第6話 一皿多い権利
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正直なところ、私は一般兵向けの食堂を選ぶつもりだった。
士官向け、上流階級向けなんて大学、実家の集まりでも散々経験している。
それよりも辺境宙域で生きる船員たちが、普段どんなものを食べ、どんな会話をしているのか気になったのだ。
しかし、ヒナコさんから返ってきた答えはこうだった。
「......今度連れて行く。今回はこっち」
「選べんのかーい!」
私の願いは、あっさりと却下されたのだ。
私が抗議する間もなく、ヒナコさんは立て続けにこう言った。
「......士官用食堂なら、一皿多く食べる権利がある。今のあなたに必要」
今にして思えば、軍医としてヒナコさんなりに気を遣ってくれたのだろう。
救助されたばかりで栄養不足、慣れない環境に戸惑う世間知らずの小娘(身長175cm)。
いきなり一般兵向けの食堂に放り込む訳にはいかない。
正常な判断力があれば、わかりきったことだった。
もっとも、このときの私は......。
「う、うまっ! これ、ほんまに軍艦の食事か!? 豪華客船と変わらんやないかーい!」
ひとたび目の前に食事が並んでしまえば、一般兵向けなのか、士官向けなのか、空腹の私にとってはどうでもよかった。
メインの肉料理と魚料理がそれぞれ少量ずつ、野菜をふんだんに使った焼き物とサラダ、そしてスープと焼きたてのパンが並んだ。
辺境宙域を長期航海する船にしては、不自然な程に生鮮食品がふんだんに使われているだけでも、贅沢なことに変わりなく、流石は士官向けの食事だけある。
ただ一つ、気になるのが......。
「......代将の方針で、一般兵向けの食事と変わらない。一皿多いだけ」
「いや、皿だけ置かれてもな。ただのトンチとちゃいますか?」
ヒナコさんに何度聞いても同じトンチを返されるだけであったが、それよりも一般兵向けの食事内容と同じであることについては、このときはまだ冗談だと思っていた。
また、ヒナコさんの説明不足で困惑する私を気の毒に思ったのか、食事を終えた一人の士官が声をかけてきた。
「軍医殿、それだけでは説明不足ですよ? 代将の計らいで、希望すれば好きなおかずを追加できることを伝えてください」
「......忘れてた」
「それ最初から言わんかーい! 士官さん、教えてくれてありがとうな」
「いえいえ。ああ、挨拶遅れました。私は航海士のジョン少尉です。あなたが噂の遭難者でしょうか?」
ジョンと名乗った恰幅のいい航海士は、短髪頭をかきながら覇気に満ちたいい笑顔を浮かべた。
「せやで。うち、ウィラ・フォン=ノイマンいいます。ジョン少尉、他のメニューはなにがあるんや?」
「そうでしたか。ウィラ様、これだけ元気でしたら、船員たちも安心するでしょう。あなたに合う今日のメニューですと、消化吸収を考えて......きつねうどんがおすすめですね」
「ケツネうどんやって!? ジョン少尉! ええこと教えてくれてありがとな!」
「おいおいなんか騒がしいと思ったら、ウィラ、お前もう大丈夫そうだな」
「あ、ナギさんや! 見ての通りうち、ピンピンしてはりまっせ」
「......注射怖がってたときと大違い」
「ヒナコさん、それだけは堪忍してや」
士官向け食堂で親切な航海士のジョン少尉に出会い、ナギさんも加わったことで賑わいを見せた一方、私の注射嫌いが《キイナ丸》に広がってしまい、事ある毎に擦られることになったのであった。
きっとあのあと、任務に戻ったジョン少尉が、マイケル少佐を始めとしたブリッジ要員たちに、大真面目に報告してしまったからなのかもしれない――――。
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