Episode 14 SERAPH
――ゴゴッ――
ゲートが閉じる。
――ブォォォ――
輸送車はゆっくりと街へ入っていく。
車窓の向こうに広がる景色。
ノアは思わず目を丸くする。
「......すご」
そこには、ORPHANとはまるで違う世界があった。
白を基調とした建物の街並み。
広い道路では救急搬送車が途切れることがなく行き交う。
頭上では医療用ドローンが何度も飛ぶ。
歩道には白衣姿の人々が慌ただしく足を進めていた。
一方で、その表情に焦りはない。
誰もが自分の役割を知っている。
そんな街だった。
輸送車は交差点を抜ける。
ふと、レートの視線が歩道へ向く。
義足を付けた少年が、小さなボールを追い掛けて走っていた。
転びそうになる。
だが、その隣を歩いていた女性が優しく手を支えた。
少年は照れ臭そうに笑い、再び駆け出していく。
「第12区――SERAPH」
クロスが静かに口を開く。
「世界最高峰の医療福祉区です」
巨大な総合病院。
救命センター。
リハビリ施設。
義肢適合センター。
「ここでは毎日、多くの命が救われています」
クロスは窓の外を見つめたまま続ける。
「戦場で傷付いた人も。事故で身体を失った人も。病に苦しむ人も」
どの建物にも、多くの人が出入りしていた。
「皆、この街へ辿り着きます」
ノアは窓に額を寄せた。
「......なんか、優しい街だね」
「そうですね」
クロスは小さく頷く。
「多くの人々が支え合っているからこそ、この街は存在しています」
クランツが街並みを静かに眺める。
「だから静かなのか」
「命を救う場所では、慌てることが最も危険ですから」
クロスは微笑んだ。
レートは小さく息を吐く。
「ORPHANとは真逆だな」
「ええ」
クロスは穏やかな眼差しで街並みを見つめた。
「ORPHANは、命を守る街」
少しだけ微笑み、続ける。
「SERAPHは、命を繋ぐ街です」
――キイッ――
輸送車が一つの施設の前で静かに停止した。
ガラス張りの巨大な建物。
正面には大きく刻まれている。
SERAPH CENTRAL MEDICAL CENTER
入口では、数名の医療スタッフが既に待機していた。
――バタン――
輸送車の扉が開く。
クロスがゆっくりと降り立つ。
スタッフ達は一斉に頭を下げた。
「クロス商会長。お待ちしておりました」
「予定通り、お届けしました」
クロスは穏やかに頷く。
「......間に合いました」
スタッフの一人が、安堵したように息を吐く。
その一言だけで十分だった。
レートはコンテナへ視線を向ける。
運んできたものは、誰かの命を繋ぐためのものだった。
「皆さん。依頼は、これで完了です」
クロスはレート達へ向き直る。
「本当に、ありがとうございました」
深く一礼した。
「間に合ってよかったな」
レートはクロスを見つめる。
「ええ」
クロスは静かに頷いた。
「もしお時間があるようでしたら、今夜、お礼をさせてください」
「飯か?」
「行く!」
レートに割り込んだノアの声が響く。
「......こいつらは」
クランツは苦笑いを浮かべながらクロスに視線を向けた。
「時間になりましたらお迎えにあがります」
クロスは柔らかく言葉を継いだ。
「それまで私の商会のホテルでお寛ぎください」
消毒液の匂いが微かに漂う。
一行はその場を後にした。
第12区――SERAPH
夜は、まだ始まったばかりだった。