第8話 旧世紀の遺物たち
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船が急に速度を上げたことで大きく揺れ、分厚い機関室の扉越しから聞こえる騒ぎに、湧き立つ好奇心に身を委ねてしまった。
ナギさんとヒナコさんは、私の行動に思わず呆れたことだろう。
あの時の私は、若かった故に......恐れなんて知らなかった。
躊躇なく分厚い扉に手をかけ、勢いよく開け放った先に広がったのは......。
「ワーオ! お前ら、べっぴんさんのお出ましだ!」
「機関長! それよりも後ろ! 後ろ!」
「よそ見してる場合ですか!? 押すんですか!? 押すんですよね!?」
「おうよ! 代将さんが、変なもの見つけたからな!」
「いや、あんたの方が変やで?」
「あんやって?」
「いや、おっちゃんの方が変やろ」
「ん? あんやって?」
「せやからおっちゃんの方が変やろ!」
「あん? あんやって!?」
「もうええっちゅうねん! 変なおっちゃんやな!」
「そうです。私がシムラー機関大尉です」
「うちはウィラ、ウィラ・フォン=ノイマンや......って、最初から聞こえとるやろ!?」
「あんやって? 私は耳が遠くてね......もっと近くで『PANG!』」
旧世紀の映像や、博物館の展示物でしか見たことがない、むしろそのまま持ってきたと言ってもいい大型の船舶用エンジンが鎮座する機関室。
そんな中で私に近付いてきたシムラー機関長の前に割り込んだナギさんは、なにかで彼の頭を思いっきりひっぱたいた。
「おいシムラー、生娘の前でなにやってるんだよ?」
「ナギさん、どこからスリッパなんか取り出したんや? ここ機関室やで?」
「お嬢ちゃん、ここは機関室だからな。使えるものはなんでも使う」
「......そう、ここは辺境宙域。何が起こるかわからない。ナギ、ハリセン使う?」
「おう、使わせてもらうぜ」
「いや、ヒナコさんもなにしとんねん! あんたら説明せんかーい!」
『――こちらカスガ。ブリッジより機関室へ。第三船速に上げろ!』
「うんうん、お嬢さんたち、もっと加速するから何かに掴まれ!」
「機関長! 代将の命令です! 押しますよ! 押すんですよね!」
「ん? あんやって?」
「あんたが機関長やろ! 代将さんからの命令やで!」
「よし、エモさん! ヘイリュー! 今だ! 第三船速!」
「「はいよ!」」
『ガシャン』というレバーの操作音と共に、船はまた大きく揺れ、轟音を響かせながら加速した。
船の癖をまだ知らず、思わず吹き飛びそうになった私は、恐怖で時間が止まってしまった。
その瞬間、ナギさんが咄嗟に私を抱き寄せ......いい匂いと柔らかい感触に包まれた。
私が幼い頃、マミーに抱きしめられた思い出がよみがえったような、ナギさんの優しさが垣間見えた。
「ワーオ! ダメだこりゃ!」
その最中、私の視界には、便乗しようとしたシムラー機関大尉が、ナギさんに足蹴にされてゆっくりと宙を舞う姿が映った。
「うんうん、機関長! 遊んでないで早く次の指示をお願いします!」
「あんやってエモさん? ヘイリュー、代将の命令に従えば大丈夫だぁ〜。次の船速に備えろ!」
「「はいよ!」」
こうして好奇心の赴くがままに飛び込んだ機関室で、変だけど気風のいい面白いおじさんたちに出会った。
旧世紀の遺物そのもののような《キイナ丸》。
その中でもこの機関室は、私の好奇心を満たすお気に入りの一つになった。
「おいカザミ! 生きてるか?」
「......死んでる」
このとき半ば忘れかけていたヒナコさんは、重力装置が備えられているはずの船なのに、揺れに便乗したのか、何故かT型ほうきに跨りながらふわりと宙を舞っていた――――。
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