ホーム百合の国のプリンセス♂私のプリンセスになって!
目次次の話 →

私のプリンセスになって!

 かつて恐るべき魔王が蹂躙する国があった。
 それに挑むは時代が望んだ最強の女勇者、その妹の魔術師、女神の加護を受けし聖女、聖女を守護する聖騎士、の四人。
 激闘の末四人は魔王を討ち滅ぼすが、魔王は死の間際に国に呪いをかけた。
「この国に王子が生まれる時、この魂宿りて蘇る」
 そして魔王から救った国の女王となった勇者は魔王復活を阻止するため絶対的な法を作る。
「王族の異性婚を禁ずる」
 勇者は妹の魔術師を王妃とし、二人で国を治めた。
 以後その国では女性ならば妊娠が発覚できるので魔王の復活を未然に防げるということもあり、女王と王妃が統治するようになる。
 そして王族からしてそんな状態なためか、女性が住みやすい国となり、国には同性愛者―取り分けレズビアンが集まる様になり...
 国は、大いに発展した。
 それもそのはず、「王子が生まれる時、魔王が復活する」という呪いは即ち「魔王が復活するまで国が存続する」事を強いる呪いでもあったのだから。
 いつしか魔王の呪いは魔王の加護と呼ばれ、勇者と魔王の戦いは御伽話となった。
 その国の名は『ユリゾンリリィ』 別名、百合の国

 百合 の国のプリンセス♂ #1私のお姫様になって!挿絵AIで作った挿絵

 私はユリゾンリリィの第一王女・ティアラ。
ポニーテールの金髪を靡かせる、みんなの憧れの姫騎士(自称)だ。今年で16歳。
 第一王女といっても、王族の異性婚を禁じられた国だから両親どちらとも血縁関係はない。
 この国のこれまでの例に漏れず、養子から第一王女に選ばれた。
 あと姫騎士と言っても、平和な国だから訓練ばかりで碌な実戦経験もない、みんなの憧れってか、私の憧れね。まぁ実戦経験が少ないだけで、弱くはないとは思うんだけど...。
 と、そんな事はどうでもよくて、今は急がなきゃいけない
「あぁぁ! 寝過ごしたぁ!」
 気持ちのいい寝起きにちらりと見た時計の針は9時、今日は7時に起きる予定だったのに!
「なんで今日に限ってプリムは起こしてくれないの!?」
「おはようございます、プリムは非番ですよ」
 慌てて飛び起きると部屋の外で控えてたのか耳の長い紫髪のメイドが入ってくる。
「だったらボンネットが起こしてよ!」
「ティアラ様が自分で起きられるから朝食もいらないとおっしゃったんじゃないですか」
「寝過ごしたのはわかってたじゃん!」
「通りがかりに姫様の叫び声が聞こえただけです、私はティアラ様お付のメイドじゃありませんし」
 この塩対応のメイドはボンネット。長い耳でわかるようにエルフのメイドで、長寿のエルフだけあって、300年以上王宮でメイドをしているらしい。
 ちなみにそれだけ長く仕えていながらメイド長ではない、基本的にポジションが決まってなくて、足りない仕事を補うフリーな役割なんだとか。あとうちに仕えてるだけあって生粋の女好き。新人のメイドはほとんどコイツに味見されてるとか...。
「お急ぎのようですが私なんかに構っていていいのですか?」
「あぁそうだった!」
 そうよ、ボンネットにかまってる場合じゃなかつた、急いで支度しないと!
「着替えのお手伝いはいりますか?」
「いらない! 一人のが早い!」
「では私はこれで」
 ドレスじゃ一人で着るのに苦労するけど、着慣れた騎士服に手伝いなんていらないわ。
 私は初めから手伝う気のなかったボンネットの申し出を断ると部屋のクローゼットへ飛び込んだ。



「ていうかアイツ何しに来たのよ!」
 騎士服に着替えて王宮の廊下を走りながら、結局支度も何も手伝わないで居なくなったボンネットを思い出す、まぁ茶化しにきたんだよね...。
 青を基調とした騎士服はスカートにロングブーツと短いマント、鎧は胸当てと右手のマジックガントレットくらいのもので、動きやすさ重視のこの服は私のお気に入り。
 とても走りやすいから全力疾走すればすぐに王宮から抜け出せると思ったけど...
「お嬢さん、そんなに急いでどこに行くのかね? よければこのワタクシめに教えていただけるかな?」
 あちゃー捕まったー。
「おはよう御座います、王母様」
 私の前を塞ぐように現れた、輝く金髪に大きなマントに派手な装飾にまみれたパンツルックのこの人は...この国の女王クラン、そう、私の一方の母様だ。
「我が子の今日最初の挨拶が「うわー捕まったー」と言わん顔で母は悲しいよ」
「スイマセン顔ニデテマシタカー」
「態度にも出てるわよティアラ」
 そして王母様の後ろから出てきたのはもう一方の母様、王妃ヴェール。
 長い銀髪に巫女を思わせる純白の清楚なドレスがステキなんだけど、内に隠した気の強さが隠せてないというか...。
「失礼な事考えてるわね?」
「滅相もない!」
 あと勘もいいので要注意。
「おはよう御座います母様、王母様。今は急いでるからお小言はあとにして欲しいなーって...」
 えぇわかってますとも、常日頃から廊下を全力疾走するなって言われてますもの。
「では、急いでいた理由を聞きましょう、内容次第では免除致します」
 その内容が問題だから黙ってたんだけどなー...。
「えーっと...。今日はウチにベルメットさんが来るって聞いて...騎士団の方に顔を出すみたいで...」
「ほう、あの生ける伝説と言われる冒険者の」
「そう! 稀代の女冒険者ベルメットさん! それが平和なこの国に来るって話なの!」
 流石ベルメットさん! 王母様も名前を存じてる! ってウチも物資で支援したセントラル防衛戦に参加してたらしいし当然か。
「たしかに、冒険者に大きな仕事のない我が国に訪れるとは、驚きだね」
 うちの国、平和すぎて冒険者に碌な仕事がないのよね。モンスターも野盗も騎士団で事足りちゃうから。でもそんなうちの国に何しにくるんだろ?
「まったく、アナタは王女でありながらまたそんな冒険者に憧れて...」
「まぁまぁ、この子がお転婆なのは今に始まった事でもないし、むしろ元気があってよいじゃないか」
「悪いとは言いませんが、冒険者の真似事でこの子にもしものことがあったら...」
「「ナイナイ」」
 王母様とハモる。母様の言うように冒険者ギルドで仕事を貰うことはしてるけど、この国平和すぎてマジで危険な仕事ないから、むしろうちのメイド長の稽古のがヤバいくらいだから。
「時にティアラよ...」
「はい?」
 王母様が耳打ちしながら小声で尋ねる。
「そのベルメット殿は、美人だったりするのかね?」
 まぁ、王母様の興味は腕っぷしの強さとかよりそこよね。
「イヤー...美人かは聞いてないけど、熊みたいな大女アルトリウスって異名があるくらいだから筋骨隆々のワイルドな方なんじゃないかな...」
「ふむ...それは私の守備範囲外だな...は!?」
 ベルメットさんの様子を思い浮かべて王母様が残念がってる...横で母様が氷の笑みを浮かべてる。
「ア〜ナ〜タ〜」
「イヤイヤ違うんだよヴェール!」
「何がどう違って、守備範囲とはなんのことかしら?」
「そういえば昨日買ったブランデーケーキが実に美味でね! メイドたちに差し入れしに行くところだったのだよ!」
「お待ちなさい!」
 母様の気圧に押された王母様は無理矢理話題を変えるとダッシュで逃げて、母様もそれをダッシュで追い掛けていった。母様も全力疾走してるじゃん...。
 あれ? これってもしかして王母様が母様引き受けてくれたのかな?
 王母様がそこまで考えるとも思わないけど、違ったとしても帰ってきたらお礼しなきゃ。


「かなり出遅れたー!」
 城下町を駆け抜けて騎士団本部まで急ぐ。予定ではボンネットさんは朝に着くだろうって事だから、だいぶ出遅れた事だろう。
「ヅラに先を越されるー!」
 全力のベルメットさんの胸を借りたいのに、アイツに先を越されたらベルメットさんの強さでもどうなるか...
「お城ってこっちだよね...」
「?!」
 っと、考え事しながら走ってたらものすごい美少女とすれ違った気がして思わず足を止めて振り返る。
 だけどその子も急いでたらしく、振り返ってみれば既に人混みにまみれて見当たらない。
「って王母様じゃないんだから...」
 私もこの国の王女であるから当然ビアンだけれど、王母様やボンネット程の女好きでないし、相手は一人に絞りたい派、美少女にかまけてる場合じゃない。
 よく顔も見えなかったし、私はまた騎士団本部へと駆け出した。
「ティアラ様いらっしゃい、遅かったわね」
 騎士団本部に付くと、私の騎士服に似た格好のピンク髪の事務、バレッタさんが出迎えてくれた。
「ベルメットさんは!?」
「団長とやりあってるわよ」
「あーもう! やっぱり先を越されたー!」
 バレッタさんに案内されて訓練所の方へゆくと、物凄い剣戟の音が聞こてくる。
「ふはははは! 今のも防ぐか! スゲェなアンタ!」
「いやはや、あの体制から繰り出すとは、肝が冷えたよ」挿絵AIで作った挿絵
 訓練所を覗くと、そこそこ体格のいいブロンドの女性が大剣を振り回してヅラと愉しげに戦り合っていた。
「あの人がベルメットさん...すっご...」
 身の丈程もある大剣を片手で、それも小剣のような勢いでぶん回している、話には聞いてたけど、あのヅラと渡り合うなんてホント凄い人だった。
「団長が魔法を使ってないとはいえ、あの人と渡り合うなんて生ける伝説の名前は本物ねぇ」
「あんなん見せられたらなんか私また自信なくなるじゃん...」
 全力で相手して欲しかったけど、私じゃ瞬殺でしょあんなの...、どうせ負けるならアレを初見で負けたかった...。
「アレの相手するなら団長とやるのと変わらないわね」
 むしろパワーで押してくる分ヅラよりやりにくいだろうなぁ。
「あぁそう言えば、あの人娘がいるのよ、丁度ティアラ様くらいの年頃の」
「え、ベルメットさん娘いんの!?」
 まさかの経産婦! 若く見えるのに私と同じくらいの子って実は結構の年齢なんだ。
「さっき王城へのお使い頼んだから戻ってくるのはもう少し後かしら? さっきすれ違ったんじゃない?」
「お城に行ってるなら待ってられないわよ!」
 同じくらいの年頃なら私でもいい相手になるかもしれない。なによりあんな女好きだらけのお城に一人でいさせられない。仲良くなって冒険の話とかも色々聞きたいな...。
「いや、ちょっと」
 私はバレッタさんの話の続きも待たず、来たばかりの道を引き返した。
「その子、ヒーラーなんだけどな...」


「さぁ、辿り着いたぞ!」
「聞いてた以上に、綺麗な街だね」
 私たち親子が長旅で辿り着いたのは百合の国ことユリゾンリリィ、平和で綺麗な国の王都だ。
 私はカチューシャ、17歳。ストレートロングの銀髪に、純白のヒーラードレスがトレードマーク、あと長杖。物心ついた頃からお母さんと冒険者していて、そのせいもあって若いながらもそこそこの実力のヒーラーをしている。
 そして、隣にいるのが私のお母さん。短いブロンドに比較的長身の体格、なにより身の丈程もある大剣が印象的な...剣士...なのかな?
「それで、着いたからにはこの国に来た理由をもう話してくれるんだよね?」
 お母さんは稀代の冒険者として有名で、私が生まれる前から実力者として名を馳せている。救った村や町は20を越え、救った国は2つ、遂にはセントラル防衛戦に参加してこの大陸全土まで救ってしまった。(あの戦争が短期終結したのはお母さんだけの功績でもないけど)
 そんな名うての冒険者のお母さんに、魔王の加護というので平和なこの国に仕事があるとは思えない。平和なこともあって綺麗な国だから、観光という理由もなくはないのだけど。
「まぁ一つはこないだのセントラル防衛戦の慰安だな。四月もの間、モンスターでなく人間の相手は応えたろ」
 冒険者をやってると盗賊なんかの人間を相手にする事はままある。でも私たちは冒険者であって傭兵ではないから、戦争に加担して人間相手に戦い続けることはあの戦争までなかった。
「その建前は来る前に聞いてるよ」
 でも実際、モンスターでなく人間を相手に戦い続けるのが精神的に応えたのはそのとおりなんだけれど...。
「もう一つは...お前の恋人探しだ」
「うん?」
 え...なんて? かなり予想外の答えが出てきて、思わず目が点になってしまう。
「お前、アタシが冒険者として連れ回してるせいもあるが、まともな恋愛したことないだろ?」
「そりゃまぁ...お母さんと組むようなのはベテランの人ばかりだし...、長く留まらないし...」
 カッコいいなって思う人はいたけど、流石に歳の差がね...。
「それでも、キャラバンの護衛とかの長期仕事でお前と同年代の男の子がいる事もあったろ」
「まぁ...気になる人がいたことはあるけど...」
 相手の子も...好いてくれてたとは思う、それでも私は"自分の性別“のせいで恋に臆病で...。
「アタシはな、お前を『女として育てた事』を申し訳なく思ってる」
「私は、『女として育てられた』事を恨んでないよ?」
 そう、ヒーラードレスを着て、女の子みたいな格好に立ち振舞をしているけど
 私は男の子なのだ
 見た目こそ女の子でも、体の一部はちゃんと男の子だし、このおっぱいもニセモノだ。
 それでも物心ついた頃から女の子として育てられた私は、女の子のように、男の子を好いてしまう。当然、恋に踏み出すことなんて出来ない。
「そこで、この国では女の子が大好きな女の子だらけだと聞く!」
「あーうん、さっきの話からどう繋がるのか分からないけれど...」
「そしてお前ほどの美少女ならこの国の娘たちか放って置くはずがない!」
「それはまぁ、よくいわれるけれど...」
 男なのに、どう言うわけか私は結構な美少女らしい。
「この国の娘たちと仲良くなって、お前が女の子大好きになれば! お前が本来の性別でもう悩む必要はないわけだ!」
「いや...相手の子が私の本当の性別知らない事に変わらないんだけど...」
「......」
 そう言うとお母さんはしばらく黙って考え込む。
「そこはお前の勇気次第だな!」
「恋愛に踏み出す状況変わって無いんだけど...」
 しかも私が女の子を好きになれるか分からないし...。
「あと私、女の子に告白された事ならもうあるからね? 断ったけど」
 友達としては好きだったんだけどね...。
「我が子ながら凄いなお前!」
「感心するとこじゃないから...」
 なんというか、我が母ながら結構考え無しに動いてたんだなって...。私の恋愛の事を心配してくれてるのは嬉しいけれど、今更どうこうできるものでもないし。
「せっかく来たんだし、観光して楽しもう。この国なら血なまぐさい生活も忘れて普通に女の子として過ごせそうだし」
「そうだな、思えばお前には普通の生活をさせたこともなかったな...」
「お母さんと一緒に冒険者してる方が好きだから、そう言う生活に憧れなんてないよ」
 本当に、私は冒険者してるのが大好きだから、そういう事に責任とか感じないで欲しいな...。
「チシャ! お前はホントに最高の我が子だなぁ!」
 感極まったお母さんが抱きしめてくる、て、その怪力は苦しいってば!
「お母さん...ちょっと苦しい...」
 なんとかお母さんをなだめて、先ずはこの国の騎士団本部に向かった。


「お会いできて光栄です、ベルメット殿。ワタシがユリゾンリリィ騎士団・団長のウィッグだ」
 王都の入り口からすぐそこにあった騎士団本部に入ると、すぐに騎士団長のウィッグさんが出迎えてくれた。
 ウィッグさんはオレンジの髪に端麗な顔立ちの...騎士団長とは思えない若さの凄いカッコいい男性で、思わず見惚れてしまう。
「こちらこそ、アンタがあの有名な処女の番人メイデンセンチネルかい」
「またの名を貞操帯」
「仕事を増やすぞバレッタ」
 そして怒られてるのが事務のバレッタさん。
「しっかし話には聞いてたが、ホントに見た目は若いのな」
「見た目は?」
 私は基本的に冒険した土地の事しか知らないので、この国のことはあまり詳しくはないのだけど、どうやらウィッグさんは有名人らしい。
「耳は通常の人間に似たが、ハーフエルフでね、こう見えて300年以上この国に仕えてる老人さ」
「300年!?」
 エルフもハーフエルフも基本的に自分たちの国に引き篭もりだから、冒険生活の長い私でも始めて見たけど、ホントに見た目は若いままなんだ!
「そう言うベルメット殿も、熊みたいな大女アルトリウスと聞いていたのでどんな大女が来るかと思っていたのだがね」
「アッハッハッハ! アルトリウスってのはアタシの武器の名前なんだがね!」
 お母さんの名剣「アルトリウス」クマみたいな大剣という意味で付けた名前はなぜかお母さんの異名として広まってしまっている。
「なるほど、そしてそちらの娘さんは?」
「アタシの子のチシャだ」
「始めましてカチューシャです」
 ようやく私の紹介になったので失礼のないように挨拶する。お母さん、愛称じゃ紹介にならないよ。
「噂には聞いていたが娘がいたとは、そして見たところ癒し手ヒーラーのようだが?」
 ずっと冒険者をしていてヒーラーとしてそこそこの実力がある私だけど、私の存在はお母さんが偉大すぎて隠れがちだ。
 というより、お母さんが強すぎて一緒に戦うと私の出番があんまりないし...。
「親のアタシが言うのもなんだが、この歳でなかなかなのヒーラーだよ!」
「生ける伝説の子がヒーラーというのも少し惜しい気がするが...」
 これもよく言われるが、私には前衛をできない理由がある、それを話す訳にもいかないけれど...。
「可愛い我が子を前衛に立たせる訳がないだろ! なんならフルアーマー着せて背負って戦いたいわ!」
 そんな理由とは関係無くこれを本気で言ってるのが困る...。
「絶対イヤだからね」
 フルアーマーとか、可愛くないし。鎧を着るならギリギリ魔法剣士かなぁ、いつか見たあの装備ミニスカートみたいで可愛かったなぁ。
「ハッハッハ! さしもの伝説も子煩悩であったか!」
 ウィッグさんがウケてるからまぁいっか。
「あの、ところでなんでこちらに招待されたんでしょうか?」
 冒険者の私たちが最初に訪れるのは大抵冒険者ギルドで、国の防衛拠点にいきなり呼ばれるなんてことはまずない。
 よもや平和過ぎて冒険者ギルドがなかったり?
「なんでもここの冒険者ギルドはいつもギルドの宿がいっぱいらしい」
「平和な国なのに?」
「だからこそ怪我した冒険者や休止中の冒険者に需要があって、長く居着くから部屋がいっぱいなんだと」
「ギルドの仕事も薬草集めなんかの簡単な物ばかりだからな」
「だからさぁ団長〜、ウチの仕事もう少し冒険者ギルドに回しましょ〜よ〜」
 そして国からの仕事がギルドに回せられることも多いのだけど、バレッタさんのボヤキを見るにそう言う事はあまりしてないみたいだ。
「そしてここは騎士団を名乗っているが、見ての通り団長のワタシと事務のバレッタしかいなくてね、部屋が余っているので滞在中はウチを宿に使ってはと思ってね」
「二人だけなんですか!?」
「一応、王女様もここの所属だけどねー」
 三人目の団員が王女様って人手不足なのか平和過ぎて人件費削減されてるのか判断に困る...。
「そういえば憧れの冒険者が来ると楽しみにされてた殿下が来られていないな」
「大方楽しみ過ぎて寝付けなくて寝坊したんでしょ」
「王女様に憧れられてるとは光栄だね」
「変わった王女様なのかな?」
 王族からすれば冒険者なんて下賎の放浪者みたいに思われてそうなものだけど。
「一番槍は殿下に譲りたかったが来ないのでは仕方無い。ベルメット殿、早速胸をお借りしても?」
 腰の剣を鞘ごと腰から抜いて穏やかに言うウィッグさんだったけれど、その穏やかな様子とは裏腹に瞳には猛者の炎が灯っていた。
「団長も相当楽しみにしてた口じゃん」
「おう! アタシもな!」
 こうしてお母さんとウィッグさんの模擬戦が始まった。
 特に細かいルールは決めていなかったけど、猛者同士の試合は確実に勝敗の決した瞬間があるので、そういうのは必要無いらしい。
「ベルメット殿は魔法は?」
「アタシはチシャみたいに器用じゃなくてね、コイツ一本のゴリ押しだよ」
 お母さんの戦闘スタイルは大剣を片手で振り回し、空いた手で打撃や投擲、その他色々行う(戦闘中に拾った武器で一時的に二刀流したり)...まぁなんというか、乱暴な戦い方だ。
 元々は普通に両手で振り回してたのだけど、私が生まれたあと、私が6つになるまで私を片手で抱えながら戦っていたので今のスタイルが馴染んでしまった。
 背中に抱えればよいのでは? と言われると「アタシでも背中には目は付いてないんだから、大事な我が子を背にして戦うなんて出来ない」との事。
 私を抱えなくなったあとも冒険者のお母さんは護衛や運搬といった仕事も多いので、「片手が自由な方が都合が良い」とそのスタイルを続けている。
「ではワタシは盾魔法以外の魔法を封じて純粋に剣の勝負とさせてもらおう」
 そしてウィッグさんのスタイルはこの国の始祖、女勇者から続く魔法剣士スタイルなのは間違いないと思う。
 騎士剣とマジックガントレットに重装な鎧を纏わない機動重視の装備。ガントレットは魔法の触媒として使われ、杖であり盾であり打撃用の甲手だ。
「魔法剣士に魔法縛られても嬉しくないねぇ」
「なに、必要なら使わせてもうさ」
「面白え! すぐに使わせてやるよ!」
 特に合図も無しに、試合がはじまりお母さんが一気に距離を詰めた。
「二人とも戦る気バチバチじゃない、あんな団長始めてみたわ」
「でも本気出さないんですね?」
 魔法剣士が魔法縛るなんて、パワーとスピードとスタミナでごり押すお母さん相手には相当分が悪いはず。
「アレは相手に本気出させるための挑発でしょ」
「あぁ、なるほど」
 お母さんの方もゴリ押しスタイルなので本気が分かりにくいが、今の片手スタイルは『冒険者として都合のいいスタイル』で、本気は両手で剣を握った時。まぁ模擬戦でそこまでの本気を出すと思えないけど。
 それからしばらく、訓練所には激しい剣戟の音とお母さんの掛け声&笑い声が響き渡った。
「魔法、使いませんね」
「団長も煽るねー、どちらも先に相手に本気を出させたいと見えるね」
 お母さんの猛攻を避けて交わして魔法の盾で守って、合間にウィッグさんも鋭い反撃を入れる、そんな豪快に目えて実は小競り合いの攻防がずっと続いている。
「お母さんも本気じゃないとはいえ、ウィッグさんも凄い人ですね...」
 正直、300年も騎士団長やってるハーフエルフとはいえ、平和ボケした国の騎士団長なんて大したことはないと思ってた。ベテランの冒険者さんは何度も見てきたけれど、お母さんと渡り合える人は見たことがない。
「ハハハ!」
「お母さん楽しそう」
 あぁ見えて、お母さんの信条は「戦いを楽しむな」だ。
 モンスターでも、人間でも、戦いは命のやり取り。どんな戦闘でもお母さんは真面目で、真剣で、油断しない。そんなお母さんがあんなに楽しそうに戦ってるのを見ると、この信条は自戒の念も篭っているのかもしれない。
「でもこれ決着付くの日が暮れそうですね」
「あんな豪快に戦って日暮れまで待つの? 流石冒険者のスタミナね」
「いやー...お母さんが特殊なんだと思いますけど...」
 一見豪快なだけに見えて剣を持つ手や、踏み込みの足を変えて交互に休ませてる。魔法が苦手で不器用だと言うお母さんだけど、その実戦い方は器用だ、多分無意識でやってるけど。
「決着まで時間掛かりそうだし、娘さんお使い頼まれてくれない? 依頼として駄賃も出すからさ」
「構いませんよ」
 お使いなんて冒険者の仕事としては最たる物、あの様子だと今離れても決着の瞬間を見逃すこともないだろうし、時間を潰すのに丁度良さそう。
「じゃ、こっち来て」
 バレッタさんに誘われて事務室へ向かうと、机の上の紙をさっと纏めてスクロールにする。
「この報告書を王城のボンネットってメイドにお願い」
「イヤ...報告書って重要な物じゃ...」
 それをお母さんが有名人とはいえ、一介の冒険者の私に任せるの!?
「別に「今週も何もありませんでした」って程度の経過報告だから大丈夫よん」
「それにお城なんて入れるんですか?」
 招待されてもないのに、一介の冒険者が。
「ウチの国のお城、美人と美少女はフリーパスだから、娘ちゃんなら余裕でしょ」
「え、えぇ...」
 なにその大穴セキュリティ...。平和ボケにも程があるでしょ...。
「あぁ、ただ、陛下が王城の案内言い出して、個室に連れこまれそうになったらぶっ飛ばしてでも逃げてね、あの人手が早いから」
「女王様ぶっ飛ばすのはまずいですよ!?」
 もしかして美人はフリーパスって女王様が原因!?
「平気平気、セクハラに鉄拳制裁は身分を問わず合法無罪を王妃様が制定してるから。アタシも陛下投げ飛ばしたことあるよん」
 この女王にしてこの王妃あり...この国大丈夫?
「途中にマーケットとかあるから、楽しんどいで〜」
 そう言ってスクロールと先払いの駄賃を貰い、私は王城へお使いに行く事になった。


「ホントに入れちゃった...」
 取り敢えず途中の商店で軽いモノを摘みつつ、王城へ辿り着くと。門番はいなくて代わりっぽいメイドさんに尋ねるとどうぞどうぞとあっさり中へ通されてしまった。
 王城の中は沢山のメイドさんが忙しなく働いていて、門番もそうだけど衛兵らしき姿が一人も見受けられない。
 そしてなにより、男の人が一人もいなかった。
(まぁ、ここにいるんだけど...)
 思えば見た目女の子とはいえ男の私が入って大丈夫だったのかな? まぁ男だってバレたことは一度しかないからバレることはないと思うのだけど...。
「はぁ...」
 見た目女の子でも男の子、本当に女の子ならどんなによかったことだろう...
 だけどお母さんが私を女として育てた理由は納得してるし、恨んではいない。もう一つの私の秘密は本当の性別以上に人に知られてはいけない。
 『もう一つの私の秘密』
 それが性別以上に、私が恋愛に踏み出せない理由でもある。
「いけないいけない。届け物済ませないと」
 女性だらけの空間にいる自分の異質さから物思いにふけってしまった。
 入り口のメイドさんに聞いたところによるとボンネットさんは日々の仕事が決まってないからどこにいるかわからないとの事だけど...。
「メイドさんたちに聞きながら探してみるかな」
 知ってる人なら探すのは簡単なんだけど、知らない人を探すのは難しい...、その人の持ち物でもあれば痕跡を追えるのだけど。
 と、大きな花瓶を磨いているメイドさんに声を掛けようとした時。
「メイド長のご乱心だー!!」
 城内が途端に騒がしくなった。


「ちょっと何事!?」
 ベルメットさんの娘さんを追って王城に戻るなり、城内が大騒ぎになっていた。よもや娘さんが何かやっちゃった?
「キャペリンがまた悪酔いして暴れてます」
 大騒ぎのホールに行くと、そこにいたボンネットが状況を説明してくれる。
 そこには青髪に長身の40くらいの人、メイド長のキャペリンが顔を真っ赤にして戦闘体制を取り、周りには彼女を止めようとしたと思われるメイドたちか転がっている。
「まったく、どの子も鍛錬が足りないわねぇ! ほらぁもんであげるから次来なさぁい!」
 あーうん、前に見たことあるなこの光景...あの人、お酒に酔うと暴走するのよね...。って!
「なんでこんな時間からあの人酔ってるの!? 誰が飲ませたのよ!」
 キャペリンの悪酔いは城内では有名だし、真面目なあの人がこんな時間からお酒を飲むとも思えない、誰か飲ませた犯人がいるはず...。
「クラン女王が差し入れしたブランデーケーキで酔ったようです」
「ブランデーケーキで!?」
 それって酔っ払うほどアルコールあるっけ!?
「てなわけでメイドたちでは相手にならないのでティアラ様お願いします」
「メイドが主に厄介事押し付けるな!」
「私戦いたくないので」
 それ戦いたくない、であって、戦え無いわけじゃないよね!? ウチに来る前はヅラと一緒に冒険者やってたって聞いてるよ?!
「手伝ってよ! 私一人じゃあの人に勝てたことないんだから!」
「イヤですってば」
 プリムがいれば一緒になんとか出来そうだけど今日に限って非番だし...。
「おらあ!」
 そうこうしてるうちに次々とメイドたちが立ち向かってはふっ飛ばされている、なにこのメイド無双。
「そうだ王母様と一緒なら!」
 王母様も昔はヅラに稽古つけてもらってた話を聞いている。実際戦ったところを見たことはないけどあのヅラに稽古してもらったならそこそこ戦えるはず!
「クラン女王ならキャペリンの足元で伸びてますよ」
「王母様ぁぁ!?」
 手遅れだったー!
 ていうかコレ大丈夫!? 女王暗殺事件じゃない!?
「えぇい! ままよ!」
「あらお次はティアラ様? 久しぶりの鍛錬だねぇ!」
 ボンネットは役に立たないし他に居ないなら私がやるしかない! なにより酔ってるなら私一人でもなんとかなるかもしれない!
「私がアルコールを抜くから、アナタは気を引いて少しでも動きを止めて!」
「え、誰!?」
 私が飛び出しと共に、もう一人知らない誰かが参戦した。


 なんかよくわからないけど、話し声を聞くにメイド長と思わしき人が酔っ払って大暴れしてるらしい。
 衛兵とかいないと思ったら、メイドたちがロイヤル・ガード兼任してるみたい、そしてあの人ほその教育係なのだと思う。
「王母様ぁ!?」
 しかもあの人の足元で伸びてる人、女王様らしい...。この国は果たして大丈夫なのだろうか...。
 うーん、私ならなんとかできそうなんだけど...それをするには近付いて少しの時間をかけなきゃいけない。一人じゃちょっと難しい...。
「えぇい! ままよ!」
 と、どうするから悩んでいたらティアラ様と呼ばれてた子が剣を構えた。よし、前衛がいれば私の魔法が使える!
「私がアルコールを抜くから、アナタは気を引いて少しでも動きを止めて!」
「えっ、誰!?」
 唐突な私の参戦にティアラは戸惑うけど、説明する余裕もなく、メイド長さんは私たちに襲いかかる。
「オラオラオラ!」
「ちょちょちょ!?」
 やっぱり、メイド長さんのスタイルは『マジックアーツ』魔法で肉体を強化して魔法を纏って戦う格闘スタイル。単体戦特化で範囲攻撃は苦手なはず!
「ごめんなさい、もう少し耐えて!」
 メイド長さんの猛攻をティアラを盾にするように背後に付いて、体の隙間から魔力を照射する。
「デトックス!」
 そして十分な魔力を当てたところで、必要なエネルギーをメイド長さんから内在させた魔力と共に引き抜く!
「はふ〜ん」
 エネルギーを引き抜かれたメイド長さんは、目を回すように倒れて、辺りは静かになった。
 ふぅ...上手くいってよかった...。


「え...なに? 寝た?」
 キャペリンの猛攻をひたすら防いでいたら、急に倒れてしまった。
 多分ぴったり私の後ろに付いてた子が何かしたんだろう。
「お母さんもお酒に弱いから、解毒魔法の要領で身体からアルコールを抜く魔法を作ってたの。副作用で急激に眠くなるけど...」
「あぁ、そうなんだ...」
 どうやら無事ではあるらしい、にしても魔法作るって凄いな。私そんな魔法使えないよ?
「えっと、止めてくれてありがとう」
 念の為残心してキャペリンが起きないか警戒してみたけど、もう大丈夫そう。
 私は振り返って後ろにいた子にお礼をする。
 ぴったり私の背中に...多分盾にしてたんだと思うけど、凄い場慣れした立ち回りだった。
 後ろにぴったりいるのに私の動きの邪魔はせず、なのに私の動きに合わせて背中から離れず...だから全く顔が見えなかったからようやく顔が見られる。
 そして振り向いたそこには。
「私の方こそ、いきなり盾にしてしまってごめんなさい」
 天 使 が い た 。
「......」
「あ、ちょっと怪我してる...。すぐ治すね」
 天使は硬直する私の手を取ると、癒しの魔法を唱え、腕に心地良い感覚が流れたと思ったらいつまにかしていた怪我がいつのまにか治っていた。
「あの...えっと...大丈夫?」
 私が無言で立ちすくんでるものだから、天使は治したその腕を包んで、顔を覗き込んでくる。
「は!?」


 どうしたんだろう? 怪我は治したのにティアラは硬直して動かない。
 もしかして他にも強い打撃を受けてたかな? 戦闘中は気分が高揚してて、終わってから大怪我の痛みに気が付くなんてよくある事だし、失礼だけどもうちょっと身体をよく診させて貰おうかな?
「キミ、名前は?」
「あ...」
 と思ったら、動きだした。そうだよね、名前も名乗らず治すの良く無かったよね。
「名乗り遅れてごめんなさい、冒険者のカチューシャです」
「カチューシャ...いい名前!」
「あ...うん、ありがとう」
 お母さんにもらった大事な名前だから、褒められのは素直に嬉しい。
「私はユリゾンリリィ王国、第一王女・ティアラ!」
 あ、やっぱり王女様だったんだ。騎士服着てるけどバレッタさんが王女様も団員って言ってたからそうなのかなと思ったけど、って私マズいような...?
「あ、私、王女様を盾にしてしまって!?」
「ううん! それは全然いいの! それよりもカチューシャ!」
 ティアラ様は今度自分から私の腕を取ると、傅いて、まるで騎士が淑女の腕を取るように、もう片手を自分の胸にあてて、言った。
「私の、プリンセスになってください!」
 え...。
「貴女に、一目惚れしました!」
 ちょっ
 えぇーーー!?挿絵AIで作った挿絵
シェア
次の話 →
お友達から始めましょう!
百合の国のプリンセス♂作者:万能ねぎトロ
目次を見る
コメント0
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム百合の国のプリンセス♂私のプリンセスになって!
目次次の話 →

私のプリンセスになって!

 かつて恐るべき魔王が蹂躙する国があった。
 それに挑むは時代が望んだ最強の女勇者、その妹の魔術師、女神の加護を受けし聖女、聖女を守護する聖騎士、の四人。
 激闘の末四人は魔王を討ち滅ぼすが、魔王は死の間際に国に呪いをかけた。
「この国に王子が生まれる時、この魂宿りて蘇る」
 そして魔王から救った国の女王となった勇者は魔王復活を阻止するため絶対的な法を作る。
「王族の異性婚を禁ずる」
 勇者は妹の魔術師を王妃とし、二人で国を治めた。
 以後その国では女性ならば妊娠が発覚できるので魔王の復活を未然に防げるということもあり、女王と王妃が統治するようになる。
 そして王族からしてそんな状態なためか、女性が住みやすい国となり、国には同性愛者―取り分けレズビアンが集まる様になり...
 国は、大いに発展した。
 それもそのはず、「王子が生まれる時、魔王が復活する」という呪いは即ち「魔王が復活するまで国が存続する」事を強いる呪いでもあったのだから。
 いつしか魔王の呪いは魔王の加護と呼ばれ、勇者と魔王の戦いは御伽話となった。
 その国の名は『ユリゾンリリィ』 別名、百合の国

 百合 の国のプリンセス♂ #1私のお姫様になって!挿絵AIで作った挿絵

 私はユリゾンリリィの第一王女・ティアラ。
ポニーテールの金髪を靡かせる、みんなの憧れの姫騎士(自称)だ。今年で16歳。
 第一王女といっても、王族の異性婚を禁じられた国だから両親どちらとも血縁関係はない。
 この国のこれまでの例に漏れず、養子から第一王女に選ばれた。
 あと姫騎士と言っても、平和な国だから訓練ばかりで碌な実戦経験もない、みんなの憧れってか、私の憧れね。まぁ実戦経験が少ないだけで、弱くはないとは思うんだけど...。
 と、そんな事はどうでもよくて、今は急がなきゃいけない
「あぁぁ! 寝過ごしたぁ!」
 気持ちのいい寝起きにちらりと見た時計の針は9時、今日は7時に起きる予定だったのに!
「なんで今日に限ってプリムは起こしてくれないの!?」
「おはようございます、プリムは非番ですよ」
 慌てて飛び起きると部屋の外で控えてたのか耳の長い紫髪のメイドが入ってくる。
「だったらボンネットが起こしてよ!」
「ティアラ様が自分で起きられるから朝食もいらないとおっしゃったんじゃないですか」
「寝過ごしたのはわかってたじゃん!」
「通りがかりに姫様の叫び声が聞こえただけです、私はティアラ様お付のメイドじゃありませんし」
 この塩対応のメイドはボンネット。長い耳でわかるようにエルフのメイドで、長寿のエルフだけあって、300年以上王宮でメイドをしているらしい。
 ちなみにそれだけ長く仕えていながらメイド長ではない、基本的にポジションが決まってなくて、足りない仕事を補うフリーな役割なんだとか。あとうちに仕えてるだけあって生粋の女好き。新人のメイドはほとんどコイツに味見されてるとか...。
「お急ぎのようですが私なんかに構っていていいのですか?」
「あぁそうだった!」
 そうよ、ボンネットにかまってる場合じゃなかつた、急いで支度しないと!
「着替えのお手伝いはいりますか?」
「いらない! 一人のが早い!」
「では私はこれで」
 ドレスじゃ一人で着るのに苦労するけど、着慣れた騎士服に手伝いなんていらないわ。
 私は初めから手伝う気のなかったボンネットの申し出を断ると部屋のクローゼットへ飛び込んだ。



「ていうかアイツ何しに来たのよ!」
 騎士服に着替えて王宮の廊下を走りながら、結局支度も何も手伝わないで居なくなったボンネットを思い出す、まぁ茶化しにきたんだよね...。
 青を基調とした騎士服はスカートにロングブーツと短いマント、鎧は胸当てと右手のマジックガントレットくらいのもので、動きやすさ重視のこの服は私のお気に入り。
 とても走りやすいから全力疾走すればすぐに王宮から抜け出せると思ったけど...
「お嬢さん、そんなに急いでどこに行くのかね? よければこのワタクシめに教えていただけるかな?」
 あちゃー捕まったー。
「おはよう御座います、王母様」
 私の前を塞ぐように現れた、輝く金髪に大きなマントに派手な装飾にまみれたパンツルックのこの人は...この国の女王クラン、そう、私の一方の母様だ。
「我が子の今日最初の挨拶が「うわー捕まったー」と言わん顔で母は悲しいよ」
「スイマセン顔ニデテマシタカー」
「態度にも出てるわよティアラ」
 そして王母様の後ろから出てきたのはもう一方の母様、王妃ヴェール。
 長い銀髪に巫女を思わせる純白の清楚なドレスがステキなんだけど、内に隠した気の強さが隠せてないというか...。
「失礼な事考えてるわね?」
「滅相もない!」
 あと勘もいいので要注意。
「おはよう御座います母様、王母様。今は急いでるからお小言はあとにして欲しいなーって...」
 えぇわかってますとも、常日頃から廊下を全力疾走するなって言われてますもの。
「では、急いでいた理由を聞きましょう、内容次第では免除致します」
 その内容が問題だから黙ってたんだけどなー...。
「えーっと...。今日はウチにベルメットさんが来るって聞いて...騎士団の方に顔を出すみたいで...」
「ほう、あの生ける伝説と言われる冒険者の」
「そう! 稀代の女冒険者ベルメットさん! それが平和なこの国に来るって話なの!」
 流石ベルメットさん! 王母様も名前を存じてる! ってウチも物資で支援したセントラル防衛戦に参加してたらしいし当然か。
「たしかに、冒険者に大きな仕事のない我が国に訪れるとは、驚きだね」
 うちの国、平和すぎて冒険者に碌な仕事がないのよね。モンスターも野盗も騎士団で事足りちゃうから。でもそんなうちの国に何しにくるんだろ?
「まったく、アナタは王女でありながらまたそんな冒険者に憧れて...」
「まぁまぁ、この子がお転婆なのは今に始まった事でもないし、むしろ元気があってよいじゃないか」
「悪いとは言いませんが、冒険者の真似事でこの子にもしものことがあったら...」
「「ナイナイ」」
 王母様とハモる。母様の言うように冒険者ギルドで仕事を貰うことはしてるけど、この国平和すぎてマジで危険な仕事ないから、むしろうちのメイド長の稽古のがヤバいくらいだから。
「時にティアラよ...」
「はい?」
 王母様が耳打ちしながら小声で尋ねる。
「そのベルメット殿は、美人だったりするのかね?」
 まぁ、王母様の興味は腕っぷしの強さとかよりそこよね。
「イヤー...美人かは聞いてないけど、熊みたいな大女アルトリウスって異名があるくらいだから筋骨隆々のワイルドな方なんじゃないかな...」
「ふむ...それは私の守備範囲外だな...は!?」
 ベルメットさんの様子を思い浮かべて王母様が残念がってる...横で母様が氷の笑みを浮かべてる。
「ア〜ナ〜タ〜」
「イヤイヤ違うんだよヴェール!」
「何がどう違って、守備範囲とはなんのことかしら?」
「そういえば昨日買ったブランデーケーキが実に美味でね! メイドたちに差し入れしに行くところだったのだよ!」
「お待ちなさい!」
 母様の気圧に押された王母様は無理矢理話題を変えるとダッシュで逃げて、母様もそれをダッシュで追い掛けていった。母様も全力疾走してるじゃん...。
 あれ? これってもしかして王母様が母様引き受けてくれたのかな?
 王母様がそこまで考えるとも思わないけど、違ったとしても帰ってきたらお礼しなきゃ。


「かなり出遅れたー!」
 城下町を駆け抜けて騎士団本部まで急ぐ。予定ではボンネットさんは朝に着くだろうって事だから、だいぶ出遅れた事だろう。
「ヅラに先を越されるー!」
 全力のベルメットさんの胸を借りたいのに、アイツに先を越されたらベルメットさんの強さでもどうなるか...
「お城ってこっちだよね...」
「?!」
 っと、考え事しながら走ってたらものすごい美少女とすれ違った気がして思わず足を止めて振り返る。
 だけどその子も急いでたらしく、振り返ってみれば既に人混みにまみれて見当たらない。
「って王母様じゃないんだから...」
 私もこの国の王女であるから当然ビアンだけれど、王母様やボンネット程の女好きでないし、相手は一人に絞りたい派、美少女にかまけてる場合じゃない。
 よく顔も見えなかったし、私はまた騎士団本部へと駆け出した。
「ティアラ様いらっしゃい、遅かったわね」
 騎士団本部に付くと、私の騎士服に似た格好のピンク髪の事務、バレッタさんが出迎えてくれた。
「ベルメットさんは!?」
「団長とやりあってるわよ」
「あーもう! やっぱり先を越されたー!」
 バレッタさんに案内されて訓練所の方へゆくと、物凄い剣戟の音が聞こてくる。
「ふはははは! 今のも防ぐか! スゲェなアンタ!」
「いやはや、あの体制から繰り出すとは、肝が冷えたよ」挿絵AIで作った挿絵
 訓練所を覗くと、そこそこ体格のいいブロンドの女性が大剣を振り回してヅラと愉しげに戦り合っていた。
「あの人がベルメットさん...すっご...」
 身の丈程もある大剣を片手で、それも小剣のような勢いでぶん回している、話には聞いてたけど、あのヅラと渡り合うなんてホント凄い人だった。
「団長が魔法を使ってないとはいえ、あの人と渡り合うなんて生ける伝説の名前は本物ねぇ」
「あんなん見せられたらなんか私また自信なくなるじゃん...」
 全力で相手して欲しかったけど、私じゃ瞬殺でしょあんなの...、どうせ負けるならアレを初見で負けたかった...。
「アレの相手するなら団長とやるのと変わらないわね」
 むしろパワーで押してくる分ヅラよりやりにくいだろうなぁ。
「あぁそう言えば、あの人娘がいるのよ、丁度ティアラ様くらいの年頃の」
「え、ベルメットさん娘いんの!?」
 まさかの経産婦! 若く見えるのに私と同じくらいの子って実は結構の年齢なんだ。
「さっき王城へのお使い頼んだから戻ってくるのはもう少し後かしら? さっきすれ違ったんじゃない?」
「お城に行ってるなら待ってられないわよ!」
 同じくらいの年頃なら私でもいい相手になるかもしれない。なによりあんな女好きだらけのお城に一人でいさせられない。仲良くなって冒険の話とかも色々聞きたいな...。
「いや、ちょっと」
 私はバレッタさんの話の続きも待たず、来たばかりの道を引き返した。
「その子、ヒーラーなんだけどな...」


「さぁ、辿り着いたぞ!」
「聞いてた以上に、綺麗な街だね」
 私たち親子が長旅で辿り着いたのは百合の国ことユリゾンリリィ、平和で綺麗な国の王都だ。
 私はカチューシャ、17歳。ストレートロングの銀髪に、純白のヒーラードレスがトレードマーク、あと長杖。物心ついた頃からお母さんと冒険者していて、そのせいもあって若いながらもそこそこの実力のヒーラーをしている。
 そして、隣にいるのが私のお母さん。短いブロンドに比較的長身の体格、なにより身の丈程もある大剣が印象的な...剣士...なのかな?
「それで、着いたからにはこの国に来た理由をもう話してくれるんだよね?」
 お母さんは稀代の冒険者として有名で、私が生まれる前から実力者として名を馳せている。救った村や町は20を越え、救った国は2つ、遂にはセントラル防衛戦に参加してこの大陸全土まで救ってしまった。(あの戦争が短期終結したのはお母さんだけの功績でもないけど)
 そんな名うての冒険者のお母さんに、魔王の加護というので平和なこの国に仕事があるとは思えない。平和なこともあって綺麗な国だから、観光という理由もなくはないのだけど。
「まぁ一つはこないだのセントラル防衛戦の慰安だな。四月もの間、モンスターでなく人間の相手は応えたろ」
 冒険者をやってると盗賊なんかの人間を相手にする事はままある。でも私たちは冒険者であって傭兵ではないから、戦争に加担して人間相手に戦い続けることはあの戦争までなかった。
「その建前は来る前に聞いてるよ」
 でも実際、モンスターでなく人間を相手に戦い続けるのが精神的に応えたのはそのとおりなんだけれど...。
「もう一つは...お前の恋人探しだ」
「うん?」
 え...なんて? かなり予想外の答えが出てきて、思わず目が点になってしまう。
「お前、アタシが冒険者として連れ回してるせいもあるが、まともな恋愛したことないだろ?」
「そりゃまぁ...お母さんと組むようなのはベテランの人ばかりだし...、長く留まらないし...」
 カッコいいなって思う人はいたけど、流石に歳の差がね...。
「それでも、キャラバンの護衛とかの長期仕事でお前と同年代の男の子がいる事もあったろ」
「まぁ...気になる人がいたことはあるけど...」
 相手の子も...好いてくれてたとは思う、それでも私は"自分の性別“のせいで恋に臆病で...。
「アタシはな、お前を『女として育てた事』を申し訳なく思ってる」
「私は、『女として育てられた』事を恨んでないよ?」
 そう、ヒーラードレスを着て、女の子みたいな格好に立ち振舞をしているけど
 私は男の子なのだ
 見た目こそ女の子でも、体の一部はちゃんと男の子だし、このおっぱいもニセモノだ。
 それでも物心ついた頃から女の子として育てられた私は、女の子のように、男の子を好いてしまう。当然、恋に踏み出すことなんて出来ない。
「そこで、この国では女の子が大好きな女の子だらけだと聞く!」
「あーうん、さっきの話からどう繋がるのか分からないけれど...」
「そしてお前ほどの美少女ならこの国の娘たちか放って置くはずがない!」
「それはまぁ、よくいわれるけれど...」
 男なのに、どう言うわけか私は結構な美少女らしい。
「この国の娘たちと仲良くなって、お前が女の子大好きになれば! お前が本来の性別でもう悩む必要はないわけだ!」
「いや...相手の子が私の本当の性別知らない事に変わらないんだけど...」
「......」
 そう言うとお母さんはしばらく黙って考え込む。
「そこはお前の勇気次第だな!」
「恋愛に踏み出す状況変わって無いんだけど...」
 しかも私が女の子を好きになれるか分からないし...。
「あと私、女の子に告白された事ならもうあるからね? 断ったけど」
 友達としては好きだったんだけどね...。
「我が子ながら凄いなお前!」
「感心するとこじゃないから...」
 なんというか、我が母ながら結構考え無しに動いてたんだなって...。私の恋愛の事を心配してくれてるのは嬉しいけれど、今更どうこうできるものでもないし。
「せっかく来たんだし、観光して楽しもう。この国なら血なまぐさい生活も忘れて普通に女の子として過ごせそうだし」
「そうだな、思えばお前には普通の生活をさせたこともなかったな...」
「お母さんと一緒に冒険者してる方が好きだから、そう言う生活に憧れなんてないよ」
 本当に、私は冒険者してるのが大好きだから、そういう事に責任とか感じないで欲しいな...。
「チシャ! お前はホントに最高の我が子だなぁ!」
 感極まったお母さんが抱きしめてくる、て、その怪力は苦しいってば!
「お母さん...ちょっと苦しい...」
 なんとかお母さんをなだめて、先ずはこの国の騎士団本部に向かった。


「お会いできて光栄です、ベルメット殿。ワタシがユリゾンリリィ騎士団・団長のウィッグだ」
 王都の入り口からすぐそこにあった騎士団本部に入ると、すぐに騎士団長のウィッグさんが出迎えてくれた。
 ウィッグさんはオレンジの髪に端麗な顔立ちの...騎士団長とは思えない若さの凄いカッコいい男性で、思わず見惚れてしまう。
「こちらこそ、アンタがあの有名な処女の番人メイデンセンチネルかい」
「またの名を貞操帯」
「仕事を増やすぞバレッタ」
 そして怒られてるのが事務のバレッタさん。
「しっかし話には聞いてたが、ホントに見た目は若いのな」
「見た目は?」
 私は基本的に冒険した土地の事しか知らないので、この国のことはあまり詳しくはないのだけど、どうやらウィッグさんは有名人らしい。
「耳は通常の人間に似たが、ハーフエルフでね、こう見えて300年以上この国に仕えてる老人さ」
「300年!?」
 エルフもハーフエルフも基本的に自分たちの国に引き篭もりだから、冒険生活の長い私でも始めて見たけど、ホントに見た目は若いままなんだ!
「そう言うベルメット殿も、熊みたいな大女アルトリウスと聞いていたのでどんな大女が来るかと思っていたのだがね」
「アッハッハッハ! アルトリウスってのはアタシの武器の名前なんだがね!」
 お母さんの名剣「アルトリウス」クマみたいな大剣という意味で付けた名前はなぜかお母さんの異名として広まってしまっている。
「なるほど、そしてそちらの娘さんは?」
「アタシの子のチシャだ」
「始めましてカチューシャです」
 ようやく私の紹介になったので失礼のないように挨拶する。お母さん、愛称じゃ紹介にならないよ。
「噂には聞いていたが娘がいたとは、そして見たところ癒し手ヒーラーのようだが?」
 ずっと冒険者をしていてヒーラーとしてそこそこの実力がある私だけど、私の存在はお母さんが偉大すぎて隠れがちだ。
 というより、お母さんが強すぎて一緒に戦うと私の出番があんまりないし...。
「親のアタシが言うのもなんだが、この歳でなかなかなのヒーラーだよ!」
「生ける伝説の子がヒーラーというのも少し惜しい気がするが...」
 これもよく言われるが、私には前衛をできない理由がある、それを話す訳にもいかないけれど...。
「可愛い我が子を前衛に立たせる訳がないだろ! なんならフルアーマー着せて背負って戦いたいわ!」
 そんな理由とは関係無くこれを本気で言ってるのが困る...。
「絶対イヤだからね」
 フルアーマーとか、可愛くないし。鎧を着るならギリギリ魔法剣士かなぁ、いつか見たあの装備ミニスカートみたいで可愛かったなぁ。
「ハッハッハ! さしもの伝説も子煩悩であったか!」
 ウィッグさんがウケてるからまぁいっか。
「あの、ところでなんでこちらに招待されたんでしょうか?」
 冒険者の私たちが最初に訪れるのは大抵冒険者ギルドで、国の防衛拠点にいきなり呼ばれるなんてことはまずない。
 よもや平和過ぎて冒険者ギルドがなかったり?
「なんでもここの冒険者ギルドはいつもギルドの宿がいっぱいらしい」
「平和な国なのに?」
「だからこそ怪我した冒険者や休止中の冒険者に需要があって、長く居着くから部屋がいっぱいなんだと」
「ギルドの仕事も薬草集めなんかの簡単な物ばかりだからな」
「だからさぁ団長〜、ウチの仕事もう少し冒険者ギルドに回しましょ〜よ〜」
 そして国からの仕事がギルドに回せられることも多いのだけど、バレッタさんのボヤキを見るにそう言う事はあまりしてないみたいだ。
「そしてここは騎士団を名乗っているが、見ての通り団長のワタシと事務のバレッタしかいなくてね、部屋が余っているので滞在中はウチを宿に使ってはと思ってね」
「二人だけなんですか!?」
「一応、王女様もここの所属だけどねー」
 三人目の団員が王女様って人手不足なのか平和過ぎて人件費削減されてるのか判断に困る...。
「そういえば憧れの冒険者が来ると楽しみにされてた殿下が来られていないな」
「大方楽しみ過ぎて寝付けなくて寝坊したんでしょ」
「王女様に憧れられてるとは光栄だね」
「変わった王女様なのかな?」
 王族からすれば冒険者なんて下賎の放浪者みたいに思われてそうなものだけど。
「一番槍は殿下に譲りたかったが来ないのでは仕方無い。ベルメット殿、早速胸をお借りしても?」
 腰の剣を鞘ごと腰から抜いて穏やかに言うウィッグさんだったけれど、その穏やかな様子とは裏腹に瞳には猛者の炎が灯っていた。
「団長も相当楽しみにしてた口じゃん」
「おう! アタシもな!」
 こうしてお母さんとウィッグさんの模擬戦が始まった。
 特に細かいルールは決めていなかったけど、猛者同士の試合は確実に勝敗の決した瞬間があるので、そういうのは必要無いらしい。
「ベルメット殿は魔法は?」
「アタシはチシャみたいに器用じゃなくてね、コイツ一本のゴリ押しだよ」
 お母さんの戦闘スタイルは大剣を片手で振り回し、空いた手で打撃や投擲、その他色々行う(戦闘中に拾った武器で一時的に二刀流したり)...まぁなんというか、乱暴な戦い方だ。
 元々は普通に両手で振り回してたのだけど、私が生まれたあと、私が6つになるまで私を片手で抱えながら戦っていたので今のスタイルが馴染んでしまった。
 背中に抱えればよいのでは? と言われると「アタシでも背中には目は付いてないんだから、大事な我が子を背にして戦うなんて出来ない」との事。
 私を抱えなくなったあとも冒険者のお母さんは護衛や運搬といった仕事も多いので、「片手が自由な方が都合が良い」とそのスタイルを続けている。
「ではワタシは盾魔法以外の魔法を封じて純粋に剣の勝負とさせてもらおう」
 そしてウィッグさんのスタイルはこの国の始祖、女勇者から続く魔法剣士スタイルなのは間違いないと思う。
 騎士剣とマジックガントレットに重装な鎧を纏わない機動重視の装備。ガントレットは魔法の触媒として使われ、杖であり盾であり打撃用の甲手だ。
「魔法剣士に魔法縛られても嬉しくないねぇ」
「なに、必要なら使わせてもうさ」
「面白え! すぐに使わせてやるよ!」
 特に合図も無しに、試合がはじまりお母さんが一気に距離を詰めた。
「二人とも戦る気バチバチじゃない、あんな団長始めてみたわ」
「でも本気出さないんですね?」
 魔法剣士が魔法縛るなんて、パワーとスピードとスタミナでごり押すお母さん相手には相当分が悪いはず。
「アレは相手に本気出させるための挑発でしょ」
「あぁ、なるほど」
 お母さんの方もゴリ押しスタイルなので本気が分かりにくいが、今の片手スタイルは『冒険者として都合のいいスタイル』で、本気は両手で剣を握った時。まぁ模擬戦でそこまでの本気を出すと思えないけど。
 それからしばらく、訓練所には激しい剣戟の音とお母さんの掛け声&笑い声が響き渡った。
「魔法、使いませんね」
「団長も煽るねー、どちらも先に相手に本気を出させたいと見えるね」
 お母さんの猛攻を避けて交わして魔法の盾で守って、合間にウィッグさんも鋭い反撃を入れる、そんな豪快に目えて実は小競り合いの攻防がずっと続いている。
「お母さんも本気じゃないとはいえ、ウィッグさんも凄い人ですね...」
 正直、300年も騎士団長やってるハーフエルフとはいえ、平和ボケした国の騎士団長なんて大したことはないと思ってた。ベテランの冒険者さんは何度も見てきたけれど、お母さんと渡り合える人は見たことがない。
「ハハハ!」
「お母さん楽しそう」
 あぁ見えて、お母さんの信条は「戦いを楽しむな」だ。
 モンスターでも、人間でも、戦いは命のやり取り。どんな戦闘でもお母さんは真面目で、真剣で、油断しない。そんなお母さんがあんなに楽しそうに戦ってるのを見ると、この信条は自戒の念も篭っているのかもしれない。
「でもこれ決着付くの日が暮れそうですね」
「あんな豪快に戦って日暮れまで待つの? 流石冒険者のスタミナね」
「いやー...お母さんが特殊なんだと思いますけど...」
 一見豪快なだけに見えて剣を持つ手や、踏み込みの足を変えて交互に休ませてる。魔法が苦手で不器用だと言うお母さんだけど、その実戦い方は器用だ、多分無意識でやってるけど。
「決着まで時間掛かりそうだし、娘さんお使い頼まれてくれない? 依頼として駄賃も出すからさ」
「構いませんよ」
 お使いなんて冒険者の仕事としては最たる物、あの様子だと今離れても決着の瞬間を見逃すこともないだろうし、時間を潰すのに丁度良さそう。
「じゃ、こっち来て」
 バレッタさんに誘われて事務室へ向かうと、机の上の紙をさっと纏めてスクロールにする。
「この報告書を王城のボンネットってメイドにお願い」
「イヤ...報告書って重要な物じゃ...」
 それをお母さんが有名人とはいえ、一介の冒険者の私に任せるの!?
「別に「今週も何もありませんでした」って程度の経過報告だから大丈夫よん」
「それにお城なんて入れるんですか?」
 招待されてもないのに、一介の冒険者が。
「ウチの国のお城、美人と美少女はフリーパスだから、娘ちゃんなら余裕でしょ」
「え、えぇ...」
 なにその大穴セキュリティ...。平和ボケにも程があるでしょ...。
「あぁ、ただ、陛下が王城の案内言い出して、個室に連れこまれそうになったらぶっ飛ばしてでも逃げてね、あの人手が早いから」
「女王様ぶっ飛ばすのはまずいですよ!?」
 もしかして美人はフリーパスって女王様が原因!?
「平気平気、セクハラに鉄拳制裁は身分を問わず合法無罪を王妃様が制定してるから。アタシも陛下投げ飛ばしたことあるよん」
 この女王にしてこの王妃あり...この国大丈夫?
「途中にマーケットとかあるから、楽しんどいで〜」
 そう言ってスクロールと先払いの駄賃を貰い、私は王城へお使いに行く事になった。


「ホントに入れちゃった...」
 取り敢えず途中の商店で軽いモノを摘みつつ、王城へ辿り着くと。門番はいなくて代わりっぽいメイドさんに尋ねるとどうぞどうぞとあっさり中へ通されてしまった。
 王城の中は沢山のメイドさんが忙しなく働いていて、門番もそうだけど衛兵らしき姿が一人も見受けられない。
 そしてなにより、男の人が一人もいなかった。
(まぁ、ここにいるんだけど...)
 思えば見た目女の子とはいえ男の私が入って大丈夫だったのかな? まぁ男だってバレたことは一度しかないからバレることはないと思うのだけど...。
「はぁ...」
 見た目女の子でも男の子、本当に女の子ならどんなによかったことだろう...
 だけどお母さんが私を女として育てた理由は納得してるし、恨んではいない。もう一つの私の秘密は本当の性別以上に人に知られてはいけない。
 『もう一つの私の秘密』
 それが性別以上に、私が恋愛に踏み出せない理由でもある。
「いけないいけない。届け物済ませないと」
 女性だらけの空間にいる自分の異質さから物思いにふけってしまった。
 入り口のメイドさんに聞いたところによるとボンネットさんは日々の仕事が決まってないからどこにいるかわからないとの事だけど...。
「メイドさんたちに聞きながら探してみるかな」
 知ってる人なら探すのは簡単なんだけど、知らない人を探すのは難しい...、その人の持ち物でもあれば痕跡を追えるのだけど。
 と、大きな花瓶を磨いているメイドさんに声を掛けようとした時。
「メイド長のご乱心だー!!」
 城内が途端に騒がしくなった。


「ちょっと何事!?」
 ベルメットさんの娘さんを追って王城に戻るなり、城内が大騒ぎになっていた。よもや娘さんが何かやっちゃった?
「キャペリンがまた悪酔いして暴れてます」
 大騒ぎのホールに行くと、そこにいたボンネットが状況を説明してくれる。
 そこには青髪に長身の40くらいの人、メイド長のキャペリンが顔を真っ赤にして戦闘体制を取り、周りには彼女を止めようとしたと思われるメイドたちか転がっている。
「まったく、どの子も鍛錬が足りないわねぇ! ほらぁもんであげるから次来なさぁい!」
 あーうん、前に見たことあるなこの光景...あの人、お酒に酔うと暴走するのよね...。って!
「なんでこんな時間からあの人酔ってるの!? 誰が飲ませたのよ!」
 キャペリンの悪酔いは城内では有名だし、真面目なあの人がこんな時間からお酒を飲むとも思えない、誰か飲ませた犯人がいるはず...。
「クラン女王が差し入れしたブランデーケーキで酔ったようです」
「ブランデーケーキで!?」
 それって酔っ払うほどアルコールあるっけ!?
「てなわけでメイドたちでは相手にならないのでティアラ様お願いします」
「メイドが主に厄介事押し付けるな!」
「私戦いたくないので」
 それ戦いたくない、であって、戦え無いわけじゃないよね!? ウチに来る前はヅラと一緒に冒険者やってたって聞いてるよ?!
「手伝ってよ! 私一人じゃあの人に勝てたことないんだから!」
「イヤですってば」
 プリムがいれば一緒になんとか出来そうだけど今日に限って非番だし...。
「おらあ!」
 そうこうしてるうちに次々とメイドたちが立ち向かってはふっ飛ばされている、なにこのメイド無双。
「そうだ王母様と一緒なら!」
 王母様も昔はヅラに稽古つけてもらってた話を聞いている。実際戦ったところを見たことはないけどあのヅラに稽古してもらったならそこそこ戦えるはず!
「クラン女王ならキャペリンの足元で伸びてますよ」
「王母様ぁぁ!?」
 手遅れだったー!
 ていうかコレ大丈夫!? 女王暗殺事件じゃない!?
「えぇい! ままよ!」
「あらお次はティアラ様? 久しぶりの鍛錬だねぇ!」
 ボンネットは役に立たないし他に居ないなら私がやるしかない! なにより酔ってるなら私一人でもなんとかなるかもしれない!
「私がアルコールを抜くから、アナタは気を引いて少しでも動きを止めて!」
「え、誰!?」
 私が飛び出しと共に、もう一人知らない誰かが参戦した。


 なんかよくわからないけど、話し声を聞くにメイド長と思わしき人が酔っ払って大暴れしてるらしい。
 衛兵とかいないと思ったら、メイドたちがロイヤル・ガード兼任してるみたい、そしてあの人ほその教育係なのだと思う。
「王母様ぁ!?」
 しかもあの人の足元で伸びてる人、女王様らしい...。この国は果たして大丈夫なのだろうか...。
 うーん、私ならなんとかできそうなんだけど...それをするには近付いて少しの時間をかけなきゃいけない。一人じゃちょっと難しい...。
「えぇい! ままよ!」
 と、どうするから悩んでいたらティアラ様と呼ばれてた子が剣を構えた。よし、前衛がいれば私の魔法が使える!
「私がアルコールを抜くから、アナタは気を引いて少しでも動きを止めて!」
「えっ、誰!?」
 唐突な私の参戦にティアラは戸惑うけど、説明する余裕もなく、メイド長さんは私たちに襲いかかる。
「オラオラオラ!」
「ちょちょちょ!?」
 やっぱり、メイド長さんのスタイルは『マジックアーツ』魔法で肉体を強化して魔法を纏って戦う格闘スタイル。単体戦特化で範囲攻撃は苦手なはず!
「ごめんなさい、もう少し耐えて!」
 メイド長さんの猛攻をティアラを盾にするように背後に付いて、体の隙間から魔力を照射する。
「デトックス!」
 そして十分な魔力を当てたところで、必要なエネルギーをメイド長さんから内在させた魔力と共に引き抜く!
「はふ〜ん」
 エネルギーを引き抜かれたメイド長さんは、目を回すように倒れて、辺りは静かになった。
 ふぅ...上手くいってよかった...。


「え...なに? 寝た?」
 キャペリンの猛攻をひたすら防いでいたら、急に倒れてしまった。
 多分ぴったり私の後ろに付いてた子が何かしたんだろう。
「お母さんもお酒に弱いから、解毒魔法の要領で身体からアルコールを抜く魔法を作ってたの。副作用で急激に眠くなるけど...」
「あぁ、そうなんだ...」
 どうやら無事ではあるらしい、にしても魔法作るって凄いな。私そんな魔法使えないよ?
「えっと、止めてくれてありがとう」
 念の為残心してキャペリンが起きないか警戒してみたけど、もう大丈夫そう。
 私は振り返って後ろにいた子にお礼をする。
 ぴったり私の背中に...多分盾にしてたんだと思うけど、凄い場慣れした立ち回りだった。
 後ろにぴったりいるのに私の動きの邪魔はせず、なのに私の動きに合わせて背中から離れず...だから全く顔が見えなかったからようやく顔が見られる。
 そして振り向いたそこには。
「私の方こそ、いきなり盾にしてしまってごめんなさい」
 天 使 が い た 。
「......」
「あ、ちょっと怪我してる...。すぐ治すね」
 天使は硬直する私の手を取ると、癒しの魔法を唱え、腕に心地良い感覚が流れたと思ったらいつまにかしていた怪我がいつのまにか治っていた。
「あの...えっと...大丈夫?」
 私が無言で立ちすくんでるものだから、天使は治したその腕を包んで、顔を覗き込んでくる。
「は!?」


 どうしたんだろう? 怪我は治したのにティアラは硬直して動かない。
 もしかして他にも強い打撃を受けてたかな? 戦闘中は気分が高揚してて、終わってから大怪我の痛みに気が付くなんてよくある事だし、失礼だけどもうちょっと身体をよく診させて貰おうかな?
「キミ、名前は?」
「あ...」
 と思ったら、動きだした。そうだよね、名前も名乗らず治すの良く無かったよね。
「名乗り遅れてごめんなさい、冒険者のカチューシャです」
「カチューシャ...いい名前!」
「あ...うん、ありがとう」
 お母さんにもらった大事な名前だから、褒められのは素直に嬉しい。
「私はユリゾンリリィ王国、第一王女・ティアラ!」
 あ、やっぱり王女様だったんだ。騎士服着てるけどバレッタさんが王女様も団員って言ってたからそうなのかなと思ったけど、って私マズいような...?
「あ、私、王女様を盾にしてしまって!?」
「ううん! それは全然いいの! それよりもカチューシャ!」
 ティアラ様は今度自分から私の腕を取ると、傅いて、まるで騎士が淑女の腕を取るように、もう片手を自分の胸にあてて、言った。
「私の、プリンセスになってください!」
 え...。
「貴女に、一目惚れしました!」
 ちょっ
 えぇーーー!?挿絵AIで作った挿絵
シェア
次の話 →
お友達から始めましょう!
百合の国のプリンセス♂作者:万能ねぎトロ
目次
コメント0
ログインしてコメントする
まだコメントがありません