

十四話 大家族って大変そう
(ねぇ、なんで黙っているの?)
「――あ」
目の前の巨大な蜘蛛が口をモゴモゴ動かしていた。非常に不穏だからやめて頂きたい。
「その、なんだ......俺、神じゃん? しかも、従魔の権能なの。だから、従魔募集しててさ......」
(何故私が貴方の手下にならないといけないの? そもそも、従魔の利点が分からないわ)
「だよなぁ......。そういえば、ロック。従魔になって何かいい事あったのか?」
「日中も歩けるようになった。これは大きい」
俺と同じぐるぐる巻きの逆さ吊りなのに、ロックは平然と言葉を並べる。
「あと、飢餓感がなくなった。体内のマナが安定した」
(飢餓感がなくなるの......?)
蜘蛛達がざわりと蠢く――これは良い売り文句になりそうだ。
「君達が今、困っていることが従魔になることで解決するかもしれないな。困り事を教えてくれないか?」
(......)
母蜘蛛が警戒するように、頭が小刻みに動く――口は怖いから動かさないで欲しい。うん......。
「俺達は君達が棲むこの洞窟から少し近い場所に住んでいる。今後お互いに生きていく上でも、良い関係を築いておきたい」
え、共存するの?! とでも言いたげな視線が兵士から飛んできた気がするが、それは無視する。俺は少しでもリソースを稼ぎたい。見た目は怖いけどね!
(......子供たちが増えすぎて、洞窟が狭くなってきたの)
「あ――」
辺りを見回す。確かに、見える範囲の限りだと、地面がまともに見えないくらい蜘蛛がいる気がする。うん、見回さなければ良かった。俺、めちゃくちゃ蜘蛛達に注目されてんじゃん。やだ恥ずかしい。
「もしかして、近々引越し考えてたりした?」
(それは何度も考えてたわ。でも、なかなかいい所が見つからなくて......昼間はあまり活動できないから......)
「洞窟しか暮らせないの?」
(そういう訳ではないのだけど、洞窟の方が住処(すみか)としては都合がいいじゃない?)
「太陽が苦手だから?」
(それもあるわね。太陽は少し苦手。無理ではないけど)
「太陽克服したら、外にも棲める?」
(そうね、太陽が問題なくなれば、外に巣を造ることも候補に入れられるわ)
「なるほどね......」
ダイチ様......と言わんばかりの兵士たちの視線を受け止めながら、俺は深く頷く――このヘッドハンティングは勝ち目が高い。
「ちなみにロック。飢餓感がなくなったってことは、食料問題とかも解決する?」
「そうだな。我々は従魔になってから、嗜好でしか摂取しなくなった」
「なるほど。ありがとうロック......君達って大家族だから食料問題あるんじゃないの」
(......あるわね。どの子も大抵、満腹を体験したことはないわ)
「それはそれは......」
なんというか、不幸な......。人間的には満腹感って結構大事だと思うんだけど、蜘蛛は違うのか?
――いや、でも、まぁこの蜘蛛の量なら仕方ないのか......?
具体的には数えたくはないが、ざっと目算しただけでも千はいるのではないだろうか......? 蜘蛛は何種類もいるのか、大きさも柄も違うものが混ざっている。
「――じゃあどうだろう。俺の従魔になったら、外での適応能力と飢餓感がなくなる。俺の従魔にならないか?」
(......人間との関係はどうなるのかしら?)
「君達は人間を食べない、襲わない。人間も君達を退治しない――共存関係にする。お互いに助け合って生きる」
(それが出来たら素敵ね......)
「だろ? 従魔っていうシステムがなければただの綺麗事だけど、あるんだから可能なんだ」
巨大な蜘蛛の母は、思案するように俺を見つめる。
(従魔になった場合、私達は何をしないといけないの?)
「まずはこの兵士達の国の復興を手助けして欲しい」
(他には?)
「ごめんだけど、そこまで手が回ってない。人間が死なないようにするので手一杯」
(ふふふ、あなたも群れの母みたいなものなのね)
「俺が産んだわけじゃないよ?! あ、あとこれは約束なんだけど、人間は襲わないでくれ。絶対に」
(飢餓感がなくなれば、食欲で人間を襲うことはないわよ、ふふふ)
物理的には「ゲシャゲシャ」と笑う大蜘蛛に、兵士たちは怖がり、ロックは小さく頷く。
「従魔も悪くない。人間と暮らしながら山を育てるのも悪くない」
(――分かったわ、従魔になりましょう。子供たちもその方が伸び伸び育つでしょう)
「......」
――いや、流石に貴方レベルの大きさが千匹いるのはちょっと怖いよ?
黄色の透き通った画面が表示された――大量に。たぶん、子供たち含めた全員分。透き通ってても、数が多すぎて周りが見えなくなるレベル。エグい。エグすぎる。
「あー、全員じゃなくて大丈夫。リーダーである君が俺の従魔になったら、子供たちも皆契約したことになる」
(あら、そうなの?)
画面がどんどん減っていき、最後に一つだけ残る。
―――――
ナーススパイダー(女王)が従魔になります。
名前を決定してください。
―――――
「あ、名前......名前......『ナースクイーン』とかどう?」
(素敵ね、それでお願い)
めちゃくちゃ安直な提案なのに素敵と言われて驚く――もっと考えれば良かった。急なんだって。
―――――
従魔が増えました(3/50)
名前:ナースクイーン
種族:ナーススパイダー(女王)
―――――
ポンッと一斉に蜘蛛たちが変容する。ナースクイーンはトラックサイズから軽自動車サイズに。足元で蠢いていた最小でも五歳児くらいあった蜘蛛達はアシダカグモサイズに変わった。
「え、皆一緒に行くんですか......?」
一緒に外に出ていこうとする蜘蛛たちを見て、兵士が呟く。
「そうだな。蜘蛛たちもトロールたちと一緒で、ウミノハーシ国の国民になったということで」
「その......国王が卒倒しそうですね......」
――頑張れ、国王......!
別の兵士が震えながら言う。
「ダイチ様を信じてはいますが、その......大丈夫でしょうか?」
後ろを振り返るとおびただしい数の蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛。そういえば、全員どこまで着いてくるのだろう?
――あれ、街まで来ちゃったらパニックになるな!
「なぁ、ナースクイーン。皆町まで来るつもり?」
「......何も考えてなかったわね」
「まてまて、下手に出てきたら間違えてシンローに天誅されるかも! ナースクイーン以外、一回洞窟に戻ろう! 明日また迎えに来るから!」
俺の掛け声に、ナースクイーン以外の蜘蛛はトボトボと洞窟の中に戻って行った。
そして遠くの方から人の気配がし始める。
「クック、アソービ、テクテク無事だったのか!」
駆けてきたウミノハーシ国の兵士隊長・チョータイが息を切らしながら三人を抱擁した。兵士達は全員で来たらしく、皆三人の無事を祝う。
「ダイチ様、ありがとうございました!」
ピコンと画面が開いたが、このタイミングで通知が来るのは勘弁して欲しい。
「なんやかんやあったけど、上手く収まってよかったよ」
「その......後ろの蜘蛛は......?」
皆ナースクイーンから一定の距離を空けて、彼女を伺っている。
「新しく従魔になってくれた、ナーススパイダーの女王・ナースクイーンだ。他にも蜘蛛がいっぱい仲間になったからよろしく」
「そうなんですね......」
チョータイがボソッと「メイセキ殿は蜘蛛が苦手なんですよね」と言ったのが聞こえた。