アストリア大陸、西部沿岸。
天候 快晴、おだやかな南風あり。
時刻 正午をすぎてかなり経つ――
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「ティア、見て! あっちのほう、光がきらきらしてる!」
およそ小鳥ほどの大きさの少女が、陽射しを浴びて空中をせわしなく飛びまわっている。
人間によく似た姿だが、ほっそりとした手足はほんのりと発光し、背中の四枚羽がまたたくように光っていた。
「ねえ、あのきらきら、なにかなぁ? ヒトが出してるの?」
「あれは海よ。海面に光が反射してるだけ」
ティアが言うと、落ち着きなく飛びまわっていた少女はぴたりと動きをとめた。
街道の先は、遠目にきらきらと輝く水平線。その手前には屋根が幾重にもならぶ大きな港町が見える。
小鳥サイズの少女は、その宝石のような瞳をまんまるに見開いて、両手を口にあてた。
「えーっ! あれが海? 海も湖みたいに光るんだ! 海にも妖精がたくさんいるのかな」
妖精がいるかどうかはわからないけど、と思いながら、ティアは顔の上に右手をかざし、空中でじたばたしている少女を見上げた。
「それより、この調子でいけばセレスト港まですぐよ。もう昼食には遅いけど、久しぶりにちゃんとした食事をとりたいし、急ごう。だからあんまりふらふらしないで」
「アタシはさっき蜜をたっぷり吸ったから、お腹いっぱい!」
「ココはね。わたしは昨日も一昨日も干し肉つづきなの」
お腹をなでながら楽しそうにいう羽の生えた少女......妖精のココは、くるくるとまわりながらティアの足元の小さな花の上に降りてきた。
「ティアも妖精みたいに、花の蜜だけでお腹いっぱいになれたらいいのにねー。ヒトは不便だねぇ」
白い花弁に話しかけるようにささやき、ココはクスクスと笑う。
ティアとココが最後に人里を発ってから、もう五日は過ぎた。
その間は延々と歩き続け、もちろん道中で休めるような旅籠もないので、ろくに湯浴みもできず、ティアは文字どおりずいぶんとくたびれていた。
連日の野宿でマントや服は砂埃でかなり汚れ、愛用の革鎧やブーツもいわずもがな。
陽に透ける長い髪は昔からくせもなく絡まりもしないので、背中に背負った弓の向こうでサラサラとそよ風になびいているが、体はいいかげん汗を流したい。
ティアのツンとした長い耳に、ふわりと飛んできたココがちいさな両手をかけ、ウフフと笑った。
「ティア、わかるよ。おフロ、入りたいんでしょ?」
「湯浴みできる宿が空いてればね」
「ねえねえ、先にゴハンにする? それともおフロにする?」
「......食事が先かな?」
「わーい! どんなゴハンかなぁ。アタシ、ゴハンの匂いだーい好き!」
きらきらと四枚羽をきらめかせながら言うココは見てのとおり妖精で、人が食べるようなものは食しない。せいぜい花の蜜だ。
しかしティアが食べるものの匂いを嗅ぐのは好きらしく、特に焼きたてのパンの匂いがお気に入りという変わった妖精だった。
セレスト港に向かって歩き続けるティアの肩にぴたりと寄り添って、ココは続ける。
「あそこのたくさんの建物がある町がセレスト港なんでしょ? ヒトがたくさんいる?」
「そりゃ、あれだけ大きな港町だもの」
「あそこで弓の弦の張り替えをするの?」
「そうよ。前に変えてからずいぶん経ったしね」
「ほかには? お買い物もする?」
「うーん、保存食の買い出しは必要かな」
「きらきらも? きらきらも買う?」
「買わない」
「えーっ! なんでー! きらきら買おうよ!」
うるさいなぁ、とティアは騒がしいココを片手で押しのけ、耳から遠ざけた。
深い青色の耳飾りがちらりと風に揺れる。
――ここはアストリア大陸。
その中でも王都への流通の要となる港町のひとつ、巨大なセレスト港はすぐ目の前だ。
今日も大きな風に運ばれて、雲が青空を流れていく。
セレスト名物の海鮮料理はなんという名前だったかな......。
そう思いながら、ティアはあれこれと質問してくるココを引き連れ、港へと歩を進めた。