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第6話 一皿多い権利




◇



  正直なところ、私は一般兵向けの食堂を選ぶつもりだった。

 士官向け、上流階級向けなんて大学、実家の集まりでも散々経験している。

 それよりも辺境宙域で生きる船員たちが、普段どんなものを食べ、どんな会話をしているのか気になったのだ。

 しかし、ヒナコさんから返ってきた答えはこうだった。

「......今度連れて行く。今回はこっち」

「選べんのかーい!」

 私の願いは、あっさりと却下されたのだ。

 私が抗議する間もなく、ヒナコさんは立て続けにこう言った。

「......士官用食堂なら、一皿多く食べる権利がある。今のあなたに必要」

 今にして思えば、軍医としてヒナコさんなりに気を遣ってくれたのだろう。

 救助されたばかりで栄養不足、慣れない環境に戸惑う世間知らずの小娘(身長175cm)。

 いきなり一般兵向けの食堂に放り込む訳にはいかない。

 正常な判断力があれば、わかりきったことだった。

 もっとも、このときの私は......。

「う、うまっ! これ、ほんまに軍艦の食事か!? 豪華客船と変わらんやないかーい!」

 ひとたび目の前に食事が並んでしまえば、一般兵向けなのか、士官向けなのか、空腹の私にとってはどうでもよかった。

 メインの肉料理と魚料理がそれぞれ少量ずつ、野菜をふんだんに使った焼き物とサラダ、そしてスープと焼きたてのパンが並んだ。

 辺境宙域を長期航海する船にしては、不自然な程に生鮮食品がふんだんに使われているだけでも、贅沢なことに変わりなく、流石は士官向けの食事だけある。

 ただ一つ、気になるのが......。

「......代将の方針で、一般兵向けの食事と変わらない。一皿多いだけ」

「いや、皿だけ置かれてもな。ただのトンチとちゃいますか?」

 ヒナコさんに何度聞いても同じトンチを返されるだけであったが、それよりも一般兵向けの食事内容と同じであることについては、このときはまだ冗談だと思っていた。

 また、ヒナコさんの説明不足で困惑する私を気の毒に思ったのか、食事を終えた一人の士官が声をかけてきた。

「軍医殿、それだけでは説明不足ですよ? 代将の計らいで、希望すれば好きなおかずを追加できることを伝えてください」

「......忘れてた」

「それ最初から言わんかーい! 士官さん、教えてくれてありがとうな」

「いえいえ。ああ、挨拶遅れました。私は航海士のジョン少尉です。あなたが噂の遭難者でしょうか?」

 ジョンと名乗った恰幅のいい航海士は、短髪頭をかきながら覇気に満ちたいい笑顔を浮かべた。

「せやで。うち、ウィラ・フォン=ノイマンいいます。ジョン少尉、他のメニューはなにがあるんや?」

「そうでしたか。ウィラ様、これだけ元気でしたら、船員たちも安心するでしょう。あなたに合う今日のメニューですと、消化吸収を考えて......きつねうどんがおすすめですね」

「ケツネうどんやって!? ジョン少尉! ええこと教えてくれてありがとな!」

「おいおいなんか騒がしいと思ったら、ウィラ、お前もう大丈夫そうだな」

「あ、ナギさんや! 見ての通りうち、ピンピンしてはりまっせ」

「......注射怖がってたときと大違い」

「ヒナコさん、それだけは堪忍してや」

 士官向け食堂で親切な航海士のジョン少尉に出会い、ナギさんも加わったことで賑わいを見せた一方、私の注射嫌いが《キイナ丸》に広がってしまい、事ある毎に擦られることになったのであった。

 きっとあのあと、任務に戻ったジョン少尉が、マイケル少佐を始めとしたブリッジ要員たちに、大真面目に報告してしまったからなのかもしれない――――。



◇



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第6話 一皿多い権利




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  正直なところ、私は一般兵向けの食堂を選ぶつもりだった。

 士官向け、上流階級向けなんて大学、実家の集まりでも散々経験している。

 それよりも辺境宙域で生きる船員たちが、普段どんなものを食べ、どんな会話をしているのか気になったのだ。

 しかし、ヒナコさんから返ってきた答えはこうだった。

「......今度連れて行く。今回はこっち」

「選べんのかーい!」

 私の願いは、あっさりと却下されたのだ。

 私が抗議する間もなく、ヒナコさんは立て続けにこう言った。

「......士官用食堂なら、一皿多く食べる権利がある。今のあなたに必要」

 今にして思えば、軍医としてヒナコさんなりに気を遣ってくれたのだろう。

 救助されたばかりで栄養不足、慣れない環境に戸惑う世間知らずの小娘(身長175cm)。

 いきなり一般兵向けの食堂に放り込む訳にはいかない。

 正常な判断力があれば、わかりきったことだった。

 もっとも、このときの私は......。

「う、うまっ! これ、ほんまに軍艦の食事か!? 豪華客船と変わらんやないかーい!」

 ひとたび目の前に食事が並んでしまえば、一般兵向けなのか、士官向けなのか、空腹の私にとってはどうでもよかった。

 メインの肉料理と魚料理がそれぞれ少量ずつ、野菜をふんだんに使った焼き物とサラダ、そしてスープと焼きたてのパンが並んだ。

 辺境宙域を長期航海する船にしては、不自然な程に生鮮食品がふんだんに使われているだけでも、贅沢なことに変わりなく、流石は士官向けの食事だけある。

 ただ一つ、気になるのが......。

「......代将の方針で、一般兵向けの食事と変わらない。一皿多いだけ」

「いや、皿だけ置かれてもな。ただのトンチとちゃいますか?」

 ヒナコさんに何度聞いても同じトンチを返されるだけであったが、それよりも一般兵向けの食事内容と同じであることについては、このときはまだ冗談だと思っていた。

 また、ヒナコさんの説明不足で困惑する私を気の毒に思ったのか、食事を終えた一人の士官が声をかけてきた。

「軍医殿、それだけでは説明不足ですよ? 代将の計らいで、希望すれば好きなおかずを追加できることを伝えてください」

「......忘れてた」

「それ最初から言わんかーい! 士官さん、教えてくれてありがとうな」

「いえいえ。ああ、挨拶遅れました。私は航海士のジョン少尉です。あなたが噂の遭難者でしょうか?」

 ジョンと名乗った恰幅のいい航海士は、短髪頭をかきながら覇気に満ちたいい笑顔を浮かべた。

「せやで。うち、ウィラ・フォン=ノイマンいいます。ジョン少尉、他のメニューはなにがあるんや?」

「そうでしたか。ウィラ様、これだけ元気でしたら、船員たちも安心するでしょう。あなたに合う今日のメニューですと、消化吸収を考えて......きつねうどんがおすすめですね」

「ケツネうどんやって!? ジョン少尉! ええこと教えてくれてありがとな!」

「おいおいなんか騒がしいと思ったら、ウィラ、お前もう大丈夫そうだな」

「あ、ナギさんや! 見ての通りうち、ピンピンしてはりまっせ」

「......注射怖がってたときと大違い」

「ヒナコさん、それだけは堪忍してや」

 士官向け食堂で親切な航海士のジョン少尉に出会い、ナギさんも加わったことで賑わいを見せた一方、私の注射嫌いが《キイナ丸》に広がってしまい、事ある毎に擦られることになったのであった。

 きっとあのあと、任務に戻ったジョン少尉が、マイケル少佐を始めとしたブリッジ要員たちに、大真面目に報告してしまったからなのかもしれない――――。



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