第9話 動くから大丈夫だぁ
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ナギさんの温もりに包まれた私は、何故かT型ほうきで魔女のように飛ぶヒナコさんを呆然と眺めながら、旧世紀の骨董品が鼓動する音、揺れを身体いっぱいに感じていた。
いくら旧世紀の船だからと言っても、宇宙空間で内燃機関が正常に動いていることを不思議に思った。
「シムラー機関長、これ、内燃機関とちゃうんか?」
「あんやって?」
「そらもうええっちゅうねん。ここ宇宙空間やろ? なに燃やして動いとんねん?」
「うんうん、お嬢さん、そりゃあ燃料と空気だよ。ヘイリューだってそれぐらいわかるよな?」
「当然ですよ、エモさん。船の中に空気があるじゃないですか。ねえシムラー機関長?」
「そうです、船の空気を燃やしているんです」
「それ燃やしたら、あっちゅうまに空気が無くなって、船もうちら死ぬで?」
「燃料用の空気は別系統だぁ。酸化剤も積んでるから大丈夫だぁ」
「ほんならあれか、メインの推進機関とはちゃうんか? そらな、大気圏内やのうて宇宙空間やし、発電用ならわかるんやけどな」
「うんうん、お嬢さん冴えてるね」
「お嬢さんすごいな! 俺なんか最初は、なんでこれ使ってるのかわからなかったからな」
「そうです、これは発電用なんです」
「ほぇ~、せやけどわざわざ旧世紀のこれ、なんで発電用に使っておるんや? もっと効率ええのあるやろ?」
「お嬢さん、ちゃんと新しいのもあるよ!」
「あるんかーい! なんで使わへん?」
「動くから大丈夫だぁ!」
「話がぜんぜん進まへんわ!」
「うんうん、お嬢さん。載せ替えたら架台から配管、冷却系、重量バランスからやり直しですからね」
「......あー、そら面倒やわ」
「そうなんです。だから使っているんです」
「せやな。シムラー機関長、最初からそう言わんかーい!」
「へへっ、賢いお嬢さんなら、すぐ理解するから大丈夫だぁ」
「全くよ、シムラー機関長、女を見る目はちゃんとあるからな」
「......そう。こう見えてシムラー機関長は、意外と真面目」
「いや、全くそうは見えへんけど、人は見かけによりまへんな。ってかヒナコさん......いつの間にか戻っとるんかーい!」
さっきまで魔女のように飛んでいたはずのヒナコさんは、いつの間にか私とナギさんの隣に立っていた。
T型ほうきはどこにも見当たらず、謎は深まるばかり。
旧世紀の骨董品が正常に動いているだけで奇跡......いや、機関室のみんなが頑張って働いているから、当然なのかもしれない。
でも、当然のように飛んでたヒナコさんは、いったい何者なのか?......このときの私は、ただ好奇心を掻き立てられるがままであった。
「......内緒」
「心の声読まんでええから!」
「おいウィラ、もう十分満足しただろ?」
「せやな。ほんじゃおっちゃんたち、今度遊びに行くでー」
こうして機関室を出た私たちが、再び通路を進み始めたそのときだった。
《《――異常熱源体を探知。繰り返す。異常熱源体を探知》》
「おいおい、早速来たか」
「......代将の勘、索敵レーダーより優秀」
「なんや? いったいどないしたんや?」
けたたましいアラーム音と共に流れたアナウンス。
艦内の様子はどこか慌ただしく、船員たちは駆けずり回っていた。
常識の通じない辺境宙域は、まだ何も知らなかった私に洗礼を浴びせようと、静かに蠢いていたのだ――――。
◇