第7話 好奇心に抗えず
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士官向け食堂にて、空の一皿にジョン少尉おすすめのきつねうどんを追加し、甘く炊いたお揚げと透き通った関西出汁に舌鼓を踊らせた私は、遭難者にも関わらずとても上機嫌であった。
どんな時でも大好物さえあれば、たちまちのうちに嫌なことを忘れられる。
これには軍医であるヒナコさんも安心したのか、それとも呆れたのか、無表情のまま小さなため息を吐いた。
そうして食事を終えた私は、後から合流したナギさんが食べ終わるのを待ってから、3人で士官向け食堂を出たのだ。
「......ウィラ、次はあなたの船室に案内する」
「じゃああたしは、カザミだけじゃ心配だからついていくぜ」
「......ナギ。助かる」
「ナギさん、めっちゃ助かりますわ」
「いいってことよ。賢いウィラだったら問題ないだろうけど、カザミのことだし、説明不足があっても困るだろ?」
ヒナコさんの説明不足は、さっきの食堂で身を持って知ったから全面的に同意だけど、素直に返すのも流石に意地悪かもしれないから、私は明後日の方向に向かって口笛を吹いてみた......全然音が鳴らなかった。
「おいウィラ、犬笛じゃねーんだから」
「なかなか練習しても上手くいかへん。どないしたら吹けるんや?」
「......ぶふっ!......気にしないで」
先頭を歩くヒナコさんは、一瞬両手で顔を覆う仕草を見せながら、肩をプルプルと震わせていたけど、背中越しだったからこれ以上のことはわからない。
普段から無表情の彼女が、どんな表情に変わっていたのか気になるのは、私の好奇心がくすぐられたからであろう。
「カザミだって笑うからな。ウィラ、お前もそのうち拝めるかもな?」
「......笑いたいときに笑えればいい。心のミネラル」
「ヒナコさんも笑うんやな。意外と言うたら失礼かもしれへんけど、うち、めっちゃ気になりますわ」
好奇心に駆られた私は、先導するヒナコさんの表情を見たいあまりに大きく足を踏み出したその時だった。
ゴウン!......と大きな音とともに、船が小刻みに揺れたことで、驚いた私は咄嗟に手すりを掴んだ。
「なんや今の!? 船揺れたけど大丈夫なんか!?」
「......速度を上げた。経済速度じゃなくなった」
「ああ、第一戦速ってところだな。機関室がヘマしたとは思えないけど、ちょっと案内している場合じゃないかもな」
「なんやなんや? 経済速度とか第一戦速とかどないしたんや?」
「......経済速度は燃料消費量が最も少ない。一方の戦速は、戦闘に向けて速度を上げた状態が、数段階にわたってある」
「つまりあれか、なんかあったんかいな?」
「......その可能性が高い。機関室も騒がしい」
「機関室って、目の前のここか!?」
「ああ、そうだよ。で、代将が考え無しに速度を上げるとは思えない。今ごろブリッジと機関室が、蜂の巣でも突いたような騒ぎだろうな......おい、手すりに掴まってろ!」
ナギさんの怒号と同時に、また大きな音と共に振動が走り、飛ばされないよう必死になって手すりを掴んだ。
ヒナコさんとナギさんは慣れた様子で、私と違って場馴れしているからか、2人の表情はとても落ち着いていた。
ようやく揺れに慣れてきた私も、あたりの様子を伺う程度の余裕が出てきたその時だった。
『ワーオ! ダメダコリャ!』
『機関長、後ろ! 後ろ!』
『機関長! 押しますか!? 押すんですか!?』
ちょうど良いのか悪いのか、機関室の前に居た私たちは、扉越しに聞こえる騒ぎを聞いて......不謹慎かもしれないけど、少しワクワクしてしまった。
「ほんならちょっと寄り道してもええか?」
「おいウィラ、お前は何を言ってるんだ?」
「......正気?」
「少しぐらいやったら手伝えるかもしれへんやろ? ほな、行くで!」
「ま、人手は必要かもな」
「......怪我人、出るかもしれない」
船室への案内はどこへやら?
相変わらず扉越しから怒号が飛び交う機関室に、私は好奇心に掻き立てられてしまった。
すでに扉に手を掛けていたからか、ヒナコさんとナギさんも無理に私を止めようとはしなかった。
本当、あのときの私にとっては、好奇心に抗うなんて選択肢など無かったのだ――――。
◇