第六話 麻雀プロの熱量
「お客様、ラストオーダーのお時間です。追加ご注文はございますか?」
「ラストオーダー? あ、フードのラストオーダーってこと?」
「いえ、当店はAM4時閉店の23時間営業となりますので」
「ええっ! そうなんですか。知らなかった。おいシロー、なんか注文するか?」
「え? ああ、もういいっす......」
井之上士郎は眠そうだった。
(コイツ、普段遅番なくせにめっちゃ眠そうじゃん。まあ、仕方ないか昨日はプロ試験だったから昼間起きてたんだもんな。それはつまりシローにとって徹夜して真夜中に試験を受けたようなもの。さすがにもう眠いわな)
「しかし、合格したからいいけど本当に今回のおれの国士放銃は間抜けだったな」
「まだ言うの。いいじゃんか、国士無双なんてそうそう出来ないし。相手にしないくらいのマインドでいる方が逆に強いかもしれないよ」
「......こんな話がある。昔な、1索切りでピンフテンパイの若者がいた。それをスタッフは見てたんだけど、若者はトップ目でな、リーチ者はいないし素直にテンパイとるしか選択肢はなさそうで、でも若者は悩んでる。リーチかけるか、かけないか。そこで悩んでるんだとスタッフは思ったんだ。しかし、若者はなんとテンパイを取らなかったんだ」
「なんで?」
「1索は国士無双に当たりだったんだ。スタッフ曰く国士の気配なんて少しも無かった。あの状況で1索は止まらないという。でもそれを止めた。若者にスタッフはなぜそれが止まるのかと聞いたら『4枚見えている么九牌がひとつも無かったからマズイと思った』と言うんだ。すごい話だろ。その若者の名は土浦浩二。後に『刻子王子』の二つ名で呼ばれる『土浦浩翔』だよ。やはりプロはすごいってこと。おれもそんな逸話を残したいなと思ってんのに国士放銃してちゃだめだろ」
「刻子王子! あの人本当は浩二なんだ。てか、そんなにすげえ人なんだ? 変な人かと思ってたけど。でも誰情報なのそれ? さっきからスタッフとしか言わんけど」
「そのスタッフは後に高級車にはねられて示談金で自分の雀荘をオープンさせるっていう変わった男なんだけど、これで人生ちゃんと成功したんだよな。それがウチのオーナー高石正人さん」
「えっ、凄っ! 示談金でオープンさせたとか。そんな大金くれるもんなの!?」
「いや、知らんけど。当時は田舎だったから土地も今と違って格安だったし、少し親にも出してもらったとは言ってた。その時は借りてても今では充分過ぎるくらい返してんだろ。決断力あるよなー」
「いいなー。僕にも示談金入らないかなー」
「示談金はまず車にはねられないと入らないからな? 当たり屋みたいなこと考えんなよ。命は大事にしろ?」
ハハハ!
そう笑っているうちにファミレスは閉店時間となり2人は駅へと向かって歩き出した。
「せめてあと30分居させて欲しいよなー。朝4時じゃまだ駅のシャッターあいてないじゃん。ううう、この時間はさすがにさみー」
「ま、ホットコーヒーでも飲みながら待とうぜ」
25分後には駅のシャッターが開くのでそれまで2人は缶コーヒー片手に麻雀の話をまだ続けた。2人で待っている25分はあっという間で、結局その場でさらに1時間話し込んだあと解散した。
麻雀プロになる人間の熱量は計り知れない。吉良義慶と井之上士郎。この2人はなるべくしてなった麻雀プロなのである――