第二十八話:不具合とフラグ
フルダイブ型オンラインゲーム【もうひとつの世界】にログインするようになって一週間くらい過ぎたころ。
ぼくは初めて不具合(バグ)を見つけた。
見つけたというか、巻きこまれたというか。
それは、【妖精の庭】というフィールドに入ろうとしたときに起きた。
受けていたクエストはこれ。
【妖精たちのおねがい】
妖精たちが大切にしている花畑を荒らす魔物をやっつけよう。
全ジョブ共通クエストで、ノクスもいっしょだった。
掲示板からクエストメモを取ると、妖精の庭の入口前に転送された。
転送された先は、深い森の中。
大きな木の側に、人間サイズの妖精が立っていた。
「ノクスさん、メリディエスさん、魔物をやっつけに来てくれたんですね。どうぞお入りください」
人間サイズの妖精が言う。
ぼくたちの前にある木の洞が大きく広がって、通れるくらいになった。
人間サイズの妖精は、案内するように先に入っていく。
続いてノクスが入っていく。
ぼくも入ろうとしたとき、手乗りサイズの妖精が洞の中から飛び出してきた。
何かに追いかけられてるのか、飛び方がめちゃくちゃだ。
小さな妖精は、近くの木に思いっきりぶつかって地面へ落ちた。
「だいじょうぶ?」
振り返ったぼくは心配になって、草の上に落ちた妖精に駆け寄った。
妖精は目を閉じて苦しそうに口を開けて、ピクピク身体を震わせている。
前に見た、学校の窓にぶつかって落ちた小鳥と同じだ。
その後すぐグッタリして動かなくなったのも同じだった。
死んじゃったの?
あのときの小鳥は、そのまま冷たくなって、助けられなかった。
でも、この子は助けられるかもしれない。
「レスレクティオ」
ぼくは両手の上に妖精を乗せて、よみがえりの魔法を使った。
光の繭が妖精を包んで、しばらくすると消えていく。
グッタリして動かなかった妖精が、ピクッと動いて目を開けた。
「よかった。そのままじっとしてて、妖精の庭まで運んであげるから」
声をかけてみたけど、妖精はまだボーッとしている。
ぼくは妖精を落とさないように両手でそっと包んで、木の洞の方へ歩いていった。
「......あれ?」
木の洞が、元の大きさにもどってる。
これじゃ、通れないよ。
「ノクスーっ!」
小さな洞から呼びかけてみたけど、返事が無い。
えーと、こういうときは......そうだ、フレンドチャットなら聞こえるかも。
『ノクス聞こえるー?』
『あれ? 今どこにいる?』
フレンドチャットで話しかけたら、すぐにノクスが返事してくれた。
『木の洞の前にいるよ。洞が小さくなっちゃって入れない』
『えっ? っていうか、オレといっしょに入らなかったのか?』
『入ろうとしたら小さい妖精が飛び出してきて、木にぶつかって死んじゃったから助けに行ったんだよ』
『妖精の庭のNPCが外に出ちゃったのか。ふつうは出られないんだが......』
ノクスはウーンと考えているみたいだった。
ぼくは妖精を乗せた両手を木の洞に近づけてみたけど、妖精は中に入ろうとしない。
それどころかフワッと飛んで、ぼくの肩に乗ってしまった。
どうしよう?
木の洞を開けてくれる人間サイズの妖精がこっちへ来てくれないと、ぼくは中に入れないかも。
『多分、入りかけて出ちゃったから、クエストのフラグが立たなくなったんだな』
しばらく考えた後、ノクスは言った。
中に入るはずだったぼくが回れ右して外へ出てしまったから、不具合が起きたらしい。
というか出るはずのないチビ妖精が外に出てしまったところから、不具合は起きていたみたいだ。
これ、どうしたらいいんだろう?
『ちょっとそのまま待っててくれ』
『はーい』
ノクスに言われて、ぼくは妖精を肩に乗せたまま待ち続けた。