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魔王、復活

 カチューシャのドレスの着付けをカローラが手伝っていた時のこと...
「可愛らしい下着を履くようになったと思ったら、良く見たら結構厚手の下着でしたのね」
「これなら膨らみもごまかせるから...ね」
 実は昔から可愛い下着を履きたかったカチューシャとしては前にプリムに下着を見られてガッカリされたのが結構なショックだっため、バレない程度に可愛らしい下着を履くようになっていた。
「ホントに下着姿まで見ても男の子だなんて思えませんわね」
「裸を見られたのはカローラが初めてだけど、色々と工夫はしてるし...」
 セクハラは受けないようにしているが気を抜いてプリムに見られたようにもしもの時もある。カローラには流石に裸で決定的なものを見られたため誤魔化しようもなかったが。
「あんなに沢山食べるのに、スタイルも良いですよね」
「沢山食べるのはライカンの特徴だと思ってたのに、お母さんに似ただけだったみたいでちょっとショックだったけど...」
 お肉が大好きなのはライカンの特徴と一致しているが、ライカンに詳しいウィッグらに聞いたところ、カチューシャほどには食べないらしい。
「カローラがあんまり食べないのはそのスタイル維持するためなの?」
「私は単にお肉が苦手なだけですね、それに痩せているだけで胸まで貧乳なのはスタイル的にはあまり......」
 と、カローラは自分の胸を寂しそうに見つめる。聖女の使命は彼女の誇りだが、代々聖女の家系が貧乳なのは彼女の密かなコンプレックスである。
「それを言ったら私の胸はニセモノだし...」
「むぅ、ニセモノでもいいから分けてほしいです...」
 カチューシャを男だと知るカローラはその胸がニセモノだということも知ってはいる、がニセモノだと知らされた今もとてもそうは思えないでいるくらいだ。
「作りが精巧過ぎて職人さんも同じの作れるか分からないって言ってたからどうだろう...」
「本当にニセモノだとは思えないですよね、このおっぱい」
 と、カローラはどうせニセモノだからと軽い気持ちでカチューシャのそれを下着の上から両手で揉むのだが...。
「あんっ...ひゃ!」
 唐突な刺激にカチューシャから甘い声が漏れて咄嗟に両手を離す。
「あ...ごめんなさい、触られたら感覚が伝わるようになってるんでしたね」
「なんか変に敏感作られてるみたいで...あまり触らないで...」
 と、涙目になって胸をガードするのだった。
...ムラッ


「なるほど、カチューシャが"受け“もたしかにアリですね...」
「理解して貰えたのは喜ばしいけど、着替え中になにしたコラ」
 こうして王女と聖女の意見は一致したのだった。―停戦。


百合ビアンの国のプリンセスお姫様♂#9 魔王、復活
挿絵AIで作った挿絵


「カチューシャ様、緊急の要件がございます」
 カチューシャとカローラと朝食しながら談話していると(プリムは招集がかかったから不在)、ボンネットがなんだか忙しない様子でやってきた、珍しい。
「私に用事? なんだか騒がしいみたいだけど」
「はい、都内に多数の魔物の侵入、及び魔族の気配が多数感知されました」
「まぁ、穏やかではありませんね」
「魔物はともかく、魔族が多数!? 魔女って一人じゃないの!?」
 魔族なんてそうそういるものでもない、だから王都へ近付けばすぐに分かるという話だったはず。
「例の魔女が召喚したのでしょうか?」
「確認のため騎士団長が奔走してますが数が多いため単独では手に余ります、カチューシャ様の助力を求めています」
「私は構わないけど、ティアラの側を離れて平気なのかな?」
 カチューシャが心配そうに私を見る。魔女が攻めてきたなら尚更カチューシャは私の側にいた方がいいのはその通りなのだけど...。
「ティアラ様は城内のメイドたちでお守り致します、それよりも今は市民が心配です」
「そうね! 私は大丈夫だからカチューシャはヅラを手伝ってあげて!」
「私もティアラの側にいますから、カチューシャは行ってあげて下さい」
 メイドたちだけでは不安でも今はカローラもいる...まぁここ数日でもカローラが聖女の力を使うところを見たことないからどんなものかは知らないんだけど。
「うん、わかった。二人も気を付けてね、特にティアラはじっとしててね!」
「私だって王女らしく大人しくしてれるってば!」
 カチューシャに釘を差されてから送り出したものの、私はその意味をすぐに思い知ることになる。
「って、カチューシャ大丈夫かな...」
 何の気なしに送り出したけど、いくらカチューシャが強いといったって魔物と魔族が多数だなんて...実は私が思ってる以上にやばいんじゃ...。
「あの似非エルフは本当に危険なら一人で何とか致します。カチューシャ様の手に余るような脅威ではないと判断してのことなのでティアラ様は信じてお待ち下さい」
「そうは言うけどさ...」
 王都への魔物や魔族の襲撃なんて前代未聞だし、いくらヅラでも数で攻められたら手が足りないんでしょ?
「ボンネットは騎士団長様を信頼なさっていますのですね」
「まさか、ただ付き合いが長いだけですよ」
 300年くらいの付き合いだものね...ってもボンネットはお城に引きこもりだしヅラは男だからお城に入れないしで、案外接点なさそうだけれど。
「腐れ縁というやつですわね!」
「カローラ、それ良い意味で使う言葉じゃないからね...」
 心配しても私はここを動けないからヅラとボンネットの言葉を信頼するしかないんだけどさ...。そう考えるうちにプリムもやってきて私は王宮の別室へ移動した。
 王族が一網打尽にならないよう、母様王母様、ロリエルはそれぞれ離れた別室にいるらしい。こんな事態が初めてでもちゃんと対策があるのはキャペリンの教育がしっかりしてるんだろうな。


「コンフェッティ、そこを右!」
 コンフェッティが走る先を人垣が割れるように広がっていく。城下を走るならコンフェッティがいいとボンネットに言われたけどこういうことだったんだ。
 ユニコーンの不思議な力で人々はその通り道を無意識に開けてくれる、おかげで安全に魔物の匂いを追うことができる。と言っても手綱の握り方なんて分からないから声で誘導してるんだけど...人間の言葉が分かるユニコーンが私の馬になってくれたのは思った以上有り難いのかもしれない。
「あれは...ゴブリン!?」
「キィ!?」
 町中だから正確な匂いが分からなかったけど、一番近くの匂いを追うと大きな麻袋を担いだゴブリンが路地裏にいた。
 魔族の姿は見当たらないけど王都に侵入した魔物というのはゴブリンらしい、他に感じた匂いも同じようなものだった。
 ただ、抱えてる麻袋から漂う異様な匂いは一体...。
フシュルル!
「ちょっ!? コンフェッティ!?」
「キキィ!」
 ゴブリンくらいなら大したこと無いけれど、抱えている麻袋に警戒しているとコンフェッティが勝手に突っ込んで頭突きでゴブリンを突き飛ばす。
「キィー!!」
 私を乗せてるから全力の突きではなかったのか、突き飛ばされたゴブリンは麻袋を投げ捨てて一目散に逃げてしまった。
「もう、危ない事しないでね」
 コンフェッティを宥めながら地面におりる。ゴブリンを追うのは簡単だけど投げ捨てた麻袋が気になる...。
 私はコンフェッティに持つように言って麻袋にゆっくり近付いた。
「人間の匂いのようにも思えるけど...」
 大きな麻袋だ、人間一人くらいは余裕で入るだろう、もしかしたらもう被害者がでていて人間を運んでいた? だとしてもこの異様な匂いの正体がわからない...。私は麻袋の口を慎重に開ける―
「女の人!?」
 口を開けてすぐ、中身が赤髪の女性だと分かった、だけどそれは息をしていなくて、心臓も動いていない、遺体だった。
「なんなのこれ...」
 死んで間もないようだけど綺麗な遺体だった、ゴブリンに襲われた被害者のようには見えない、なにより、遺体でありながらもこの女性の異様な匂いは...感じる魔力は。
「この人が不死身の魔女...?」
 でも不死身だとしたら死んでるはずが...。
「カチューシャ! 来てくれたか!」
「ウィッグさん!」
 考えてるとウィッグさんがやってくる、こんな事態なのに私と違って自分の足で走り回ってるらしい。
「君も見つけたか」
「あ、ゴメンナサイ! これに気を取られてゴブリンに逃げられてしまって...」
「いや、ゴブリンは放っておいて構わん、それを城下に運び込むのが目的で外へ戻っている」
 どうやらゴブリンたちはただの運搬係でこの遺体が本命らしい。ただその目的が分からないのだけど。
「あの、この人は一体...」
「不死身の魔女・マジェスティだ」
「やっぱり! でも不死身なのになんで死んでるんですか?」
「不死身と言ってもヤツは死なない訳では無い。“死ぬと都合の良い状態で近くに蘇る"のがヤツの特徴だ」
 殺せないから不死身ではなく、殺してもすぐ蘇るから不死身という扱いなんだ。
「じゃあ多数の魔族っていうのは...」
「あぁ、どうやら自分の死体をばら撒くことで王都に侵入したようだ、私の感知を逆手に取られるとはな...」
 遺体でも魔族特有の魔力は感知される、私でも臭いで生死の判別は余程近付くか時間が経ってないと無理だし、ウィッグさんの責任ではないと思うけど...。そもそも騎士団員が少なすぎるのが問題なのだし。
「残りの気配を追っても死体しか見つからないと思うが...それはそれで放置もできん、私はこのまま東から北へ周るので君は南から西を頼む」
「はい」
「死体を見つけたら信号魔法を上げて次を探してくれ、バレッタに回収に向かわせる。匂いで追える君なら本体も見つかるかも知れないが...その時は決して一人で戦わず私と合流を待て」
「私じゃ敵わないですか?」
 自分の力量を過信するつもりはないけれど、本気の私でも敵わない相手なのかな。
「いや、ヤツは不死身であること以外は少し魔力の高い魔術師程度の力量だ、君の敵ではないだろう」
「それじゃあどうして」
「殺しても殺せない相手ではさしもの君でもジリ貧になりかねない。なにより今回の手口からわかるようにヤツは狡猾だ、君を危険な目に合わせられない」
「は、はいっ...」
 ウィッグさんに心配されてちょっとドキッとしちゃった...。か弱いに程遠い私の心配までしてくれるなんて、やっぱりカッコイイなぁ...ウィッグさん...。
 そうして私とウィッグさんは二手に分かれて城下にばら撒かれた魔女の死体...麻袋を回収して回った。


「もう魔族の反応はないな...」
「私も他に臭いは感じませんでした」
 騎士団本部の訓練所に山積みされた魔女の死体...流石に同じ顔の死体がこれだけあると凄い不気味...。
 手分けして回収した魔女の死体はそんな数で、どうやら魔女本人はなんらかの方法で既にウィッグさんの感知から逃れているらしく見つけられなかった。
「よもや魔族の反応に“慣らされる"とはな...」
「ウィッグさんの魔力感知でももう見つけられないんですか?」
「珍しい魔力だからこそ反応を判別できていたからな...城下に侵入されたとなると新しい対策を考えねば...」
「私なら探せると思いますけど」
 匂いで追える私ならまだ対策はされていないと思うから提案してみるけど...
「提案はありがたいがこれ以上危険な目にも遭わさられないんでな、城で大人しくしていてもらいたい」
 やっぱりウィッグさんは私を心配してくれている。
「心配してくれるのは嬉しいですけど...」
「将来主君になるであろう方を危険な目には遭わせられんだろう?」
「ウィッグさん気が早いです...」
 あーそう言う理由で...コレは脈無いなー。元よりボンネットに聞いたエルフの文化だと特定のパートナーは持たないって話だけども...。
「あれ?」
 ちょっと落ち込んでいると足元に違和感を覚えた、気になって足元をみた瞬間...。
「捕まえましたわよ!」
「きゃあ!?」
「なにっ!?」
 足元から魔法陣が私を覆ったかと思うと私の体が束縛されて身動きが取れなく!? 後ろから聞こえるこの声は...!
「王女は手に入れましたわ、魔王様復活を楽しみに待ってる事ね!」
「待て、マジェ―...」
 どうやら私を王女だと勘違いているらしい後ろにいる魔女はウィッグさんの言葉も待たず私は転移された―
挿絵AIで作った挿絵


「カチューシャが攫われたって!?」
 回収した死体に紛れていたらしい魔女は、二人の会話のやり取りでカチューシャを王女と勘違いして攫っていった、そう報告を受けて私はカローラとプリムと一緒に騎士団本部に乗り込んだ。
「ヅラ、アンタが一緒にいながら何やってんの!!」
「申し訳ない」
「まぁまぁ、王女と間違われたと言うことでしたら命の心配はないでしょうし」
「そうだけど! アイツの目的って魔王の復活でしょう!? それってつまり...」
 いや駄目だ、この先は考えたくない...。
「十中八九、◯✕されてますね」
「プリム!!」
 だから言うんじゃないわよ!!
「カチューシャならその点も大丈夫だと思いますけど...」
「なんでカローラはそんな冷静なの!? いくらカチューシャが強いっていってもさぁ!!」
 魔女が相手じゃ睡眠とか催眠とか色々あんじゃん!
「言われてみれば普段奥手な子ほど初体験のそういう事に堕ちやすいとは私の愛読書にも書いてますね...」
「そこを心配しなくていいから!」
 いや普段どんな本を読んでるのよこのスケベ聖女は。
「真面目な話、どうすんですか。いくらスケベな私でもカチューシャ様に何かあったならアンタをただじゃ済ませませんよ!」
 こんな状況だと流石のプリムも真面目になる。プリムにとってもカチューシャは友達...だよね? のはずだし、心配でないはずがないわよね。
 ただプリムにヅラをどうこうできるとは思えないけど。
「アンタ強さは規格外だけど、こういう時どうなのよ」
「残念だが転移魔法は真似できなくはないが痕跡を追うのが難しい...せめてもう一度会えれば信号なんかを仕込めるのだが...」
 転移魔法自体は高度なもののヅラは真似できるらしい、それで追えてないってことは行方が全くわからないこってことよね...。
「そんな都合のいいこと...。何か探す手掛かりとかないの!?」
「すまない、転移魔法の最大距離からして領内にいるのは間違い無いが、それ以上には絞れない。ましてやこれまでの探索でアジトらしき場所に目星もついていない...」
「なによそれ!!」
 領内なんて、そんな広い範囲探索できるわけない! せめてこの国にもうちょっと軍事力があれば人海戦術で探せるのに...平和過ぎて探索もできないなんて!
「もういい! カチューシャが大変な目に遭ってるかもしれないのにじっとなんてしてられない!」
 ここにいたってなんにもならないならせめて虱潰しに探索してやるわよ!
「お待ちくださいティアラ! 魔女の本来の目的はアナタなんですよ? アナタが魔女に見つかっては大事です!」
「うっ...」
 たしかに本気のカチューシャ程に強くない私が魔女の手に落ちたら最悪の事態になりうる...王女として私は王宮に身を潜めるべきだ...。
「だからって...じっとなんてしてられないよ私!」
「カチューシャが心配なのもわかります。ですが、ここはカチューシャを信じて待ってあげられませんか?」
 カローラはカチューシャの事を心配する以上に信頼しているみたいだった。実際にセントラル防衛戦で一緒に戦ったからだろうか...。そして言われて思い出す、自分の王女としての責任を。
「だって...だって...」
 カチューシャが心配なのに...私に王女としての責任は捨てられない...私を引き取って育ててくれた、母様たちを、みんなを裏切れない...、カチューシャの事が大好きなのに! 大事なのに!
「王女なのに...一番大事な人を救えないなんて...!」
「大丈夫ですよ姫様、姫様の大事な人は、私が命をかけてもお守りしますから」
 身動きがとれなくなって、自らの無力さが悲しくて私は座り込み、カローラとプリムが私をなだめる。
「あのー、ちょっといいですかー」
 落ち込んでるところにバレッタが間延びした声と共に現れる。こんな事態に何そのテンションは...と思ったのだけど...
「どうしたバレッタ」
「あの魔女、また訪ねてきましたよ?」
「「「「はぁ!?」」」」
 全員が間抜けぬ声で驚くことになった。


 一瞬の隙を突かれて攫われた私は魔法の鎖で縛られて洞窟の中にいた。
「あのー、ここは?」
「ホーホッホッホ! 私のアジトですわ! 誰も助けになんてこないから存分に泣き喚きなさい!」
「アジト...っていうかゴブリンの巣ですよね?」
 周りに控えているゴブリンといい、臭いといい、洞窟の岩盤剥き出しで禄に家具もないのを見るに、ゴブリンの巣を仮の住処にしていると言った感じに見える。
「う、うるさいですわね、住めば王宮ですのよ!」
 否定をしないのを見るにどうやら図星らしい。
「領内にゴブリンの巣なんてあったんだなぁ」
「オタクの騎士団長は優秀みたいだけど、こんな小さな巣は見つけられなかったみたいですわね! って! 誰のアジトが小さいですってぇ!?」
 ここがどこか聞き出せないかと思ったけど、流石にそこまで間は抜けではなさそう?
「言ってねぇですし、あっしらの巣ですし」
 え、あのゴブリン喋ってる!?
「まぁいいですわ、魔王様復活に広さは必要ありませんもの」
 とっ、喋るゴブリンに気を取られてる場合じゃなかった。
「あのー、やっぱり、私を孕ませて魔王を復活するっていう感じなのかな?」
「察しのいい王女ですわね!」
 そういうアナタは私を王女と勘違いしてる察しの悪さだけど。
「本当はアナタたち王族を始末してワタクシが女王となった上で、ワタクシが魔王様を孕むつもりでしたのだけれど、オタクの騎士団長がなかなか厄介そうですからね。魔王様を孕む栄誉はアナタに差し上げますわ」
 なるほど、やっぱりあの空中庭園のトラップは女王王妃を狙ったものだったらしい、ある意味私たちが引っ掛かって幸いだった。
 で、今度は王女を攫って王女を孕ませて魔王復活という方針にしたみたいだけど...。
「それで...オスしか生まれないゴブリンに私を孕ませて確実に王子を産んでもらおう...と」
 私を孕ませる、と言っているが周りにはゴブリンしか見当たらない。また魔族を召喚しないとも限らないけど、魔族の受精率はかなり低いと聞くからそれもないだろうし、同じ理由で魔族の魔女に犯されると言うこともないはず。
「その通りですわ! 全く、ライカン共が裏切らなければゴブリンなんかを頼ることもありませんでしたのに...!」
 真っ先にライカンの里に協力を求めたのもそういう理由があったらしい。でも私がそのライカンなんだけどなあ...。
「あのー、それだとせっかく復活した魔王様がゴブリンになっちゃいません?」
「!?」
 ライカンなら背は低いものの(ウィッグさん曰く小柄なのはライカンの特徴らしい)魔王としては申し分ない容姿だろうけど...。
「そ...そーでしたわ! 偉大なる魔王様をゴブリンなんかにする訳にはいきませんわ!」
 えー...今更そこに気が付くの? なんだかこの魔女思った以上にポンコツなのかもしれない。
 となると...
「私もどうせならイケメン相手がいいので、魔王の顔にふさわしいイケメン紹介しますよ?」
「詳しく!」
 食いついたよ!?
「王都にいるスノウリブゴって名前のイケメンさんなんだけど...」
 名前は取り敢えず適当で、私は魔女に王都にイケメンがいる事を説明する。
「ワタクシはそのイケメンを攫ってきますからアナタたちは見張ってなさい! 手を出すんじゃないわよ!」
「へーい」
 と言って、また転移魔法で恐らく王都へ消えて行った。
 よし、これで逃げ出す時間が稼げる。魔女を殺すのは私が本気を出せば簡単そうだけど、相手は古の魔女だ、どんな魔法を使うか分からないから相手にしない方がいい。仮に相手に出来ても不死身じゃジリ貧になる可能性だってある。
「ふぅ、よいしょ」
 残されたのはゴブリンたちと私。私はライカンの力を解放して魔法の鎖を引き千切る。
「アナタたちは...どうする?」
 見張っていろ言われたゴブリンたちだけど、私を邪魔するなら容赦はしないよ? と睨みつける。
「元よりアンタ、オスだろう? オスの、それもライカンに手なんて出しやせんよ」
 ライカン程ではないとは言え、ゴブリンにもそれくらいの嗅覚があるらしい、思えば私が来てからずっとゴブリンたちが私を怖がっている。魔女は私に興奮してると思ったのだろうけど。
「アナタはゴブリンなのに喋れるのね?」
 ゴブリンはずる賢いもののそれは生存本能によるもので、喋れるほどではないし、罠等が使えるほどにも賢くはない。このゴブリンだけ特別なのは一目でわかる。
「姉さんに魔力をいただいて、コイツらを纏めるためにかしこくなっちまったんでね。こんなナリでも魔族の一員でさあ」
 ゴブリンを魔族にするって...ポンコツだったけどやっぱりあの魔女侮れない...。
「そうなんだ? それじゃあ聞くけど、逃げ道に罠とかあったりするのかな?」
「ありやすねぇ、おかげで姉さん居ねぇとアッシら出入りできねぇんでさあ」
「えぇ...」
 魔法のトラップとなると逃げるのは途端に難しくなる、魔法じゃ臭いで罠の位置がわからないし、睡眠や麻痺なんかの吸引系のトラップだとライカンには特効になる。
「アナタたちにカナリヤの役をやってもらうというのは...」
 多くはないけどゴブリンたちは複数いるし先行してもらえればトラップの位置は把握できるけど...。
「そりゃあんまりですぜ...」
「あはは...ごめん酷いよね」
 うーん、敵意を向けてくれてれば気にせず狩れるのだけど、敵意がないとこちらからも何ともし難いなぁ。
 ウィッグさんがこの巣を見つけて無いってことはここのゴブリンたちは悪さもせずひっそり暮らしてたのだろうし、魔女に仕えてるのも多分被害者みたいなものだと思うし...。
「ウィッグさんが助けに来るまで時間稼ぎするか...」
 ウィッグさんが来てくれればなんとかなるだろうし、メッセージは受け取ってくれるはず。
「ティアラ、心配してるだろうなぁ...」
 なにはともあれ、勘違いとはいえ攫われたのが私で良かった...。私ならこの後の時間稼ぎに失敗したとして、万が一にも孕まされることはないし、そもそも王族じゃないし。
 ただ、私を心配してるティアラが心配だ...。


 城下の広場のど真ん中の中空で魔女が騒ぐ。
「イケメンのスノウリブゴとやら、出ていらっしゃい!」
「えっなに、あの魔女、カチューシャ様攫っといて竿役準備してなかったんですか?」
「竿役言うな」
 そしてその様子を物陰からプリムに見てもらってる私たち。
「スノウリブゴという殿方様はどなたでしょうか、有名人なのですか?」
「さぁ? 私は知らないけどこの国でイケメンで有名な男なんてヅラくらいのもんじゃない?」
 わざわざ指名するくらいだからよっぽどの美形なんだと思うけど、城下の事情に明るい私でも聞き覚えの無い名前だ。まぁ私が男に興味ないせいかもだけれど。
「王女のご指名よ! 知ってるやつでもいいから出ていらっしゃい!」
「ふむ...、カチューシャの指名...という事はなんらかのメッセージかもしれんな」
「取り敢えず私が時間を稼ぎますので、皆さんで相談しててください!」
 カチューシャにもなんらかの意図があるとすればこのまま帰られる訳にもいかない、プリムが魔女に名乗り出て男を準備していると告げる。
「変な語感ですし、アナグラムでしょうか?」
「あんまり分かりやすいとあの魔女にも意図かバレるだろうし、簡単な謎解きとはいかないもね...」
「イヤ...逆から読むのではないか?」
 いやまさかそんな単純な...。
「ゴブリウノス...ゴブリンの巣、でしょうか?」
「マジで?」
 あの魔女こんな簡単なメッセージに気付いてないの?
「成る程、あのプライド高い魔女がゴブリンの巣を住処にするとは盲点だったな...」
 "あの“プライド高い魔女?
「居場所がわかったなら話は早い、ゴブリンの住処は一つ心当たりがある」
 なんか違和感は覚えたけどそれはともかく、何時だったかパトロールの時に無害なゴブリンたちの住処の話を聞いたことがある。ヅラが他の(有害な)ゴブリンの住処を見逃すはずも無いし、そこなんだと思う。
「私は先に向かう、殿下も決して無茶はなさらぬよう」
 と言ってヅラは地面に魔法陣を浮かべたと思うと。
「いくぞ、ハーベスト!」
 魔法陣から現れた金色の馬に跨って風のように消えてしまった...。
「え、なに今の、馬?」
「地脈に乗って高速移動する魔力の蹄...、ユニコーンやペガサスに匹敵する霊馬ではないでしょうか」
 アイツに愛馬いたの!? どこ行くも自分の足だと思ったらさては王女より立派な馬を見せないようにしてわね!!
「って馬のことはどうでもいいわ! あの魔女どうすんの!?」
「放っておけばいずれ諦めるかもしれませんが、あの魔女に連れて行かれるという方法もありますわね」
「確かに、その方が確実よね」
 ヅラがなんとかしてくれると言ったって、万が一にも当てが外れてたら大変だ、カチューシャを助けるためにも万全は期したい。
「とはいえ聖女の私では変装したところで魔族に即バレでしょうし、ここはキャペリンかボンネットを呼んで...」
「私に行かせて!」
 たしかにウチのメイドたちに男装させて乗り込ませるのが安全で確実だろうけど、やっぱり全部人任せになんてできない。
「ティアラ、王女のアナタが魔女の手に落ちることの危険性は...聞くまでもありませんね」
 私の覚悟を確認する必要もないと、カローラは私のお腹に手を当てて集中する。
「聖女の加護をアナタに与えます、もしもの時はここに力を込めて下さい」
「あ、ありがとう、力を込めたらどうなるの?」
 なんだかお腹のあたりに優しい温もりを感じる。
「強引に卵子を排出して妊娠を防ぎます♪」
 加護っていうわりに碌でもないし力技じゃん...。
「ちなみに生理の十倍しんどいらしいですよ♪」
 絶対もしもの時にならないうにしよう...。改めてそう覚悟して私は男装するべく近くの衣服屋に飛び込むのだった。


「へー、ゴブリンって人間の女の人は好みじゃないんだ」
「繁殖できるならメスの好みはありやせんね、ただ人間の女はデリケートなんで繁殖する前に死んじまうんで好んで襲わないって事情でさぁ」
 魔女が戻ってくるまで暇なのでかしこいゴブリンと談笑していたら、ゴブリンの意外な生態を聞けた。
「なんのメスが好まれるの?」
「ヤギやヒツジなんかの家畜っすね、皮、毛皮、乳、角、肉、骨...繁殖以外にも色々使えて無駄がねぇでさぁ」
 ここのゴブリンたちも逃げ出したか迷い込んだ家畜を捕まえてはひっそり繁殖してすごしていたんだとか。やっぱり魔女には無理矢理使われているらしい。
「戻りましたわよ! アナタたち大人しくしてたでしょうね...って魔法の鎖はぁ!?」
 転移して戻ってきた魔女は早速私が自由にしていることにおどろいている。そして一緒にいるのは...。
「カチューシャ!!」
「えぇ!? ティアラ!?」
 驚く魔女の手から離れた男装したティアラが私を見るなり飛び込んできて私を抱きしめる。挿絵AIで作った挿絵

「ごめん! 私のせいで危険な目にあわせて! 大丈夫だよね!? まだ何もされてないよね!?」
「ちょっ、ティアラ! 私は大丈夫だから...何もされてないよ!」
 抱きしめるティアラを引き剥がして無事を伝えるが、今肝心なのは私よりもティアラだ。
「せっかく勘違いして私が攫われたのに、なんでティアラが来ちゃうの!」
「それも...ごめん...。でも、自分の大事な人は自分で守りたいから、助けたいから...人任せになんて出来ないよ!」
「はぁ...もう、仕方ないんだから...」
 そうだよね、ティアラはそういう子だよね。
「でも、ティアラが助けに来てくれて嬉しかったよ」
 不謹慎にも今の私は囚われのお姫様で、ティアラは救いに来てくれた王子様...もとい王女様のようで、物語のヒロインになったようで少しだけ嬉しく感じてしまっている。
「あのー、乳繰り合ってくれるなら願ったりなんだけどワタクシとしましてはさっさと合体して欲しいのですけどもー...」
「姉さんこういうのはムードが重要なんすよ、催促するのは野暮ってもんですぜ」
「そうね、じゃあ後は若いものにお任せしてどうぞお楽しみを...」
 と、蚊帳の外だった魔女がゴブリンを連れて洞窟の奥へ向かう―
「って、ちっがあぁぁあう! 前戯も情緒もヘッタクレありませんわいりませんわ! さっさとおっぱじめなさい!」
「ウソ、あの魔女ノリツッコミした?」
 なんか思い描いてた魔女と違うよね...。
「そこまでだマジェステ! 観念しろ!」
「はぁ!? なんでここが!?」
 そんなこんなしてるうちにウィッグさんまでやってくる。メッセージは伝わったらしい。
「ふん! 処女の守り手だか貞操帯だか知りませんが、こうなったらワタクシ自らの手でぶっ潰してさしあげますわ!」
 逃げ場はないと、魔女はウィッグさんに正面から立ちはだかる。ウィッグさんを避けてたのは実力で劣るからだろうけど、不死身であることを自信に無理矢理勝利をもぎ取るつとりなのだろう...。


「きゅぅ...」
「「よっわ」」
 何と言うかヅラが強すぎるのもあるのだけど、魔女は想像以上に弱かった、多分私でも本気出せば勝てるんじゃないかな...カチューシャは言わずもがな。まぁ私は不死身相手じゃすぐにジリ貧で負けるだろうけど。
「残機無限でもムリゲーはムリゲーですわぁ...」挿絵AIで作った挿絵

 そして勝負にもならないヅラ相手じゃジリ貧になるより先に魔女の心が折れて床に突っ伏していた。
「私はコイツを回収して後から追いかける、君たちは先に騎士団本部に戻っててくれ、道中のトラップは全て破壊してある」
「はーい」
 突っ込まれないウチにとっとと退散しましょ...、
「特に殿下!」
「ギクッ!」
 デスヨネー、バレてますよねー。
「陛下にバレないうちにさっさと着替えておくんだな」
「...ありがと」
 怒られると思ったら、仕方ないと笑うように今回の私の行いを秘密にしてくれると含んでくれた。
 それほど深くなかった洞窟を抜けるとそこは古戦場近くで、ライスシャワーとコンフェッティと一緒にプリムが出迎えてくれる。
 それと、古戦場近くのせいでゴーストがいないかと怖がってるカチューシャが相変わらずで、魔女には全く怯えてなかったのにゴーストを怖がる姿がまたおかしかった。


「で、コイツどーすんのよ」
騎士団本部には私とカチューシャとプリムとカローラ、ヅラに縄でふん縛られた魔女(となんかついてきた賢いゴブリン)、そして報告を受けてやってきた王母様と、大勢が揃っていた。
「陛下、ご存じの通りコイツは不死身で処刑は不可能、捕らえたところで自害して都合の良い状態で復活し逃げ出されます」
「また厄介な...勇者がやったように封印はできないのか?」
「勇者の封印は秘宝によるもの。コイツが復活した際に破壊されたようで同じ方法は使えませんね」
「カローラの力でなんとかできないの?」
「そういう力は伝えられてないですね...、それに聖女の力でなんとかなるなら初代聖女コレット様がやっておられるでしょうし...」
「やっぱりアナタあの小娘聖女の子孫ですのね、あまりにクリソツで驚きわましたわ」
「小娘聖女...」
「グェッ!?」
 イラッとしたのか冷たい笑みを浮かべたカローラから浄化の光が放たれたと思ったら魔女を貫いた。
「ちょっと!? ビンタ感覚で殺すんじゃありませんわよ! コレットはもっとお淑やかでしたわよ!」
 そして自分の死体の横に復活する魔女。ヅラとの戦闘中に何度も見たけどホントポンポン復活するわよね...。にしてもなんで復活した方もちゃんと服着てるんだろ。
「ご覧の通り」
「ふむ...殺し続けて魔力を枯渇させるといった方法は?」
「コイツの魔力の源はこのユリゾンリリィ領土の大地のマナそのものです、完全に殺すにはこの地の魔力を枯らせる事になるでしょう」
「だから、不可能と言うことか...」
「魔王様に頂いたお力ですもの、簡単には封じられませんわよ!」
 魔王をも倒した勇者がこんな魔女を封印したのはそういう事よね、私たちでなんとかできるような事は勇者が試してるでしょう。だからどうするか困りものなんだけど...。
「提案なのですが、コイツを私に預けて頂き、騎士団員として側で監視兼仕事をさせたい」
「はぁ!?」
 と思ったらヅラが予想外の提案を言い出した。


「いくらウィッグさんのそばに置くと言っても、危険すぎるんじゃ...」
「そうよ! カチューシャを危ない目に合わせたコイツを従えるなんて絶対反対だわ!」
 私は純粋に魔女を信じられないからだけど、ティアラは私のこともあって特に猛反発している。
「処刑も拘束も無理ならばそばに置いて監視する他ない、コイツとは話をつけて悪事を働かないよう言い含めている。もし問題が起きれば私が責任を持とう」
「アンタが責任取ってもしょうがないじゃん!」
 たしかに他に方法もなさそうだけと、ホントに悪さしないとも思えないし...。
「キミに責任を取らせようにも代わりは居ないわけだが...。危険はないという根拠はあるのかい?」
「親愛する魔王様ですもの、魔王様はワタクシ自らが孕んで復活致しますから、いずれワタクシが女王となる日まで仕えてあげますわ!」
「とのことだ」
 それは危険がないって根拠になるの?
「ともすれば危険があるとすれば我々王族だけか。良いだろう、民に危険が及ばないなら騎士団に魔女は任せるとしよう」
「ありがとう御座います」
「まっ、よろしくってよ!」
「ちょっ、王母様!?」
「ただし! もし民に危害を加えるようなら死ねない体を恨むような責め苦を覚悟する事だ...」
「ひぃ!?」
 初めて見るクラン女王の威圧に反対しようとしたティアラまでも硬直していた。
「あの、魔女の処遇が決まったところで私からも一つ良いですか?」
「なんですかカチューシャ様、攫われた憂さ晴らしですか?」
「そう言うんじゃなくて...、魔女に遣われていたゴブリンたちを許して欲しいなって」
 と言って代表としてやってきた賢いゴブリンが私の前に一歩踏み出す。
「巣の連中は静かに暮らしたいだけなんでさ、今後も迷惑かけねぇようにひっそりと過ごすつもりなんで、どうか許してくだせえ。罰が必要というなら、アッシが引き受けます」
 賢いゴブリンさんがクラン女王に懇願している...けど、クラン女王含めみんなの顔には許しの有無よりも...
(ゴブリンが喋ってる...!?)
 なんだろうなぁ...。


 魔女マジェスティは騎士団が身元預かりとなり、実質的に騎士団員の増員(騎士じゃないけど)。
 ゴブリンたちもお咎めなしで、それどころか定期的にヤギを送ることで不可侵条約を結んだ。
 こうしてお騒がせな魔女マジェステの騒動は幕を閉じたのだけど、この国で改めて「魔王の復活」が...「異性婚」が禁忌であることを再確認して...私はティアラとの関係が怖くなってしまった...。


―なお...
 事件の収束後、騎士団本部の一室でウィッグとマジェステは密談していた。
「魔王様復活してたならなんでワタクシのこと探しに来てくださらないの!?」
「イヤースマン、お前も死んだものとばかり思っていたんでな...」
「不死身の魔女が死ぬ訳ありませんわ!」
「どの道お前が復活するまで魔女の封印は王族に伝わる機密で私は情報に触れることもできなかったんでな...領外に封印されてたのでは見つけることは叶わなかっただろう」
「それなら...まぁ...仕方ありませんわね」
 ウィッグの説明に一旦は落ち着くマジェステだったが。
「そんなことより! 何故復活しながらのうのうと騎士団長なんてやっていらっしゃるのですか!」
 マジェステにとって親愛する彼が何の力も持たない王族に仕えてることがなにより納得いかなかった。
「魔王として名乗り出た私が王座に座ってみろ、これまで静観を決め込んでいた周辺各国が魔王討伐と大義名分を掲げて乗り込んでくるぞ。この国の平和と繁栄を維持するには私は復活しておらず彼女たちに王位を任せたほうがいい」
「たしかにそうですけど...」
 ユリゾンリリィが500年もの間、戦争と無縁であったのは「魔王復活」の切り札が恐れられてのことでもある。「魔王の加護」とは即ち魔王の存在ものなのだ。
「だが、もしこの国の王族が民を苦しめるような事があれば、私が復活するかもしれんな」
「ワタクシは魔王様の意のままに...」挿絵AIで作った挿絵


...魔王は、とうの昔に復活していた―
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百合の国のプリンセス♂作者:万能ねぎトロ
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魔王、復活

 カチューシャのドレスの着付けをカローラが手伝っていた時のこと...
「可愛らしい下着を履くようになったと思ったら、良く見たら結構厚手の下着でしたのね」
「これなら膨らみもごまかせるから...ね」
 実は昔から可愛い下着を履きたかったカチューシャとしては前にプリムに下着を見られてガッカリされたのが結構なショックだっため、バレない程度に可愛らしい下着を履くようになっていた。
「ホントに下着姿まで見ても男の子だなんて思えませんわね」
「裸を見られたのはカローラが初めてだけど、色々と工夫はしてるし...」
 セクハラは受けないようにしているが気を抜いてプリムに見られたようにもしもの時もある。カローラには流石に裸で決定的なものを見られたため誤魔化しようもなかったが。
「あんなに沢山食べるのに、スタイルも良いですよね」
「沢山食べるのはライカンの特徴だと思ってたのに、お母さんに似ただけだったみたいでちょっとショックだったけど...」
 お肉が大好きなのはライカンの特徴と一致しているが、ライカンに詳しいウィッグらに聞いたところ、カチューシャほどには食べないらしい。
「カローラがあんまり食べないのはそのスタイル維持するためなの?」
「私は単にお肉が苦手なだけですね、それに痩せているだけで胸まで貧乳なのはスタイル的にはあまり......」
 と、カローラは自分の胸を寂しそうに見つめる。聖女の使命は彼女の誇りだが、代々聖女の家系が貧乳なのは彼女の密かなコンプレックスである。
「それを言ったら私の胸はニセモノだし...」
「むぅ、ニセモノでもいいから分けてほしいです...」
 カチューシャを男だと知るカローラはその胸がニセモノだということも知ってはいる、がニセモノだと知らされた今もとてもそうは思えないでいるくらいだ。
「作りが精巧過ぎて職人さんも同じの作れるか分からないって言ってたからどうだろう...」
「本当にニセモノだとは思えないですよね、このおっぱい」
 と、カローラはどうせニセモノだからと軽い気持ちでカチューシャのそれを下着の上から両手で揉むのだが...。
「あんっ...ひゃ!」
 唐突な刺激にカチューシャから甘い声が漏れて咄嗟に両手を離す。
「あ...ごめんなさい、触られたら感覚が伝わるようになってるんでしたね」
「なんか変に敏感作られてるみたいで...あまり触らないで...」
 と、涙目になって胸をガードするのだった。
...ムラッ


「なるほど、カチューシャが"受け“もたしかにアリですね...」
「理解して貰えたのは喜ばしいけど、着替え中になにしたコラ」
 こうして王女と聖女の意見は一致したのだった。―停戦。


百合ビアンの国のプリンセスお姫様♂#9 魔王、復活
挿絵AIで作った挿絵


「カチューシャ様、緊急の要件がございます」
 カチューシャとカローラと朝食しながら談話していると(プリムは招集がかかったから不在)、ボンネットがなんだか忙しない様子でやってきた、珍しい。
「私に用事? なんだか騒がしいみたいだけど」
「はい、都内に多数の魔物の侵入、及び魔族の気配が多数感知されました」
「まぁ、穏やかではありませんね」
「魔物はともかく、魔族が多数!? 魔女って一人じゃないの!?」
 魔族なんてそうそういるものでもない、だから王都へ近付けばすぐに分かるという話だったはず。
「例の魔女が召喚したのでしょうか?」
「確認のため騎士団長が奔走してますが数が多いため単独では手に余ります、カチューシャ様の助力を求めています」
「私は構わないけど、ティアラの側を離れて平気なのかな?」
 カチューシャが心配そうに私を見る。魔女が攻めてきたなら尚更カチューシャは私の側にいた方がいいのはその通りなのだけど...。
「ティアラ様は城内のメイドたちでお守り致します、それよりも今は市民が心配です」
「そうね! 私は大丈夫だからカチューシャはヅラを手伝ってあげて!」
「私もティアラの側にいますから、カチューシャは行ってあげて下さい」
 メイドたちだけでは不安でも今はカローラもいる...まぁここ数日でもカローラが聖女の力を使うところを見たことないからどんなものかは知らないんだけど。
「うん、わかった。二人も気を付けてね、特にティアラはじっとしててね!」
「私だって王女らしく大人しくしてれるってば!」
 カチューシャに釘を差されてから送り出したものの、私はその意味をすぐに思い知ることになる。
「って、カチューシャ大丈夫かな...」
 何の気なしに送り出したけど、いくらカチューシャが強いといったって魔物と魔族が多数だなんて...実は私が思ってる以上にやばいんじゃ...。
「あの似非エルフは本当に危険なら一人で何とか致します。カチューシャ様の手に余るような脅威ではないと判断してのことなのでティアラ様は信じてお待ち下さい」
「そうは言うけどさ...」
 王都への魔物や魔族の襲撃なんて前代未聞だし、いくらヅラでも数で攻められたら手が足りないんでしょ?
「ボンネットは騎士団長様を信頼なさっていますのですね」
「まさか、ただ付き合いが長いだけですよ」
 300年くらいの付き合いだものね...ってもボンネットはお城に引きこもりだしヅラは男だからお城に入れないしで、案外接点なさそうだけれど。
「腐れ縁というやつですわね!」
「カローラ、それ良い意味で使う言葉じゃないからね...」
 心配しても私はここを動けないからヅラとボンネットの言葉を信頼するしかないんだけどさ...。そう考えるうちにプリムもやってきて私は王宮の別室へ移動した。
 王族が一網打尽にならないよう、母様王母様、ロリエルはそれぞれ離れた別室にいるらしい。こんな事態が初めてでもちゃんと対策があるのはキャペリンの教育がしっかりしてるんだろうな。


「コンフェッティ、そこを右!」
 コンフェッティが走る先を人垣が割れるように広がっていく。城下を走るならコンフェッティがいいとボンネットに言われたけどこういうことだったんだ。
 ユニコーンの不思議な力で人々はその通り道を無意識に開けてくれる、おかげで安全に魔物の匂いを追うことができる。と言っても手綱の握り方なんて分からないから声で誘導してるんだけど...人間の言葉が分かるユニコーンが私の馬になってくれたのは思った以上有り難いのかもしれない。
「あれは...ゴブリン!?」
「キィ!?」
 町中だから正確な匂いが分からなかったけど、一番近くの匂いを追うと大きな麻袋を担いだゴブリンが路地裏にいた。
 魔族の姿は見当たらないけど王都に侵入した魔物というのはゴブリンらしい、他に感じた匂いも同じようなものだった。
 ただ、抱えてる麻袋から漂う異様な匂いは一体...。
フシュルル!
「ちょっ!? コンフェッティ!?」
「キキィ!」
 ゴブリンくらいなら大したこと無いけれど、抱えている麻袋に警戒しているとコンフェッティが勝手に突っ込んで頭突きでゴブリンを突き飛ばす。
「キィー!!」
 私を乗せてるから全力の突きではなかったのか、突き飛ばされたゴブリンは麻袋を投げ捨てて一目散に逃げてしまった。
「もう、危ない事しないでね」
 コンフェッティを宥めながら地面におりる。ゴブリンを追うのは簡単だけど投げ捨てた麻袋が気になる...。
 私はコンフェッティに持つように言って麻袋にゆっくり近付いた。
「人間の匂いのようにも思えるけど...」
 大きな麻袋だ、人間一人くらいは余裕で入るだろう、もしかしたらもう被害者がでていて人間を運んでいた? だとしてもこの異様な匂いの正体がわからない...。私は麻袋の口を慎重に開ける―
「女の人!?」
 口を開けてすぐ、中身が赤髪の女性だと分かった、だけどそれは息をしていなくて、心臓も動いていない、遺体だった。
「なんなのこれ...」
 死んで間もないようだけど綺麗な遺体だった、ゴブリンに襲われた被害者のようには見えない、なにより、遺体でありながらもこの女性の異様な匂いは...感じる魔力は。
「この人が不死身の魔女...?」
 でも不死身だとしたら死んでるはずが...。
「カチューシャ! 来てくれたか!」
「ウィッグさん!」
 考えてるとウィッグさんがやってくる、こんな事態なのに私と違って自分の足で走り回ってるらしい。
「君も見つけたか」
「あ、ゴメンナサイ! これに気を取られてゴブリンに逃げられてしまって...」
「いや、ゴブリンは放っておいて構わん、それを城下に運び込むのが目的で外へ戻っている」
 どうやらゴブリンたちはただの運搬係でこの遺体が本命らしい。ただその目的が分からないのだけど。
「あの、この人は一体...」
「不死身の魔女・マジェスティだ」
「やっぱり! でも不死身なのになんで死んでるんですか?」
「不死身と言ってもヤツは死なない訳では無い。“死ぬと都合の良い状態で近くに蘇る"のがヤツの特徴だ」
 殺せないから不死身ではなく、殺してもすぐ蘇るから不死身という扱いなんだ。
「じゃあ多数の魔族っていうのは...」
「あぁ、どうやら自分の死体をばら撒くことで王都に侵入したようだ、私の感知を逆手に取られるとはな...」
 遺体でも魔族特有の魔力は感知される、私でも臭いで生死の判別は余程近付くか時間が経ってないと無理だし、ウィッグさんの責任ではないと思うけど...。そもそも騎士団員が少なすぎるのが問題なのだし。
「残りの気配を追っても死体しか見つからないと思うが...それはそれで放置もできん、私はこのまま東から北へ周るので君は南から西を頼む」
「はい」
「死体を見つけたら信号魔法を上げて次を探してくれ、バレッタに回収に向かわせる。匂いで追える君なら本体も見つかるかも知れないが...その時は決して一人で戦わず私と合流を待て」
「私じゃ敵わないですか?」
 自分の力量を過信するつもりはないけれど、本気の私でも敵わない相手なのかな。
「いや、ヤツは不死身であること以外は少し魔力の高い魔術師程度の力量だ、君の敵ではないだろう」
「それじゃあどうして」
「殺しても殺せない相手ではさしもの君でもジリ貧になりかねない。なにより今回の手口からわかるようにヤツは狡猾だ、君を危険な目に合わせられない」
「は、はいっ...」
 ウィッグさんに心配されてちょっとドキッとしちゃった...。か弱いに程遠い私の心配までしてくれるなんて、やっぱりカッコイイなぁ...ウィッグさん...。
 そうして私とウィッグさんは二手に分かれて城下にばら撒かれた魔女の死体...麻袋を回収して回った。


「もう魔族の反応はないな...」
「私も他に臭いは感じませんでした」
 騎士団本部の訓練所に山積みされた魔女の死体...流石に同じ顔の死体がこれだけあると凄い不気味...。
 手分けして回収した魔女の死体はそんな数で、どうやら魔女本人はなんらかの方法で既にウィッグさんの感知から逃れているらしく見つけられなかった。
「よもや魔族の反応に“慣らされる"とはな...」
「ウィッグさんの魔力感知でももう見つけられないんですか?」
「珍しい魔力だからこそ反応を判別できていたからな...城下に侵入されたとなると新しい対策を考えねば...」
「私なら探せると思いますけど」
 匂いで追える私ならまだ対策はされていないと思うから提案してみるけど...
「提案はありがたいがこれ以上危険な目にも遭わさられないんでな、城で大人しくしていてもらいたい」
 やっぱりウィッグさんは私を心配してくれている。
「心配してくれるのは嬉しいですけど...」
「将来主君になるであろう方を危険な目には遭わせられんだろう?」
「ウィッグさん気が早いです...」
 あーそう言う理由で...コレは脈無いなー。元よりボンネットに聞いたエルフの文化だと特定のパートナーは持たないって話だけども...。
「あれ?」
 ちょっと落ち込んでいると足元に違和感を覚えた、気になって足元をみた瞬間...。
「捕まえましたわよ!」
「きゃあ!?」
「なにっ!?」
 足元から魔法陣が私を覆ったかと思うと私の体が束縛されて身動きが取れなく!? 後ろから聞こえるこの声は...!
「王女は手に入れましたわ、魔王様復活を楽しみに待ってる事ね!」
「待て、マジェ―...」
 どうやら私を王女だと勘違いているらしい後ろにいる魔女はウィッグさんの言葉も待たず私は転移された―
挿絵AIで作った挿絵


「カチューシャが攫われたって!?」
 回収した死体に紛れていたらしい魔女は、二人の会話のやり取りでカチューシャを王女と勘違いして攫っていった、そう報告を受けて私はカローラとプリムと一緒に騎士団本部に乗り込んだ。
「ヅラ、アンタが一緒にいながら何やってんの!!」
「申し訳ない」
「まぁまぁ、王女と間違われたと言うことでしたら命の心配はないでしょうし」
「そうだけど! アイツの目的って魔王の復活でしょう!? それってつまり...」
 いや駄目だ、この先は考えたくない...。
「十中八九、◯✕されてますね」
「プリム!!」
 だから言うんじゃないわよ!!
「カチューシャならその点も大丈夫だと思いますけど...」
「なんでカローラはそんな冷静なの!? いくらカチューシャが強いっていってもさぁ!!」
 魔女が相手じゃ睡眠とか催眠とか色々あんじゃん!
「言われてみれば普段奥手な子ほど初体験のそういう事に堕ちやすいとは私の愛読書にも書いてますね...」
「そこを心配しなくていいから!」
 いや普段どんな本を読んでるのよこのスケベ聖女は。
「真面目な話、どうすんですか。いくらスケベな私でもカチューシャ様に何かあったならアンタをただじゃ済ませませんよ!」
 こんな状況だと流石のプリムも真面目になる。プリムにとってもカチューシャは友達...だよね? のはずだし、心配でないはずがないわよね。
 ただプリムにヅラをどうこうできるとは思えないけど。
「アンタ強さは規格外だけど、こういう時どうなのよ」
「残念だが転移魔法は真似できなくはないが痕跡を追うのが難しい...せめてもう一度会えれば信号なんかを仕込めるのだが...」
 転移魔法自体は高度なもののヅラは真似できるらしい、それで追えてないってことは行方が全くわからないこってことよね...。
「そんな都合のいいこと...。何か探す手掛かりとかないの!?」
「すまない、転移魔法の最大距離からして領内にいるのは間違い無いが、それ以上には絞れない。ましてやこれまでの探索でアジトらしき場所に目星もついていない...」
「なによそれ!!」
 領内なんて、そんな広い範囲探索できるわけない! せめてこの国にもうちょっと軍事力があれば人海戦術で探せるのに...平和過ぎて探索もできないなんて!
「もういい! カチューシャが大変な目に遭ってるかもしれないのにじっとなんてしてられない!」
 ここにいたってなんにもならないならせめて虱潰しに探索してやるわよ!
「お待ちくださいティアラ! 魔女の本来の目的はアナタなんですよ? アナタが魔女に見つかっては大事です!」
「うっ...」
 たしかに本気のカチューシャ程に強くない私が魔女の手に落ちたら最悪の事態になりうる...王女として私は王宮に身を潜めるべきだ...。
「だからって...じっとなんてしてられないよ私!」
「カチューシャが心配なのもわかります。ですが、ここはカチューシャを信じて待ってあげられませんか?」
 カローラはカチューシャの事を心配する以上に信頼しているみたいだった。実際にセントラル防衛戦で一緒に戦ったからだろうか...。そして言われて思い出す、自分の王女としての責任を。
「だって...だって...」
 カチューシャが心配なのに...私に王女としての責任は捨てられない...私を引き取って育ててくれた、母様たちを、みんなを裏切れない...、カチューシャの事が大好きなのに! 大事なのに!
「王女なのに...一番大事な人を救えないなんて...!」
「大丈夫ですよ姫様、姫様の大事な人は、私が命をかけてもお守りしますから」
 身動きがとれなくなって、自らの無力さが悲しくて私は座り込み、カローラとプリムが私をなだめる。
「あのー、ちょっといいですかー」
 落ち込んでるところにバレッタが間延びした声と共に現れる。こんな事態に何そのテンションは...と思ったのだけど...
「どうしたバレッタ」
「あの魔女、また訪ねてきましたよ?」
「「「「はぁ!?」」」」
 全員が間抜けぬ声で驚くことになった。


 一瞬の隙を突かれて攫われた私は魔法の鎖で縛られて洞窟の中にいた。
「あのー、ここは?」
「ホーホッホッホ! 私のアジトですわ! 誰も助けになんてこないから存分に泣き喚きなさい!」
「アジト...っていうかゴブリンの巣ですよね?」
 周りに控えているゴブリンといい、臭いといい、洞窟の岩盤剥き出しで禄に家具もないのを見るに、ゴブリンの巣を仮の住処にしていると言った感じに見える。
「う、うるさいですわね、住めば王宮ですのよ!」
 否定をしないのを見るにどうやら図星らしい。
「領内にゴブリンの巣なんてあったんだなぁ」
「オタクの騎士団長は優秀みたいだけど、こんな小さな巣は見つけられなかったみたいですわね! って! 誰のアジトが小さいですってぇ!?」
 ここがどこか聞き出せないかと思ったけど、流石にそこまで間は抜けではなさそう?
「言ってねぇですし、あっしらの巣ですし」
 え、あのゴブリン喋ってる!?
「まぁいいですわ、魔王様復活に広さは必要ありませんもの」
 とっ、喋るゴブリンに気を取られてる場合じゃなかった。
「あのー、やっぱり、私を孕ませて魔王を復活するっていう感じなのかな?」
「察しのいい王女ですわね!」
 そういうアナタは私を王女と勘違いしてる察しの悪さだけど。
「本当はアナタたち王族を始末してワタクシが女王となった上で、ワタクシが魔王様を孕むつもりでしたのだけれど、オタクの騎士団長がなかなか厄介そうですからね。魔王様を孕む栄誉はアナタに差し上げますわ」
 なるほど、やっぱりあの空中庭園のトラップは女王王妃を狙ったものだったらしい、ある意味私たちが引っ掛かって幸いだった。
 で、今度は王女を攫って王女を孕ませて魔王復活という方針にしたみたいだけど...。
「それで...オスしか生まれないゴブリンに私を孕ませて確実に王子を産んでもらおう...と」
 私を孕ませる、と言っているが周りにはゴブリンしか見当たらない。また魔族を召喚しないとも限らないけど、魔族の受精率はかなり低いと聞くからそれもないだろうし、同じ理由で魔族の魔女に犯されると言うこともないはず。
「その通りですわ! 全く、ライカン共が裏切らなければゴブリンなんかを頼ることもありませんでしたのに...!」
 真っ先にライカンの里に協力を求めたのもそういう理由があったらしい。でも私がそのライカンなんだけどなあ...。
「あのー、それだとせっかく復活した魔王様がゴブリンになっちゃいません?」
「!?」
 ライカンなら背は低いものの(ウィッグさん曰く小柄なのはライカンの特徴らしい)魔王としては申し分ない容姿だろうけど...。
「そ...そーでしたわ! 偉大なる魔王様をゴブリンなんかにする訳にはいきませんわ!」
 えー...今更そこに気が付くの? なんだかこの魔女思った以上にポンコツなのかもしれない。
 となると...
「私もどうせならイケメン相手がいいので、魔王の顔にふさわしいイケメン紹介しますよ?」
「詳しく!」
 食いついたよ!?
「王都にいるスノウリブゴって名前のイケメンさんなんだけど...」
 名前は取り敢えず適当で、私は魔女に王都にイケメンがいる事を説明する。
「ワタクシはそのイケメンを攫ってきますからアナタたちは見張ってなさい! 手を出すんじゃないわよ!」
「へーい」
 と言って、また転移魔法で恐らく王都へ消えて行った。
 よし、これで逃げ出す時間が稼げる。魔女を殺すのは私が本気を出せば簡単そうだけど、相手は古の魔女だ、どんな魔法を使うか分からないから相手にしない方がいい。仮に相手に出来ても不死身じゃジリ貧になる可能性だってある。
「ふぅ、よいしょ」
 残されたのはゴブリンたちと私。私はライカンの力を解放して魔法の鎖を引き千切る。
「アナタたちは...どうする?」
 見張っていろ言われたゴブリンたちだけど、私を邪魔するなら容赦はしないよ? と睨みつける。
「元よりアンタ、オスだろう? オスの、それもライカンに手なんて出しやせんよ」
 ライカン程ではないとは言え、ゴブリンにもそれくらいの嗅覚があるらしい、思えば私が来てからずっとゴブリンたちが私を怖がっている。魔女は私に興奮してると思ったのだろうけど。
「アナタはゴブリンなのに喋れるのね?」
 ゴブリンはずる賢いもののそれは生存本能によるもので、喋れるほどではないし、罠等が使えるほどにも賢くはない。このゴブリンだけ特別なのは一目でわかる。
「姉さんに魔力をいただいて、コイツらを纏めるためにかしこくなっちまったんでね。こんなナリでも魔族の一員でさあ」
 ゴブリンを魔族にするって...ポンコツだったけどやっぱりあの魔女侮れない...。
「そうなんだ? それじゃあ聞くけど、逃げ道に罠とかあったりするのかな?」
「ありやすねぇ、おかげで姉さん居ねぇとアッシら出入りできねぇんでさあ」
「えぇ...」
 魔法のトラップとなると逃げるのは途端に難しくなる、魔法じゃ臭いで罠の位置がわからないし、睡眠や麻痺なんかの吸引系のトラップだとライカンには特効になる。
「アナタたちにカナリヤの役をやってもらうというのは...」
 多くはないけどゴブリンたちは複数いるし先行してもらえればトラップの位置は把握できるけど...。
「そりゃあんまりですぜ...」
「あはは...ごめん酷いよね」
 うーん、敵意を向けてくれてれば気にせず狩れるのだけど、敵意がないとこちらからも何ともし難いなぁ。
 ウィッグさんがこの巣を見つけて無いってことはここのゴブリンたちは悪さもせずひっそり暮らしてたのだろうし、魔女に仕えてるのも多分被害者みたいなものだと思うし...。
「ウィッグさんが助けに来るまで時間稼ぎするか...」
 ウィッグさんが来てくれればなんとかなるだろうし、メッセージは受け取ってくれるはず。
「ティアラ、心配してるだろうなぁ...」
 なにはともあれ、勘違いとはいえ攫われたのが私で良かった...。私ならこの後の時間稼ぎに失敗したとして、万が一にも孕まされることはないし、そもそも王族じゃないし。
 ただ、私を心配してるティアラが心配だ...。


 城下の広場のど真ん中の中空で魔女が騒ぐ。
「イケメンのスノウリブゴとやら、出ていらっしゃい!」
「えっなに、あの魔女、カチューシャ様攫っといて竿役準備してなかったんですか?」
「竿役言うな」
 そしてその様子を物陰からプリムに見てもらってる私たち。
「スノウリブゴという殿方様はどなたでしょうか、有名人なのですか?」
「さぁ? 私は知らないけどこの国でイケメンで有名な男なんてヅラくらいのもんじゃない?」
 わざわざ指名するくらいだからよっぽどの美形なんだと思うけど、城下の事情に明るい私でも聞き覚えの無い名前だ。まぁ私が男に興味ないせいかもだけれど。
「王女のご指名よ! 知ってるやつでもいいから出ていらっしゃい!」
「ふむ...、カチューシャの指名...という事はなんらかのメッセージかもしれんな」
「取り敢えず私が時間を稼ぎますので、皆さんで相談しててください!」
 カチューシャにもなんらかの意図があるとすればこのまま帰られる訳にもいかない、プリムが魔女に名乗り出て男を準備していると告げる。
「変な語感ですし、アナグラムでしょうか?」
「あんまり分かりやすいとあの魔女にも意図かバレるだろうし、簡単な謎解きとはいかないもね...」
「イヤ...逆から読むのではないか?」
 いやまさかそんな単純な...。
「ゴブリウノス...ゴブリンの巣、でしょうか?」
「マジで?」
 あの魔女こんな簡単なメッセージに気付いてないの?
「成る程、あのプライド高い魔女がゴブリンの巣を住処にするとは盲点だったな...」
 "あの“プライド高い魔女?
「居場所がわかったなら話は早い、ゴブリンの住処は一つ心当たりがある」
 なんか違和感は覚えたけどそれはともかく、何時だったかパトロールの時に無害なゴブリンたちの住処の話を聞いたことがある。ヅラが他の(有害な)ゴブリンの住処を見逃すはずも無いし、そこなんだと思う。
「私は先に向かう、殿下も決して無茶はなさらぬよう」
 と言ってヅラは地面に魔法陣を浮かべたと思うと。
「いくぞ、ハーベスト!」
 魔法陣から現れた金色の馬に跨って風のように消えてしまった...。
「え、なに今の、馬?」
「地脈に乗って高速移動する魔力の蹄...、ユニコーンやペガサスに匹敵する霊馬ではないでしょうか」
 アイツに愛馬いたの!? どこ行くも自分の足だと思ったらさては王女より立派な馬を見せないようにしてわね!!
「って馬のことはどうでもいいわ! あの魔女どうすんの!?」
「放っておけばいずれ諦めるかもしれませんが、あの魔女に連れて行かれるという方法もありますわね」
「確かに、その方が確実よね」
 ヅラがなんとかしてくれると言ったって、万が一にも当てが外れてたら大変だ、カチューシャを助けるためにも万全は期したい。
「とはいえ聖女の私では変装したところで魔族に即バレでしょうし、ここはキャペリンかボンネットを呼んで...」
「私に行かせて!」
 たしかにウチのメイドたちに男装させて乗り込ませるのが安全で確実だろうけど、やっぱり全部人任せになんてできない。
「ティアラ、王女のアナタが魔女の手に落ちることの危険性は...聞くまでもありませんね」
 私の覚悟を確認する必要もないと、カローラは私のお腹に手を当てて集中する。
「聖女の加護をアナタに与えます、もしもの時はここに力を込めて下さい」
「あ、ありがとう、力を込めたらどうなるの?」
 なんだかお腹のあたりに優しい温もりを感じる。
「強引に卵子を排出して妊娠を防ぎます♪」
 加護っていうわりに碌でもないし力技じゃん...。
「ちなみに生理の十倍しんどいらしいですよ♪」
 絶対もしもの時にならないうにしよう...。改めてそう覚悟して私は男装するべく近くの衣服屋に飛び込むのだった。


「へー、ゴブリンって人間の女の人は好みじゃないんだ」
「繁殖できるならメスの好みはありやせんね、ただ人間の女はデリケートなんで繁殖する前に死んじまうんで好んで襲わないって事情でさぁ」
 魔女が戻ってくるまで暇なのでかしこいゴブリンと談笑していたら、ゴブリンの意外な生態を聞けた。
「なんのメスが好まれるの?」
「ヤギやヒツジなんかの家畜っすね、皮、毛皮、乳、角、肉、骨...繁殖以外にも色々使えて無駄がねぇでさぁ」
 ここのゴブリンたちも逃げ出したか迷い込んだ家畜を捕まえてはひっそり繁殖してすごしていたんだとか。やっぱり魔女には無理矢理使われているらしい。
「戻りましたわよ! アナタたち大人しくしてたでしょうね...って魔法の鎖はぁ!?」
 転移して戻ってきた魔女は早速私が自由にしていることにおどろいている。そして一緒にいるのは...。
「カチューシャ!!」
「えぇ!? ティアラ!?」
 驚く魔女の手から離れた男装したティアラが私を見るなり飛び込んできて私を抱きしめる。挿絵AIで作った挿絵

「ごめん! 私のせいで危険な目にあわせて! 大丈夫だよね!? まだ何もされてないよね!?」
「ちょっ、ティアラ! 私は大丈夫だから...何もされてないよ!」
 抱きしめるティアラを引き剥がして無事を伝えるが、今肝心なのは私よりもティアラだ。
「せっかく勘違いして私が攫われたのに、なんでティアラが来ちゃうの!」
「それも...ごめん...。でも、自分の大事な人は自分で守りたいから、助けたいから...人任せになんて出来ないよ!」
「はぁ...もう、仕方ないんだから...」
 そうだよね、ティアラはそういう子だよね。
「でも、ティアラが助けに来てくれて嬉しかったよ」
 不謹慎にも今の私は囚われのお姫様で、ティアラは救いに来てくれた王子様...もとい王女様のようで、物語のヒロインになったようで少しだけ嬉しく感じてしまっている。
「あのー、乳繰り合ってくれるなら願ったりなんだけどワタクシとしましてはさっさと合体して欲しいのですけどもー...」
「姉さんこういうのはムードが重要なんすよ、催促するのは野暮ってもんですぜ」
「そうね、じゃあ後は若いものにお任せしてどうぞお楽しみを...」
 と、蚊帳の外だった魔女がゴブリンを連れて洞窟の奥へ向かう―
「って、ちっがあぁぁあう! 前戯も情緒もヘッタクレありませんわいりませんわ! さっさとおっぱじめなさい!」
「ウソ、あの魔女ノリツッコミした?」
 なんか思い描いてた魔女と違うよね...。
「そこまでだマジェステ! 観念しろ!」
「はぁ!? なんでここが!?」
 そんなこんなしてるうちにウィッグさんまでやってくる。メッセージは伝わったらしい。
「ふん! 処女の守り手だか貞操帯だか知りませんが、こうなったらワタクシ自らの手でぶっ潰してさしあげますわ!」
 逃げ場はないと、魔女はウィッグさんに正面から立ちはだかる。ウィッグさんを避けてたのは実力で劣るからだろうけど、不死身であることを自信に無理矢理勝利をもぎ取るつとりなのだろう...。


「きゅぅ...」
「「よっわ」」
 何と言うかヅラが強すぎるのもあるのだけど、魔女は想像以上に弱かった、多分私でも本気出せば勝てるんじゃないかな...カチューシャは言わずもがな。まぁ私は不死身相手じゃすぐにジリ貧で負けるだろうけど。
「残機無限でもムリゲーはムリゲーですわぁ...」挿絵AIで作った挿絵

 そして勝負にもならないヅラ相手じゃジリ貧になるより先に魔女の心が折れて床に突っ伏していた。
「私はコイツを回収して後から追いかける、君たちは先に騎士団本部に戻っててくれ、道中のトラップは全て破壊してある」
「はーい」
 突っ込まれないウチにとっとと退散しましょ...、
「特に殿下!」
「ギクッ!」
 デスヨネー、バレてますよねー。
「陛下にバレないうちにさっさと着替えておくんだな」
「...ありがと」
 怒られると思ったら、仕方ないと笑うように今回の私の行いを秘密にしてくれると含んでくれた。
 それほど深くなかった洞窟を抜けるとそこは古戦場近くで、ライスシャワーとコンフェッティと一緒にプリムが出迎えてくれる。
 それと、古戦場近くのせいでゴーストがいないかと怖がってるカチューシャが相変わらずで、魔女には全く怯えてなかったのにゴーストを怖がる姿がまたおかしかった。


「で、コイツどーすんのよ」
騎士団本部には私とカチューシャとプリムとカローラ、ヅラに縄でふん縛られた魔女(となんかついてきた賢いゴブリン)、そして報告を受けてやってきた王母様と、大勢が揃っていた。
「陛下、ご存じの通りコイツは不死身で処刑は不可能、捕らえたところで自害して都合の良い状態で復活し逃げ出されます」
「また厄介な...勇者がやったように封印はできないのか?」
「勇者の封印は秘宝によるもの。コイツが復活した際に破壊されたようで同じ方法は使えませんね」
「カローラの力でなんとかできないの?」
「そういう力は伝えられてないですね...、それに聖女の力でなんとかなるなら初代聖女コレット様がやっておられるでしょうし...」
「やっぱりアナタあの小娘聖女の子孫ですのね、あまりにクリソツで驚きわましたわ」
「小娘聖女...」
「グェッ!?」
 イラッとしたのか冷たい笑みを浮かべたカローラから浄化の光が放たれたと思ったら魔女を貫いた。
「ちょっと!? ビンタ感覚で殺すんじゃありませんわよ! コレットはもっとお淑やかでしたわよ!」
 そして自分の死体の横に復活する魔女。ヅラとの戦闘中に何度も見たけどホントポンポン復活するわよね...。にしてもなんで復活した方もちゃんと服着てるんだろ。
「ご覧の通り」
「ふむ...殺し続けて魔力を枯渇させるといった方法は?」
「コイツの魔力の源はこのユリゾンリリィ領土の大地のマナそのものです、完全に殺すにはこの地の魔力を枯らせる事になるでしょう」
「だから、不可能と言うことか...」
「魔王様に頂いたお力ですもの、簡単には封じられませんわよ!」
 魔王をも倒した勇者がこんな魔女を封印したのはそういう事よね、私たちでなんとかできるような事は勇者が試してるでしょう。だからどうするか困りものなんだけど...。
「提案なのですが、コイツを私に預けて頂き、騎士団員として側で監視兼仕事をさせたい」
「はぁ!?」
 と思ったらヅラが予想外の提案を言い出した。


「いくらウィッグさんのそばに置くと言っても、危険すぎるんじゃ...」
「そうよ! カチューシャを危ない目に合わせたコイツを従えるなんて絶対反対だわ!」
 私は純粋に魔女を信じられないからだけど、ティアラは私のこともあって特に猛反発している。
「処刑も拘束も無理ならばそばに置いて監視する他ない、コイツとは話をつけて悪事を働かないよう言い含めている。もし問題が起きれば私が責任を持とう」
「アンタが責任取ってもしょうがないじゃん!」
 たしかに他に方法もなさそうだけと、ホントに悪さしないとも思えないし...。
「キミに責任を取らせようにも代わりは居ないわけだが...。危険はないという根拠はあるのかい?」
「親愛する魔王様ですもの、魔王様はワタクシ自らが孕んで復活致しますから、いずれワタクシが女王となる日まで仕えてあげますわ!」
「とのことだ」
 それは危険がないって根拠になるの?
「ともすれば危険があるとすれば我々王族だけか。良いだろう、民に危険が及ばないなら騎士団に魔女は任せるとしよう」
「ありがとう御座います」
「まっ、よろしくってよ!」
「ちょっ、王母様!?」
「ただし! もし民に危害を加えるようなら死ねない体を恨むような責め苦を覚悟する事だ...」
「ひぃ!?」
 初めて見るクラン女王の威圧に反対しようとしたティアラまでも硬直していた。
「あの、魔女の処遇が決まったところで私からも一つ良いですか?」
「なんですかカチューシャ様、攫われた憂さ晴らしですか?」
「そう言うんじゃなくて...、魔女に遣われていたゴブリンたちを許して欲しいなって」
 と言って代表としてやってきた賢いゴブリンが私の前に一歩踏み出す。
「巣の連中は静かに暮らしたいだけなんでさ、今後も迷惑かけねぇようにひっそりと過ごすつもりなんで、どうか許してくだせえ。罰が必要というなら、アッシが引き受けます」
 賢いゴブリンさんがクラン女王に懇願している...けど、クラン女王含めみんなの顔には許しの有無よりも...
(ゴブリンが喋ってる...!?)
 なんだろうなぁ...。


 魔女マジェスティは騎士団が身元預かりとなり、実質的に騎士団員の増員(騎士じゃないけど)。
 ゴブリンたちもお咎めなしで、それどころか定期的にヤギを送ることで不可侵条約を結んだ。
 こうしてお騒がせな魔女マジェステの騒動は幕を閉じたのだけど、この国で改めて「魔王の復活」が...「異性婚」が禁忌であることを再確認して...私はティアラとの関係が怖くなってしまった...。


―なお...
 事件の収束後、騎士団本部の一室でウィッグとマジェステは密談していた。
「魔王様復活してたならなんでワタクシのこと探しに来てくださらないの!?」
「イヤースマン、お前も死んだものとばかり思っていたんでな...」
「不死身の魔女が死ぬ訳ありませんわ!」
「どの道お前が復活するまで魔女の封印は王族に伝わる機密で私は情報に触れることもできなかったんでな...領外に封印されてたのでは見つけることは叶わなかっただろう」
「それなら...まぁ...仕方ありませんわね」
 ウィッグの説明に一旦は落ち着くマジェステだったが。
「そんなことより! 何故復活しながらのうのうと騎士団長なんてやっていらっしゃるのですか!」
 マジェステにとって親愛する彼が何の力も持たない王族に仕えてることがなにより納得いかなかった。
「魔王として名乗り出た私が王座に座ってみろ、これまで静観を決め込んでいた周辺各国が魔王討伐と大義名分を掲げて乗り込んでくるぞ。この国の平和と繁栄を維持するには私は復活しておらず彼女たちに王位を任せたほうがいい」
「たしかにそうですけど...」
 ユリゾンリリィが500年もの間、戦争と無縁であったのは「魔王復活」の切り札が恐れられてのことでもある。「魔王の加護」とは即ち魔王の存在ものなのだ。
「だが、もしこの国の王族が民を苦しめるような事があれば、私が復活するかもしれんな」
「ワタクシは魔王様の意のままに...」挿絵AIで作った挿絵


...魔王は、とうの昔に復活していた―
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百合の国のプリンセス♂作者:万能ねぎトロ
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