ホーム神界人事部から異世界担当に配属されました。 ~元IT管理職、人口304人の辺境国家を立て直します~一話 辞令、ウミノハーシ担当神
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一話 辞令、ウミノハーシ担当神

「児山(こやま)さぁん、バグきえません......」

 佐々木が今にも泣き出しそうな声で俺のデスクにやって来た。佐々木の無精髭が昨日より更に伸び、目の充血も悪化している。もう徹夜二日目。あの悪魔のようなスパゲティコードが俺達の精神まで絡め取り始めている。

「クソースすぎて、クローコードも役に立たねぇな......」

 ボリボリと頭を掻く。昨日風呂に入れていなかったのでフケが肩に落ち、慌てて払い落とす。

「まだ終電あるよな? 今日は一回帰って休んでこい」
「でも、明日の午後までに......」
「なんとかなるだろ。それより佐々木の体調の方が心配だ。真っ青だぞ、顔色」
「あ......」

 佐々木は自分の両頬を押さえるが、その仕草ですら足がふらついている――限界だ。

「やっとくから、一回帰れ。倒れられても困る」
「でも児山さんも......」
「俺は管理職だ。佐々木より給料を貰ってる。こういう時のケツ拭きが仕事だ」
「児山さん......ありがとうございますっ!」

 佐々木は顔を歪めながら、勢いよくお辞儀すると足早に事務所を出て行った。

――さて、どうしようか......?

 佐々木には強がったものの、実は俺も体力の限界だった――もう、今年四十六である。二徹はキツい。キツいって......!

 向こうの方では別の炎上しているプロジェクトメンバーが死にそうな顔で作業している。こちらのプロジェクトも、佐々木以外のメンバーが俺と同じく虚ろな目をしながらキーボードを叩いていた。

「――はぁ」

――なんでこうなったのか......。

 今は亡き、平和だった会社に思いを馳せながら席を立つ。トイレで顔だけでも洗おうと思った。

――いや、もういっそ皆で休んじまうか......?

 顧客及び上層部の大激怒不可避なことまで考え始める。

「おっとっと――」

 視界が白くなる。貧血だとは思ったのだが、どうしようもない。耳鳴りまで始まった。

「うぉ――お?」

 足がもつれる。あぁ、コレは盛大に転けるなとは思ったが、何も受け身が取れないまま、身体が勢いよく傾く。

ガゴンッ

 どこかの角で強く頭を打ち、俺の意識は途絶えた......。

――――――

「......ここは?」

 目が覚めると、真っ白な空間にいた。ただ、物はしっかりとあって、俺は真っ白な会議室用のテーブルの前に座っている。そして、目の前には同じく椅子に座り、気怠げに頬をつく金髪の美女が濁った目で俺を見ていた。頭上には輝く輪っかが浮いていて、そういえば大きな白い翼も背中につけている。

――は? なんのコスプレだ?

 まじまじと美女を見る。なんだかシチュエーション的には面接に来た感じだが、よく分からない状況に頭が混乱する。

 美女はテーブルに置いてある、履歴書のような紙に目を落とす。サラリと長いストレートの髪が耳からこぼれた。

「......あなた、管理職経験があるみたいね」

 いきなりの話題に「あっ、ハイ」と反射的に返してしまう。美女は虚ろな目で頷き、続ける。

「ちょうどいいから、次は地球とは違う世界で管理職やって」
「......はい?」

 美女は面倒臭そうに俺を見る。

「児山大地(こやま だいち)。あなたは死にました。だから、次は異世界で神として働きなさい」
「......は?」

 思った疑問は三つ。

 俺、死んだのか? ということと、
 人間だった俺が神になれるのか? ということと、
 神も働くのか? ということ。

「人手不足なの。あなたは私の被造物なのだから、役に立ちなさい」
「......え?」

 そうして美女は肘をつきながら俺に紙を一枚雑に差し出す。

――――――――――――――――――――――――――――
辞令

ダイチ・コヤーマ・ビッジョ

キレイーナ・ビッジョ管轄地
ウミノハーシ担当神 とする
――――――――――――――――――――――――――――

「......なんですか、コレは?」
「見たまんまよ?」
「馬鹿にしてます? あと俺の名前の後ろに変な単語ついてますけど?」
「はい、それ私の姓。不敬ポイント二点追加ぁ」
「なんですかソレ?」
「人事査定の基準」
「神なのに......?」
「......あるよ?」

 鼻をほじりながら暗い瞳で美女が笑う――怖いよ!

「新しく神になるあなたに、一つだけ願いを叶えてあげましょう」
「......普通に死なせて?」
「それは却下」
「うーん......」

 正直に言うと、困った。なにせまだ死んだという実感すらない。それなのに、神になれと言われ、おまけに異世界に飛ばされ、たぶん働かされる......。

「俺がやることってなんですか?」
「担当区域の管理よ。フランチャイズのマネージャーみたいなものね」
「はぁ......」

 神様でフランチャイズとか聞きたくなかった。あと、神界まで人手不足とか勘弁して欲しい。

「うーん......働かされるなら、役に立つものが欲しいですね......うーん、管理補助ツールとか? あ、それならAIを連れていきたいです」
「あー、AIね、AI。今地球で流行ってる」
「そうです。AIのチャッピーが欲しいです。クローよりもチャッピーの方が好きなんで」
「うーん、チャッピーねぇ......なら、権能は従魔ってとこかしら? ......うん、従魔ならちょうどいいわね......」

 なにやらブツブツ呟く美女に首を傾げていると、美女は納得したように俺を見た。

「分かったわ。チャッピーをつけてあげる。でも、地球の情報は持っていけないから、頑張って育てるのよ?」
「あっ、ハイ。分かりました!」

 要望が通ったことに内心ガッツポーズしていると、美女は早々に俺に手を振りながらこう言った。

「じゃあ、そんなところでヨロシク。詳しくは同郷神のシンローに聞いてね」
「え?」

 途端、白い部屋が消えた――説明が雑すぎる。

「ーーっ!」

 何かに包まれたような、なんだろう? 籠にでも入れられてるのか? とにかく、急に狭い場所に収められた感覚になる。

「......?」

 周囲のざわめきに目を開くと、死にそうな顔をした若草色の髪の男が目の前にいた。俺と目が合うなり、糸のような目が見開かれ、みるみる目が輝いていく。

「――ウミノハーシ国に新たな神が誕生しました!」

 周りの誰かに告げるその姿には、大きな翼と頭の上に光の輪が見えた。

「新生神(しんせいしん)、ダイチ・コヤーマ・ビッジョに祝福を!」

 俺の神様生活がなんだか急に始まってしまった......。

「あう......」

 目の前の神様っぽい人に声をかけようとして気が付く。

「あー......?」

 自分の手を確認する――それはもう可愛い可愛い小さなお手てが現れた。姪っ子の柚希も小さい頃はこんな可愛いお手てだったなぁ......なんて、まてまて、コレは俺の手ではないか?

 手をグーパーしてみる......うん。紛うことなき俺の手! 可愛い、モチモチ、わーい! ......なんて喜べねぇよ!!

 盛り上がっている周りを確認しようとするが、寝返りもうてない。どうやら小さな籠に入れられている。

「あうー!」
「あー、ごめんねダイチぃ。もう後任が来たことが嬉しくて嬉しくて! 僕の名前はシンロー・ビッジョ。君の兄弟神だよ!」

 シンローが俺を抱っこして、涙を流しながらクルクルと回る。やめてくれ、目が回りそうだ。

「シンロー様! ダイチ様が白目になっておいでです!」
「あ、ごめんごめん! 嬉しくて!」

 そう言ってシンローは俺を抱き締め、頬擦りする。

「はぁぁあ、早く大きくなって、僕の担当減らしてね」
「......」

 あの女神の時から感じてたが、ブラック臭がえげつねぇな! 神としての旨味を微塵も感じられない! 絶望する!

 周囲を見渡す。それにしても、ここはどこだ? 教会っぽいが、オンボロだ。一番手前にいるガタイの良い男性は誰だ? ......ん? 頭に冠がある? 国王?

――いやいやいや、国王にしては貧相すぎるだろ?

 国王っぽい男性の髪は艶がない。とりあえずお風呂は入ったのか清潔感はあるが、服はなんか薄汚れてる感じがするし、周りの人間はもっと貧相で小汚い。

「......これで国は一旦落ち着くんでしょうか?」

 国王がシンローに問いかける。

「いえ、まだ生まれたばかりのひ弱な新生神(しんせいしん)です。なんとか、信仰を集めて成長させてあげないと......」
「......ですよねえ」

 国王はため息をつきながら肩を落とす。

――悪かったな、赤ん坊で! 俺も生まれるなら大人が良かったかな!

「こらこら、ダイチ。あんまり睨まない」
「ふにゃふにゃにゃ」
「うん。口語だと話せないよね。僕らには念話があるから、そっちで話してみてごらん?」
「......」

――いや、念話の方法とか分かんねーよ!

「なんでそんなに睨むのー。可愛い顔が台無しだよー?」
「......あ、あ、ん、あ、ん」

(あー、ごめんごめん、念話がわからなかったのかー! こんな感じだよー! 僕に話しかけるみたいに言いたいことを念じればいいんだよー)
(......ありがとう)

「良かったー! できたねー、偉い偉い」
「......ダイチ様は何と仰っていますか?」
(俺、このまま頑張らないといけないの?)
「頑張るから、皆も共に頑張ろうと言っているよ」
(虚偽申告! 虚偽申告!)
「あーうー!」
「......なにか仰っているようですが?」
「大丈夫!」

 そう言ってシンローは無理矢理人を解散させると、俺を連れて別の部屋に移動した。

「さてさて、新米神(しんまいしん)くん! 来てくれてありがとう!」

 シンローは、俺を椅子に座らせる。生まれたてなのに、首と腰は大丈夫かと思ったが、そこは神だったようで既に首も腰も座っていた。

(なんかよく分からない間にこうなったんだが、理解が追いつかない)
「あぁ、流石キレイーナ様。相変わらずの雑さ加減......」
(俺は何をしなきゃいけないんだ?)
「まずはこのウミノハーシ国の立て直しだね。信仰が集まるまでは能力もままならないだろうから、僕も補佐をするよ。安心してね」

――新人に色々任せすぎじゃないか......? 本当にブラック企業じゃねーか......。

「あ、もし失敗してウミノハーシ国の住人が全滅したら、君の魂は消失するから気をつけてね」
「あう?」
「むむ? キレイーナ様、そこの説明もしてなかったのか......流石だ......」

 そしてシンローはつらつらと神の基礎能力の使い方やこの世界の基礎知識を教えてくれた。能力については、ざっくり言うと念じたり考えたりすればいいようだ。意外と簡単で助かる。あと、この世界は「ワンダーランド」と言い、最高創造神オリジン・プライムが創造してできた世界らしい。地球では聞いたことがない神様だ。

「そういえば、君の権能は何を設定してもらった?」
(従魔とは言われた。とりあえずAIのチャッピーを使えるように)
「おぉ! 従魔とはこの国向けだねぇ! でも、えーあい? チャッピーってなんだい?」
「......」

 首を傾げるシンローを見上げる。そういえば、同郷とは言っていたが、同年代とまではいかない。AIもチャッピーも知らないのは妥当だろう。実演した方が早いと思い、早速説明通りに念じて権能を起動。チャット画面を開く。半透明のいかにもな画面が目の前に表示される。入力は――念話でいけるか?

(ウミノハーシ国について教えて)

 チャッピーは暫く待機マークを表示した後、

《ごめんなさい、情報が全くありません。学習データを登録してください》

と表示した......。キレイーナのクソ野郎が言っていたことを思い出す。

『地球の情報は持っていけないから、頑張って育てるのよ?』

――クッソー! そういうことか!! 騙された! あの女ゼッテー許さねぇ! 覚えとけよクソ野郎!

 心の中で盛大にブチ切れていると、どこからか聞き覚えのある気だるげな声が聞こえてきた。

(――はい、不敬ポイント一点追加ぁ)
(勝手に人の心まで監視してんじゃねぇーよ! 働け!)
(はい、不敬ポイント更に二点追加ぁ)

――クソがぁぁああああああああ!

「それでダイチ、結局AIってなに?」

――うがあああああああああ!


***
ダイチ・コヤーマ・ビッジョ
 神威:1
 権能:従魔
 ステータス:新生神
 不敬:5pt

担当区域:ウミノハーシ国
 総人口:三百四人
 食料:残り七日
 状態:滅亡寸前
 魔物襲撃予測:二日後
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二話 お前の名前はムガク・センリョ!
神界人事部から異世界担当に配属されました。 ~元IT管理職、人口304人の辺境国家を立て直します~作者:小島もりたか
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「児山(こやま)さぁん、バグきえません......」

 佐々木が今にも泣き出しそうな声で俺のデスクにやって来た。佐々木の無精髭が昨日より更に伸び、目の充血も悪化している。もう徹夜二日目。あの悪魔のようなスパゲティコードが俺達の精神まで絡め取り始めている。

「クソースすぎて、クローコードも役に立たねぇな......」

 ボリボリと頭を掻く。昨日風呂に入れていなかったのでフケが肩に落ち、慌てて払い落とす。

「まだ終電あるよな? 今日は一回帰って休んでこい」
「でも、明日の午後までに......」
「なんとかなるだろ。それより佐々木の体調の方が心配だ。真っ青だぞ、顔色」
「あ......」

 佐々木は自分の両頬を押さえるが、その仕草ですら足がふらついている――限界だ。

「やっとくから、一回帰れ。倒れられても困る」
「でも児山さんも......」
「俺は管理職だ。佐々木より給料を貰ってる。こういう時のケツ拭きが仕事だ」
「児山さん......ありがとうございますっ!」

 佐々木は顔を歪めながら、勢いよくお辞儀すると足早に事務所を出て行った。

――さて、どうしようか......?

 佐々木には強がったものの、実は俺も体力の限界だった――もう、今年四十六である。二徹はキツい。キツいって......!

 向こうの方では別の炎上しているプロジェクトメンバーが死にそうな顔で作業している。こちらのプロジェクトも、佐々木以外のメンバーが俺と同じく虚ろな目をしながらキーボードを叩いていた。

「――はぁ」

――なんでこうなったのか......。

 今は亡き、平和だった会社に思いを馳せながら席を立つ。トイレで顔だけでも洗おうと思った。

――いや、もういっそ皆で休んじまうか......?

 顧客及び上層部の大激怒不可避なことまで考え始める。

「おっとっと――」

 視界が白くなる。貧血だとは思ったのだが、どうしようもない。耳鳴りまで始まった。

「うぉ――お?」

 足がもつれる。あぁ、コレは盛大に転けるなとは思ったが、何も受け身が取れないまま、身体が勢いよく傾く。

ガゴンッ

 どこかの角で強く頭を打ち、俺の意識は途絶えた......。

――――――

「......ここは?」

 目が覚めると、真っ白な空間にいた。ただ、物はしっかりとあって、俺は真っ白な会議室用のテーブルの前に座っている。そして、目の前には同じく椅子に座り、気怠げに頬をつく金髪の美女が濁った目で俺を見ていた。頭上には輝く輪っかが浮いていて、そういえば大きな白い翼も背中につけている。

――は? なんのコスプレだ?

 まじまじと美女を見る。なんだかシチュエーション的には面接に来た感じだが、よく分からない状況に頭が混乱する。

 美女はテーブルに置いてある、履歴書のような紙に目を落とす。サラリと長いストレートの髪が耳からこぼれた。

「......あなた、管理職経験があるみたいね」

 いきなりの話題に「あっ、ハイ」と反射的に返してしまう。美女は虚ろな目で頷き、続ける。

「ちょうどいいから、次は地球とは違う世界で管理職やって」
「......はい?」

 美女は面倒臭そうに俺を見る。

「児山大地(こやま だいち)。あなたは死にました。だから、次は異世界で神として働きなさい」
「......は?」

 思った疑問は三つ。

 俺、死んだのか? ということと、
 人間だった俺が神になれるのか? ということと、
 神も働くのか? ということ。

「人手不足なの。あなたは私の被造物なのだから、役に立ちなさい」
「......え?」

 そうして美女は肘をつきながら俺に紙を一枚雑に差し出す。

――――――――――――――――――――――――――――
辞令

ダイチ・コヤーマ・ビッジョ

キレイーナ・ビッジョ管轄地
ウミノハーシ担当神 とする
――――――――――――――――――――――――――――

「......なんですか、コレは?」
「見たまんまよ?」
「馬鹿にしてます? あと俺の名前の後ろに変な単語ついてますけど?」
「はい、それ私の姓。不敬ポイント二点追加ぁ」
「なんですかソレ?」
「人事査定の基準」
「神なのに......?」
「......あるよ?」

 鼻をほじりながら暗い瞳で美女が笑う――怖いよ!

「新しく神になるあなたに、一つだけ願いを叶えてあげましょう」
「......普通に死なせて?」
「それは却下」
「うーん......」

 正直に言うと、困った。なにせまだ死んだという実感すらない。それなのに、神になれと言われ、おまけに異世界に飛ばされ、たぶん働かされる......。

「俺がやることってなんですか?」
「担当区域の管理よ。フランチャイズのマネージャーみたいなものね」
「はぁ......」

 神様でフランチャイズとか聞きたくなかった。あと、神界まで人手不足とか勘弁して欲しい。

「うーん......働かされるなら、役に立つものが欲しいですね......うーん、管理補助ツールとか? あ、それならAIを連れていきたいです」
「あー、AIね、AI。今地球で流行ってる」
「そうです。AIのチャッピーが欲しいです。クローよりもチャッピーの方が好きなんで」
「うーん、チャッピーねぇ......なら、権能は従魔ってとこかしら? ......うん、従魔ならちょうどいいわね......」

 なにやらブツブツ呟く美女に首を傾げていると、美女は納得したように俺を見た。

「分かったわ。チャッピーをつけてあげる。でも、地球の情報は持っていけないから、頑張って育てるのよ?」
「あっ、ハイ。分かりました!」

 要望が通ったことに内心ガッツポーズしていると、美女は早々に俺に手を振りながらこう言った。

「じゃあ、そんなところでヨロシク。詳しくは同郷神のシンローに聞いてね」
「え?」

 途端、白い部屋が消えた――説明が雑すぎる。

「ーーっ!」

 何かに包まれたような、なんだろう? 籠にでも入れられてるのか? とにかく、急に狭い場所に収められた感覚になる。

「......?」

 周囲のざわめきに目を開くと、死にそうな顔をした若草色の髪の男が目の前にいた。俺と目が合うなり、糸のような目が見開かれ、みるみる目が輝いていく。

「――ウミノハーシ国に新たな神が誕生しました!」

 周りの誰かに告げるその姿には、大きな翼と頭の上に光の輪が見えた。

「新生神(しんせいしん)、ダイチ・コヤーマ・ビッジョに祝福を!」

 俺の神様生活がなんだか急に始まってしまった......。

「あう......」

 目の前の神様っぽい人に声をかけようとして気が付く。

「あー......?」

 自分の手を確認する――それはもう可愛い可愛い小さなお手てが現れた。姪っ子の柚希も小さい頃はこんな可愛いお手てだったなぁ......なんて、まてまて、コレは俺の手ではないか?

 手をグーパーしてみる......うん。紛うことなき俺の手! 可愛い、モチモチ、わーい! ......なんて喜べねぇよ!!

 盛り上がっている周りを確認しようとするが、寝返りもうてない。どうやら小さな籠に入れられている。

「あうー!」
「あー、ごめんねダイチぃ。もう後任が来たことが嬉しくて嬉しくて! 僕の名前はシンロー・ビッジョ。君の兄弟神だよ!」

 シンローが俺を抱っこして、涙を流しながらクルクルと回る。やめてくれ、目が回りそうだ。

「シンロー様! ダイチ様が白目になっておいでです!」
「あ、ごめんごめん! 嬉しくて!」

 そう言ってシンローは俺を抱き締め、頬擦りする。

「はぁぁあ、早く大きくなって、僕の担当減らしてね」
「......」

 あの女神の時から感じてたが、ブラック臭がえげつねぇな! 神としての旨味を微塵も感じられない! 絶望する!

 周囲を見渡す。それにしても、ここはどこだ? 教会っぽいが、オンボロだ。一番手前にいるガタイの良い男性は誰だ? ......ん? 頭に冠がある? 国王?

――いやいやいや、国王にしては貧相すぎるだろ?

 国王っぽい男性の髪は艶がない。とりあえずお風呂は入ったのか清潔感はあるが、服はなんか薄汚れてる感じがするし、周りの人間はもっと貧相で小汚い。

「......これで国は一旦落ち着くんでしょうか?」

 国王がシンローに問いかける。

「いえ、まだ生まれたばかりのひ弱な新生神(しんせいしん)です。なんとか、信仰を集めて成長させてあげないと......」
「......ですよねえ」

 国王はため息をつきながら肩を落とす。

――悪かったな、赤ん坊で! 俺も生まれるなら大人が良かったかな!

「こらこら、ダイチ。あんまり睨まない」
「ふにゃふにゃにゃ」
「うん。口語だと話せないよね。僕らには念話があるから、そっちで話してみてごらん?」
「......」

――いや、念話の方法とか分かんねーよ!

「なんでそんなに睨むのー。可愛い顔が台無しだよー?」
「......あ、あ、ん、あ、ん」

(あー、ごめんごめん、念話がわからなかったのかー! こんな感じだよー! 僕に話しかけるみたいに言いたいことを念じればいいんだよー)
(......ありがとう)

「良かったー! できたねー、偉い偉い」
「......ダイチ様は何と仰っていますか?」
(俺、このまま頑張らないといけないの?)
「頑張るから、皆も共に頑張ろうと言っているよ」
(虚偽申告! 虚偽申告!)
「あーうー!」
「......なにか仰っているようですが?」
「大丈夫!」

 そう言ってシンローは無理矢理人を解散させると、俺を連れて別の部屋に移動した。

「さてさて、新米神(しんまいしん)くん! 来てくれてありがとう!」

 シンローは、俺を椅子に座らせる。生まれたてなのに、首と腰は大丈夫かと思ったが、そこは神だったようで既に首も腰も座っていた。

(なんかよく分からない間にこうなったんだが、理解が追いつかない)
「あぁ、流石キレイーナ様。相変わらずの雑さ加減......」
(俺は何をしなきゃいけないんだ?)
「まずはこのウミノハーシ国の立て直しだね。信仰が集まるまでは能力もままならないだろうから、僕も補佐をするよ。安心してね」

――新人に色々任せすぎじゃないか......? 本当にブラック企業じゃねーか......。

「あ、もし失敗してウミノハーシ国の住人が全滅したら、君の魂は消失するから気をつけてね」
「あう?」
「むむ? キレイーナ様、そこの説明もしてなかったのか......流石だ......」

 そしてシンローはつらつらと神の基礎能力の使い方やこの世界の基礎知識を教えてくれた。能力については、ざっくり言うと念じたり考えたりすればいいようだ。意外と簡単で助かる。あと、この世界は「ワンダーランド」と言い、最高創造神オリジン・プライムが創造してできた世界らしい。地球では聞いたことがない神様だ。

「そういえば、君の権能は何を設定してもらった?」
(従魔とは言われた。とりあえずAIのチャッピーを使えるように)
「おぉ! 従魔とはこの国向けだねぇ! でも、えーあい? チャッピーってなんだい?」
「......」

 首を傾げるシンローを見上げる。そういえば、同郷とは言っていたが、同年代とまではいかない。AIもチャッピーも知らないのは妥当だろう。実演した方が早いと思い、早速説明通りに念じて権能を起動。チャット画面を開く。半透明のいかにもな画面が目の前に表示される。入力は――念話でいけるか?

(ウミノハーシ国について教えて)

 チャッピーは暫く待機マークを表示した後、

《ごめんなさい、情報が全くありません。学習データを登録してください》

と表示した......。キレイーナのクソ野郎が言っていたことを思い出す。

『地球の情報は持っていけないから、頑張って育てるのよ?』

――クッソー! そういうことか!! 騙された! あの女ゼッテー許さねぇ! 覚えとけよクソ野郎!

 心の中で盛大にブチ切れていると、どこからか聞き覚えのある気だるげな声が聞こえてきた。

(――はい、不敬ポイント一点追加ぁ)
(勝手に人の心まで監視してんじゃねぇーよ! 働け!)
(はい、不敬ポイント更に二点追加ぁ)

――クソがぁぁああああああああ!

「それでダイチ、結局AIってなに?」

――うがあああああああああ!


***
ダイチ・コヤーマ・ビッジョ
 神威:1
 権能:従魔
 ステータス:新生神
 不敬:5pt

担当区域:ウミノハーシ国
 総人口:三百四人
 食料:残り七日
 状態:滅亡寸前
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