Episode 47 REASSESS
TRADER本部。
会議室の机の上には、一枚の資料が置かれていた。
クオンツナンバーズ研究所。
「......これで全部か」
ルークが資料に目を通す。
レイヴンは腕を組んだまま頷く。
「ステラから届いた情報は以上だ」
研究所内部。
実験施設。
被験者。
記録。
そのほとんどは既に失われている。
「研究は止まった」
ルークが呟く。
「少なくとも、表向きはな」
レイヴンも資料へ視線を落とした。
「問題は、その後だ」
「ああ」
ルークが頷く。
「研究者達は散り、残った資料も少ない。つまり――」
「何人、外へ出たか分からない」
レイヴンが口を開いた。
「問題は未確認個体だよなあ」
「ああ。今、一番警戒すべきはそこだ」
「俺には未確認というよりも――ん?」
──コンコン──
「失礼します」
隊員が一礼した。
「レイ様、エルザ様が到着されました」
遠慮のない振る舞いでエルザが軽く挨拶する。
「よお」
エルザが片手を挙げる。
「久しぶりだな」
レイも軽く笑った。
「相変わらず暗い部屋だな」
「明るい話が無いからな」
ルークが肩を竦める。
「違いない」
四人が席へ着く。
――パサッ――
レイヴンは資料を机の中央へ滑らせた。
「状況を共有する」
「ああ、頼む」
レイとエルザが視線を落とす。
「クオンツは事実上、崩壊した。だが――」
「研究そのものは終わっていない可能性がある」
ルークがレイヴンの言葉を継いだ。
「研究が終わっていない?」
エルザの表情から笑みが消える。
「未確認個体とは別に、か?」
「ああ」
ルークが頷いた。
「表向きには完全に消えている。研究は移送された可能性が高い」
「未確認個体は別件。他が引き抜き、もしくは回収......」
レイが呟いた。
「俺たちはそう見ている。所在不明。数も分からない。目的も不明だ」
「きな臭いところの目星はあるんだろう?」
エルザがルークに問う。
「追うべき対象はBLACK MARKETと見てる。TRADER上層部、ここもだな」
「身内に敵がいると大変だねえ」
「ネズミは必ず粛清する」
レイヴンが低い声で言い放つ。
「クオンツの本来の目的を害する奴らは――」
「............」
「俺が絶対に許さん」
レイヴンの迫力に場の空気が張り詰める。
「......あんたがその気なら、そっちは任せるよ」
「......ああ」
「未確認個体は俺とエルザでも引き続き追っていく」
レイは静かに腕を組む。
「助かる」
「BLACK VARIANCEは?」
レイヴンが答える。
「ヴァーゲンは相変わらず好き勝手やってる」
「あははっ!大変そうだねえ」
エルザが苦笑した。
「こっちは笑えねえんだって」
ルークがうんざりしながら口を開く。
「知ってるか?あいつら、始末書部隊っての作ったんだぞ?」
「何だ、そのコミカルな残念部隊」
「ヴァーゲンのやらかし前提で対応するプロ集団」
「ボスが自由だと大変だねえ」
エルザとレイも思わず苦笑する。
「放置は出来ない」
レイヴンが続ける。
「クオンツもだ」
レイが口を開いた。
「で、どうする」
「役割を分ける」
レイヴンが指示を出す。
「TRADERは引き続き未確認個体を追う」
「クオンツの移送の可能性、お前らの上の件はどうするんだ?」
「確たる証拠がない以上、BLACK MARKETに触れるのは現状悪手と判断する」
「了解」
レイヴンとレイで話がまとまる。
「BLACK VARIANCEの動向も継続監視」
「こちらは引き続き遊撃として個別に動く。構わないかい?」
「ああ。それで頼む」
ルークが資料を閉じる。
「無理に動かない。情報を集める」
「今はそれで十分だ」
エルザが立ち上がる。
「しかし、やることが多いな」
レイが笑った。
「サビ残は嫌いなんだよ、俺」
「残業代は出している。帰りに呑み過ぎなんだ、お前は」
「いつの間にかその金が消えてるんだ。敵は近くにいる」
「敵はお前自身だろう?」
軽口を叩きながら会議は終わった。
四人は席を立つ。
見えない影は外側で――
動き始めていた。