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気高い王女2

「メリッサと申します」

「私はアメリアです」

 薄茶髪の令嬢がメリッサで、焦げ茶髪の令嬢がアメリア――改めて令嬢たちを見比べてみる。メリッサはつんとすましているものの、幼い顔立ちが邪魔をしている。アメリアは私よりも歳上だろうか。グレーの瞳は切れ長で雰囲気も大人びている。対して、ミレイユは素朴な顔立ちで、化粧で華やかさを足している印象だ。
 そのミレイユは手をもじもじさせ、遠慮がちに私たちを見た。

「皆さん、仲良くしましょう? これから一緒に数ヶ月も城に滞在するのですから」

「何を言っているのです? 私たちは王太子妃の座を狙う敵同士でしょう」

 メリッサは鼻で笑うと、片手を口元へ当てた。アメリアも冷めた表情でミレイユを見下すばかりだ。
 私も令嬢たちと仲良くする気は更々ない。出来れば必要以上に関わらず終わらせたいものだ。

「ミレイユ、理想主義は捨てましょう? 私たちには通用しないかと」

「私は、そのようなつもりでは......」

 忠告の意味も込めて静かに伝えると、ミレイユはしゅんと項垂れてしまった。
 アメリアは凛とした瞳をオーレリアが去っていった扉へと向ける。

「それより、貴女方もオーレリア殿下の言葉は聞いたでしょう?」

 メリッサも一度だけ大きく頷いた。

「ええ。私たちはかなり見下されているようですね」

「このままで良いと思います?」

 どういう意味だろう。まさか、オーレリアに危害を加えるつもりでは――。沸いた疑念に眉をしかめる。

「エレナ、何か勘違いをされていません?」

「勘違い? 何をです?」

「別に、オーレリア殿下を今すぐどうこうしようというのではありませんよ」

「今すぐ?」

 聞き返すと、何故かアメリアは吹き出した。すぐさま咳払いをし、はしたない行動をなかったことにする。そして、更に続ける。

「貴女は重箱の隅をつつくのが好きなようですね。流石、田舎者」

 これは私への挑発だ。乗ってやる筋合いはない。

「否定はしませんが......油断していると痛い目を見ますよ?」

「あら、大した自信だこと」

 私が怒りを露にしなかったことを不服に思ったのだろうか。メリッサは嫌な笑みを浮かべるものの、余裕が消えたように見えた。その笑みのまま、口を開く。

「私は、貴女方に宣戦布告します。私が王太子妃の座を射止めるところを黙って見ていてもらいます」

 メリッサと結託していたように見えたアメリアも、メリッサに鋭い視線を向ける。

「その言葉、そのままそっくりお返しします」

「私もですわ」

 ここで負ける訳にはいかないと、三人を視線で挑発した。

「ミレイユはどうなのです?」

「私だって......負けません。それでなくてはこの場にいませんもの」

 メリッサの気迫に臆することなく、ミレイユも両手で拳を作る。四人の闘志は熱となり、部屋を燃やすかのようだった。

 * * *

 その場はすぐに解散となり、居室へと散り散りに消えた。張り詰めた緊張に耐え切れず、昼食の後は泥のように眠った。
 私以上に気の強そうな令嬢が二人もいる。けれど、彼女たちに私が負ける筈がない。私は背負うものが違うのだから。
 明日からの選考会で、敵意はしたたかに隠さなくては。優しすぎる王太子に引かれてしまえば、私は隣に立つことは出来ないだろう。一度息を整え、テーブルに置かれた紅茶を口にした。
 駄目だ。気を張ったままでは精根尽きてしまう。

「ぬあぁー......」

 ティーカップを置き、両手で顔を覆った。初めての経験だけに、私の立ち居振る舞いが合っていたのか不安になってしまう。
 扉が開き、肉の焼けた香りやコンソメの香りが鼻を刺激しても、そちらへ振り向けなかった。

「エレナ嬢、お食事です」

「うん、分かってる」

 セリスの声に、とりあえず体勢を直して深呼吸をする。今夜の食事はエビピラフにシーフードグラタン、ヒレステーキ、カニサラダといった、実家では絶対に食せない贅沢な品だ。海に接していないフェラデル国では、海鮮類は滅多に口にすることは出来ない。

「一人でこんなに美味しいもの食べちゃって良いのかな」

「エレナ嬢のご事情は詳しくは存じ上げませんが、英気を養うためです。必要なことかと」

「そう、だよね......」

 でも、なんだか両親に申し訳ない。「ごめんなさい」と心の中で謝罪し、カトラリーを手に取った。まずはカニサラダだ。オニオンドレッシングを回しかけ、ちびちびと頬張る。

「やっぱり美味しい」

「それは良かったです」

 必ずカニやエビを食べさせてあげるから。両親に誓いを立て、食べ進める。頬を伝う涙なんて気にはならなかった。セリスがハンカチで涙を拭いてくれた時も、感謝の言葉を伝えられなかった。
 美味しすぎる食事を残さずにいただき、ナプキンで口を拭う。窓の外に広がる星空を眺めながら、今日の出来事を思い返す。
 オーレリアのあの瞳は、私たちを見下しているようで悲哀に満ちていた。憂いをプライドで昇華して、わざと強い語調で話していたのかもしれない。オーレリアなりに、兄にしがみつく理由があるのだろうか。
 まあ、それを知る日が来ようと、私が成すべきことに変わりはない。細い息を吐き、図書室から借りてきた本を手に取った。
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優しすぎる王太子に妃は現れない作者:七宮叶歌
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気高い王女2

「メリッサと申します」

「私はアメリアです」

 薄茶髪の令嬢がメリッサで、焦げ茶髪の令嬢がアメリア――改めて令嬢たちを見比べてみる。メリッサはつんとすましているものの、幼い顔立ちが邪魔をしている。アメリアは私よりも歳上だろうか。グレーの瞳は切れ長で雰囲気も大人びている。対して、ミレイユは素朴な顔立ちで、化粧で華やかさを足している印象だ。
 そのミレイユは手をもじもじさせ、遠慮がちに私たちを見た。

「皆さん、仲良くしましょう? これから一緒に数ヶ月も城に滞在するのですから」

「何を言っているのです? 私たちは王太子妃の座を狙う敵同士でしょう」

 メリッサは鼻で笑うと、片手を口元へ当てた。アメリアも冷めた表情でミレイユを見下すばかりだ。
 私も令嬢たちと仲良くする気は更々ない。出来れば必要以上に関わらず終わらせたいものだ。

「ミレイユ、理想主義は捨てましょう? 私たちには通用しないかと」

「私は、そのようなつもりでは......」

 忠告の意味も込めて静かに伝えると、ミレイユはしゅんと項垂れてしまった。
 アメリアは凛とした瞳をオーレリアが去っていった扉へと向ける。

「それより、貴女方もオーレリア殿下の言葉は聞いたでしょう?」

 メリッサも一度だけ大きく頷いた。

「ええ。私たちはかなり見下されているようですね」

「このままで良いと思います?」

 どういう意味だろう。まさか、オーレリアに危害を加えるつもりでは――。沸いた疑念に眉をしかめる。

「エレナ、何か勘違いをされていません?」

「勘違い? 何をです?」

「別に、オーレリア殿下を今すぐどうこうしようというのではありませんよ」

「今すぐ?」

 聞き返すと、何故かアメリアは吹き出した。すぐさま咳払いをし、はしたない行動をなかったことにする。そして、更に続ける。

「貴女は重箱の隅をつつくのが好きなようですね。流石、田舎者」

 これは私への挑発だ。乗ってやる筋合いはない。

「否定はしませんが......油断していると痛い目を見ますよ?」

「あら、大した自信だこと」

 私が怒りを露にしなかったことを不服に思ったのだろうか。メリッサは嫌な笑みを浮かべるものの、余裕が消えたように見えた。その笑みのまま、口を開く。

「私は、貴女方に宣戦布告します。私が王太子妃の座を射止めるところを黙って見ていてもらいます」

 メリッサと結託していたように見えたアメリアも、メリッサに鋭い視線を向ける。

「その言葉、そのままそっくりお返しします」

「私もですわ」

 ここで負ける訳にはいかないと、三人を視線で挑発した。

「ミレイユはどうなのです?」

「私だって......負けません。それでなくてはこの場にいませんもの」

 メリッサの気迫に臆することなく、ミレイユも両手で拳を作る。四人の闘志は熱となり、部屋を燃やすかのようだった。

 * * *

 その場はすぐに解散となり、居室へと散り散りに消えた。張り詰めた緊張に耐え切れず、昼食の後は泥のように眠った。
 私以上に気の強そうな令嬢が二人もいる。けれど、彼女たちに私が負ける筈がない。私は背負うものが違うのだから。
 明日からの選考会で、敵意はしたたかに隠さなくては。優しすぎる王太子に引かれてしまえば、私は隣に立つことは出来ないだろう。一度息を整え、テーブルに置かれた紅茶を口にした。
 駄目だ。気を張ったままでは精根尽きてしまう。

「ぬあぁー......」

 ティーカップを置き、両手で顔を覆った。初めての経験だけに、私の立ち居振る舞いが合っていたのか不安になってしまう。
 扉が開き、肉の焼けた香りやコンソメの香りが鼻を刺激しても、そちらへ振り向けなかった。

「エレナ嬢、お食事です」

「うん、分かってる」

 セリスの声に、とりあえず体勢を直して深呼吸をする。今夜の食事はエビピラフにシーフードグラタン、ヒレステーキ、カニサラダといった、実家では絶対に食せない贅沢な品だ。海に接していないフェラデル国では、海鮮類は滅多に口にすることは出来ない。

「一人でこんなに美味しいもの食べちゃって良いのかな」

「エレナ嬢のご事情は詳しくは存じ上げませんが、英気を養うためです。必要なことかと」

「そう、だよね......」

 でも、なんだか両親に申し訳ない。「ごめんなさい」と心の中で謝罪し、カトラリーを手に取った。まずはカニサラダだ。オニオンドレッシングを回しかけ、ちびちびと頬張る。

「やっぱり美味しい」

「それは良かったです」

 必ずカニやエビを食べさせてあげるから。両親に誓いを立て、食べ進める。頬を伝う涙なんて気にはならなかった。セリスがハンカチで涙を拭いてくれた時も、感謝の言葉を伝えられなかった。
 美味しすぎる食事を残さずにいただき、ナプキンで口を拭う。窓の外に広がる星空を眺めながら、今日の出来事を思い返す。
 オーレリアのあの瞳は、私たちを見下しているようで悲哀に満ちていた。憂いをプライドで昇華して、わざと強い語調で話していたのかもしれない。オーレリアなりに、兄にしがみつく理由があるのだろうか。
 まあ、それを知る日が来ようと、私が成すべきことに変わりはない。細い息を吐き、図書室から借りてきた本を手に取った。
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優しすぎる王太子に妃は現れない作者:七宮叶歌
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