第一話 Very Goodのキラ
ここは、とある都内の雀荘。麻雀の撮影などにも使われる、スタジオ施設のある立派な所だ。今日はここで『麻雀真剣師団体TUIKA(ツイカ)』の第7期前期試験が行われている。
筆記試験を45分行ったのち、小論文、面接、そして実技だ。実技と言えば所作を見るものであり、麻雀の成績は無関係であるものが今までのプロ試験であったがTUIKAはそうではなかった。
TUIKAは新団体である。日本の麻雀プロと言えば『日本プロ麻雀師団』のことであり、それしかなかった時代が長く続いた。そこに新たな団体を立ち上げたのが低レート雀荘『麻雀アクアリウム』の代表を務める鈴乃木大河(すずのきたいが)だ。鈴乃木は一代で成功させた実業家であり、結果至上主義である。ちなみにTSUIKAではなくTUIKAなのは某レンタルビデオ店の店名と見た目が似てしまうのを避けたからだとか。確かに文字のカラーは黄色で似ている。
そんな彼の立ち上げた団体は当然実技での結果で一定以上の成績とならねば合格とはされない。筆記試験で満点であろうとも、最後にたった半荘1回の実技試験で合格者ボーダーとされる上位に入れなければ不合格(定数はその都度変動する。今期は88人が受験していて22位がボーダー)。そういった厳しさがあった。それでこそ真剣師、つまりはストリートファイターというものだ。
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「はーぁ、腹減った。しかし、ちゃんと勉強したからってのもあるだろうけど正直、筆記試験は楽勝だったなぁ。キラも当然余裕だったでしょ?」
「まァな。おれだって伊達に都内の雀荘で何年も先頭打者を任されてない。あとは実技をやるだけか、チョロいもんだ」
「そこ! 試験が終わるまで私語は慎むこと!」
「(やべっ!)はい! 失礼しました」
「失礼しました」
「よろしい」
(コエー。あの試験官めっちゃコエーな)
(あれは『隠密ミカゲ』って言われてるTUIKA1期生の女流プロだよ。あの人、ああ見えてメガネ取ると超絶美人なんだよ)
(マジか、今度会ったらよく見てみよう。よし......じゃ、そろそろ行こうぜ。シロー、終わったら向かいにあったファミレスでがっつり食わねえか?)
(いいねぇ〜。キラ、凡ミスしてしくじったりするなよお?)
(おう、『4つヨシ』の名にかけて、必ず合格してみせるぜ。シロー、おまえも気を抜くなよ)
(おうよ)
2人は実技試験会場に移動した。
TUIKAは筆記、実技、その時の運、全て良くなければ入会できない非常に合格難易度の高い団体だ。
しかし会費は安くて仕事も斡旋してくれるし、妊娠や子育てのためのリーグ戦降級なし休場システムなどもあるため新しい世代の雀士たちはTUIKAのプロになることを目指した。
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『全卓準備が出来ましたので開始して下さい』
「「よろしくお願いします!!」」
──実技試験 東3局
キラ手牌 北家 ドラ伍
二三四234688①②③西 ツモ7
打西
(ここはダマ。この手牌......三色になった時はリーチしてもいいが①筒の拾いやすさは魅力的だから場合によっては④筒を引いてきても8索切りのリーチがいいということもある......が基本的には三色確定になる①④交換だな、打点が違いすぎる。ドラを引いてきたらノベタンリーチにするのが一番いいかな......しかしそれも打二にすればピンフがあるのでその場その場の状況変化に対応していくべき微妙な所だ......なんにしても......)
するとキラは自分の対面が牌山をツモったタイミングでススッと手牌の配置を入れ替えた。
キラ手牌 北家 ドラ伍
二三四2346788③②①
(配置はこうだな)
それを見逃さなかった試験官ミカゲ。几帳面な彼女にはこの配置は気持ち悪いのだ。しかも先ほどまで配置は丁寧に揃っていたではないか? なぜ今こうなっているのか。という疑問があった。
「受験番号12番、吉良!」
「はい!」
「その配置はなぜそうなっている」
「今解説した方がいいですか」
「ああ、ゲーム進行上難しいのであれば一局終了時でもいい」
「では、試験官。申し訳ありませんが一局終了までお待ち下さい」
「いいだろう」
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「ロン」
キラ手牌 北家 ドラ伍
二三四2346788③②① 8ロン
「1000」
「はい」
局が終了したので牌を流そうとしたらそれを試験官ミカゲが制止した。
「まて、牌を流すな。12番吉良。質問に答えてもらうぞ」
「はい。そうですね。この配置についてでしたね。まずこの手牌は最終形ではありません。待ち牌5−8索6枚に対し打点成長牌はドラ受けになる二萬3枚とドラそのものの伍萬4枚、三色になる④筒4枚と高目三色になる①筒3枚で合計14枚。つまりアガリ牌を引く前に打点成長牌を引く可能性の方が高く、また待ちの良さという観点では一-四萬1-4索6-9索もそれに加わり現状より良いと言える可能性のある牌はアガリ牌よりかなり多い形です。つまり、リーチが損な行為となる危険性があるためダマにするのが正解と考えました」
「ふむ、それで? その配置にはどう関係する」
「この手牌の絶好の手替わりはどう考えても④筒です。それを①筒と取り替えることにより打点8倍。リーチすれば12倍〜16倍まである変化ですからね。しかし、アガリ牌が出たらこの1000でもアガるべき状況なので見逃しなどはありえず、変化待ちのダマ一択です。となると①筒を超高速で入れ替え可能な位置に配置しつつ、現状のまま倒牌しても見づらくない並びにしておくべきと考えました。ロンと発声したあと配置を入れ替えなどして倒すのは失礼な行為であると思っておりますので、この手牌はこのまま倒してよし、高速手替わりにも対応、というベストな配置にしたつもりです」
「ほう、ではロンと発声したあと配置入れ替えをしては失礼であるという。その理由を聞こうか」
同卓してる他の受験者も(興味深い)という顔でキラの説明をよく聞いていた。
「はい。ロンと発声された方はその時点で失点が確定したわけで、そこから『やばい! 何点だ?』という気持ちで倒牌を待つわけですが、失点が確定したこの一瞬は断頭台での処刑を待つ罪人のようなもので、永遠のように長く感じる一瞬なはずです。ただでさえそんな気持ちで待ち受ける時間なのにそれをカチャカチャカチャカチャと配置を入れ替えてたりしたら『もういいからさっさと開けよな』と心では思うはずですよね。相手のストレスを少しでも軽減させることが人と人が触れ合う場では大切なマナーになり得ると私は思っております。だから発声後はすぐ倒す――」
パチパチパチ
「VeryGood! あなた、すごく良い! 12番吉良。必ず合格しなさい。少なくとも私はあなたを歓迎する。よし、では対局を再開しなさい」
彼の麻雀には真心がある。相手を思いやる誠心誠意の気づかいがある。
彼の名は吉良義慶。名前の文字全てが『よし』と読めることからついた通称は『4つヨシ』。そしてそのマナーの素晴らしさも評価され、彼はいつしかこう呼ばれるようになる。
その名も、VeryGoodのキラ。と――