ホーム百合の国のプリンセス♂祝福の贈り物
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祝福の贈り物

 カチューシャが王宮に世話になるようになって五日ほど。もう色々諦めて王宮で過ごすことに慣れてきたある日、プリムと二人きりになる機会があったのでカチューシャは尋ねてみた。
「プリムって、ティアラと幼馴染で、親友で、お付のメイドなんだよね?」
「はい! 姫様とは10年くらいのご縁ですね!」
「それで、この国の例に漏れず、女の子好き」
「勿論ですとも!」
 レズビアンの多いユリゾンリリィとはいえ、全ての女性がそうな訳では無い。しかし、プリムはやはりその例に漏れないようだった。
 とはいえ、コレは聞くまでも無く、これまでのセクハラの数々で知っていることだが。
 なお、カチューシャは気配に敏感なので彼女のセクハラは油断していた最初以外、接触されるものは勿論、覗きなどは全て未然に防いでいる。
「プリムは仲の良いティアラが私と仲良くしてること、イヤじゃないの?」
「焼き餅とか、嫉妬とかですか?」
 カチューシャは自分にぞっこんな親友をずっと側で見ていているプリムの事が心配だった。
 彼女からジェラシー等は感じたことはないが、普段のこのテンションは誤魔化すために無理をしているのではないかと。
「私に、大事な人が取られちゃってるんじゃないかなって」
「たしかに姫様は大事な人で、主君で、親友ですが...。私と姫様はお互いに恋愛感情はさっぱり持ってませんよ?」
「そうなんだ...?」
 恋はもちろんあまり友人もいたことのないカチューシャなので、それも同性愛者の同性に対する友情と恋心の線引きの感覚はどんなものかわからないでいる。
「セクハラはしますけどね!」
「するんだ...」
 恋愛感情とエロスは別感情! とプリムはのたまう。もしかすると彼女なりのスキンシップなのかもしれない。
「そもそも私、既婚者ですし」
「ええ!? 結婚してたの!?」
 と言って、プリムは首にかけてるペンダントを取り出すと先についた結婚指輪をカチューシャに見せる。
 本来は指にするものだが、職業柄指輪は付けられ無いし、付けられる時間のほうが少ないので王宮勤務の既婚者は皆、こうして首に掛けている。
「へー...誰だろう...全然気が付かなかった...。やっぱり王宮の人?」
 指輪を見つめながらカチューシャはプリムの相手を思い浮かべるが、まるで心当たりがない。彼女と過ごしてまだ四日とはいえ、ティアラと一緒にいる都合上、結構な時間見ているはずなのに。
「はい! 王宮メイド長が私の奥さんですね!」
「へー、あの真面目なメイド長さんが...意外だな...って」
 とても馬が合うようにおもえない組み合わせだが、凸凹コンビみたいなものだろうか、と考えてもっと肝心なことを思い出す。
「メイド長さんって、キャペリンさんだよね?」
「他にメイド長はいませんよ!」
「キャペリンさんって、他の国から来たんだよね?」
「そうですね!」
「プリムを産んで」
「はい! 私を育てるための移籍ですね!」
「いやいやいやいやいや...」
 なんてこと無い風にプリムは肯定しているが...。
「実の娘と再婚したってことぉ!?」
「そうなりますね! あ、プロポーズは私からですよ〜」
 この国、ハンパない...。
 自分も絆されないようにしなくては、そう思うカチューシャだった。


百合の国のプリンセス♂ #3祝福の贈り物
挿絵AIで作った挿絵


「うーん、王宮で過ごす休日って新鮮だなぁ」
 冒険者は自由業だから決まった休みとかはない、なので私は根を詰めないように大体完了した仕事の回数で休みをとるようにしている。
「王都の方もちゃんと観光してないし、ティアラに案内してもらおうかな」
 ここ数日の仕事はどれも難しいものではなかったけれど、友達とやる仕事は新鮮でとても楽しかった。初日は凄い恥ずかしい思いしちゃったけれど...。
 ティアラのアプローチも真っ直ぐだけれど嫌なものではなくて、ノーマルの私が戸惑わないようちゃんと距離感を保ってくれてる。
 ホントは男の子で、男の子が好きな自分がノーマルと言えるかは微妙だけれど...。
(でも私ばかり与えられてなんだか申し訳ないなぁ...、なにかお礼をできないかなあ)
 私に好かれたい振り向かせたいという好感度上げありきの行動としても、ティアラの愛情は正直嬉しい。
 何かお返しができればいいんだけど、ティアラはそうは見えなくても王女様、冒険者の私にできるようなお礼なんて何かあるかなあ。
「アナタがドロボーネコね!」
「うん?」
 考えごとしながら歩いてたら、後ろから小さい気配に声を掛けられた。
 振り向いてみると、ブロンドの髪に派手なドレスの5歳くらいの女の子が仁王立ちしている。
「ドロボー猫?」
 私のことをそう呼んでいたけど、初対面のこの子にそう呼ばれる身に覚えがない。
 王宮にいる子供と言うことは、ここで働いてるどなたかの子供かな?
 ん、そういえば王宮勤めの使用人さんたちのお子さんはみんな王宮で面倒見られてるらしいのに、今まで見た覚えがないような?
「そうよ! わたくしのおねーさまをとったドロボーネコ! アナタのせいで、おねーさまがちっともあそんでくれないわ!」
 私の身の回りの誰かの妹さんらしい。となるとティアラか、私の世話係になってるボンネットさんが有力候補なんだけど...。
 顔をじっくり見てみるが...ダメだ、どっちとも似てない...。姉妹って言っても養子なのかも。
「こんにちは小さなお嬢様。私の名前はドロボー猫さんじゃなくて、カチューシャよ。小さなお嬢様のお名前、お聞きしてもいいかな?」
 取り敢えず近付いて軽く屈んで、女の子に自己紹介を促して見ると...
「よくおききなさい! わたくしはユリゾンリリィ・だいにおうじょ! ロリエルよ!」
「まぁ、ティアラの妹さん!」
 第二王女を名乗ると言うことは、間違いなくティアラの妹。お姉様が私にぞっこんで構ってくれないから、焼き餅焼いてるのね、可愛い。
「ごめんねロリエル様、アナタの大事なお姉様を盗っちゃって」
 敵意向きだしのロリエルちゃんに素直に謝りながら、その頭を撫でると、キョトンとして大人しくなる。
「う、うん...」
 さらに撫で続けると目を細めてなすがままになっている。可愛い...。
「見つけたー! ひとりで離宮から出ちゃダメでしょー!」
「はっ!?」
 私の方も撫でるのが心地良くなってると、ロリエルちゃんを探してたらしいティアラがやってきた。
 その声に我に返ったロリエルちゃんはティアラの方へ逃げだす。
「おねーさま! このオンナてがはやいですわ! わたくしまでろーらくされるところでしたわ!」
「あらロリエル難しい言葉知ってるわね...誰に教わったの?」
「プリム!」
 子供の教育にも良くないメイドだなぁ...。
「とにかく! ひとりで離宮から出ちゃいけません!」
「だって...だって...! おねーさまがあそびにきてくれないんだもん!」
 ここ数日で見たことがないと思ったら、どうやらロリエルちゃんは普段は離宮というところに居るらしい。お姉ちゃんが構ってくれない不満と私への焼き餅で勝手に出てきちゃったみたいね。
「事情はなんとなくしか分からないけど、私にかまけて大事な妹を放置するティアラも良くないと思うなー」
「うぐっ、カチューシャにそう言われると...」
「あのオンナのいうとーりですわ!」
「アンタはどっちに付いてんのよ」
「ワタクシはワタクシのみかたのみかたですわ!」
 うーん、この歳にして既にこの王女様気質、将来有望...なのかな?
「いいから、離宮に戻るわよ」
「いーやーでーすーわー!」
 そして駄々っ子化、なんと小さな女王様。
「ほらロリエルちゃん、今日はお姉様が一緒に居てくれるから、離宮に戻ろう?」
 ロリエルちゃんに近付いて、また頭を撫でると大人しくなる。
「はい!」
「なんでカチューシャの言うことは聞くのよ!」
「ゴッドハンドですわ!」
 どうやら私の手がお気に召したらしい。


 脱走したロリエルを捕まえて、カチューシャと共に離宮へ戻る。
「離宮には私も入れるかな?」
 と聞くので大丈夫と伝えると、今日は休みだからロリエルのために私と一緒に離宮にいてくれるらしい。
 離宮は王宮で働く使用人たちの子供と王族の養子、つまり王女が10歳まで過ごす場所。
 使用人は仕事内容の都合でどうしても住み込みになるので、仕事中は離宮で面倒見るのがウチの国の福利厚生。
 一応預かれるのは女の子だけ(ていうか王宮が男子禁制)って事になってるけど、女の子の格好をさせれば平気だったりする。まぁ大体みんな養子でこんな国の親だから、結局女の子しかいないけど。
「王女だけが大きくなるまでお城から出られないの?」
「養子にとったあとは、女の子が好きになるようそいう環境におくんだって」
 だから王族の養子に取れるのは思春期前の子に限定される。私が貰われたのも6歳の頃だっけな?
「ロリエルはもうおんなこがスキですのに〜」
「だから貰われるときに何度も確認したでしょー、大きくなるまでお城から出られないわよって」
「りきゅーにゆーへいまではきいてませんわー! サギですわー!」
「幽閉て...」
 別にメイドと一緒なら王宮の中は自由に動けるんだけどな...。
 とはいえ分別が付かない子供のうちにそんな選択をさせるのも実際ズルい話よね。私は事情が事情だったし、プリムが居てくれたから平気だったけど。
「おや、ティアラ様たちが捕まえてくれましたか」
 他の子供たちはお昼寝中なのでロリエルの部屋に帰ると、ボンネットがいた。
「捜索してた風な言い方なのに、なんでここにいんのよ」
「ノコノコと部屋へ戻る可能性もあったので、待ち伏せしてサボっておりました」
「建前と本音両方出てるよ...」
「この国で大事になるようなことなんてまず無いですから、急いで捕まえる事もありませんでしょう」
「それはそうだけどさ」
 私もプリムに聞いて適当に探してただけだし。
「ボンネット! きょーのキロクはいかがかしら!」
 うん? 記録?
「前回の記録を大幅塗り替えですね。おめでとう御座いますロリエル様」
 そしてボンネットとロリエルがイエーイとハイタッチ。挿絵AIで作った挿絵
「そう言う遊びにされてるみたいね」
「完全にグルじゃんこのメイド...」
 仕事してよー! もー! 主の私たち王族までダメに見えるじゃんー!


「スゥー...スゥー...」
 本来はお昼寝の時間ということもあり、ロリエルちゃんはひとしきり私たちに甘えたあと眠ってしまった。
「結局この子、一瞬でカチューシャに懐いてたわね」
 私の膝を枕に眠るロリエルちゃんは最初こそ敵意剥き出しだったけど、すぐに懐いてくれた。
「姉妹揃って瞬殺ですか」
「は!? 私のは一目惚れだし! 絆されたわけじゃないし!」
 そこは誇るとこなのかな...。
「カチューシャ様、子供をあやすのお上手ですね」
「旅行者やキャラバンの護衛で小さい子に懐かれることが多かったからかな?」
「カチューシャ、ママ味あるものねー」
「ママ味て...。でも、子供は好きだよ」
 血なまぐさい冒険者生活を忘れさせてくれるというか、平和を実感させてくれるというか...。冒険者生活に不満はないつもりでもどこかで疲れていて、子供との触れ合いは私を癒してくれる。
 年の離れた妹にも憧れたなあ、何も知らないでお母さんにねだったら困らせちゃったっけ。
「......カチューシャはさ...。やっぱり自分の子供を産みたいと思うのかな?」
「ティアラ?」
 唐突にティアラが不安そうに尋ねてくる。そもそも子供を産めない私はその質問の意図が分からなくて、聞き直してしまった。
「私のプリンセスに...この国の王族になるってことは、カチューシャから子供を産む喜びを奪うってことだからさ...」
 あぁ...そっか...、王族の異性婚が禁じられてるのは子供を産まないため、魔王を復活させないための取り決め。ティアラがノーマル(?)の私を口説くっていうのは、そういう事になるんだ...。
「えっと...。今はまだ産みたいとは思わないし、私は家族であるのに血の繋がりは絶対だとは思わないかな...」
 そもそも私は子供を産めないし...。ううん、もし産めたとしても“私と同じ因果"を子供に背負わせたくはないから、産むことはないだろうし、私の子供を産んでもらう事もないつもり。
「そ...そう、よかった...」
「よかったですね、ティアラ様」
 ティアラにとってはかなり覚悟の必要だった質問みたいで、安心するとともに脱力していた。
「先のことは分からないけどね...」
 一目惚れと言っているけど、ティアラはとても真剣に私の事を好いてくれている。
(私は...どうなんだろ...)
 男であることを黙って、騙して...。ティアラの気持ちに応えるつもりがあるのか自分でもわからないのに、一方的に貰ってばかりで...
 真剣なティアラに対して、なんて自分は不誠実なんだろう...。
「あー...ごめん! ちょっと重かったよね! まだ困るよねこんな話!」
「少々急いた質問ではありましたね」
 考えこんだ私を勘違いしてティアラが重くなった空気を取り繕う。でもたしかに、今する話でもなかったかも...。

 うわー、やっちゃったー。タイミングミスったー...。
 カチューシャにとってまだ私は友達でしかないのに、こんな覚悟がいるような事を聞くなんて...私のバカ!
「ところで、やっぱりロリエルちゃんとティアラは血縁じゃないんだよね?」
「あーうん、ロリエルは去年貰われてきた...移民だっけ?」
「隣国ジ・オからの移民の中に居た孤児ですね。西の領地で保護され去年の始めに第二王女として貰われました」
 保護された時は名前さえなく、ロリエルという名前はこっちに貰われてから付けた名前。最初出会ったときは大人しかったのに、1年でしたたかに育ったものねえ。
「ジ・オ皇国出身の子なんだ。どう言う理由で第二王女に選ばれたの?」
「うん?」
「魔王の加護で平和ならティアラにもしものことなんてないだろうし、血縁がないんじゃ政略結婚にも出せないだろうし...。第二王女は何のためにいるのかな?って」
 あー、たしかに。それだと継承権で揉めるだけの第二王女なんて不要よね。
「第二王女は王妃候補だね」
「えっ」
「この先、私に相手が見つからなかった時に、姉妹で婚姻するの」
「血の繋がりがないとはいえ、姉妹で!?」
「初代国王の勇者からして実の妹を王妃にしてるしね」
 実際、始まりがそれだったから根付いた第二王女制なんだとか。
「魔王討伐の仲間だったんですから、その絆を考えれば当然の事でしょう」
 ってボンネットって勇者の事となるとムキになるよね。ファンなのかな? この国では300年(以上)って聞いてるけど、もっと生きてても不思議じゃないし、知り合いの可能も?
 ちなみにユリゾンリリィは今年で建国から500年くらいよ!
「そう言うボンネットは結婚しないの? 手当たり次第に味見してそれっきりってのは無責任だと思うなー」
「手当たり次第ではありません、私好みのメイドだけです」
「どの道良くはないような...」
「カチューシャ様はぶっちゃけめっちゃどストライクなのですがプリンセス候補なのでご安心下さい、メイドじゃないですし」
「うん、その情報は知りたくなかったかな...知ったほうが安心できないよ...」
 コイツがメイドにしか手を出さないのはなんの拘りなんだろ...。まぁだからカチューシャの世話役任せても心配無いんだけど。
「エルフのボンネットさんがメイドなにも不思議だけど、ハーフエルフのウィッグさん。あの人もなんでこの国で騎士団長してるんだろう?」
「たしかにあれだけ強ければ他の国ではもっといい待遇受けられるわよね、ウチじゃ平和過ぎて持て余しってか飼い殺しよ」
 ウチが平和過ぎるのはヅラがずっと王都周辺の治安維持してるからこそだろうけど。
「百合を眺める趣味でもあるんじゃないですか?」
「えぇ...たしかにコイビトもいないみたいだけと...」
「ヅラがこの国に居てくれるのも魔王の加護のウチなんだろうねー」
 ちょっと魔王の加護ありきで平和ボケし過ぎだとも思うけどね。
 その後も雑談を続けて、目が覚めたロリエルを構い倒してその日は過ぎていった。


「ティアラの好きなもの好きなもの...」
 ロリエルちゃんと仲良くなってからは、朝晩に顔を見せに行くことが日課になった。
 最初は「ドロボー猫!」と言っていたロリエルちゃんも、今ではスッカリ懐いてくれて
「いま(?)おねーさまとくっつけば! カワイイいもーとがついてきますわよ!」
 と、自分を売り込んで私とティアラをくっつけようとするくらい。
「今日はひとりで仕事して、なんてティアラどうしたんだろ...」
 そして今日はどう言うわけかティアラが私を一人にしてくれたので、ティアラに出来るお礼を考えながらロリエルちゃんのところへ向かってる。
「あれ?」
「ヒメねーさま! ヒメねーさま!」
 離宮にたどり着く前にロリエルちゃんの気配を感じるなと思ったら、途中の部屋の中から扉を少し開けて、ロリエルちゃんが呼んでいた。
「もう、また勝手に抜け出して」
「おコゴトはあとでキきますの!」
 取り敢えず手招きされるままに部屋に入ると、ロリエルちゃんは周りを警戒してから扉を閉める。
「ヒメねーさまはボーケンシャで、なんでもおねがいきいてくれるって、ホントですの?」
 ヒメねーさまというのは、お姉様の姫様だから、らしい。
「何でもってわけでもないけれど...、お話は聞くよ、ロリエルちゃんからお仕事もらえるのかな?」
「やった! みっかごにね! おねーさまげんきだして会をやりますの!」
「お姉様元気出して会?」
「そうですの! それで、おりょうりと、かざりつけと、プレゼントと...いろいろたくさん! じゅんびしたいんですの!」
「うーん、誕生日みたいなものかな?」
 三日後とはまた急な、王女の誕生日なら国を挙げてのお祝いになるだろうから、誕生日ではなさそうだけど。
「私にお手伝いして欲しいのね」
「おねーさまにはナイショですの!」
 そしてサプライズ、と。
「うん、依頼承りました。ところで、どうして三日後に、げんきだして会なの?」
 今のティアラは特別何かに落ち込んでるように見えない、三日後に何があるのか、もしかしたらロリエルちゃんの誤解の可能性もある。
「キョネンの、おなじひにおねーさまとてもおちこんでましたの。プリムにきいたら、おねーさまのホントウのリョーシンのメーニチだからって」
「......そうなんだ」
 6歳頃って聞いたから、既に物心付いてた頃に両親を亡くしたんだ...。
「わかった、一緒に沢山お姉様を元気にしようね!」
「がんばりますの!」
 丁度ティアラにできるお礼を考えてたところだし、私としてもありがたいお誘いだ。
「あ! おしごとにはホーシュウをしはらわないとですわ!」
 基本的に後払い、終わってからもらうものだけどね。
 そう言って、ロリエルちゃんは部屋のソファーに置いてあった、小さな馬のぬいぐるみを差し出してくれる。
「ありがとう、これは?」
 一見普通のぬいぐるみだけど、微妙に年季を感じる、お仕事の報酬に渡すくらいだから、何か特別な物なのかもしれない。
「おねーさまにもらった、おねーさまのアイバだったおウマさんですわ!」
「愛馬...だった?」
「よくしらないんですの、ひーかーさまがなんとかかんとかいってたましたわ」
 ひーかーさま、というのは王妃様のことよね? 後でお話し伺ってみよう...。
「それでは、ミッションかいしですわ!」
「おー!」
 取り敢えず、今はロリエルちゃんとパーティの準備ね!
「ヒメねーさまはおりょーりトクイですの?」
「とくい...ではないかなぁ...」
 冒険者料理っていったら大体丸焼きか鍋にぶち込み煮か...料理の準備は別の人に頼もう...。


「ボンネット、ちょっと相談に乗ってくれる?」
 お昼ごろ、カチューシャの部屋でベッド...もとい床メイキングしているボンネットを訪ねに行った。
「おや? 今日はカチューシャ様と一緒ではないのですね」
「そりゃ私は毎日一緒にいたいけど、毎日べったりじゃ鬱陶しいでしょ」
「距離感は大事ですね。それで、ご相談というのは?」
 こないだ大失敗したんだから、慎重に距離を詰めないとね。
「カチューシャに贈り物をしたいんだけど、アドバイスが欲しくって」
「好感度を上げるにプレゼントはたしかに単純明確で効果的ですね。ただ、何故私に?」
「ボンネットはカチューシャの世話役だし」
「お世話役と言っても、カチューシャ様は下着も服もご自分で洗われるので、ベッド(床)メイキングと寝間着の洗濯くらいしかしておりませんが」
 あれからカチューシャは寝間着は貰ってくれたものの、ベッドでは寝てくれない。強要するのも良くないので床にシーツを敷いている。
「あと、冒険者目線でのアドバイスを貰えるかなって」
「お待ちを、何故私が冒険者であったことを?」
「え、ヅラに聞いたよ? 秘密にしてたの?」
「あんの似非エルフめ、人の過去をペラペラと...」
 あれ? もしかして地雷だった? なんか露骨に機嫌悪くなったんだけど...。
「まぁいいでしょう。それで、ティアラ様はどういったプレゼントをお考えで?」
 よかった、鎮めてくれた...。ヅラがこのあとどうなるかは知らないけど...。
「無難に可愛いアクセサリーとか考えてるけど、カチューシャって着飾るようなアクセしてないからどうなのかなって」
「アクセサリーですか...、カチューシャ様は冒険者ですから、見た目だけの装飾品は身につけませんね」
「あーやっぱり」
「冒険者向けの魔法装飾となると、冒険者の少ないこの国では大したものはないでしょう。何より、カチューシャ様は母親が名うてですので、既に装備品の類はどれもかなり高額なものなのでアレ以上となると難しいですね」
「え、そんな高価な装備してたの?!」
 めっちゃ可愛いけど、見た目結構普通のヒーラーなのに。
「目をつけらないように、高額に見えないようにしてるのでしょうね。あれだけ装飾を抑えて効果の高いものは、相当な職人のものですよ」
 全然気が付かなった...。お金に物を言わせればカチューシャの装備くらい簡単に更新できるものと思ってた...。
「それじゃあ、お化粧品とか...。カチューシャ...っていうか冒険者ってメイクするの?」
「汗やら返り血やらモンスターの変な汁やらで落ちるのであまり...。最近は冒険者向けの落ちにくい化粧品もありますがカチューシャ様の場合お渡してても使い方がわからずお困りになられるかと...」
「手ほどき込みでプレゼントにすればもっと仲良く...いやだめだ、そもそもよろこんで貰わないと」
 化粧覚えてもやらなそう...多分あの子鏡とかほとんど見ないし。
「あと香水の類は明確に嫌がられますね」
「え、意外っ。もしかして私のもイヤがられてた!?」
 あんまり量使う方じゃないけと、不快にさせせてたらどうしよ!
「ティアラ様くらいでしたら大丈夫かと、ご自分に付けられるのを特に嫌がるみたいです」
 朝の身支度で御髪を梳いたときに提案したら酷く嫌がられたという。
「あっぶなー意外なとこに地雷あるわね...。ボンネットに相談してよかった」
 ともあれ、今後は私も香水付けるのやめとこう。
「というか、私に相談されなくてもカチューシャ様の喜ぶものならわかってるじゃありませんか」
「いやー...」
「お肉を渡せば確実に喜ばれますし、消費されるものなので荷物になることもないでしょう」
「それはそうなんだけど...」
 そう、カチューシャはあぁ見えて凄いお肉が大好きなのだ。
 カチューシャが始めてウチに来た日、騒動のお礼にディナーをご馳走したのだけど、一人で15人分のステーキをペロっと平らげた光景は忘れない、あの細みの体の何処に...。
 流石に翌日からは遠慮しておかわり1回しかしなくなったけど。でもホント幸せそうにお肉食べるのよね...。
「喜ばれると思うのですけどねぇ」
「だって、キメ顔で肉のブーケ渡せって!?」

「カチューシャ...。愛するキミのために高級肉セット30人前、用意したよ...(キメ顔)」
「ステキ! 抱いて!」挿絵AIで作った挿絵

 うん、ないわ。
「ゼンッゼン...ロマンチックじゃない!」
 私嫌だよ将来の伝記に肉のブーケで王妃の心を射止めたとか書かれるの。
「そもそもですよ。婚約されたらカチューシャ様は冒険者をおやめになられなければいけないのですから、冒険者のよろこぶものという前提は如何なものでしょう?」
「そこなのよね...」
 服もアクセも化粧品も、私の姫になるなら問題の無いものになる。イヤでも今そこに踏み込むのは...。
「生粋の冒険者のカチューシャには"冒険者をやめる“事が最大級の地雷なんじゃないかと...」
「避けては通れない問題ですよ」
「今はまだ踏み込む勇気がないかなあ...」
 カチューシャも私の姫になるってことの意味は理解してると思うけど...。
 結局、ボンネットが次の仕事に向かわなければいけないので相談はそこまでになった。
 贈り物は決まらなかったけど、ヒントにはなったかな。
 ―なお後に
「ちょっと団長! また騎士団の予算削減されたんだけど!? またボンネット怒らせたですか!?」
「今回は身に覚えがないのだが...」
 人の過去をペラペラ喋るのはやめよう。


「それじゃあプリム、残りはお願いね」
「お任せください!」
 ロリエルちゃんと『お姉様元気出して会』の準備はメンバーを増やした事もあって順調に進んでいる。だけど私が手伝えるのはここまで。
「ヒメねーさま、どこかいかれるのですの?」
「ごめんねロリエルちゃん、私はお姉様を喜ばせるためにどうしてもやらなきゃいけないことがあるから、お手伝いできるのはここまでなの」
 一番最初に頼まれた私が一抜けしなければいけないのはロリエルちゃんに申し訳ないけど...。
「それをやれば、ねーさまたくさんゲンキだしてくれるんですの?」
「うん、たくさん」
「じゃあ、あとはワタクシたちでガンバリますわ!」
「一緒に沢山喜んでもらおうね」
 聞き分けの良いロリエルちゃんを撫でて、私は秘密の会場を離れる。
「ヨシ! 久しぶりに全力疾走しますか!」
 王都から出て、人目につかない林の中に入って私は普段使わない厚手の手袋を嵌める。
 全力疾走をしているところを人に見られるとマズイ、街道は避けて少し横を走ろう。モンスターは無視して突き抜ければいい、全力疾走の私に追いつけるモンスターなんてそうはいない。
「はぁ!」
 私は“両手を地面に付けて"駆け出した。

「はぁ...」
 カチューシャのいないカチューシャの部屋で大きくため息を付く。
「カチューシャ帰ってこなかったな...」
 一昨日の夜から、正確には夕方からカチューシャは王都を出ている。冒険者の仕事で遠出する事は珍しくないだろう、だけど、ここはあの子の家じゃない。
「帰ってくるよね...?」
 壁に立て掛けてあるカチューシャの杖に問いかける。
 大事な、見た目の割に高額らしい杖を置いて行ったと言うことは帰ってくるのは間違いないはず。でも、カチューシャ程の冒険者なら手に入れるのは難しくないんじゃないだろうか。
 なにより、冒険者の仕事でヒーラーのあの子が杖を置いていくなんておかしな話に思える。
「何もこんな日に居なくならなくったって...」
 カチューシャが知ってるはずもないのだけど、よりにもよって、両親の命日に居ないなんて...。
「今年は平気だと思ったのにな...」
 カチューシャがいてくれれば、今年は落ち込まないで済むと思ったんだけどね...。
 この日になると、両親を失ったあの日を思い出す。
 母様も王母様も、私を大事にしてくれるしその愛情に不満も疑いもない...まぁ一度母様と大喧嘩したことはあるけど...。
「お父さん...お母さん...」
 だからといって、あの日の事故の記憶を消せるわけでもなく、毎年この日になると気分が落ち込んでしまう。
「お墓参り行こう...」
 両親の命日とカチューシャの不在のダブルパンチでどんどん気分が沈んでしまう、カチューシャの帰りを待ってから行こうと思ってたお墓参りにそろそろ行かなきゃ。
 両親は王族ではないし、ましてやこの国の住人でもなかったけれど、王宮の庭にある墓地に埋葬されている。墓地なんて陰鬱な雰囲気はなく、綺麗で厳かなステキな庭園だ。暗くなってきたこの時間でもそれは変わらない。
 トボトボとその庭園に向かい、生垣を曲がった瞬間―
「おねーさま!」
「「ティアラ!」」
「姫様!」
「ティアラ様」
「うわっ!?」
 庭園が明るく照らされ、何人かの声と笑顔に出迎えられる。
「え? え? 何事?」
 クリスタルの魔法照明に目を慣らしてよく見ると、ロリエル、プリム、ボンネット、王母様母様だった。
「おねーさま、げんきだしてくださいませ!」
「ロリエル...」
 ロリエルが真っ先にとてとてとやってきて、私に声を掛ける。
「おねーさまにげんきをだしてほしくて、おねーさまがダイスキなみなさまで、ジュンビしましたのよ!」
 そしてさらによく見れば庭園は様々な小物で装飾され、料理も沢山並べられている。
「姫様の好物は把握してますからね! 腕を振るいましたよ!」
「プリム、アナタは料理出来ないからメニュー作っただけでしょう」
「ハッハッハ! 料理はほとんど私とボンネットの頑張りだが、ヴェールのクリスタル照明もステキだろう!」
「アナタ、それは料理ができない私へのマウントですか?」
「めめめめっそうっもないよ!」
「ロリエル様が企画したのですよ〜」
「私のために...」
 落ち込んでた気分なんて綺麗さっぱり無くなって、私は嬉しさで胸がいっぱいになった。
 ただ、私のことが大好きなみんな、の中にカチューシャがいないことだけが...。
「ティアラ、あれは痛ましい事故だった...。しかし、私とヴェールはお前に出会うことができ、お前を娘として迎え入れる事ができた」
「私たちの娘になってくれて、ありがとう」
「王母様...母様...」
「おねーさまになってくれてありがとうですわ!」
 まさか、こんな、もう、なんて言えばいいのかわからない...
「わ...私も...娘にしてくれて...ありがとう...」
 だから、溢れそうになる涙を堪えながら自然と出る言葉を口にした。
「あぁティアラ...私たちの可愛い娘...」
 そして、母様たちの胸に飛び込んで、涙を溢れさせた。挿絵AIで作った挿絵
「たいへんですわ! ゲンキだしてもらいたいのにないちゃいましたわ!」
「ロリエルさま、あれでいいんですよ」
「姫様は出過ぎた元気が涙になって溢れちゃってるんですよ」
 私は落ち着くまで母様と王母様に抱かれていた...。
「お父さん、お母さん。私は、私の大好きな人たちに囲まれてとても幸せです。ありがとう...」
 そして両親のお墓にお参りして、みんなのところに戻る。
「それともう一つ、アナタに謝罪をさせて下さい」
「母様?」
 みんなのところに戻ると、母様が改めて切り出した。
「5年前...私の勝手な思いやりでアナタから掛け替えのない宝物を奪ったことを、とても後悔しています」
「私の宝物...」
 母様の腕には、あの子に似せて作ったぬいぐるみ...、5年前に失った私の宝物と言えば、あの子だ...。
「本当に、ごめんなさい...私は取り返しのつかない事を...」
「あの子のことは、確かに母様を恨みました...」
 私が10歳、王宮から出られるようになったときに、前女王から名馬を贈られた。どれだけ走ってもまったく疲れを見せない子だった。
 私はその子とすぐに仲良くなって、乗馬にも直ぐに慣れて、その子に乗って何度も駆け回った。
 だけれど、私は調子に乗って一人で遠出して、その日のうちに帰らないような事まであった。
 平和な国とはいえ、10歳が一人で遠出して心配でないワケがない、ましてや、私が万が一にも国の外に出ようものなら魔王の加護から離れて何が起きるかわからない。
 遂には私が遠出しないよう、母様がその子を他所の国に売ってしまった...。
「でも、言いつけを守らなった私も悪いんです...、言いつけの通り、王都の近くで乗っていればあの子を手放す必要なかったんです...」
 心残りはまだある、だけれど、ちゃんと反省して、今なら母様の心配の気持ちもわかる。
 ちゃんと許せる。
「だから、許せます」
「ありがとう、ティアラ...」
 あの日大喧嘩してから、お互いになぁなぁで済ませて触れないようにさていた事が、ようやくちゃんと仲直りできた。
「だけど、なんで急に?」
 今更とは言わないけど、タイミングとしては妙な気がする、どうせなら誕生日とかの方が自然なような。
「それは、カチューシャさんが頑張ってくれたからです」
「カチューシャが?」
 今この場に居ない、カチューシャがどうして? あの日の事にも無関係なのに。
「わっ」
 詳しく聞こうと思ったら。後ろ頭を湿った何かに小突かれる。
「なによ...もう...」
 小突いてきたそれに文句を言いながら振り向くと...
「ブルルルル...」
 クリスタル照明に照らされた、漆黒の馬があった。
「うそ...」
 見間違えるはずがない、あの頃より大きくなったけれど、間違いない...
「ライス...ライスシャワー! 私の、ライスシャワー!!」
「......」
 また溢れる涙にも、ここにいる疑問も、全部どうでもよくて、二度と呼ぶことが無いと思ったその名前と共に抱きしめた。
「会いたかった...もう会えないと思ってた! 死んだんじゃないかって...私のせいで、私が言いつけを守らなかったせいで!」
 母様と喧嘩したあと、この子を取り戻そうとしたけど、既に軍馬として買われて戦場に出たあとだった...。
「良かった、良かった...」
 ライスシャワーは泣きじゃくる私に体を預けてくれる、戸惑ってるのか、私のことを覚えてくれているのか...。
「カチューシャさんが見つけてくれたんですよ」
「な、なんとか間に合ったぁ...」
 庭園の隅で、服も靴も、体中ボロボロになったカチューシャが息を咳き切らしてロリエルたちに介抱されていた。


 ギリギリ間に合った、流石にほぼ丸2日走るのは私でもキツかった!
「カチューシャが、この子を?」
 まだ少し苦しいけど、少し落ち着いから話せそう。
「セントラル防衛戦で見かけて、軍馬なのに"祝福“なんて変わった名前してるなって印象的だったから」
 王妃様に特徴と名前を聞いた時、間違いなくこの子だって思った。
「弓騎馬兵の指揮官さんが乗ってたから、怪我とかは殆どしたことないみたい」
「そうなんだ...、よかった...」
 名馬だったからこそ指揮官馬になってたのは幸いだったよね、実際私の走りについてきてまるで疲れた様子見せないし、相当な名馬だよ。
「ってカチューシャがボロボロじゃん!」
 多分私がいることに今になって気が付いたよね。それくらいの衝撃だったのだろうけど。
「見た目の汚れが酷いだけで、怪我とかはないから大丈夫...とにかく今は休ませて...」
 あーダメ、落ち着いたら意識が...。
「ヒメねーさま!?」
「カチューシャ様!!」
 介抱してくれてたロリエルちゃんたちが呼びかけてくれるけど、もうダメ...限界...。
「カチューシャぁ!?」
 バタン。


 倒れたカチューシャを部屋へ運んで、上着だけ着替えさせて、ベッドに寝かしつけた。
「カチューシャ、私のためにありがとうね...」
 ベッドに眠るカチューシャを起こさないようしずかにお礼を呟く。
 カチューシャがどうやってライスシャワーをこんな短期間で迎えに行ったとか、指揮官の馬をどうやって譲ってもらったとか疑問は尽きないけど。
 今はとにかく感謝しかない。
「私のために、無茶してくれたんだなぁ...」
 カチューシャとはまだ友達で、私のことを恋愛的な意味で好きになってくれたわけじゃないだろうけど、ここまでしてくれるなんて嬉しすぎるよ...。
「私ばっかり好きにさせられて、ズルいなぁもう...」
 ここまでされたからには、絶対に私のことを好きにさせてみせるんだから、覚悟してよね!
「でも今は、ゆっくり休んでね」
 そらそろ戻って料理も食べないと、ロリエルたちの頑張りを無駄にしちゃう。
 私はカチューシャの寝顔を目に焼き付け、みんなとライスシャワーのところへと戻った。
あとがき万能ねぎトロ
ご存知かと思いますが百合プリのキャラの名前の由来は頭に被るモノ(アクセサリー)で統一しています 馬の名前をどうするかなーと某馬のゲーム遊んでたらホーム画面にいた最推しを見て 「そういえばコレも”頭に被るモノ“だな…」と思いつきました
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百合の国のプリンセス♂作者:万能ねぎトロ
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祝福の贈り物

 カチューシャが王宮に世話になるようになって五日ほど。もう色々諦めて王宮で過ごすことに慣れてきたある日、プリムと二人きりになる機会があったのでカチューシャは尋ねてみた。
「プリムって、ティアラと幼馴染で、親友で、お付のメイドなんだよね?」
「はい! 姫様とは10年くらいのご縁ですね!」
「それで、この国の例に漏れず、女の子好き」
「勿論ですとも!」
 レズビアンの多いユリゾンリリィとはいえ、全ての女性がそうな訳では無い。しかし、プリムはやはりその例に漏れないようだった。
 とはいえ、コレは聞くまでも無く、これまでのセクハラの数々で知っていることだが。
 なお、カチューシャは気配に敏感なので彼女のセクハラは油断していた最初以外、接触されるものは勿論、覗きなどは全て未然に防いでいる。
「プリムは仲の良いティアラが私と仲良くしてること、イヤじゃないの?」
「焼き餅とか、嫉妬とかですか?」
 カチューシャは自分にぞっこんな親友をずっと側で見ていているプリムの事が心配だった。
 彼女からジェラシー等は感じたことはないが、普段のこのテンションは誤魔化すために無理をしているのではないかと。
「私に、大事な人が取られちゃってるんじゃないかなって」
「たしかに姫様は大事な人で、主君で、親友ですが...。私と姫様はお互いに恋愛感情はさっぱり持ってませんよ?」
「そうなんだ...?」
 恋はもちろんあまり友人もいたことのないカチューシャなので、それも同性愛者の同性に対する友情と恋心の線引きの感覚はどんなものかわからないでいる。
「セクハラはしますけどね!」
「するんだ...」
 恋愛感情とエロスは別感情! とプリムはのたまう。もしかすると彼女なりのスキンシップなのかもしれない。
「そもそも私、既婚者ですし」
「ええ!? 結婚してたの!?」
 と言って、プリムは首にかけてるペンダントを取り出すと先についた結婚指輪をカチューシャに見せる。
 本来は指にするものだが、職業柄指輪は付けられ無いし、付けられる時間のほうが少ないので王宮勤務の既婚者は皆、こうして首に掛けている。
「へー...誰だろう...全然気が付かなかった...。やっぱり王宮の人?」
 指輪を見つめながらカチューシャはプリムの相手を思い浮かべるが、まるで心当たりがない。彼女と過ごしてまだ四日とはいえ、ティアラと一緒にいる都合上、結構な時間見ているはずなのに。
「はい! 王宮メイド長が私の奥さんですね!」
「へー、あの真面目なメイド長さんが...意外だな...って」
 とても馬が合うようにおもえない組み合わせだが、凸凹コンビみたいなものだろうか、と考えてもっと肝心なことを思い出す。
「メイド長さんって、キャペリンさんだよね?」
「他にメイド長はいませんよ!」
「キャペリンさんって、他の国から来たんだよね?」
「そうですね!」
「プリムを産んで」
「はい! 私を育てるための移籍ですね!」
「いやいやいやいやいや...」
 なんてこと無い風にプリムは肯定しているが...。
「実の娘と再婚したってことぉ!?」
「そうなりますね! あ、プロポーズは私からですよ〜」
 この国、ハンパない...。
 自分も絆されないようにしなくては、そう思うカチューシャだった。


百合の国のプリンセス♂ #3祝福の贈り物
挿絵AIで作った挿絵


「うーん、王宮で過ごす休日って新鮮だなぁ」
 冒険者は自由業だから決まった休みとかはない、なので私は根を詰めないように大体完了した仕事の回数で休みをとるようにしている。
「王都の方もちゃんと観光してないし、ティアラに案内してもらおうかな」
 ここ数日の仕事はどれも難しいものではなかったけれど、友達とやる仕事は新鮮でとても楽しかった。初日は凄い恥ずかしい思いしちゃったけれど...。
 ティアラのアプローチも真っ直ぐだけれど嫌なものではなくて、ノーマルの私が戸惑わないようちゃんと距離感を保ってくれてる。
 ホントは男の子で、男の子が好きな自分がノーマルと言えるかは微妙だけれど...。
(でも私ばかり与えられてなんだか申し訳ないなぁ...、なにかお礼をできないかなあ)
 私に好かれたい振り向かせたいという好感度上げありきの行動としても、ティアラの愛情は正直嬉しい。
 何かお返しができればいいんだけど、ティアラはそうは見えなくても王女様、冒険者の私にできるようなお礼なんて何かあるかなあ。
「アナタがドロボーネコね!」
「うん?」
 考えごとしながら歩いてたら、後ろから小さい気配に声を掛けられた。
 振り向いてみると、ブロンドの髪に派手なドレスの5歳くらいの女の子が仁王立ちしている。
「ドロボー猫?」
 私のことをそう呼んでいたけど、初対面のこの子にそう呼ばれる身に覚えがない。
 王宮にいる子供と言うことは、ここで働いてるどなたかの子供かな?
 ん、そういえば王宮勤めの使用人さんたちのお子さんはみんな王宮で面倒見られてるらしいのに、今まで見た覚えがないような?
「そうよ! わたくしのおねーさまをとったドロボーネコ! アナタのせいで、おねーさまがちっともあそんでくれないわ!」
 私の身の回りの誰かの妹さんらしい。となるとティアラか、私の世話係になってるボンネットさんが有力候補なんだけど...。
 顔をじっくり見てみるが...ダメだ、どっちとも似てない...。姉妹って言っても養子なのかも。
「こんにちは小さなお嬢様。私の名前はドロボー猫さんじゃなくて、カチューシャよ。小さなお嬢様のお名前、お聞きしてもいいかな?」
 取り敢えず近付いて軽く屈んで、女の子に自己紹介を促して見ると...
「よくおききなさい! わたくしはユリゾンリリィ・だいにおうじょ! ロリエルよ!」
「まぁ、ティアラの妹さん!」
 第二王女を名乗ると言うことは、間違いなくティアラの妹。お姉様が私にぞっこんで構ってくれないから、焼き餅焼いてるのね、可愛い。
「ごめんねロリエル様、アナタの大事なお姉様を盗っちゃって」
 敵意向きだしのロリエルちゃんに素直に謝りながら、その頭を撫でると、キョトンとして大人しくなる。
「う、うん...」
 さらに撫で続けると目を細めてなすがままになっている。可愛い...。
「見つけたー! ひとりで離宮から出ちゃダメでしょー!」
「はっ!?」
 私の方も撫でるのが心地良くなってると、ロリエルちゃんを探してたらしいティアラがやってきた。
 その声に我に返ったロリエルちゃんはティアラの方へ逃げだす。
「おねーさま! このオンナてがはやいですわ! わたくしまでろーらくされるところでしたわ!」
「あらロリエル難しい言葉知ってるわね...誰に教わったの?」
「プリム!」
 子供の教育にも良くないメイドだなぁ...。
「とにかく! ひとりで離宮から出ちゃいけません!」
「だって...だって...! おねーさまがあそびにきてくれないんだもん!」
 ここ数日で見たことがないと思ったら、どうやらロリエルちゃんは普段は離宮というところに居るらしい。お姉ちゃんが構ってくれない不満と私への焼き餅で勝手に出てきちゃったみたいね。
「事情はなんとなくしか分からないけど、私にかまけて大事な妹を放置するティアラも良くないと思うなー」
「うぐっ、カチューシャにそう言われると...」
「あのオンナのいうとーりですわ!」
「アンタはどっちに付いてんのよ」
「ワタクシはワタクシのみかたのみかたですわ!」
 うーん、この歳にして既にこの王女様気質、将来有望...なのかな?
「いいから、離宮に戻るわよ」
「いーやーでーすーわー!」
 そして駄々っ子化、なんと小さな女王様。
「ほらロリエルちゃん、今日はお姉様が一緒に居てくれるから、離宮に戻ろう?」
 ロリエルちゃんに近付いて、また頭を撫でると大人しくなる。
「はい!」
「なんでカチューシャの言うことは聞くのよ!」
「ゴッドハンドですわ!」
 どうやら私の手がお気に召したらしい。


 脱走したロリエルを捕まえて、カチューシャと共に離宮へ戻る。
「離宮には私も入れるかな?」
 と聞くので大丈夫と伝えると、今日は休みだからロリエルのために私と一緒に離宮にいてくれるらしい。
 離宮は王宮で働く使用人たちの子供と王族の養子、つまり王女が10歳まで過ごす場所。
 使用人は仕事内容の都合でどうしても住み込みになるので、仕事中は離宮で面倒見るのがウチの国の福利厚生。
 一応預かれるのは女の子だけ(ていうか王宮が男子禁制)って事になってるけど、女の子の格好をさせれば平気だったりする。まぁ大体みんな養子でこんな国の親だから、結局女の子しかいないけど。
「王女だけが大きくなるまでお城から出られないの?」
「養子にとったあとは、女の子が好きになるようそいう環境におくんだって」
 だから王族の養子に取れるのは思春期前の子に限定される。私が貰われたのも6歳の頃だっけな?
「ロリエルはもうおんなこがスキですのに〜」
「だから貰われるときに何度も確認したでしょー、大きくなるまでお城から出られないわよって」
「りきゅーにゆーへいまではきいてませんわー! サギですわー!」
「幽閉て...」
 別にメイドと一緒なら王宮の中は自由に動けるんだけどな...。
 とはいえ分別が付かない子供のうちにそんな選択をさせるのも実際ズルい話よね。私は事情が事情だったし、プリムが居てくれたから平気だったけど。
「おや、ティアラ様たちが捕まえてくれましたか」
 他の子供たちはお昼寝中なのでロリエルの部屋に帰ると、ボンネットがいた。
「捜索してた風な言い方なのに、なんでここにいんのよ」
「ノコノコと部屋へ戻る可能性もあったので、待ち伏せしてサボっておりました」
「建前と本音両方出てるよ...」
「この国で大事になるようなことなんてまず無いですから、急いで捕まえる事もありませんでしょう」
「それはそうだけどさ」
 私もプリムに聞いて適当に探してただけだし。
「ボンネット! きょーのキロクはいかがかしら!」
 うん? 記録?
「前回の記録を大幅塗り替えですね。おめでとう御座いますロリエル様」
 そしてボンネットとロリエルがイエーイとハイタッチ。挿絵AIで作った挿絵
「そう言う遊びにされてるみたいね」
「完全にグルじゃんこのメイド...」
 仕事してよー! もー! 主の私たち王族までダメに見えるじゃんー!


「スゥー...スゥー...」
 本来はお昼寝の時間ということもあり、ロリエルちゃんはひとしきり私たちに甘えたあと眠ってしまった。
「結局この子、一瞬でカチューシャに懐いてたわね」
 私の膝を枕に眠るロリエルちゃんは最初こそ敵意剥き出しだったけど、すぐに懐いてくれた。
「姉妹揃って瞬殺ですか」
「は!? 私のは一目惚れだし! 絆されたわけじゃないし!」
 そこは誇るとこなのかな...。
「カチューシャ様、子供をあやすのお上手ですね」
「旅行者やキャラバンの護衛で小さい子に懐かれることが多かったからかな?」
「カチューシャ、ママ味あるものねー」
「ママ味て...。でも、子供は好きだよ」
 血なまぐさい冒険者生活を忘れさせてくれるというか、平和を実感させてくれるというか...。冒険者生活に不満はないつもりでもどこかで疲れていて、子供との触れ合いは私を癒してくれる。
 年の離れた妹にも憧れたなあ、何も知らないでお母さんにねだったら困らせちゃったっけ。
「......カチューシャはさ...。やっぱり自分の子供を産みたいと思うのかな?」
「ティアラ?」
 唐突にティアラが不安そうに尋ねてくる。そもそも子供を産めない私はその質問の意図が分からなくて、聞き直してしまった。
「私のプリンセスに...この国の王族になるってことは、カチューシャから子供を産む喜びを奪うってことだからさ...」
 あぁ...そっか...、王族の異性婚が禁じられてるのは子供を産まないため、魔王を復活させないための取り決め。ティアラがノーマル(?)の私を口説くっていうのは、そういう事になるんだ...。
「えっと...。今はまだ産みたいとは思わないし、私は家族であるのに血の繋がりは絶対だとは思わないかな...」
 そもそも私は子供を産めないし...。ううん、もし産めたとしても“私と同じ因果"を子供に背負わせたくはないから、産むことはないだろうし、私の子供を産んでもらう事もないつもり。
「そ...そう、よかった...」
「よかったですね、ティアラ様」
 ティアラにとってはかなり覚悟の必要だった質問みたいで、安心するとともに脱力していた。
「先のことは分からないけどね...」
 一目惚れと言っているけど、ティアラはとても真剣に私の事を好いてくれている。
(私は...どうなんだろ...)
 男であることを黙って、騙して...。ティアラの気持ちに応えるつもりがあるのか自分でもわからないのに、一方的に貰ってばかりで...
 真剣なティアラに対して、なんて自分は不誠実なんだろう...。
「あー...ごめん! ちょっと重かったよね! まだ困るよねこんな話!」
「少々急いた質問ではありましたね」
 考えこんだ私を勘違いしてティアラが重くなった空気を取り繕う。でもたしかに、今する話でもなかったかも...。

 うわー、やっちゃったー。タイミングミスったー...。
 カチューシャにとってまだ私は友達でしかないのに、こんな覚悟がいるような事を聞くなんて...私のバカ!
「ところで、やっぱりロリエルちゃんとティアラは血縁じゃないんだよね?」
「あーうん、ロリエルは去年貰われてきた...移民だっけ?」
「隣国ジ・オからの移民の中に居た孤児ですね。西の領地で保護され去年の始めに第二王女として貰われました」
 保護された時は名前さえなく、ロリエルという名前はこっちに貰われてから付けた名前。最初出会ったときは大人しかったのに、1年でしたたかに育ったものねえ。
「ジ・オ皇国出身の子なんだ。どう言う理由で第二王女に選ばれたの?」
「うん?」
「魔王の加護で平和ならティアラにもしものことなんてないだろうし、血縁がないんじゃ政略結婚にも出せないだろうし...。第二王女は何のためにいるのかな?って」
 あー、たしかに。それだと継承権で揉めるだけの第二王女なんて不要よね。
「第二王女は王妃候補だね」
「えっ」
「この先、私に相手が見つからなかった時に、姉妹で婚姻するの」
「血の繋がりがないとはいえ、姉妹で!?」
「初代国王の勇者からして実の妹を王妃にしてるしね」
 実際、始まりがそれだったから根付いた第二王女制なんだとか。
「魔王討伐の仲間だったんですから、その絆を考えれば当然の事でしょう」
 ってボンネットって勇者の事となるとムキになるよね。ファンなのかな? この国では300年(以上)って聞いてるけど、もっと生きてても不思議じゃないし、知り合いの可能も?
 ちなみにユリゾンリリィは今年で建国から500年くらいよ!
「そう言うボンネットは結婚しないの? 手当たり次第に味見してそれっきりってのは無責任だと思うなー」
「手当たり次第ではありません、私好みのメイドだけです」
「どの道良くはないような...」
「カチューシャ様はぶっちゃけめっちゃどストライクなのですがプリンセス候補なのでご安心下さい、メイドじゃないですし」
「うん、その情報は知りたくなかったかな...知ったほうが安心できないよ...」
 コイツがメイドにしか手を出さないのはなんの拘りなんだろ...。まぁだからカチューシャの世話役任せても心配無いんだけど。
「エルフのボンネットさんがメイドなにも不思議だけど、ハーフエルフのウィッグさん。あの人もなんでこの国で騎士団長してるんだろう?」
「たしかにあれだけ強ければ他の国ではもっといい待遇受けられるわよね、ウチじゃ平和過ぎて持て余しってか飼い殺しよ」
 ウチが平和過ぎるのはヅラがずっと王都周辺の治安維持してるからこそだろうけど。
「百合を眺める趣味でもあるんじゃないですか?」
「えぇ...たしかにコイビトもいないみたいだけと...」
「ヅラがこの国に居てくれるのも魔王の加護のウチなんだろうねー」
 ちょっと魔王の加護ありきで平和ボケし過ぎだとも思うけどね。
 その後も雑談を続けて、目が覚めたロリエルを構い倒してその日は過ぎていった。


「ティアラの好きなもの好きなもの...」
 ロリエルちゃんと仲良くなってからは、朝晩に顔を見せに行くことが日課になった。
 最初は「ドロボー猫!」と言っていたロリエルちゃんも、今ではスッカリ懐いてくれて
「いま(?)おねーさまとくっつけば! カワイイいもーとがついてきますわよ!」
 と、自分を売り込んで私とティアラをくっつけようとするくらい。
「今日はひとりで仕事して、なんてティアラどうしたんだろ...」
 そして今日はどう言うわけかティアラが私を一人にしてくれたので、ティアラに出来るお礼を考えながらロリエルちゃんのところへ向かってる。
「あれ?」
「ヒメねーさま! ヒメねーさま!」
 離宮にたどり着く前にロリエルちゃんの気配を感じるなと思ったら、途中の部屋の中から扉を少し開けて、ロリエルちゃんが呼んでいた。
「もう、また勝手に抜け出して」
「おコゴトはあとでキきますの!」
 取り敢えず手招きされるままに部屋に入ると、ロリエルちゃんは周りを警戒してから扉を閉める。
「ヒメねーさまはボーケンシャで、なんでもおねがいきいてくれるって、ホントですの?」
 ヒメねーさまというのは、お姉様の姫様だから、らしい。
「何でもってわけでもないけれど...、お話は聞くよ、ロリエルちゃんからお仕事もらえるのかな?」
「やった! みっかごにね! おねーさまげんきだして会をやりますの!」
「お姉様元気出して会?」
「そうですの! それで、おりょうりと、かざりつけと、プレゼントと...いろいろたくさん! じゅんびしたいんですの!」
「うーん、誕生日みたいなものかな?」
 三日後とはまた急な、王女の誕生日なら国を挙げてのお祝いになるだろうから、誕生日ではなさそうだけど。
「私にお手伝いして欲しいのね」
「おねーさまにはナイショですの!」
 そしてサプライズ、と。
「うん、依頼承りました。ところで、どうして三日後に、げんきだして会なの?」
 今のティアラは特別何かに落ち込んでるように見えない、三日後に何があるのか、もしかしたらロリエルちゃんの誤解の可能性もある。
「キョネンの、おなじひにおねーさまとてもおちこんでましたの。プリムにきいたら、おねーさまのホントウのリョーシンのメーニチだからって」
「......そうなんだ」
 6歳頃って聞いたから、既に物心付いてた頃に両親を亡くしたんだ...。
「わかった、一緒に沢山お姉様を元気にしようね!」
「がんばりますの!」
 丁度ティアラにできるお礼を考えてたところだし、私としてもありがたいお誘いだ。
「あ! おしごとにはホーシュウをしはらわないとですわ!」
 基本的に後払い、終わってからもらうものだけどね。
 そう言って、ロリエルちゃんは部屋のソファーに置いてあった、小さな馬のぬいぐるみを差し出してくれる。
「ありがとう、これは?」
 一見普通のぬいぐるみだけど、微妙に年季を感じる、お仕事の報酬に渡すくらいだから、何か特別な物なのかもしれない。
「おねーさまにもらった、おねーさまのアイバだったおウマさんですわ!」
「愛馬...だった?」
「よくしらないんですの、ひーかーさまがなんとかかんとかいってたましたわ」
 ひーかーさま、というのは王妃様のことよね? 後でお話し伺ってみよう...。
「それでは、ミッションかいしですわ!」
「おー!」
 取り敢えず、今はロリエルちゃんとパーティの準備ね!
「ヒメねーさまはおりょーりトクイですの?」
「とくい...ではないかなぁ...」
 冒険者料理っていったら大体丸焼きか鍋にぶち込み煮か...料理の準備は別の人に頼もう...。


「ボンネット、ちょっと相談に乗ってくれる?」
 お昼ごろ、カチューシャの部屋でベッド...もとい床メイキングしているボンネットを訪ねに行った。
「おや? 今日はカチューシャ様と一緒ではないのですね」
「そりゃ私は毎日一緒にいたいけど、毎日べったりじゃ鬱陶しいでしょ」
「距離感は大事ですね。それで、ご相談というのは?」
 こないだ大失敗したんだから、慎重に距離を詰めないとね。
「カチューシャに贈り物をしたいんだけど、アドバイスが欲しくって」
「好感度を上げるにプレゼントはたしかに単純明確で効果的ですね。ただ、何故私に?」
「ボンネットはカチューシャの世話役だし」
「お世話役と言っても、カチューシャ様は下着も服もご自分で洗われるので、ベッド(床)メイキングと寝間着の洗濯くらいしかしておりませんが」
 あれからカチューシャは寝間着は貰ってくれたものの、ベッドでは寝てくれない。強要するのも良くないので床にシーツを敷いている。
「あと、冒険者目線でのアドバイスを貰えるかなって」
「お待ちを、何故私が冒険者であったことを?」
「え、ヅラに聞いたよ? 秘密にしてたの?」
「あんの似非エルフめ、人の過去をペラペラと...」
 あれ? もしかして地雷だった? なんか露骨に機嫌悪くなったんだけど...。
「まぁいいでしょう。それで、ティアラ様はどういったプレゼントをお考えで?」
 よかった、鎮めてくれた...。ヅラがこのあとどうなるかは知らないけど...。
「無難に可愛いアクセサリーとか考えてるけど、カチューシャって着飾るようなアクセしてないからどうなのかなって」
「アクセサリーですか...、カチューシャ様は冒険者ですから、見た目だけの装飾品は身につけませんね」
「あーやっぱり」
「冒険者向けの魔法装飾となると、冒険者の少ないこの国では大したものはないでしょう。何より、カチューシャ様は母親が名うてですので、既に装備品の類はどれもかなり高額なものなのでアレ以上となると難しいですね」
「え、そんな高価な装備してたの?!」
 めっちゃ可愛いけど、見た目結構普通のヒーラーなのに。
「目をつけらないように、高額に見えないようにしてるのでしょうね。あれだけ装飾を抑えて効果の高いものは、相当な職人のものですよ」
 全然気が付かなった...。お金に物を言わせればカチューシャの装備くらい簡単に更新できるものと思ってた...。
「それじゃあ、お化粧品とか...。カチューシャ...っていうか冒険者ってメイクするの?」
「汗やら返り血やらモンスターの変な汁やらで落ちるのであまり...。最近は冒険者向けの落ちにくい化粧品もありますがカチューシャ様の場合お渡してても使い方がわからずお困りになられるかと...」
「手ほどき込みでプレゼントにすればもっと仲良く...いやだめだ、そもそもよろこんで貰わないと」
 化粧覚えてもやらなそう...多分あの子鏡とかほとんど見ないし。
「あと香水の類は明確に嫌がられますね」
「え、意外っ。もしかして私のもイヤがられてた!?」
 あんまり量使う方じゃないけと、不快にさせせてたらどうしよ!
「ティアラ様くらいでしたら大丈夫かと、ご自分に付けられるのを特に嫌がるみたいです」
 朝の身支度で御髪を梳いたときに提案したら酷く嫌がられたという。
「あっぶなー意外なとこに地雷あるわね...。ボンネットに相談してよかった」
 ともあれ、今後は私も香水付けるのやめとこう。
「というか、私に相談されなくてもカチューシャ様の喜ぶものならわかってるじゃありませんか」
「いやー...」
「お肉を渡せば確実に喜ばれますし、消費されるものなので荷物になることもないでしょう」
「それはそうなんだけど...」
 そう、カチューシャはあぁ見えて凄いお肉が大好きなのだ。
 カチューシャが始めてウチに来た日、騒動のお礼にディナーをご馳走したのだけど、一人で15人分のステーキをペロっと平らげた光景は忘れない、あの細みの体の何処に...。
 流石に翌日からは遠慮しておかわり1回しかしなくなったけど。でもホント幸せそうにお肉食べるのよね...。
「喜ばれると思うのですけどねぇ」
「だって、キメ顔で肉のブーケ渡せって!?」

「カチューシャ...。愛するキミのために高級肉セット30人前、用意したよ...(キメ顔)」
「ステキ! 抱いて!」挿絵AIで作った挿絵

 うん、ないわ。
「ゼンッゼン...ロマンチックじゃない!」
 私嫌だよ将来の伝記に肉のブーケで王妃の心を射止めたとか書かれるの。
「そもそもですよ。婚約されたらカチューシャ様は冒険者をおやめになられなければいけないのですから、冒険者のよろこぶものという前提は如何なものでしょう?」
「そこなのよね...」
 服もアクセも化粧品も、私の姫になるなら問題の無いものになる。イヤでも今そこに踏み込むのは...。
「生粋の冒険者のカチューシャには"冒険者をやめる“事が最大級の地雷なんじゃないかと...」
「避けては通れない問題ですよ」
「今はまだ踏み込む勇気がないかなあ...」
 カチューシャも私の姫になるってことの意味は理解してると思うけど...。
 結局、ボンネットが次の仕事に向かわなければいけないので相談はそこまでになった。
 贈り物は決まらなかったけど、ヒントにはなったかな。
 ―なお後に
「ちょっと団長! また騎士団の予算削減されたんだけど!? またボンネット怒らせたですか!?」
「今回は身に覚えがないのだが...」
 人の過去をペラペラ喋るのはやめよう。


「それじゃあプリム、残りはお願いね」
「お任せください!」
 ロリエルちゃんと『お姉様元気出して会』の準備はメンバーを増やした事もあって順調に進んでいる。だけど私が手伝えるのはここまで。
「ヒメねーさま、どこかいかれるのですの?」
「ごめんねロリエルちゃん、私はお姉様を喜ばせるためにどうしてもやらなきゃいけないことがあるから、お手伝いできるのはここまでなの」
 一番最初に頼まれた私が一抜けしなければいけないのはロリエルちゃんに申し訳ないけど...。
「それをやれば、ねーさまたくさんゲンキだしてくれるんですの?」
「うん、たくさん」
「じゃあ、あとはワタクシたちでガンバリますわ!」
「一緒に沢山喜んでもらおうね」
 聞き分けの良いロリエルちゃんを撫でて、私は秘密の会場を離れる。
「ヨシ! 久しぶりに全力疾走しますか!」
 王都から出て、人目につかない林の中に入って私は普段使わない厚手の手袋を嵌める。
 全力疾走をしているところを人に見られるとマズイ、街道は避けて少し横を走ろう。モンスターは無視して突き抜ければいい、全力疾走の私に追いつけるモンスターなんてそうはいない。
「はぁ!」
 私は“両手を地面に付けて"駆け出した。

「はぁ...」
 カチューシャのいないカチューシャの部屋で大きくため息を付く。
「カチューシャ帰ってこなかったな...」
 一昨日の夜から、正確には夕方からカチューシャは王都を出ている。冒険者の仕事で遠出する事は珍しくないだろう、だけど、ここはあの子の家じゃない。
「帰ってくるよね...?」
 壁に立て掛けてあるカチューシャの杖に問いかける。
 大事な、見た目の割に高額らしい杖を置いて行ったと言うことは帰ってくるのは間違いないはず。でも、カチューシャ程の冒険者なら手に入れるのは難しくないんじゃないだろうか。
 なにより、冒険者の仕事でヒーラーのあの子が杖を置いていくなんておかしな話に思える。
「何もこんな日に居なくならなくったって...」
 カチューシャが知ってるはずもないのだけど、よりにもよって、両親の命日に居ないなんて...。
「今年は平気だと思ったのにな...」
 カチューシャがいてくれれば、今年は落ち込まないで済むと思ったんだけどね...。
 この日になると、両親を失ったあの日を思い出す。
 母様も王母様も、私を大事にしてくれるしその愛情に不満も疑いもない...まぁ一度母様と大喧嘩したことはあるけど...。
「お父さん...お母さん...」
 だからといって、あの日の事故の記憶を消せるわけでもなく、毎年この日になると気分が落ち込んでしまう。
「お墓参り行こう...」
 両親の命日とカチューシャの不在のダブルパンチでどんどん気分が沈んでしまう、カチューシャの帰りを待ってから行こうと思ってたお墓参りにそろそろ行かなきゃ。
 両親は王族ではないし、ましてやこの国の住人でもなかったけれど、王宮の庭にある墓地に埋葬されている。墓地なんて陰鬱な雰囲気はなく、綺麗で厳かなステキな庭園だ。暗くなってきたこの時間でもそれは変わらない。
 トボトボとその庭園に向かい、生垣を曲がった瞬間―
「おねーさま!」
「「ティアラ!」」
「姫様!」
「ティアラ様」
「うわっ!?」
 庭園が明るく照らされ、何人かの声と笑顔に出迎えられる。
「え? え? 何事?」
 クリスタルの魔法照明に目を慣らしてよく見ると、ロリエル、プリム、ボンネット、王母様母様だった。
「おねーさま、げんきだしてくださいませ!」
「ロリエル...」
 ロリエルが真っ先にとてとてとやってきて、私に声を掛ける。
「おねーさまにげんきをだしてほしくて、おねーさまがダイスキなみなさまで、ジュンビしましたのよ!」
 そしてさらによく見れば庭園は様々な小物で装飾され、料理も沢山並べられている。
「姫様の好物は把握してますからね! 腕を振るいましたよ!」
「プリム、アナタは料理出来ないからメニュー作っただけでしょう」
「ハッハッハ! 料理はほとんど私とボンネットの頑張りだが、ヴェールのクリスタル照明もステキだろう!」
「アナタ、それは料理ができない私へのマウントですか?」
「めめめめっそうっもないよ!」
「ロリエル様が企画したのですよ〜」
「私のために...」
 落ち込んでた気分なんて綺麗さっぱり無くなって、私は嬉しさで胸がいっぱいになった。
 ただ、私のことが大好きなみんな、の中にカチューシャがいないことだけが...。
「ティアラ、あれは痛ましい事故だった...。しかし、私とヴェールはお前に出会うことができ、お前を娘として迎え入れる事ができた」
「私たちの娘になってくれて、ありがとう」
「王母様...母様...」
「おねーさまになってくれてありがとうですわ!」
 まさか、こんな、もう、なんて言えばいいのかわからない...
「わ...私も...娘にしてくれて...ありがとう...」
 だから、溢れそうになる涙を堪えながら自然と出る言葉を口にした。
「あぁティアラ...私たちの可愛い娘...」
 そして、母様たちの胸に飛び込んで、涙を溢れさせた。挿絵AIで作った挿絵
「たいへんですわ! ゲンキだしてもらいたいのにないちゃいましたわ!」
「ロリエルさま、あれでいいんですよ」
「姫様は出過ぎた元気が涙になって溢れちゃってるんですよ」
 私は落ち着くまで母様と王母様に抱かれていた...。
「お父さん、お母さん。私は、私の大好きな人たちに囲まれてとても幸せです。ありがとう...」
 そして両親のお墓にお参りして、みんなのところに戻る。
「それともう一つ、アナタに謝罪をさせて下さい」
「母様?」
 みんなのところに戻ると、母様が改めて切り出した。
「5年前...私の勝手な思いやりでアナタから掛け替えのない宝物を奪ったことを、とても後悔しています」
「私の宝物...」
 母様の腕には、あの子に似せて作ったぬいぐるみ...、5年前に失った私の宝物と言えば、あの子だ...。
「本当に、ごめんなさい...私は取り返しのつかない事を...」
「あの子のことは、確かに母様を恨みました...」
 私が10歳、王宮から出られるようになったときに、前女王から名馬を贈られた。どれだけ走ってもまったく疲れを見せない子だった。
 私はその子とすぐに仲良くなって、乗馬にも直ぐに慣れて、その子に乗って何度も駆け回った。
 だけれど、私は調子に乗って一人で遠出して、その日のうちに帰らないような事まであった。
 平和な国とはいえ、10歳が一人で遠出して心配でないワケがない、ましてや、私が万が一にも国の外に出ようものなら魔王の加護から離れて何が起きるかわからない。
 遂には私が遠出しないよう、母様がその子を他所の国に売ってしまった...。
「でも、言いつけを守らなった私も悪いんです...、言いつけの通り、王都の近くで乗っていればあの子を手放す必要なかったんです...」
 心残りはまだある、だけれど、ちゃんと反省して、今なら母様の心配の気持ちもわかる。
 ちゃんと許せる。
「だから、許せます」
「ありがとう、ティアラ...」
 あの日大喧嘩してから、お互いになぁなぁで済ませて触れないようにさていた事が、ようやくちゃんと仲直りできた。
「だけど、なんで急に?」
 今更とは言わないけど、タイミングとしては妙な気がする、どうせなら誕生日とかの方が自然なような。
「それは、カチューシャさんが頑張ってくれたからです」
「カチューシャが?」
 今この場に居ない、カチューシャがどうして? あの日の事にも無関係なのに。
「わっ」
 詳しく聞こうと思ったら。後ろ頭を湿った何かに小突かれる。
「なによ...もう...」
 小突いてきたそれに文句を言いながら振り向くと...
「ブルルルル...」
 クリスタル照明に照らされた、漆黒の馬があった。
「うそ...」
 見間違えるはずがない、あの頃より大きくなったけれど、間違いない...
「ライス...ライスシャワー! 私の、ライスシャワー!!」
「......」
 また溢れる涙にも、ここにいる疑問も、全部どうでもよくて、二度と呼ぶことが無いと思ったその名前と共に抱きしめた。
「会いたかった...もう会えないと思ってた! 死んだんじゃないかって...私のせいで、私が言いつけを守らなかったせいで!」
 母様と喧嘩したあと、この子を取り戻そうとしたけど、既に軍馬として買われて戦場に出たあとだった...。
「良かった、良かった...」
 ライスシャワーは泣きじゃくる私に体を預けてくれる、戸惑ってるのか、私のことを覚えてくれているのか...。
「カチューシャさんが見つけてくれたんですよ」
「な、なんとか間に合ったぁ...」
 庭園の隅で、服も靴も、体中ボロボロになったカチューシャが息を咳き切らしてロリエルたちに介抱されていた。


 ギリギリ間に合った、流石にほぼ丸2日走るのは私でもキツかった!
「カチューシャが、この子を?」
 まだ少し苦しいけど、少し落ち着いから話せそう。
「セントラル防衛戦で見かけて、軍馬なのに"祝福“なんて変わった名前してるなって印象的だったから」
 王妃様に特徴と名前を聞いた時、間違いなくこの子だって思った。
「弓騎馬兵の指揮官さんが乗ってたから、怪我とかは殆どしたことないみたい」
「そうなんだ...、よかった...」
 名馬だったからこそ指揮官馬になってたのは幸いだったよね、実際私の走りについてきてまるで疲れた様子見せないし、相当な名馬だよ。
「ってカチューシャがボロボロじゃん!」
 多分私がいることに今になって気が付いたよね。それくらいの衝撃だったのだろうけど。
「見た目の汚れが酷いだけで、怪我とかはないから大丈夫...とにかく今は休ませて...」
 あーダメ、落ち着いたら意識が...。
「ヒメねーさま!?」
「カチューシャ様!!」
 介抱してくれてたロリエルちゃんたちが呼びかけてくれるけど、もうダメ...限界...。
「カチューシャぁ!?」
 バタン。


 倒れたカチューシャを部屋へ運んで、上着だけ着替えさせて、ベッドに寝かしつけた。
「カチューシャ、私のためにありがとうね...」
 ベッドに眠るカチューシャを起こさないようしずかにお礼を呟く。
 カチューシャがどうやってライスシャワーをこんな短期間で迎えに行ったとか、指揮官の馬をどうやって譲ってもらったとか疑問は尽きないけど。
 今はとにかく感謝しかない。
「私のために、無茶してくれたんだなぁ...」
 カチューシャとはまだ友達で、私のことを恋愛的な意味で好きになってくれたわけじゃないだろうけど、ここまでしてくれるなんて嬉しすぎるよ...。
「私ばっかり好きにさせられて、ズルいなぁもう...」
 ここまでされたからには、絶対に私のことを好きにさせてみせるんだから、覚悟してよね!
「でも今は、ゆっくり休んでね」
 そらそろ戻って料理も食べないと、ロリエルたちの頑張りを無駄にしちゃう。
 私はカチューシャの寝顔を目に焼き付け、みんなとライスシャワーのところへと戻った。
あとがき万能ねぎトロ
ご存知かと思いますが百合プリのキャラの名前の由来は頭に被るモノ(アクセサリー)で統一しています 馬の名前をどうするかなーと某馬のゲーム遊んでたらホーム画面にいた最推しを見て 「そういえばコレも”頭に被るモノ“だな…」と思いつきました
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百合の国のプリンセス♂作者:万能ねぎトロ
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