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気高い王女1

 登城を果たしてから、はや十日が経過した。ようやく王太子妃選考会か、と思いきや、その説明会が行われるらしい。参加する伯爵令嬢とは初対面だ。
 私は今、会場となる大広間へ続く廊下をセリスと歩いている。

「緊張されていますよね」

「勿論」

 彼女はすっかり私にも素を出すようになった。思慮深く、それでいて抜けているところがある。不意に意味不明な言葉が出るので、笑ってしまうのだ。どこか護ってあげたくなるようなお姉さん的存在である。

「息を吸ってー」

 セリスの言葉に合わせて、深く息を吸い込む。

「吐いてー」

 今度は出すものがないくらいまで息を吐き出す。

「さあ、緊張のほどはどうです?」

「少しは落ち着いた......かな?」

「良かったです」

 実際に、年齢も十歳ほどセリスが上だ。にこやかな大人の笑顔に、こちらまで顔が緩む。
 一瞬、故郷にいる母の顔が思い浮かぶ。私が絶対に良い暮らしをさせてあげるから大丈夫だ。これから起こるであろう戦いの場に、意気込みを添える。
 セリスは一つの扉の前で足を止めた。

「さあ、こちらが会場です」

 説明会とはいえ、勝負はここから始まる。絶対に負けるものか。収まっていたはずの緊張が再び顔を覗かせる。汗ばむ両手でピンクのドレスを握り締めた。
 開かれた扉の向こうには令嬢と思しき女性が三人と、先日すれ違った金の癖っ毛の王女がいた。王女は現れた私を見て呆れの表情を浮かべる。

「エレナ、遅いですよ。一分遅刻です」

「申し訳ございません」

 流石に厳しすぎると思ったものの、遅れてしまった私が悪い。文句を言える筈もなく、先に到着していた令嬢の隣に並んだ。

「これで全員揃いましたね」

 「えっ?」と言いかけて、慌てて口を結んだ。私を入れて、たった四人の妃候補――少なすぎはしないだろうか。
 国王や王太子と同じ空色の瞳は私たちを撫でるように見渡した。

「先に言っておきます」

 王女は目を細め、感情のない表情で断言する。

「私は貴女たちを認めておりません」

 冷たい声色に部屋が静まり返る。心臓がとくりと跳ねた。

「上級貴族とはいえ......伯爵令嬢では身分が低いのです。私は公爵令嬢をと勧めたのですが、お父様が受け入れてくれず、このような形に」

 王女は認めてくれない、要するに仲良くはなれない、ということだろう。偽りの愛で王太子に近付こうとしているのに、虫の良い話だなんて言われればそれまでなのだけれど。
 まあ、今のうちに分かっただけでも諦めはつくだろう。

「下された命ですので、進行はさせていただきます。ですが、私に取り入ろうなんて考えませんよう」

 王女は間を置くと、何度か瞬きをした。

「建前上、私のことをオーレリアと呼ぶことは認めます。ここまでで質問のある方は......いらっしゃいませんよね」

 王女――オーレリアは「ふふっ」と笑うと、そっと視線を落とす。

「お兄様には明日の夜、お会いになってもらいます。何か不穏な動きでもあれば、私が自ら断罪します。さあ、貴女たちは自己紹介でもなさってください。私はお兄様の元へ戻ります」

 オーレリアの独壇場は終了したようだ。身を翻し、会場から颯爽と姿を消す。それにしても、すぐに兄の元へと戻るあたり、相当兄に惚れ込んでいるのだろう。可愛らしい顔に似合わず厄介な妹だな、と細い息を吐き出した。

「あ、あの」

 その声に振り向くと、おどおどとした茶髪の令嬢が揺れる茶色の瞳で私たちを見比べていた。

「自己紹介、しませんか? 知らない方もいらっしゃいますし」

「では、貴女から名乗ってはどうです?」

「は、はい......」

 茶髪の令嬢は焦げ茶髪の令嬢に押され、口をもごもごと動かす。

「私はミレイユと申します。以後、お見知りおきください」

 ミレイユは小さな声で自己紹介を終えると、軽く頭を下げた。この頼りなさからして、真っ先に妃候補からは外されるだろう。ううん、油断してはいけない。何か秘策を持っているのかもしれないのだから。
 次のターゲットにされたのは、どうやら私だったようだ。

「それにしても、貴女は誰なのです?」

「私ですか?」

「そうに決まっているでしょう」

 薄茶髪の令嬢に詰め寄られたけれど、そこで負けるような性格はしていない。一歩前に出て、背筋をしゃんと伸ばす。

「お初にお目にかかります、エレナと申します。よろしくお願い致します」

 冷静に、したたかに。しっかりと自分を印象付けたつもりだ。次は焦げ茶髪の令嬢が「へぇ......」と漏らした。

「一度もお目にかかったことがないなんて、怪しい限りですね」

「父は辺境伯ですので」

 嘘は吐いていない。だから目も泳いでいない筈だ。私が目を細めると、薄茶髪の令嬢も金の目を細くする。

「待ってください! 私たちは互いに詮索は禁止な筈でしょう」

 意外にも、私を庇ってくれる令嬢が現れた。ミレイユだ。頬を赤らめ、口を結ぶ。相当な勇気を振り絞ったことだろう。

「ミレイユ、ありがとう」

 素直に感謝を伝えると、ミレイユはほんのりと微笑んだ。

「そういう貴女方のお名前は? まだ窺っていませんけれど」

 私がちょっとした反撃に転じると、薄茶髪の令嬢と焦げ茶髪の令嬢は顔を見合わせた。
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気高い王女2
優しすぎる王太子に妃は現れない作者:七宮叶歌
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気高い王女1

 登城を果たしてから、はや十日が経過した。ようやく王太子妃選考会か、と思いきや、その説明会が行われるらしい。参加する伯爵令嬢とは初対面だ。
 私は今、会場となる大広間へ続く廊下をセリスと歩いている。

「緊張されていますよね」

「勿論」

 彼女はすっかり私にも素を出すようになった。思慮深く、それでいて抜けているところがある。不意に意味不明な言葉が出るので、笑ってしまうのだ。どこか護ってあげたくなるようなお姉さん的存在である。

「息を吸ってー」

 セリスの言葉に合わせて、深く息を吸い込む。

「吐いてー」

 今度は出すものがないくらいまで息を吐き出す。

「さあ、緊張のほどはどうです?」

「少しは落ち着いた......かな?」

「良かったです」

 実際に、年齢も十歳ほどセリスが上だ。にこやかな大人の笑顔に、こちらまで顔が緩む。
 一瞬、故郷にいる母の顔が思い浮かぶ。私が絶対に良い暮らしをさせてあげるから大丈夫だ。これから起こるであろう戦いの場に、意気込みを添える。
 セリスは一つの扉の前で足を止めた。

「さあ、こちらが会場です」

 説明会とはいえ、勝負はここから始まる。絶対に負けるものか。収まっていたはずの緊張が再び顔を覗かせる。汗ばむ両手でピンクのドレスを握り締めた。
 開かれた扉の向こうには令嬢と思しき女性が三人と、先日すれ違った金の癖っ毛の王女がいた。王女は現れた私を見て呆れの表情を浮かべる。

「エレナ、遅いですよ。一分遅刻です」

「申し訳ございません」

 流石に厳しすぎると思ったものの、遅れてしまった私が悪い。文句を言える筈もなく、先に到着していた令嬢の隣に並んだ。

「これで全員揃いましたね」

 「えっ?」と言いかけて、慌てて口を結んだ。私を入れて、たった四人の妃候補――少なすぎはしないだろうか。
 国王や王太子と同じ空色の瞳は私たちを撫でるように見渡した。

「先に言っておきます」

 王女は目を細め、感情のない表情で断言する。

「私は貴女たちを認めておりません」

 冷たい声色に部屋が静まり返る。心臓がとくりと跳ねた。

「上級貴族とはいえ......伯爵令嬢では身分が低いのです。私は公爵令嬢をと勧めたのですが、お父様が受け入れてくれず、このような形に」

 王女は認めてくれない、要するに仲良くはなれない、ということだろう。偽りの愛で王太子に近付こうとしているのに、虫の良い話だなんて言われればそれまでなのだけれど。
 まあ、今のうちに分かっただけでも諦めはつくだろう。

「下された命ですので、進行はさせていただきます。ですが、私に取り入ろうなんて考えませんよう」

 王女は間を置くと、何度か瞬きをした。

「建前上、私のことをオーレリアと呼ぶことは認めます。ここまでで質問のある方は......いらっしゃいませんよね」

 王女――オーレリアは「ふふっ」と笑うと、そっと視線を落とす。

「お兄様には明日の夜、お会いになってもらいます。何か不穏な動きでもあれば、私が自ら断罪します。さあ、貴女たちは自己紹介でもなさってください。私はお兄様の元へ戻ります」

 オーレリアの独壇場は終了したようだ。身を翻し、会場から颯爽と姿を消す。それにしても、すぐに兄の元へと戻るあたり、相当兄に惚れ込んでいるのだろう。可愛らしい顔に似合わず厄介な妹だな、と細い息を吐き出した。

「あ、あの」

 その声に振り向くと、おどおどとした茶髪の令嬢が揺れる茶色の瞳で私たちを見比べていた。

「自己紹介、しませんか? 知らない方もいらっしゃいますし」

「では、貴女から名乗ってはどうです?」

「は、はい......」

 茶髪の令嬢は焦げ茶髪の令嬢に押され、口をもごもごと動かす。

「私はミレイユと申します。以後、お見知りおきください」

 ミレイユは小さな声で自己紹介を終えると、軽く頭を下げた。この頼りなさからして、真っ先に妃候補からは外されるだろう。ううん、油断してはいけない。何か秘策を持っているのかもしれないのだから。
 次のターゲットにされたのは、どうやら私だったようだ。

「それにしても、貴女は誰なのです?」

「私ですか?」

「そうに決まっているでしょう」

 薄茶髪の令嬢に詰め寄られたけれど、そこで負けるような性格はしていない。一歩前に出て、背筋をしゃんと伸ばす。

「お初にお目にかかります、エレナと申します。よろしくお願い致します」

 冷静に、したたかに。しっかりと自分を印象付けたつもりだ。次は焦げ茶髪の令嬢が「へぇ......」と漏らした。

「一度もお目にかかったことがないなんて、怪しい限りですね」

「父は辺境伯ですので」

 嘘は吐いていない。だから目も泳いでいない筈だ。私が目を細めると、薄茶髪の令嬢も金の目を細くする。

「待ってください! 私たちは互いに詮索は禁止な筈でしょう」

 意外にも、私を庇ってくれる令嬢が現れた。ミレイユだ。頬を赤らめ、口を結ぶ。相当な勇気を振り絞ったことだろう。

「ミレイユ、ありがとう」

 素直に感謝を伝えると、ミレイユはほんのりと微笑んだ。

「そういう貴女方のお名前は? まだ窺っていませんけれど」

 私がちょっとした反撃に転じると、薄茶髪の令嬢と焦げ茶髪の令嬢は顔を見合わせた。
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優しすぎる王太子に妃は現れない作者:七宮叶歌
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