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24.エリザベスと紫の木

『いいわよいいわよソフィアちゃん。あなた、自分がのし上がりたいがために嘘ばかりついてきていたから、嘘をついてはいけないところやついてはいけない嘘がもうわからないのよね。かわいいわあ、あたくし、大好きよ、そういうかわいそうな娘が!』

 笑い続ける巨大な魔女を見上げ、エリザベスとソフィアは小さく震えていた。

『トゥナ、それで? このちっぽけな駒ちゃんたちは何をしたらいいの? 虐めるのは面白いけどそろそろあたしたち飽きちゃう~』

 ゲームの観客として一緒に覗き込んでいるらしい魔女がひとつあくびをしながら先を促すと、ペイルトゥナはあらいけないと呟いてぴたりと笑うのを止めた。

『そうね。嘘つきソフィアちゃんへのペナルティはあとで考えることにしましょう~。ゲームの内容に話を戻すわよ。さっきも言ったけど本当に簡単なのよ。ねえあっちを見て。小さなお山が見えるでしょう?』

 ペイルトゥナが『あっち』という単語を口にすると、真昼の空なのに一筋流星が奔る。その星が消えた先には確かにちいさな山が見えた。

『あのお山のてっぺんにエリザベスちゃんのお顔を置いたわ。お面のように、誰でも被れるようにしてあるの。エリザベスちゃんとソフィアちゃん、先にそこにたどり着いてお面を被った方が先。簡単でしょ? もう村から出られるようになっているから......』
「......ッ!!」
「きゃっ......!?」

 ペイルトゥナが話し終わるのを待たずにエリザベスを突き飛ばし、ソフィアが走り出した。
 虚をつかれたエリザベスはぽかんと口を開けてその場に尻もちをつく。

『あらあらまだゲームスタートとも言っていないのに......まあいいわ、ゲームの始まりよぉ』
『エリザベス! 立って!! 走るんだよ!!』
『アルちゃま~、これ以上の助言は禁止よ!』
『こっちからの声は聞こえないようにするわね』
『二人とも頑張って~』

 アルフォンスの声を聞いてエリザベスは我に返った。柔らかい室内履きのソフィアはまだそれほど遠くには行っていない。

(ペイルトゥナは山があるとしか言ってないけど、単純なかけっこだけとはどうしても思えないわ)

 ペイルトゥナは美しく気高く、発する言葉には一定の筋が通っているように聞こえる。
 しかし、自分たちが楽しむことができればそのために他の人間を自分勝手に扱うことにまったくためらいがない。
 このゲーム内でも命を落とすような災いがないとは限らない。

(何か身を守るものは......)

 ソフィアを追いかけながらあたりを注意深く見ると、道の脇に薪割りの手斧が落ちていた。エリザベスはそれを拾い上げて道に戻る。
 ゲームの中の物だからだろうか。手斧は羽のように軽く、たおやかなエリザベスの手でも振ることができそうだった。

(あそこが村の出口ね)
 
 村の出口にたどり着くころ、エリザベスはソフィアに追いついていた。
 二人とも貴族の令嬢であるから普段から走ったりはしていない。特にエリザベスはアルフォンスの塔にくるまで実家で長いこと軟禁されていたので足が遅かった。
 そんなエリザベスがソフィアに追いつくことができたのはソフィアが部屋履きのままなのに対して旅装用のブーツを履いていたからだ。

「何それ、ずるい!」

 ソフィアはエリザベスが手斧を手にしているのを見てそう叫ぶと、きょろきょろと周りを見回してこぶし大の石を拾った。
 目的地の山は森に囲まれている。そこに向かって二人の令嬢はややもたもたした徒競走を始めた。

「きい、きい、きい」
「はあ、はあ、えっ!? 何?」
「何あれ、気持ち悪い!」
 
 慣れない長距離走にひいひいいいながら走る二人に森から何かがこちらに向かって駆けてくるのが見える。それは黒く干からびた小人たちだった。
 しわくちゃの顔をゆがめてきいきいと耳障りな声を出す小人たちはふたりに駆け寄ると、足にしがみつき纏わりついてくる!

「離しなさい! 汚らわしい! わたくしは貴族なのよ!」

 腰に抱き着かれたソフィアは握った石で小人たちの頭をガンガン叩いて怯ませた。そして彼らを振り払い、森へと突き進んでいく。

「は、はなして、わたしも行かなきゃ......」

 小人たちを石で殴るソフィアを見て、小人たちがそれで簡単に離してくれるということはエリザベスにもわかっていた。
 しかし、自分が持っているのは手斧。こんなもので攻撃したら小人たちが死んでしまう。ゲームの中だからといってそんなことをしていいのかとエリザベスは悩んでしまう。
 しかし、このゲームに負けたらアルフォンスの顔が奪われてしまうのだ。エリザベスは目を瞑って覚悟を決めると、手斧を振り上げた。

「たすけて。姫をたすけて。たすけてくれたら山への近道を教えるよ」
「えっ!?」

 目を閉じた瞬間、さっきまできいきいとしか聞こえていなかった小人の声が急に明瞭な言葉に聞こえた。驚いて目を開けると、やっぱりきいきいとしか聞こえない。
 確かめるため、エリザベスはもう一度目を閉じた。

「......姫は悪い木に捕まってしまったんだ。僕らは呪いで斧を持っても手からすっぽぬけてしまって助けられない。お嬢さんの持っている斧で悪い木を切って姫を助けて!!」
「......それは本当? わたし、あの娘より早く山のてっぺんまで行かないといけないの。もし嘘だったら取り返しのつかないことになるわ」
「お願い、ぼくらはもうずっとここで助けを求めてるんだ。ここに誰かが来ることはほとんどない。これを逃したらまた姫はずっと閉じ込められたままなんだ。お願いだよ、信じて助けて!」

 エリザベスはそれを聞いて首の後ろをぞっとさせた。もしかしたらこの小人たちもソフィアと同じようにこのゲーム盤に閉じ込められた人間なのではないだろうか。そう思うと、放っておいてはいけないような気になってくる。

「......わかったわ。きっと近道を教えてね」
「ありがとう、こっちだよ!」

 森の中は茨で入り組んだ道がいつまでも続いている。しかし小人がそこを通ると茨は勝手によけて開いて道を作る。
 先に進んだソフィアは自分でこのいばらの道を抜けなければいけない。
 これなら寄り道しても後れを取ることはないのではないかとエリザベスは少しだけ安心した。

「きいきい」

 目を開けていると小人たちの言葉はわからないが、姫を捕まえている悪い木というのはこれなのだろうと一目でわかるような禍々しい木がエリザベスの前に聳え立っていた。
 その木は濃い紫色の幹に目玉のようなこぶがぼこぼこと浮き出し、いかにもおぞましい。

「木なんか切ったことないけど......いったいどうすればいいの?」

 小人たちに問いかけるとエリザべスはまた目を閉じる。
 小人たちの話によると木には弱い所があるらしく、そこを斬りつけて木の幹に隙間を開けて姫を救い出さなければならないらしい。
 そしてその弱点というのが沢山浮き出している目玉のようなこぶだと言うのだ。

「ん......わかった。やるわ! えーいッ!!」

 手斧を振り上げてこぶに向かって振り下ろすと、斧はスウィートロールにフォークを刺した時のように抵抗なくさくりとめり込む。
 そしてどす黒い液体が吹き出し、エリザベスのドレスを汚した。

「きゃっ......うう、アルフォンスが用意してくれたドレスがどろどろに......」
「きいきい!」

 樹液は気持ち悪いがこれくらいで怯んではいられない。次のこぶに狙いを定めては手斧を振り下ろす。
 最後のこぶを斬りつけるころにはエリザベスの服は最初から黒い布であつらえたかのように真っ黒に変わっていた。

「あら? 木の幹にこんなの、あったかしら......」

 手の甲で汚れた頬をぬぐうとエリザベスはさっきまでなかったヒビが木の幹に現れ、そこから光が漏れているの気が付く。
 ヒビはみしみしと音を立ててみるみるうちに広がり、紫の木をまっぷたつにしてしまう。
 そして木は左右に割り開かれ、中からは光り輝く美しい女性が現われたのだった。
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顔なし令嬢は引きこもり魔術師に溺愛される作者:ケロリビドー
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24.エリザベスと紫の木

『いいわよいいわよソフィアちゃん。あなた、自分がのし上がりたいがために嘘ばかりついてきていたから、嘘をついてはいけないところやついてはいけない嘘がもうわからないのよね。かわいいわあ、あたくし、大好きよ、そういうかわいそうな娘が!』

 笑い続ける巨大な魔女を見上げ、エリザベスとソフィアは小さく震えていた。

『トゥナ、それで? このちっぽけな駒ちゃんたちは何をしたらいいの? 虐めるのは面白いけどそろそろあたしたち飽きちゃう~』

 ゲームの観客として一緒に覗き込んでいるらしい魔女がひとつあくびをしながら先を促すと、ペイルトゥナはあらいけないと呟いてぴたりと笑うのを止めた。

『そうね。嘘つきソフィアちゃんへのペナルティはあとで考えることにしましょう~。ゲームの内容に話を戻すわよ。さっきも言ったけど本当に簡単なのよ。ねえあっちを見て。小さなお山が見えるでしょう?』

 ペイルトゥナが『あっち』という単語を口にすると、真昼の空なのに一筋流星が奔る。その星が消えた先には確かにちいさな山が見えた。

『あのお山のてっぺんにエリザベスちゃんのお顔を置いたわ。お面のように、誰でも被れるようにしてあるの。エリザベスちゃんとソフィアちゃん、先にそこにたどり着いてお面を被った方が先。簡単でしょ? もう村から出られるようになっているから......』
「......ッ!!」
「きゃっ......!?」

 ペイルトゥナが話し終わるのを待たずにエリザベスを突き飛ばし、ソフィアが走り出した。
 虚をつかれたエリザベスはぽかんと口を開けてその場に尻もちをつく。

『あらあらまだゲームスタートとも言っていないのに......まあいいわ、ゲームの始まりよぉ』
『エリザベス! 立って!! 走るんだよ!!』
『アルちゃま~、これ以上の助言は禁止よ!』
『こっちからの声は聞こえないようにするわね』
『二人とも頑張って~』

 アルフォンスの声を聞いてエリザベスは我に返った。柔らかい室内履きのソフィアはまだそれほど遠くには行っていない。

(ペイルトゥナは山があるとしか言ってないけど、単純なかけっこだけとはどうしても思えないわ)

 ペイルトゥナは美しく気高く、発する言葉には一定の筋が通っているように聞こえる。
 しかし、自分たちが楽しむことができればそのために他の人間を自分勝手に扱うことにまったくためらいがない。
 このゲーム内でも命を落とすような災いがないとは限らない。

(何か身を守るものは......)

 ソフィアを追いかけながらあたりを注意深く見ると、道の脇に薪割りの手斧が落ちていた。エリザベスはそれを拾い上げて道に戻る。
 ゲームの中の物だからだろうか。手斧は羽のように軽く、たおやかなエリザベスの手でも振ることができそうだった。

(あそこが村の出口ね)
 
 村の出口にたどり着くころ、エリザベスはソフィアに追いついていた。
 二人とも貴族の令嬢であるから普段から走ったりはしていない。特にエリザベスはアルフォンスの塔にくるまで実家で長いこと軟禁されていたので足が遅かった。
 そんなエリザベスがソフィアに追いつくことができたのはソフィアが部屋履きのままなのに対して旅装用のブーツを履いていたからだ。

「何それ、ずるい!」

 ソフィアはエリザベスが手斧を手にしているのを見てそう叫ぶと、きょろきょろと周りを見回してこぶし大の石を拾った。
 目的地の山は森に囲まれている。そこに向かって二人の令嬢はややもたもたした徒競走を始めた。

「きい、きい、きい」
「はあ、はあ、えっ!? 何?」
「何あれ、気持ち悪い!」
 
 慣れない長距離走にひいひいいいながら走る二人に森から何かがこちらに向かって駆けてくるのが見える。それは黒く干からびた小人たちだった。
 しわくちゃの顔をゆがめてきいきいと耳障りな声を出す小人たちはふたりに駆け寄ると、足にしがみつき纏わりついてくる!

「離しなさい! 汚らわしい! わたくしは貴族なのよ!」

 腰に抱き着かれたソフィアは握った石で小人たちの頭をガンガン叩いて怯ませた。そして彼らを振り払い、森へと突き進んでいく。

「は、はなして、わたしも行かなきゃ......」

 小人たちを石で殴るソフィアを見て、小人たちがそれで簡単に離してくれるということはエリザベスにもわかっていた。
 しかし、自分が持っているのは手斧。こんなもので攻撃したら小人たちが死んでしまう。ゲームの中だからといってそんなことをしていいのかとエリザベスは悩んでしまう。
 しかし、このゲームに負けたらアルフォンスの顔が奪われてしまうのだ。エリザベスは目を瞑って覚悟を決めると、手斧を振り上げた。

「たすけて。姫をたすけて。たすけてくれたら山への近道を教えるよ」
「えっ!?」

 目を閉じた瞬間、さっきまできいきいとしか聞こえていなかった小人の声が急に明瞭な言葉に聞こえた。驚いて目を開けると、やっぱりきいきいとしか聞こえない。
 確かめるため、エリザベスはもう一度目を閉じた。

「......姫は悪い木に捕まってしまったんだ。僕らは呪いで斧を持っても手からすっぽぬけてしまって助けられない。お嬢さんの持っている斧で悪い木を切って姫を助けて!!」
「......それは本当? わたし、あの娘より早く山のてっぺんまで行かないといけないの。もし嘘だったら取り返しのつかないことになるわ」
「お願い、ぼくらはもうずっとここで助けを求めてるんだ。ここに誰かが来ることはほとんどない。これを逃したらまた姫はずっと閉じ込められたままなんだ。お願いだよ、信じて助けて!」

 エリザベスはそれを聞いて首の後ろをぞっとさせた。もしかしたらこの小人たちもソフィアと同じようにこのゲーム盤に閉じ込められた人間なのではないだろうか。そう思うと、放っておいてはいけないような気になってくる。

「......わかったわ。きっと近道を教えてね」
「ありがとう、こっちだよ!」

 森の中は茨で入り組んだ道がいつまでも続いている。しかし小人がそこを通ると茨は勝手によけて開いて道を作る。
 先に進んだソフィアは自分でこのいばらの道を抜けなければいけない。
 これなら寄り道しても後れを取ることはないのではないかとエリザベスは少しだけ安心した。

「きいきい」

 目を開けていると小人たちの言葉はわからないが、姫を捕まえている悪い木というのはこれなのだろうと一目でわかるような禍々しい木がエリザベスの前に聳え立っていた。
 その木は濃い紫色の幹に目玉のようなこぶがぼこぼこと浮き出し、いかにもおぞましい。

「木なんか切ったことないけど......いったいどうすればいいの?」

 小人たちに問いかけるとエリザべスはまた目を閉じる。
 小人たちの話によると木には弱い所があるらしく、そこを斬りつけて木の幹に隙間を開けて姫を救い出さなければならないらしい。
 そしてその弱点というのが沢山浮き出している目玉のようなこぶだと言うのだ。

「ん......わかった。やるわ! えーいッ!!」

 手斧を振り上げてこぶに向かって振り下ろすと、斧はスウィートロールにフォークを刺した時のように抵抗なくさくりとめり込む。
 そしてどす黒い液体が吹き出し、エリザベスのドレスを汚した。

「きゃっ......うう、アルフォンスが用意してくれたドレスがどろどろに......」
「きいきい!」

 樹液は気持ち悪いがこれくらいで怯んではいられない。次のこぶに狙いを定めては手斧を振り下ろす。
 最後のこぶを斬りつけるころにはエリザベスの服は最初から黒い布であつらえたかのように真っ黒に変わっていた。

「あら? 木の幹にこんなの、あったかしら......」

 手の甲で汚れた頬をぬぐうとエリザベスはさっきまでなかったヒビが木の幹に現れ、そこから光が漏れているの気が付く。
 ヒビはみしみしと音を立ててみるみるうちに広がり、紫の木をまっぷたつにしてしまう。
 そして木は左右に割り開かれ、中からは光り輝く美しい女性が現われたのだった。
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