知④
事件性ありと判断された世那まりかの両親。
その捜索も含めて識は、朝倉と共に手がかりを求め、まずは聞き取りから行う事になった。
隣近所から始まり......少しづつ範囲を広げて住人達から話を聞いていく。
もっとも、メインで話を聞くのは本職である朝倉の仕事であり、識はその邪魔をしないように配慮しながら自身でも、メモを取るなどしている。
だが、世那まりかの両親についての情報はほとんど出てこなかった。
どうやら、近所付き合いをほとんどしていなかったらしく、世那夫妻の名や顔を知らなかったり、顔はかろうじて分かっても名前は初めて知ったという住人がほとんどだった。
唯一、世那夫妻の名を知っていたのは、このマンションの管理会社の者くらいであったが......人物像まで把握はしていなった。
(それ程娘の死が衝撃だったのか? 印象がかすむほど、憔悴していたということか? だが、それならそれで印象に残りそうなもんだが......)
「進藤さん、少し休憩しましょうか? 今までの整理も兼ねて、ね?」
「分かりました。車内ですか?」
「えぇ、そうです。窮屈で申し訳ありませんがねぇ」
「......今更そこは気にしません」
「流石に慣れていらっしゃいますね。では、車内に戻りましょう」
こうして二人は乗ってきた車へ引き返すと、中へ乗り込み今までの情報を整理し始めた。
「我々が集めた情報しかり、他の者の情報しかり、どうにも妙な程印象の薄いご夫妻ですねぇ」
「えぇ、薄気味悪いくらいです」
「私も同感ですねぇ。いくら娘さんが亡くなったとは言え......不自然なほど周辺住民の印象が薄すぎます。人付き合いが苦手としてもです」
「自分もこれでも探偵をやらせていただいていますので、その。こういうケースは意図的な印象があります」
「そうですねぇ。あえて印象に残らないよう行動していた、そう考えても良さそうです。ただ、肝心なのはその理由ですねぇ」
「何故意図的に周囲への印象が残らないようにしていたか? 娘の死がきっかけそうではありますが......いや、これは個人的解釈すぎますね。すみません」
「いえ、案外その線は悪くないと私も思います。不自然な事故死......実はそこにも引っかかっていましてねぇ」
「世那まりかの限りなく自殺に近い事故死ですね。彼女は何故、そのような行動を取ったのでしょうか?」
「私は、それこそが今回の事件の肝だと思っているのですよ、えぇ」
「肝......ですか。洋壱の死に、世那まりかの事故死が関係しているのは、物的証拠からしてあります。ですが、そこと多中がどうにも結びつかないのが、もどかしいところですね」
「竹田さんも、相当手を焼いているようですからねぇ。あの多中、まぁ世代の問題もあるのでしょうが......どうにも行動に違和感が多すぎます」
「朝倉刑事は、どう違和感を?」
缶のカフェオレを一口含んでから、朝倉ははっきりと言い切った。
「警察も死も恐れない精神性の人間なんて、常識で考えて相手することなんて不可能ですが......だからこそ、多中が不自然なほど確固たる意志を宿しているのが、どうにも気味悪いんですよ」