知⑤
――どうにも気味悪いんですよ。
朝倉の言葉に識も同感だった。
(気味が悪い。そう、多中に抱く印象がそれしかないんだ......)
そこに対しても、識は違和感を抱いていた。
普通、気味が悪いから派生して......不快や嫌悪に繋がる。だが、多中から感じるのは、只々気味が悪い。
それだけなのが奇妙でかつ、大きな違和感となっている。
(何がこう感じさせるんだ?)
「進藤さん?」
「朝倉刑事......人は恐怖を上回ると笑うという話、あれ本当ですか?」
「妙な事を聞かれている気がしますが......そうですね。恐怖が過ぎて笑い出す者はいます」
「もしかしたら、俺達は......多中への恐怖が強すぎて、心の上限を超えているのかもしれません」
「どういう事です?」
少し食い気味で尋ねる朝倉に識は、言語化していく。その様子はまさに探偵そのものだった。
「朝倉刑事は職務で恐怖に耐性がある。俺は今、恐怖より洋壱の死の真相、その近くにいる多中を既に敵視している。つまり、ある意味では恐怖を認識しずらいのではないかと。心理学に詳しくないので、憶測になりますが......心の奥にある恐怖を無意識に、気味が悪いという印象だけに塗り替えているのではないかと思ったんです」
「なるほど......言われてみればそうかもしれませんねぇ。私達は二度襲撃も受けていますし、笑う事すら超えてしまったというのは、ある意味的確な表現です」
「ありがとうございます。そこを踏まえて、世那夫妻の事を考えてみたんです。彼らが意図的に印象を残さなかったのは......その恐怖からではないのか、と」
「ふむ? つまり、進藤さんはこう言いたいのですね? 世那夫妻は何かに恐怖以上の感情を抱き、だからこそ引っ越しをし更に印象を残さない......いや、残せなかった。そうですね?」
「はい。概そうです」
「その線で行くと、私達が抱いた違和感が、世那夫妻の行方に繋がりそうですねぇ。では、世那まりかに立ち返り、彼女の事を再調査してみましょうか」
「それは、娘の死後、引っ越しをしたから......ですね?」
「えぇ。少なくとも転機になったのは、間違いないと考えています」
限りなく自殺に近い事故死をした世那まりか。
思えば、彼女の事を識は知らない。分かっているのはストーカー気質があった事、洋壱に好意を抱いたらしいという事だけだ。
(もし......洋壱にストーカー行為をしていたとして。その世那まりか本人もストーカーされていた、なんて事があったとしたら......? 全部憶測になる。だが、これが当たっていたなら......多中の異常性に繋がる事が、出来るかもしれない)
識は既にある考えに行きついていた。
それは......世那まりかにストーカー行為を働いていたのが多中ではないか?
そして、その逆恨みで洋壱は殺されたのではないか?
もっとも、これら全て憶測であり、物的証拠は出ていない。この考えに囚われすぎるのは良くない事も、理解している。
だからこそ、証拠を集める必要があると認識していた。
――洋壱の死の真相を暴くために。