仲良しグループの瀬川さん
「えー、この度こちらの学校でカウンセラーをさせていただくことになりました、戸塚肇です。何か困ったことがあれば、いつでも相談してください」
カウンセラー。正直、聞いてもらってどうにかなる悩みなら、始めから苦労なんてしないと思う。
でも、戸塚先生は何か私に似た雰囲気を感じた。どこがかは分からないけど。少し、興味あるかもね。今度相談してみても良いかも。
正直、霊が見えない人に、見える私の悩みは分かりっこないけど、友達の作り方なら、ね。
そんなことを考えていた時、不意に声をかけられた。
「北川さん?」
話しかけてきたのは、私の後ろの席で、いつも仲良しグループの輪の端っこに混じっている、女子生徒。確か、名前は瀬川さん。
「何? 何か用?」
と言っても、今は戸塚先生が着任あいさつしている最中。何か用なら後にして欲しい。
「あの戸塚って先生、イケてない?」
......イケてない、全然。とも言いづらいので、
「そこそこイケてると思うわよ」と返した。
「北川さんってさ、いつもグループの方見てるよね? 仲間に入りたいの?」
......図星過ぎて声が出ない。見てる人は見てるのね。
「あのさ。もし、戸塚先生のカウンセリング受けるの付き合ってくれたら、グループに推薦してあげるよ?」
カウンセリングなんてものを親しい仲間と受けたくない、という心理は理解できる。そして、私にとってこれは願ってもない状況。私は手を挙げて、戸塚先生のカウンセリングを予約した。
下校途中。おはぎが路地裏から出てきた。
「どうだアリサ、少しは変われたか?」
私は、一瞬喜びをおはぎと共有したい衝動に駆られたが、「まあ、ね」と答えるに留めた。
「......それより、お前の霊が見えるチカラについてなんだが」
それよりって、何よ! こっちは必死だっていうのに!
「スマホを通してしか霊が見えないというのは、目にチカラが宿っているのではなく、右手にチカラが宿っているのかもしれん」
「へえ、ずいぶん考えたわね。猫にしては」
「カラスにきいたんだ、奴らチカラもあるし賢いからな。少し脅したらすぐに白状した」
......可哀想に。
「で? 調べてくれたのは嬉しいけど、右手にチカラが宿っていると分かったところでどうなるの? 腕を切り飛ばす?」
「最悪そうなる、かもしれん」
「......!!」
「前にも言ったが、チカラを持つとロクなことにならん。下手をすると命に関わる」
「ゴメンだわ、そんな話。信じないから!」
「信じずとも問題ない。俺が護ってやる」
なんで、そんなに、私が飢えている言葉を軽々しく投げるのよ......
「猫にそんな根性あるの?」
「知らん。だが、俺にはある」
......都合のいい時だけ、人間くさいんだから。
――戸塚先生のカウンセリング初回。
「困っていることについて、話してくれるか?」
うわ、タメ口。スクールカウンセラーとしてどうなのよ。それに、前置きとかないわけ?
「なかなか友達ができなくて......」
せっかくだから、本当のことを相談してみる。少し気に入らないけど。
「そうは見えないけどな。明るそうだし、行動力もあるタイプに見えるが?」
ウソでしょ? この私の、どこをどう見たらそんな評価になるのよ! なぐさめにもならない。
「俺も友達が多いタイプじゃないけど、人生楽しいぞ。友達って、絶対いなきゃダメか?」
......ダメでしょ。ていうか、カウンセラーが友達少ないのをカミングアウトしてどうするのよ。
もう割り切ろう、グループに推薦してもらうためだもの。
「先生は、どんな時楽しいんですか?」
「そりゃあ、その......いつだって楽しいさ」
このヒト、具体的に楽しい時思いつかないの!?
何か、不憫になってきたわ。
「いつでも来なさい、いつでも待ってるから」
そりゃ、アナタの仕事だものね。
こんなヤツほっといて、早く瀬川さんに報告しに行こう。
瀬川さんにカウセリング内容をそのまま伝える......わけには行かないわよね。アレでも好意の対象らしいから。
「北川さん、どうだった?」
「そこそこ親しみやすい、良い先生だったわ」
ここで、大げさに褒めないのがポイント。実際とギャップが大きすぎると、ウソをついたことになる。それはまずい。
「そう、良かった! じゃあ、グループに推薦してあげる!」
ウソでしょ!? こんなに簡単に行くものなの!?
瀬川さんはニコニコしながら、一言付け加えた。
「ただし、条件がもう一つだけあるの」
「条件?」
私、約束守ったわよね? でも、グループに入ることより優先すべきことなんて何もない。プライドだっていらない。
「簡単なことなの。アナタが入るには、空席が必要なのよ。そして、その空席候補が今ひとりいるってわけ。その子に、グループのリーダーを装って、嫌がらせをしてほしいの」
......は? 理解が追いつかない。
「その子、ちょっと人気がありすぎるのよ、グループのリーダーが立場を気にするくらいに。で、リーダーとしては示しをつけたいんだけど、リーダーも気が弱くてさ。直接自分で言えないから、代わりに言ってくれるヒトを探してるの」
「そんな!」
「別に、出来ないなら良いのよ、アナタの代わりはいくらでもいるから」
私が迷ったのは、ほんの一瞬だった。